すみません。
定期投稿できる作者さんを僕は心から尊敬します。
何はともあれ、原作でも屈指の人気エピソード。
中忍試験編、スタートです。
34話 ☆
『プレイボール!』
およそ忍びらしくない奇抜な任務も、最近ではずいぶんと慣れてきました……と感じた次の瞬間に今まで以上にぶっ飛んだ変化球が投げ込まれてくるからやっぱり木ノ葉の依頼者は侮れません。
「よし! ばっちこーい!」
テンション高く打席に立つのはマイカゼです。
彼女のトレードマークである帽子を脱いで代わりにヘルメットをかぶり、刀ではなくバットを振りかぶって爽やかスポーツ少女に変貌したその姿はある意味木ノ葉の額当てよりも様になっていました。
「ほどほどで構わんよ嬢ちゃん。適度に打って走って……試合が盛り上がればそれでええんじゃから」
任務の依頼人である果物屋さんのおじさんが朗らかに笑いながらそう言いました。
とある町内会主催の草野球の助っ人。
それが今回の
まさに常道から外れた変化球依頼です。
暴投とも言います。
当然のごとくDランクです。
いったいいつになれば私たちはCランク以上の……というかまともな忍びらしい任務を受けられるようになるのでしょう?
「いや、それなりに経験も積んだから僕もそろそろCランクに挑戦してみてもいいかなと思っているんだが……」
「何か問題があったんですか?」
ベンチで微妙な顔をして唸るヤマト先生に同じくベンチに座っているカナタが尋ねました。
「……指名依頼が順番待ち状態なんだ」
それを全部片づけないことには他の任務を選ぶに選べないと、真面目で几帳面なヤマト先生。
その一言に私とカナタはそろって絶句。
いやいやいや、結成されたばかりの新米チームに指名依頼が来るっておかしいでしょう……
「火影様曰く、一部で評判になっているそうだよ。どんなフザけた依頼でも文句言わずに遂行する真面目なチームとしてね」
「それは……褒められている? のでしょうか??」
「いや、単に貧乏くじを引かされているだけなんじゃないかしら……」
「言うな……言わないでくれ」
がっくり肩を落とすヤマト先生。
子守りから暗殺まで。
幅広く任務を引き受けると公言している木ノ葉ですが、それでも本当に子守り任務を経験したことのある忍びは極めて稀です。
そもそも忍びに子守りを依頼する奇特な依頼者が稀ですし、それを引き受ける奇特な忍びはもっと稀ですから………欠片も実感ないんですけど。
子守りだってすでに複数回経験済みですし。
「正直、子守りは新人下忍の必修依頼なのかと思ってたわ私」
「私もですよ」
「んなわけあるか」
「いやでも嫌じゃないんですよ?」
忍者はそれだけで子供に大人気、忍術使うと物凄く喜んでくれるからこっちとしてもやりがいあるんですよね。
「そんな風に思うのは君たちだけだ……」
超絶に苦い青汁を一気飲みしたみたいな顔でうなだれるヤマト先生。
しかもここ最近では元々いた客層とは全く別ベクトルのファンがつきはじめたらしく。
村興しイベントで歌ってくれとか、祭りの余興で踊ってくれとか……そういう系の依頼がやたら増えているんですよ。
これにはヤマト先生はもとより管理忍の人まで頭を抱えてました。
ほぼ間違いなく切っ掛けは波の国の一件でしょうね。
橋が開通して交易が始まると同時にカナタの“あれ”が噂となって徐々に評判が広がっちゃったみたいです。
良くも悪くもカナタの開花した才能を世界が無視できなかったということなのでしょうね。
「ふっ、有名人は辛いわね」
「カナタ、顔ニヤけてますよ?」
気持ちはわかりますけどね。
ぶっちゃけ、私も羨ましくないといえばウソになりますし。
アイドル、憧れずにはいられないですよね。
カナタのデビューの日も案外遠くないのかもしれません。
「君たち、忍びの自覚はあるのかね?」
「いやでもヤマト先生? 私たちの今まで受けた任務って子守り芋ほりお使い子守り店番子守りステージ橋づくりですよ? それで今回草野球……」
もはや完全に忍びの面影ゼロ、忍者のにの字もないこのラインナップで忍者の自覚を持てってのはちょっと……いえかなり無理がある気がするのですが。
「……返す言葉もない」
それでもヤマト先生は指名された依頼をノーと言えないんでしょうね。
「でもまあ、これはこれでいいんじゃないかと思いますよ。忍者らしくない任務は平和の証です」
思えば意図していないとはいえ下忍になってから戦闘以外で忍術を活用しまくってるわけで。
私の忍術の平和利用という野望からすればこの上なく順調な滑り出しといえるのですよ。
波の国? あれは例外中の例外です。
橋づくりのDランク任務でイカとか他里の上忍とかと
……そんなことをベンチで言い合っているときでした。
『ツーストライク!』
あり得ない審判の声が聞こえたのは。
ツーストライク??
