南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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年をまたいで二月。
遅くなりましたが今年もよろしくお願いします。


閑話 その4

中忍試験予選を勝ち残った木ノ葉の下忍の1人、うずまきナルトは1か月後に迫る中忍試験本戦に向けて修行をするべく、カカシに紹介された特別上忍エビスと共に木ノ葉の里のとある温泉地を訪れていた。

チャクラコントロールの不安定さを指摘されたナルトは自称エリート家庭教師エビスの指導の下“水面歩行の業”に励んでいたのだが………

 

 

覗き(ハレンチ)は私が許しませんぞー! うぎゃー!!?」

 

「騒ぐなっての。………ったく、バレたらどーすんだってのォ」

 

エビス(ムッツリスケベ)が負けた!? なんだってばよあのオープンスケベは!?」

 

 

エビスはそこで出会った覗き男を成敗しようと挑みかかるもあっさり返り討ちにされ気絶。

なんやかんやで代わりに件の覗き男、自らを蝦蟇仙人と名乗る白髪の大男が修行を引き継ぐ流れと相成った。

 

「つまらんのォ。もっと苦戦するかと思ったが」

 

「へっへ~ん。いつまでも落ちこぼれじゃねーんだってばよ!」

 

自称蝦蟇仙人が見守る前で、ナルトは多少ぐらつきつつもしっかりと水面に立っていた。

初めてにしては上出来と言っていい。

 

(ずいぶんとチャクラのコントロールが安定しておる。不自然と言っていいくらいに。こいつ本当に九尾の人柱力かのォ?)

 

修行が順調すぎて蝦蟇仙人―――自来也としてはいささか腑に落ちない。

 

「………む!」

 

「ん? どうしたんだってばよエロ仙人」

 

「こっちに来てもう一度チャクラを練ってみろ。あと服脱げ」

 

「え?」

 

突然の蝦蟇仙人の剣幕にたじろぐナルト。

 

「………コトちゃんから聞いたことがあるってばよ。確かカエルってば種類によっては性別が………蝦蟇、仙人………ま、まさかエロ仙人って両方………」

 

「んなわけあるか! 儂は女は好きだが男は好かん! 気色の悪い邪推をしてる暇があったらさっさという通りにせんかい!」

 

脳裏をよぎったある恐ろしい可能性に慄きつつもナルトは素直に従い上半身裸になって印を結びチャクラを練る。

ナルトの腹部に術式が浮かび上がってきた。

 

(これが九尾の封印式か。ヘソを中心に四象封印が上下2つ、二重封印、八卦の封印式かの。四象封印の間から漏れる九尾のチャクラをこの子のチャクラに還元できるように組んである………この子を守るためだな、四代目(ミナト)よ。しかし、その八卦封印の隙間を塞ぐように五行封印が………五行………封印? いやなんじゃこりゃ??)

 

目をむいてナルトの腹に顔を近づける自来也。

ナルトの血の気が引いている事には気づいていない。

 

(基本の五行とは別に月の行が後から追加されて………疑似的な六行封印みたいになっとるぞ。奇数封印を八卦封印と同じ偶数封印に無理やり書き換えることでチャクラの安定化を図ったのか。押してダメなら引いてみろってか………封印を解除できないが故の苦肉の策………にしてはよくできているのォ)

 

八卦封印と五行封印、そしてそれらを後から書き換えた奴は皆別人だろうと自来也は推測。

 

(五行封印はまあ大蛇丸ってとこだろうがのォ。全体的に術式が荒い。あ奴は興味のない奴にはとことんまで手抜きするからのォ………そして月の行はたぶん子供だな。式に関する知識はあっても解除する力がない。文体からしておそらくは女子………それもこの子に気があるとみた。儂にはわかるぞ)

 

大蛇丸と並び称される伝説の三忍、自来也としての勘………ではなく。

18禁の恋愛小説『イチャイチャパラダイス』の作者、自来也としての勘がそう告げていた。

ナルトの腹に顔を近づけたままニヤリと笑みを浮かべる自来也。

温泉地なのに冷汗が止まらず顔色が真っ青になるナルト。

 

