南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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今回も遅れました。
すみません。

前回の話で「あのヒナタにもぶたれるって、コトはいったい何やらかしたんだ?」的な感想が思いのほか多かったので、今回それに関するエピソードを少しばかり挿入。

やや無理やり気味ですが気にしないでくれると嬉しいです。


40話

それは、まだカナタ(わたし)達がアカデミーを卒業する前の事。

当時のクラスメイトに、実技テストとか運動会とか、重要行事の度に体調を崩す女の子がいた。

日向ヒナタさん。

引っ込み思案で人見知り、後ろ向きで自分に自信がない性格。

だけど人一倍努力家であり、だからこそ無理がたたって結果が出せず、次こそはと意気込んでついつい無理をして………という悪循環を繰り返してしまう。

決してそれはワザとではなく、それ故に救いようがない。

そう、日向さんは救いようがないほどに本番に弱い女の子だった。

 

そんな救いようのない彼女を救い上げたのは我らが意外性ナンバーワン問題児うずまきナルト君である。

 

別に直接的に日向さんに何かしたわけじゃない。

行動とか、忍道とか、生き様とか背中とか、ただそういうのを示しただけ。

たぶん本人は救ったことにすら気づいていないと思う。

日向さんは、勝手に見て勝手に憧れ勝手に励んで勝手に奮起した。

 

その後、日向さんは無事アカデミーを卒業して下忍として頑張っている。

 

 

 

―――ここまでだと幼い日の美談で終わる。

だけど幸か不幸か、良くも悪くもこの話には裏があるわけで。

 

日向さんを精神的に救い上げたのはナルト君。

これは間違いないわ。

しかし、もっと直接的な方法で無理やり引きずり上げた、否、ひん剥いた奴が他にいる。

 

ナルト君と並び称される木ノ葉の二大問題児のもう一角、うちはコトよ。

 

その日コトは私と一緒に日向さんのお見舞いに訪れ、そこでコトは風邪で寝込んでいる彼女の悔し涙を見た。

 

悔しい、変わりたい、悔しい、ナルト君に格好悪い所見せたくない、悔しい。

悔しい悔しい悔しい。

 

 

悔しい。

 

 

精神的に弱っているのも相まって、普段は決して面には出さない、それこそ憧れの人(ナルトくん)には決して見せられないであろうむき出しの感情を見せつけられて、コトはどうしようもなく頑張って張り切った。

 

日向さんの風邪を治療した。

ここまででもまだ美談の範疇だと思う。

 

問題はコトの治療法にあるわけで。

一体何をしたのか。

 

端的に言ってしまえば、弱っていて抵抗できない日向さんを無理やり組み伏せてパンツを引きはがし座薬(大)を突っ込んだ。

 

日向さんがいろんな意味で一皮剥けた。

 

詳細は語らないし語れない。

主に日向さんの名誉のために。

 

 

その日以来、日向さんが学校行事の度に体調を崩すことはなくなり、日向さんとコトが打ち解ける(遠慮がなくなったともいう)切っ掛けにもなったわけだけど、客観的に見た時コトの行動は果たして正しいと言えるのかしら。

 

たぶん意見が割れる案件だと思うけれど、1つだけ確かなことがある。

 

『はい? やりすぎ? 治療を手加減する医者とか存在する価値あるんですか?』

 

こと治療に関して、コトは患者に対して一切の容赦がない。

 

 

 

 

 

 

―――だからこそ信頼できるともいえるけどね。

 

 

 

 

 

 

詳しい事情を聞く前に、詳しい事情を話す前に。

倒れている重体のナルト君とサスケ君を見て、必死にそれを守ろうとしている春野さんを見て。

 

何かもう、いろいろもろもろ全部すっ飛ばして治療に取り掛かっていた。

 

「サスケの首筋にあるのは………コトの痣と同じか?」

 

「どういうこと? 自然エネルギーが逆流してる!?」

 

「急いで配置についてください! 一刻の猶予もありません!」

 

誰が? カナタ(わたし)も含めたヤマト第9班全員がよ。

ああ、認めますよ。

確かに春野さんの言う通り、私たちはどうしようもなく『お人好しの集まり(3バカ)』ですよ。

 