「……打ち損じた? マイカゼが?」
プロでもない草野球投手の球を新米で下忍とはいえ現役くのいちのマイカゼが?
ありえない! そう心の中で叫びながらフィールドを振り返ってみると、そこにはもっとありえない光景が広がっていました。
マイカゼが真っ二つに
折れているならまだしもすっぱり切断?
何が起こればそんなことに……そんな風に固まっているマイカゼなどどこ吹く風で次の投球に入る相手ピッチャー……待て待て待てオカシイオカシイ。
何ですかその投球フォームは!?
私自身野球のルールにそこまで詳しいわけではありませんが、それでもその投球フォームはあり得ないということくらいわかります。
腕を振り下ろすオーバースローでも下からのアンダースローでも、当然サイドスローでもスリークォーターでもなく。
ボールを胸に引き付け、腕の振りよりも手首のスナップを効かせて……あ~そうそう、その投げ方だと狭い場所でも投げられるし軌道を読まれにくいんですよね、アカデミーで習いました……どう見てもボールの投げ方ではなく手裏剣の投擲です。
キュイン、と空気を切る鋭い音を立てて投げられたボール。
斬れたバットしかないマイカゼには当然何ができるはずもなく。
『ストライク! バッターアウト!』
もはや声も出ません。
これが、野球?
「っちぃ、やはり考えることは同じか! 八百屋のクソジジイめ! 奴らも忍びを雇ってやがった!」
血相を変えた果物屋さんの叫びに目をむいて振り返るカナタ。
「ちょっ、どういうことですかそれ!? 相手チームに忍びがいるなんて聞いてませんよ!?」
「いや、カナタ、どうやらそれだけじゃないっぽいです」
最初はあのバット切り裂き魔球を投げたピッチャーだけに気を取られていましたが、よくよく考えればそれを捕球したキャッチャーもただものではありえません。
そしてそれだけではなくグラウンドでそれぞれの守備位置にいる野手の動きがみんな……写輪眼でよくよく見てみれば相手チーム全員がチャクラを纏っているのですよ。
「……相手チームに忍びがいるんじゃなくて、相手チーム全員が忍びっぽいです」
「そんなチームに勝てるか!」
カナタの魂の底からの絶叫が響きました。
「き、きたねぇぞ! こっちは4人しか雇ってねえのに、てめぇにはプライドってもんがねえのか!?」
「フハハハ、勝てばよかろうなのじゃ!」
相手チームのベンチに座っている年配男性が勝ち誇った笑みを浮かべていました。
さすが汚い忍者汚い……
「というかこれ規定違反じゃないんですか? 他里の忍びとの交戦が予想させる任務はBランク以上のはずじゃ……」
「い、いや……Bランク以上になるのは他里の忍びと命のやり取り、つまり戦闘がある場合だ……これはあくまでスポーツだから一応規定違反にはならない……ギリギリで」
「んな………」
絶句するカナタ。
百歩譲って忍びが相手なのは良しとしても、試合中に忍術とかチャクラ使うのはさすがに野球のルールに違反すると思うんですが!?