(月の行が挟まって歪んだ六行封印が封印術として不完全なのを逆に利用し………チャクラをせき止めるのではなく、八卦封印の隙間をさらに絞りチャクラのロスを抑える関として利用するとはな………水面歩行があっさり成功するわけじゃのォ。たとえ封印そのものを解除できずともできることをできる範囲で精一杯やろうという創意工夫の極地、いじらしい程の愛情と思いやりがにじみ出ておるわ………)

 

まるで自転車の補助輪みたいな術式だな、と自来也。

 

「よくできてはいるが、男の修業にこの補助輪(あまやかし)はちょいと邪魔だな」

 

「な、ななななな何の話だってばよ!?」

 

「お前はなかなかにモテるようだって話だ。ケッ! 大して男前でもないくせに! おい、バンザイしろバンザーイ」

 

「?」

 

何かと注文多いなコイツ、しかも言ってることが脈絡なさ過ぎて意味分かんねーし………と思いつつもナルトは言われるがままに上半身裸のまま両手を上げる。

自来也は顔に笑みを張り付けたまま背中に回した右手の指先にチャクラを込めて………

 

「少々勿体ないが悪く思うなよ………五行解印………改め、六行解印!」

 

「グボォ!?」

 

 

 

 

 

 

中忍試験予選が終わったその日の夜。

砂の忍び一行が滞在している、木ノ葉のとある区画、桔梗城の屋根にて。

 

 

「バ、バカな!? 砂は全て失ったはずじゃ………その姿は、お前はいったい!? ぐ、ぎゃあああああ!!」

 

 

音忍で唯一予選を勝ち残ったドス・キヌタは砂の我愛羅に夜襲を仕掛け、そして返り討ちにあっていた。

大蛇丸の命令を遂行するため、何より自分は単なる駒ではないことを証明するため、どうしてもうちはサスケと本戦で戦いたかったドス。

その確率を少しでも上げようとしたが故の行動だったが。

あまりにもあっけなく、どうしようもなく唐突に。

ドス・キヌタのちっぽけな、しかし本人にとっては大きな叛逆は誰にも知られることなくここで終わりを迎えることとなったのだった。

 

 

「………凄いですね。おまけにずいぶんと荒れている。まあ無理もないですが。なるほど()()我愛羅(かれ)の正体。多少の砂の有無などまるで関係がありませんね」

 

「しかし、いいのか? 奴は音の………」

 

「いいんです。ドス(かれ)はとうに用済みですから」

 

我愛羅とドスの、戦いですらない一方的な虐殺を眺めていたのは音の諜報員(スパイ)である薬師カブトと、砂の上忍であるバキである。

 

「うちはのガキどもの力を見る当て馬かと思っていたが?」

 

「いえ、もうその必要はなくて………実はサスケ君の誘拐を命令されたんですが失敗してしまいましてね」

 

「なんだと?」

 

 

そして、そんな彼らをさらに離れた物陰から観察している忍が1人。

 

(なぜ………薬師カブト(かれ)が砂と?)

 

木ノ葉の特別上忍、中忍試験予選にて審判を務めた月光ハヤテである。

ハヤテは上忍であるはたけカカシにいきなり薬師カブトの追跡を依頼され、理由もわからないままずっと監視を続けていた。

 

 

「ええ、僕が音の手先だってのもバレちゃってますよ」

 

「ならここでお前が俺と密会している事が木ノ葉(やつら)に知れれば! 木ノ葉を崩す計画も何もかも水の泡だぞ!」

 

 

そして今、判明した事実の想像をはるかに超える重大さに慄いていた。

軽々しく受けるべきではなかった、ちゃんと詳しい事情を尋ねるべきだった。

中忍試験本戦が始まるまでどうせ暇だし、なんて理由で受けちゃダメだった。

 

 

「………いやね正確に言うと………正体バレたんじゃなくて、バラしたんですけどね。あれで木ノ葉がどの程度動いてくるのか確かめたくてね。サスケ君を奪うのはそれからでも遅くありません」

 

「大蛇丸の右腕と聞いていたが、とんだうつけだな………しかし意外だな、うちはサスケの方なのか」

 