「え? 何? コト達が小さくなってサスケ君に??」

 

状況が呑み込めず目を白黒させている春野さんとただ気絶してるだけみたいなナルト君をひとまず置き去りにしてコトが木遁の術を行使する。

セージに酷似した薬草の葉の部分を生やした端から摘み取って、口寄せしたヤカンに投入し、さらに浄化清水で精製した水を注いで………

 

「………何やってんの?………ハーブティーでも沸かそうっての?」

 

「違います。いや沸かすのは合ってますけど」

 

「それを飲んだらサスケ君は治るの?」

 

「いえ、飲ませるんじゃなくて蒸すんです」

 

「蒸すぅ!? サスケ君を!?」

 

「始めます!」

 

何言ってんだこいつ、と言った表情を浮かべる春野さんへの説明もそこそこにコトはヤカンを火にかける。

私とコトとマイカゼで、三角形を描くようにサスケ君を取り囲み、簡易的な儀式結界忍術を発動する。

発生した白い蒸気がサスケ君を包み込んだ。

 

「………これってひょっとして………四白霧陣(しはくむじん)!?」

 

「その、超々簡略版ね」

 

「その通りです。1人足りないから三白霧陣になっちゃってますけど」

 

「ヤマト先生がいればなぁ」

 

「な、なんであんたらはそんなニッチな結界忍術を習得してるのよ!? ていうかこれ屋内用の術じゃ………」

 

「説明は後! はいこれウチワ。扇ぐんです! 霧がサスケ君を満遍なく包み込むように!」

 

 

この霧の術、正式名称を『四白霧陣(しはくむじん)』と言い、様々な薬効成分を含んだ霧で患者を包み込むれっきとした医療用結界忍術である。

 

傍目にはサスケ君を蒸し焼きにしてるようにしか見えないけどね。

春野さんの言う通り本来は屋内用の術であり、間違っても外で発動するような術じゃない。

風が吹くたびに発生させた霧が流されて非効率なことこの上ないわ。

 

しかし、それでも確かに効果はあったみたい。

霧の向こうでサスケ君の顔色が目に見えてよくなったのが見えた。

 

気が抜けたようにへたり込む春野さん。

こら、休むな手を動かせ霧が散る。

 

「コトがこんな状態じゃなければ、ヤマト先生直伝の木遁建築術でいくらでも即席の家が建てられたのに………」

 

「は、半化中だって家の1つや2つ建てられるんですよ!」

 

「どうせ、ドールハウスだろう? さすがに私でも分かる」

 

「何の役に立つのよそれ?」

 

「ヒドいです!」

 

ちなみに今の私たちは超半化発動直後のアリンコサイズから親指の先くらいにまで大きくなっている。

大体3~4センチくらいかな。

これでもマシと思えるあたり相当毒されているわね。

 

「アホなこと言ってないでマイカゼと春野さんはとっとと扇ぐ! コトは次の薬草を出すの!」

 

快癒の兆しが見えたからって揃いも揃って気を抜き過ぎよ。

コトは………気が抜けているというよりどこか張りつめているような雰囲気だけど………嫌な予感。

 

「………コト? ところでこれ、いつまで続ければサスケ君は治るの?」

 

「………ぶっちゃけてしまうと、治りません」

 

コトはいつになく硬い表情で薬草を摘み取りながらそんなことを宣う。

 

「は?」

 

「サスケ君を蝕んでいるのは言うなれば副作用。毒………チャクラ? 液化した細胞? の本来の効能は恐らく別にあります」

 

四白霧陣は本来、強力な薬の副作用を和らげるための結界忍術でしかないわけで。

つまり、いくらサスケ君を長時間霧で包み込んだところで毒そのものが取り除かれるわけじゃない。

 

「ってか、本来の効能って何よ?」

 

「わかりません。もっと本格的な………それこそ設備の整った病院とかに連れてって本職のお医者さんに診てもらわないことには何とも………私もヤバいかもしれませんね。特に副作用に苦しむこともなくあっさり適合できちゃったのか逆に不気味です………」