「い、いや確かに任務前に一通り目を通した野球のルールブックには『選手は忍術を使ってはいけない』なんてルールはありませんでしたけど……」
「そんなピンポイントな禁止ルールがあるわけないじゃない! そもそも、忍者が野球すること自体想定されてないわ!」
「カナタ、とにかく落ち着いたほうがいいですよ。どうやらいろいろな意味で手遅れみたいですから」
なんでよ? とこちらを振り返ったカナタは……すぐさま異変に気付き私と同じようにひきつった顔で固まりました。
マイカゼが燃えてました。
「コト、カナタ……勝つぞ」
「いやあの……マイカゼ? 今回の任務は試合に参加することであって別段勝利する必要は」
「だから?」
「いや……その………何でもないです」
いろんな意味で火が付いてました。
爽やかスポーツ少女から熱血スポ根少女にジョブチェンジしたマイカゼはもはや誰にも止められません。
さて、私も諦め……もとい覚悟を決めましょう。
まず手始めにあの『斬れる魔球』の攻略からでしょうか。
超忍空野球の開始です。
紆余曲折あったものの、とりあえず任務は無事に終わった。
「………ごめんなさい。私にもう少し球威と球速があれば……」
「それを言うなら私もだ………私があの時、隠し球なんかに引っかかりさえしなければ」
「よく頑張った方だと思うよ? 実際負けなかったわけだし……勝てもしなかったけど………はぁ、こんなことならもっと真面目に走り込みしとけばよかった」
少なくともヤマトの主観では無事だと思う。
事実、班員は誰一人として負傷していない。
使える術の種類に富み何かと多芸なコトは投手として。
視野が広く司令塔向きなカナタは捕手として。
身体能力に優れフィールドを素早く駆け抜けられるマイカゼは野手として。
それぞれ与えられた役割を彼女たちは全力で全うした。
コーチとしてフィールドには一切立たなかったヤマトと一般人であるチームメンバー6人を除けば、実質彼女たちはたった3人で他里の中忍9人と互角に渡り合ったことになる。
任務の出来に点数をつけるなら文句なしに満点に近い成果だと言えるだろう。
「あと一歩、あと1つ何かがあれば勝ててたんだ……!」
「ま、まあ次頑張ろうよ次……」
「私もそれまでには
「……あんまり危険球投げないでよ? キャッチするの私なんだから……」
任務内容を反省しつつもあくまで前向きに『次』に備える3人。
忍びらしからぬ奇抜な任務に対する嫌悪感などは欠片もない。
最初乗り気ではなかったカナタですら。
これこそが依頼人にリピーターが多い最大の理由だとヤマトは思う。
人当たりがいいだけではない、真面目なだけでもない。
もちろんそれもあるが、それ以上に彼女たちは1つ1つの依頼を全力で
好きこそものの上手なれ。
楽しんでいるからこそ本気で取り組めるし本気で取り組んでいるからこそ結果が出せる。
そんなひたむきな姿勢だからこそ依頼人の覚えもすこぶるよい。
それが第九班の強みであり特性。
そう、結果はどうしようもなく出てしまっているのだ。
担当上忍としてヤマトはそれを評価しないわけには……いかなかった。
「少し集まってくれ。君たちに渡すものがある」
躊躇は一瞬だった。
ヤマトは懐から3枚の……中忍試験志願書を取り出した。
遡ること1日前。
「招集をかけたのは他でもない……このメンツの顔ぶれでもう分かると思うが」
火影執務室の席に座る三代目火影・猿飛ヒルゼンの前にずらりと並ぶ担当上忍に上役、アカデミー教員。
元暗部で現上忍であるヤマトも含めて、木ノ葉の忍びの中でも特に上層部に近い面々が勢ぞろいしていた。
「もうそんな時期ですかね……」