「おや? 砂としてはやはり我愛羅君を追い詰めたうちはコトの方が気になりますか?」

 

「ああもまざまざと見せつけられればな」

 

予選での奇悲劇(?)を思い出し、苦々しく顔をゆがめるバキ。

大蛇丸が欲してやまない血継限界、写輪眼。

あらゆる術理を見通す究極瞳術を戦闘、洞察ではなく、研究、解析に用いればどうなるか。

 

「思想や発想はさておき………あの小娘のあり方はある意味において大蛇丸の理想であり到達点だ………違うか?」

 

「………まあ、否定はしませんよ。おおむねその通りです」

 

予選においてうちはコトの所業は各方面に大きな波紋をもたらしたが、逆に言えば波紋程度で済んだのは件のコトがどれほどの天才でも本質的に世間知らずで何よりも根っこが善良だったからだ。

 

より経験豊富で、より頭脳明晰で、より悪意に満ちた存在が写輪眼を手にしたならば………

 

(もしそうなれば波紋ではなく激震として、この世界を揺るがすのでしょうね)

 

 

『私を止めたいなら………今サスケ君を殺すしかないわよ』

 

 

脳裏に浮かんだ大蛇丸の言葉が重くのしかかるも、決してそれを表情には出さず曖昧な笑みを浮かべてみせるカブト。

 

「ではなぜうちはコトを狙わない?」

 

「………いやはや改めて客観的に指摘されると実に惜しい。本当、彼女が()()()()()()最高の素体たり得たんですが」

 

「………生きていれば?」

 

「いえこちらの話です………っと、これが音側(こちら)の決行計画書です。我愛羅達(かれら)にも伝えておいてください」

 

あからさまにはぐらかされたことを理解しつつもバキはそれを指摘しなかった。

 

「まあいい。なんにせよ、砂はギリギリまで表には出ない。これは風影様の御意思だ」

 

 

(………なんということです)

 

物陰でずっと会話を盗み聞きしていたハヤテは戦慄する。

 

(内容も気になりますがそれ以前に………音のスパイと砂が密会している、それ自体がすでに大問題)

 

つまりそれは、木ノ葉と同盟関係にあるはずの砂がすでに音とつながっていたということを意味していた。

 

(とにかくこのことを早く火影様に知らせなければ………)

 

監視を切り上げ、すぐさまその場から立ち去ろうとするハヤテ。

しかし、その決断はいささか遅すぎた。

 

 

「ああ、あと………後片付けは私がしておきます。どの程度の奴が動き回っているか確かめておきたいので」

 

「………いや私がやろう。もともとそちらからの計画とはいえだ。砂としても同志のために一肌脱ぐくらいはしておきたい。なに………ネズミはたった1匹、軽いもんだ」

 

 

(っ!? 監視がバレている!)

 

ハヤテとバキが瞬身の術でその場から姿を消したのはほぼ同時だった。

なんとかこの場から離脱しようとするハヤテとそれを追うバキ。

 

(………………速いっ!)

 

「これはこれは試験官様、こんな夜更けにたった1人でどうされました?」

 

追走劇を制したのはバキだった。

純粋に速度で負けてしまっていた。

ハヤテは逃げられない。

 

(しかも自分以外に伏兵がいないことも見抜かれている………参りました)

 

「やるしかないですね………ゴホッ」

 

ハヤテは覚悟を決めて背中に背負った太刀を抜き、印を結ぶ。

影分身の術で3人に増えたハヤテが3方向から同時にバキめがけて斬りかかった。

 

―木ノ葉流・三日月の舞!

 

忍術と剣術を併用した秘技がバキの右肩を正確にとらえ………しかし刃がプロテクターにわずかに食い込んだだけで受け止められる。

 

「………何?」

 

「これが正真正銘本物の三日月の舞か………なるほど、あの下忍の使った“擬き”とはスピードもパワーも比べ物にならない。やはり木ノ葉の里は粒が揃っている」

 

「か、刀が抜けない?………」

 

ハヤテがどれほど力を込めても、刀はバキのプロテクターに食い込んだままビクともしない。

いや、それ以前に。

 

(この男は木ノ葉の忍剣術を知っている!)