 

そう言って小さく身を震わせるコト。

不吉なこと言うのやめてよ。

 

「素人診断ですけど私が診る限り………毒に侵されているというより病気に感染………むしろ寄生………肩からヘビが生えてきたりしたらどうしよう」

 

「やめろ! 本当に!」

 

「封印術か何かで封じ込められないの? 肌に直接術式書いてさ。ほら、コトそういうの得意じゃない?」

 

「そういうのって特別な部屋………霊的に清浄な空間じゃないといろいろ混ざっちゃうんですよね。水の中で絵を描くようなものです。ついでに言えば術式を書く(インク)も足りないです………」

 

「要するに、小さくなってさえなければどうにかなったわけね………」

 

木遁使いで巫女な普段のコトなら、そんな空間いくらでも創り出せたでしょうに。

分かってはいたけど、本当にどこまでもデメリットしかないわね超半化。

 

結局、原因物質を吸い出すもしくは封じ込めるといった直接的な手段が現状不可能である以上、結界忍術にじっくり漬け込み症状を和らげて慣らすしかない。

というか、それくらいしかすることがない。

 

「そういえば、聞きそびれてたけど一体何があったのよアンタら」

 

「仕方なかったんですよ。とんでもなく強い人に遭遇しちゃって逃げるためにやむを得ず………って、今それよりサスケ君です」

 

目を泳がせて話題を逸らす、もとい脱線しかけた話を戻すコト。

 

「………なんにせよ、私たちの中忍試験はここまでね」

 

サスケ君が目を覚ますのにいったいどれくらいの時間がかかるのかは未定だけど、少なくとも5日以内にどうにかなるとは思えない。

そして何よりこんなにハーブの香りや霧をモクモクさせておいて誰にも気づかれないはずがない。

というか、もうバレてるわね。

私たちのすぐ近くに3人、少し遠くでこちらに高速で向かってきているのが1人、さらに隠れてこそこそしてるのが3人。

まずい、近くの奴らが非情な連中だったら、木ノ葉2班まとめて中忍試験どころか命そのものが終わってしまう。

 

「………ゴメン」

 

「別にいいよ。困ったときはお互い様だし」

 

こうなったらもはや一蓮托生よ。

 

「生きてさえいれば機会はある」

 

「それにそこは、ゴメンじゃなくてありがとうっていう場面です」

 

「うん………ありが―――」

 

 

 

「それは困るなぁ。サスケ君には今すぐ起きてもらわないと。僕たちそいつと戦いたいんでね」

 

ああ、ダメか。

私は乾いた笑みを浮かべつつ覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

苦しむサスケ君を前に何もできずにいたサクラ(わたし)の前に、なんの偶然か小さくなった3バ………カナタ達が現れた。

サスケ君の治療がひと段落して試験は無理だけど何とか助かりそう。

そう思った矢先の出来事だった。

 

いきなり現れた包帯で顔の大部分を隠した不気味な男を中心とした3人組。

3人とも「♪」のマークが刻まれた額当てをしている。

 

「何やらへんてこな術で縮んでるやつらと合流して、これまた何か奇天烈な術を始めたので少しばかり警戒していたんだけどね………さすがに待ちくたびれたよ」

 

音忍―――ということはこいつらが!

 

「な、何言ってるのよ! 大蛇丸って奴が陰で糸引いてるのは知ってるわ………いったい何が目的なのよ!?」

 

あの時、大蛇丸が言っていた配下の、音忍三人衆!

 

「サスケ君をこんなにしといて………何が戦いたいよ!!」

 

「(………? どういうこと? あの人たちって確か)」

 

「(第一筆記試験の前に暴れてたやつだな)」

 

「(カブトさんを襲った人たちです………けど、サスケ君と戦いたい? 何か因縁ありましたっけ?)」

 

小さいコト達がサスケ君の治療を継続しながら足元でわちゃわちゃ混乱しているけど、今はそれどころじゃない。

 

そして混乱しているのは向こう側も同じみたい。

私の指摘に酷く狼狽している………どういうこと?

情報が伝達されてない?