「既に他里には報告済みなんですよね? 里でちらほら見ましたから……で、いつです?」
「一週間後だ………」
「そりゃまた急ですね」
集まった木ノ葉の上忍の1人である、はたけカカシは気の抜けた声でそうつぶやいた。
できればもう少し時間が欲しかったが……とぼやくカカシを隣で見ていたヤマトは確信した。
やはりカカシも自分と同じく己の部下を推薦するつもりのようだと。
「では……正式に発表する。今より七日後、七の月の1日をもって中忍選抜試験を始める!」
ヒルゼンの静かな、それでいて力のある宣言に部屋の空気がピンと張り詰めた。
「さて……まず新人の下忍を担当している者から前に出ろ」
進み出たのはカカシ、上忍の中では珍しい若い女性の夕日
「カカシに紅にヤマト、そしてアスマか。どうだ……お前たちの手の者に今回の中忍選抜試験に推したい下忍はいるかな? 言うまでもないことだが、形式上では最低8任務以上をこなしている下忍ならば……あとはお前たちの意向で試験に推薦できる」
まぁ、通例その倍の任務をこなしているのが相応じゃがな、とヒルゼンはそう言葉を締めくくってキセルの煙を吐いた。
確かに、命の危険すらある過酷な中忍試験に挑戦させるにはそれくらいのマージンは必要だろう。
普通ならば。
だが、幸か不幸か『この世代』は普通とは程遠いメンツの目白押しだ。
「カカシ率いる第7班、うちはサスケ、うずまきナルト、春野サクラ、以上3名。はたけカカシの名をもって中忍選抜試験に推薦します」
「何!?」
その宣言に部屋全体がにわかにざわついた。
「紅率いる第8班、日向ヒナタ、犬塚キバ、油女シノ、以上3名。夕日紅の名をもって左に同じ」
「ヤマト率いる第9班、うちはコト、空野カナタ、月光マイカゼ、以上3名。………ヤマトの名をもって左に同じ」
「アスマ第10班、山中いの、奈良シカマル、秋道チョウジ、以上3名。猿飛アスマの名をもって左に同じ」
「……ふむ、全員とは珍しい…」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
新人下忍12名全員が推薦されるというあまりの事態に、アカデミー教員であり彼ら彼女らの元担任でもあった海野イルカはたまらず声を上げた。
「なんじゃイルカ?」
「火影様! 一言言わせて下さい! さしでがましいようですが今名を挙げられた12名のうちのほどんどは
イルカの言葉は決して間違ってはいない。
事実、下忍としての、否、忍者としての活動期間が一年に満たない子供が中忍試験を受けるなんて過去に例がない。
まさしく、今回の12人全員推薦は例外中の例外と言えた。
「あいつらにはもっと場数を踏ませてから……上忍の方々の推薦理由が分かりかねます」
「私が中忍になったのはナルトより6つも年下の頃です」
あくまで気だるげなポーズを崩さないカカシ。
イルカはそんな不真面目ともとれる態度のカカシに声を荒げて反論。
「ナルトはあなたとは違う! 今はそんな時代じゃない! あなた方はあの子達をつぶす気ですか!? 中忍試験とは別名……」
「大切な任務にあいつらはいつも愚痴ばかり一度痛い目を味合わせてみるのも一興…つぶしてみるのも面白い」
「な…なんだと!?」
カカシがイルカをわざと激昂させるような言葉を選んでいるのをヤマトはなんとなく察した。
その理由までは分からないが。
「…と、まあこれは冗談として、イルカ先生。あなたの言いたいことも分かります。腹も立つでしょう。しかし……」
「カカシ、もう止めときなって」
「口出し無用! アイツらはもうあなたの生徒じゃない、今は……私の部下です」
「……」
紅の静止も振り切って、カカシが言いたいことを最後まで言い切ったときには場の空気は完全に凍り付いていた。