 

ハヤテは瞬時に刀を手放して後退。

間一髪、ハヤテのすぐ目の前を見えない風の刃が薙ぎ払った。

 

「風遁! そしてこれは………砂の血継限界、磁遁ですか」

 

「ほう、よく気付いたな」

 

刀は変わらずバキのプロテクターにくっついたままだ。

 

バキはもともと我愛羅のお目付け役、監視役として選ばれた砂の上忍である。

それはつまり、もし我愛羅が暴走したとしてもそれを抑え込み無力化する何らかの手段、実力を有していることを意味していた。

 

(操砂を阻害する磁遁。防御をかいくぐる不可視の風遁………迂闊だった。予想してしかるべきだった。私としたことが不用意に仕掛け過ぎましたか)

 

「太刀筋は見事、しかし相手が悪かった。私にその剣は通用しない」

 

「………どうやら刃物、いえ金属製の武器全般が効かないようですね」

 

「かつて砂の傀儡部隊を壊滅させ、当時の部隊長『赤糸のジグモ』を討ち取った『木ノ葉の白い牙』、その剣術流派の対策を怠るはずがないだろう」

 

「………仕方がありません」

 

肩に食い込んだ刀を無造作に引き抜いて捨てながら、木ノ葉流剣術は全て対策済みだと言外に語るバキに、ハヤテは覚悟を決めた。

 

「既存の剣舞が通用しないのであれば………ついさっき覚えたばかりの最終奥義、そのぶっつけ本番といきますか」

 

「最終奥義だと? ………まさかあの七転八倒とかいうふざけた技を繰り出すつもりか」

 

バキはそのどこかで見たような流れに、そういえばこの試験官はあの意味不明なくのいちの兄だったなと思い出し嘲笑を浮かべる。

 

「バカめ、子供の考えた技だ。そも俺には実在の刃など通用しな………」

 

「いえ、そちらではありません。貴方も見ていたはず。順番で言えば七天抜刀は2番目、真の最終奥義はこちらです」

 

バキのセリフを遮ってハヤテは腰のポーチから巻物を取り出し、忍具を口寄せ。

出てきた武器? を見てさすがのバキも言葉を失った。

 

「いかな磁遁とはいえ、さすがにこれは吸着も反発も不可能でしょう」

 

「なっ!?」

 

ハヤテは呼び出した『竹刀』を手に取り、構える。

 

「実在する刃は受け止められる、なるほど道理です。では刃が存在しない場合はどうでしょうか?」

 

 

―木ノ葉流・限定奥義一竿風月

 

 

意味不明な妹が考えた意味不明な技が、妹以上の実力を兼ね備えた兄によって繰り出されて………

 

 

 

 

 

 

「えっ、ハヤテが意識不明の重体で病院に担ぎ込まれた!?」

 

「うむ、今朝がた倒れているのを発見されたそうじゃ。幸い命に別状はないようじゃが」

 

「まさか大蛇丸に………」

 

「いや、そうとは限らない。ハヤテがついていたのはおそらくカブトとか言う音のスパイ………」

 

「いやただの風邪らしい」

 

「………………はい?」

 

「なんでも、追手が凄腕の風遁使いじゃったらしくっての。逃げるために空気のない川に飛び込み一晩中川底を泳ぎ続けたとのことじゃ」

 

「「「………………………………」」」

 

「あ~うん。彼ってもともと風邪気味だったしね?」

 

「ま、あいつの場合、風邪はほとんど持病みたいなもんだけどな」

 

「………なんというか、あれですね。あの妹にしてこの兄ありというか」

 

「天才なのは間違いないんじゃがのう………」




閑話ではありますが、流れ的には普通に本編の続きですね。
何気に重要な伏線や重要でない伏線もちらほら………

バキの能力も捏造です。
原作ではこれといった見せ場もなく徐々に話の中心からフェードアウトしていくという漫画キャラとしてはある意味死ぬより壮絶な末路を辿りましたが、この二次創作ではどうなるやらです。

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