ご愁傷さま金剛くん   作:やじゅせん

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第十話  再会

 

 

 

 水族館を一通り見回ったオレ達は、昼食を食べ、弾の家へと足を運んだ。

 電車に揺られること、およそ三十分。以前オレと一夏が住んでいた街に着く。

 

「おー……このあたりも、だいぶ変わったなぁ」

 

 駅から出ると、一夏はそう言って感慨深そうにあたりを見回した。

 一夏の言う通り、つい数か月前まではなかったボーリング場やカラオケボックスがちらほらと目に映る。

 少し見ないうちにも、街はこくこくと変わっているということか。

 つい先日までここに住んでいたオレ達でさえ、この街の変化に違和感を覚えるのだ。

 

(……鈴だったら、なおさらだろうなあ)

 

 ふと、遠い海の向こうに転校して行った友人の顔が目に浮かぶ。

 中学時代、オレや一夏、弾とよく四人で遊んでいた彼女。

 

 ――凰鈴音。

 

 彼女は今、海の向こうで何をしているのだろうか。

 あの元気なツインテールが、元気に辺りを駆け回っている姿が、自然と脳裏に浮かんでくる。

 

「金剛、どうした? 具合でも悪いのか?」

 

 オレが少し感傷に浸っていると、不意に一夏が肩をさすってくる。

 

「いや、大丈夫」

「そうか? あんま無理すんなよ?」

 

 一夏は少し心配そうな顔をして、こちらを覗き込んでくる。

 その真剣な眼差しが、午後の太陽と重なり、より一層眩しく見える。

 

(あー……、なんでこいつがモテんのかわかった気がする)

 

 一夏って、鈍感な割に気配りが上手いんだよな、ほんとに。

 思い返せば、中学時代も彼のこういう一面に女子達は惹かれていったのかもしれない。

 

 納得。

 

 さらに駅から歩くこと数分。

 オレ達は中学時代から通い慣れた、弾の家へと到着する。

 

「ごめんくださーい」

 

 一夏が家のチャイムを鳴らす姿を見ながら、オレは身なりを整える。

 なにせ久しぶりの友人との対面だ。自然とその肩も緊張する。

 

(どこも変なとこ、……ないよな?)

 

 部屋から持ってきていた手鏡で、自分の様相を確認する。

 客観的に見て、おかしいところはない……と思う。

 だが、鏡に映るのは、やはり見慣れない自分の顔で、オレはどこか落ち着かない気分になるのだった。

 

(うぅ……鏡なんて見なきゃよかった。弾に変だって思われないかな、この格好)

 

 今日に限って女ものの服をチョイスしてきた自分に、心底後悔するオレ。

 オレが一夏の背後でそわそわとしていると、ガラガラと扉の開く音が。

 そして、扉の中から出てきたのは……。

 

「はいはい今出ますよー……って一夏!?」

 

 友人、五反田弾だった。

 

「おう、遊びに来たぞ」

「どうしたんだよ、珍しいじゃねえか!」

 

 そう言って、一夏の手を取り、もの凄く嬉しそうな笑顔を見せる弾。

 

「近々、会いに行くって言ったろ? メールで」

「確かにメールされたけどよ、まさか今日だったとはな」

 

 玄関前で交わされる一夏と弾のやり取りを見て、オレは少し複雑な気持ちになった。

 

(……なんだろう、この疎外感)

 

「まあ、立ち話もなんだからな。あがれよ」

「おう。お邪魔させてもらうぞ。ほら、お前も来いよ」

 

 そう言って、後ろで若干ブルーな気分になってるオレの手をグイッと引っ張る一夏。

 

「わわっ」

 

 一夏の背後から引っ張り出されて、弾の前へと突き出される。

 

 弾と視線が合う。

 

 その瞬間、自分の顔が火照っていることに否が応にでも気が付く。

 

「……あ、えっと、その」

 

(うわぁ……なに緊張してんだ、オレ。相手はあの弾だぞ?)

 

 弾はオレを見て、少し驚いたような表情をし、オレと一夏を交互に見た。

 そして、第一声に、

 

「一夏、……お前、こんな可愛い彼女が出来たんだな! ちくしょう、羨ましいぜこんちくしょう!」

 

 と、一夏の手を取りぶんぶんと振るう。

 

「…………」

 

 ……ある程度覚悟していたことではあるが……。

 結構精神的にキツイな……友達にこういう反応されるのは……。

 

(……やばい、泣きそう)

 

「……一夏、悪いけどオレ帰る」

「え? あ、ちょ、待てよ」

 

 その後、駅まで戻ったオレを一夏が迎えに来るのは数分経ってのことであった。

 

 

 


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