絶句したイルカは、今度はカカシ以外の上忍に非難の視線を向ける。
「他の方もカカシさんと同意見なんでしょうか?」
アスマも紅も、そしてヤマトも口には出さないものの否定はしなかった。
「ヤマトさん……僕はあなたのことをもっと慎重な人だと思っていました」
「ええ、私情を一切挟まず慎重に検討した結果、今回の推薦に踏み切りました」
「なら!」
「19回」
「え?」
「我々第9班が今までこなしてきた任務の数です……すでに19回。既定では8の倍の数の任務をこなしているのが相応………他の班の事情は知りませんが、少なくともうちの班はそれを超える数の任務をすでにこなしているんですよ」
僕としては非常に遺憾なことにね、と、続けそうになるのをヤマトはぐっとこらえた。
ヤマトのこの発言にイルカはおろか火影を除くその場の全員が信じられないといった様子で見つめてくる。
無論、嘘はついていない。
第9班の面々は本当に一切の誇張なしでそれだけの数の任務をこなしているのだ。
断続的に(アホな)任務を持ち込んでくるリピーターに、それを断り切れない担当上忍、そして休日ゼロのブラックな労働環境にも一切文句を言わないお人好しな部下。
それらの要素が綺麗にかみ合ってしまったが故の……ある意味悲劇だった。
「任務は数をこなせばいいってもんじゃないぞ」
微妙な沈黙に包まれる中、そう口をはさんできたのはおかっぱ頭に非常に濃い太い眉、グリーンの全身タイツという異様にダサ………特徴的な格好をした男、マイト・ガイ。
去年の新人下忍を受け持つ唯一の担当上忍である。
ある意味、カカシたちの先輩とも言える。
「カカシもヤマトも、他の2人も焦りすぎだ」
「……短期間にこれだけの数の任務をこなせること自体、うちが非凡である何よりの証拠だと思いますが?」
「詰め込めばいいってもんじゃないだろう。もっと下忍の時間を、青春の日々を大切にするべきだと言っているんだ。イルカの言う通りだな。俺の班も1年受験を先送りにしてしっかり実力をつけさせた。もうちょい青春してからうけさせるべきだ」
「フッ……」
そんなガイの、善意からの忠告をカカシは鼻で笑って受け流した。
なんで今日のこの人はこんなに喧嘩腰なんだろうかとヤマトは疑問に思う。
「いつもツメの甘い奴らだが…なーにお前んとこの奴らならすぐ抜くよあいつらは」
「……うちに木ノ葉の下忍で最も強い男がいるとしてもか?」
「してもだ。ま! ケチつけるなよ」
無言でにらみ合う2人。
「………そのへんにしておけ。では次、新人以外の下忍の推薦を取る」
無言でにらみ合っていた2人はヒルゼンの静止を受けてお互いに矛を収める。
次々と下忍の名前が挙がっていく最中、ヤマトはやれやれと内心でため息をついた。
(『うちに木ノ葉の下忍で最も強い男がいる』か……)
ガイの放ったこの言葉が意外なほど根強く胸の内にくすぶっている。
自分でも意外なほどに対抗心を刺激され、ヤマトは好戦的な笑みを浮かべた。
(なら僕も断言しよう。木ノ葉の下忍で一番強い
ヤマト先生に中忍選抜試験に推薦された第9班の面々はそれぞれの思いを胸に解散。
カナタは独り商店街を歩いてた。
「死人が毎年出るほど過酷な試験……気を引き締めて頑張らないと」
ポケットの中にはついさっき渡されたばかりの志願書が入っている。
しかしこれを今までの頑張りと実力が認められた結果……なんて考えるほどカナタの頭はお花畑じゃなかった。
「思えば私任務中ずっと愚痴ばかり言ってたし……ここらで一度痛い目を味合わせて気を引き締めよう……とか思われちゃったとか? そうでもないとコトやマイカゼみたいな天才はともかく私まで推薦される理由がないわよね……」