 

「………………さーて、何をお考えなのかなあの人は」

 

「しかし、それを聞いちゃあ黙ってられねーな。この女も俺がやる。サスケとやらも俺がやる。あのちっこい奴らは………無視でいいだろ」

 

「待てザク」

 

「あ? なんだよ」

 

罠を仕掛けてある手前で足を止めてかがみ込む包帯男。

バレた。

でもこれは作戦通り。

この罠はいわば囮、本命の罠は別にあるんだから。

 

「ベタだなぁ。ひっくり返されたばかりの石、土の色、この草はこんな所には生えない。バレないように作らなきゃ意味無いよ………ブービートラップってのはさ」

 

そう言って足元の地面を踏まない様に大きく跳躍してこちらに飛び掛かってくる3人。

かかった!

 

「丸太!? 上にもトラップが! ヤバい!」

 

振り子で加速しながら迫りくる巨大な丸太に、空中で身動きが取れない奴らはなす術もなく―――

 

「………なーんてね知ってたよ。もう一度言うけど、トラップはバレちゃ意味無いよ」

 

「そんな………」

 

包帯男は余裕綽々で丸太に手をかざし………

 

「待て! 違う! 左だ!」

 

「何!?」

 

突如響いた仲間の『声』に彼はとっさに反応して………『下』から飛び出した丸太に対応できずに吹っ飛ばされた。

 

「い、一体何「全く、何が左ですか適当なことを言いやがって。使えないだけならまだしも足を引っ張らないでくださいよ」なっ!?」

 

「なんだと!? ドスてめぇ!!」

 

「ち、ちがっ、今のは僕じゃ!」

 

突如仲間割れを始める3人………いや2人。

当たり所が悪かったのか、黒髪の女は完全に伸びている。

これは………

 

「ダメもとでやってみたけど………まさかこんなおバカな罠に引っかかるなんて」

 

ふと見れば、カナタが口と目を真ん丸に開けて唖然としていた。

 

「カナタ!?」

 

「カナタ凄いです!」

 

「さすがだなカナタ!」

 

「っく! 褒められてるのにバカにされているようにしか聞こえないっ!」

 

擬音の術。

声真似の術ともいう、カナタの十八番。

あまりにも単純でそのまんま過ぎる術の効果だけど、だからこそ応用力の試される術とも言えなくもないかも………実際、物凄い効いたわけだし。

でもさすがに長くは続かないらしい。

すぐにバレた。

 

「てめぇの仕業かクソチビがぁ!」

 

「うるさい! 私としても予想外過ぎてリアクションに困ってんのよ! ていうかこんなの引っかかる方が悪いわバーカバーカ!」

 

「………○△×殺□っ!!」

 

むっちゃ怒ってる。

髪の毛を逆立たせた………包帯男にザクって呼ばれてたやつが言葉にならないくらい怒ってる!

 

「ブッコロス!!!」

 

「っちょっ、どうすんのよあんなに怒らせて!」

 

「しまった! ついうっかりその場の勢いで!」

 

「雑魚のくせに………そういう奴はもっと身の程わきまえて努力しないとダメでしょ! 弱い君が僕らをなめちゃいけないなぁ!!」

 

激高し襲い掛かってくる2人。

全体絶命、今度こそなす術がない―――

 

 

 

―――木ノ葉旋風!!

 

 

 

「だったら君たちも、努力するべきですね」

 

だけど、その絶望は一瞬で吹き払われた。

 

「な、何者です!?」

 

「木ノ葉の美しき碧い野獣、ロック・リーだ!」




子供のいる親、あるいは年の離れた弟妹がいる人は割と経験あると思いますが、仲の良いとはいえ血のつながりのない同級生相手とかさすがに聞いたことがないです。

なお、実行犯はコトですけど、それを止めなかったカナタも大概オカシイ。
冷静でクールを装ってますけど自覚ないだけで素の性格は相当はっちゃけてます。

アカデミー時代では、いのが最大派閥のリーダーなのに対してカナタは変人奇人はみ出し者のまとめ役といった感じでした。

例えるなら、いのは心理掌握でカナタは超電磁砲です。
能力的にもそんな感じですし。

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