余談ながら、分かれた2人もそれぞれ志願書を手に取り今のカナタと似たようなことを考えていたりする。
内心とはいえヤマトが『木ノ葉で一番強いくのいちがいる』と豪語したチーム第9班。
そんな彼女たちを誰よりも過小評価しているのは、皮肉なことに過保護気味なイルカでも実情を知らないガイでもなく、実は彼女たち自身なのだった。
「ペーパーテストもあるのかな? 書店に試験の過去問とかおいてないかしら。苦無とか手裏剣の補充もした方がいいだろうし……」
思考に没頭するあまり、カナタは背後から近づいてくる存在の気配に気づかない。
「もしもし、少し道を尋ねたいのですが……」
「コトとマイカゼとも一度相談しないと、連携とかチームワークとかいろいろ……」
「もしもーし?」
「いや待って、私たちが推薦されたってことは実力的に考えて他の班も推薦されてるわよね絶対。ならナルト君たちとも話を……いやでも志願書をまだ渡されてない可能性もあるかな……あそこの担当上忍はたけ先生だし試験当日の前日にいきなり渡されるなんてことも……いやさすがにないか」
「あの……すみません!」
「はい!?」
飛び上がって振り返ったカナタはそこに立つ自分よりやや年上と思われる女性が身に着けている砂時計を模したマークの額当てに再度驚愕。
砂隠れ!? 他里の忍びが何故……とそこまで考えて、カナタは近々開催予定の中忍試験が木ノ葉周辺の各里の合同行事であることを思い出す。
どうやら、試験を受けに来た下忍のいくらかがすでに木ノ葉に出入りしているらしいとカナタは瞬時に悟る。
(取り乱しちゃだめよカナタ! ここは木ノ葉の忍びらしく慌てず騒がず冷静に……)
焦ったのは一瞬、カナタは素早く思考を切り替えて―――
「驚かせてしまいすみません。私は砂隠れの
「―――砂隠れのお客様、木ノ葉の里にようこそ! 私は木ノ葉の下忍の末席に名を連ねる空野カナタといいます」
「ありまってはいぃ!?」
任務で無駄に鍛えられた最高のスマイルを浮かべ、誠心誠意懇切丁寧に対応しようとするカナタに砂の忍びの思考は一瞬とはいえ完全に停止した。
「道をお尋ねとのことですが、どこに案内しましょうか?」
「………え? あ、はい。実は仲間とはぐれてしまいまして……」
なお、カナタの脳内は木ノ葉の忍びとして恥ずかしくないよう精いっぱいの『おもてなし』をすることで埋め尽くされていた。
(うわ~うわ~どうしよう木ノ葉の忍びは甘いって聞いてたけど認識が甘かった! 思ってたより3倍甘いよこの里!)
(里の名所を尋ねられたらどこに連れて行けばいいかしら? 私の眼に狂いがなければこのお姉さんは間違いなくコトの同類なんだけど……とりあえず飲食系は除外するとして……)
他里から甘い忍び里と揶揄される木ノ葉。
そんな木ノ葉の下忍であるカナタの、警戒のケの字もないその様は、ある意味非常に木ノ葉の忍びらしかった。
最近、コトよりもカナタのはっちゃけ具合が激しい……
どさくさに紛れてコト、カナタ、マイカゼに続く第4のオリキャラが登場してますが、カナタの暴走のせいでいきなりキャラ崩壊してるし……
なお、このキャラはかつて僕がナルト二次創作を書こうとしたとき、無謀にも風の国スタートにしようとした際に考えた主人公だったり。
ナルトという漫画は大好きですが、それでもあえて欠点をあげるとすれば、萌え的な意味での可愛い女性キャラが少ないことかなとか考えていたので、オリキャラのほとんどが女性です……
美少女は書いてても描いてても楽しいです。
というわけで、今回初登場した第4のオリキャラ『
【挿絵表示】
分かる人には彼女の正体がわかるかも。