南賀ノ神社の白巫女   作:T・P・R

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今回、遊戯王の二次創作に浮気したせいでやや遅れました。

というのも、遊戯王で思いついた小ネタをちょっと書いてみよっかな~とか軽い気持ちで書いたら良くも悪くも反応がデカくて、調子に乗って続き物にして、ネタを集めるべく遊戯王カードウィキを除いて……



気づいたらカードテキストをにやにやしながら熟読していて物凄い時間が飛んでました。
お蔭で頭の中遊戯王一色で、なかなかナルトに切り替わらなくて(言い訳以下省略)


20話

ヤマト先生が瞬身の術で姿を消した後。

私たちはもめました。

それはもうムッチャもめました。

 

明日の演習に備えてするべきことははたして休息か、特訓か、下見か。

 

明らかに誰かが間違っているのならともかくカナタも、マイカゼさんも、そして私も、皆それぞれ一理あるから余計に拗れたのですよ。

 

「と、とりあえず意見を纏めるわよ? まず最初に一時間ほど演習場の下見をして、それから一時間ほど連携とかの特訓、その後解散して疲れが残らないように家でゆっくり休む。月光さんとコトからは何か異論ある?」

 

カナタの疲れた顔は「もうこれ以上反論してくれるな」とヒシヒシ訴えてました。

 

「い、異議なしだ」

 

「同じくです」

 

息も絶え絶えにそう答える私とマイカゼさん。

ややこしいのは御免なのはこちらも同じなのです。

 

「よし、じゃあすぐに手分けして演習場を探索するよ。ただでさえ無駄な時間と体力を消費したんだからせめてこれ以上のロスは避けないと」

 

下見を先にするのは日が沈む前に済ませるためです。

演習場に外灯の類は一切ないので、日が暮れたら真っ暗になって何も見えなくなってしまいますからね。

といっても、もうすでに日はだいぶ傾いてますが。

カナタが焦るのも納得です。

あまり時間は残されていないのですよ。

 

「承知した。あと私のことはマイカゼで構わない。こちらもカナタ、コトと呼ばせてもらってるし」

 

「……了解、マイカゼ。短い付き合いにならないように頑張りましょ」

 

「解りましたマイカゼさ…マイカゼ。こちらからもよろしくなのです」

 

私たちはそう言って改めて手を取り合いました。

 

カナタは無駄と言いましたが、私は別段この話し合いを無駄だとは思いません。

だってこんなにも早く打ち解けることが出来たんですから。

良いチームになれそうなのです。

それだけに絶対ヤマト先生に認められたいところなのですよ。

明日を最後に解散するのは嫌ですからね。

 

 

 

 

 

 

次の日、第九班の今後の進退を決める演習当日。

私は昨日と同じく一族の家紋の入った巫女装束を着て、大量の札と忍具一式と“その他もろもろ”を入念に用意してから出発しました。

途中でカナタ、マイカゼを見つけたので合流し演習場を目指します。

 

「カナタ、マイカゼ、おはようございます」

 

「ああ、おはようコト……ってちょっと待って貴女の持ってるそれは何?」

 

カナタは私の手に提げられているものを見て固まりました。

ふっふっふ、私の周到さに驚いてますね~

 

「…………弁当か?」

 

マイカゼが戦慄の表情で尋ねてきます。

 

「その通り! プリントによれば、演習は丸1日かけて行われるらしいですからね」

 

腹が減ってはなんとやらです。

下忍になれるかどうかの合否を左右する大事な演習、気合も準備も十二分な今日の私に抜かりはないのです。

 

「ああ、でも足りるでしょうか、一応ヤマト先生の分も合わせて四人分用意したんですけど……って2人ともどうしてそんな頭痛を堪えるような表情を? ……あ、心配しなくてもちゃんと水筒も持ってきましたよ? 人数分」

 

おしぼり、お箸も万全なのです。

 

「いやそうじゃな…………なんでもない」

 

「?」

 

カナタは何かを言いかけて結局何も言いませんでした。

マイカゼも微妙な表情をしています。

む、さてはちゃんとしたものかどうか疑ってますね。

 

「大丈夫、味は保証するのです……ちゃんと味見しましたし」

 

「今更コトの腕を疑ったりしないよ。ただ違うのよそうじゃないのよ…」

 

一体何が……あ、ひょっとして昼ごはんはヤマト先生が別に用意していたりするのでしょうか?

う~ん、その場合は無駄になっちゃいますね。

 

「どうしましょうか?」

 

「どうしましょうか? じゃねえっての」

 

ちなみにカナタは右足の太ももに忍具一式収納されているポーチが括り付けられている以外昨日と大した違いはありません。

 

「(……緊張していた私がバカだったのか…)」

 

「(マイカゼもよく覚えておいた方がいい。これがあのナルト君と並び称された木ノ葉の問題児うちはコトよ)」

 

何やら小声で話しているマイカゼさんは、カナタと同じポーチに加えて長刀と脇差合わせて2振りの刀を帯刀しています。

腰に差したままでの状態でも風格があって頼もしい感じがするのですよ。

 

「うん、何だか合格できるような気がしてきました!」

 

「純度100パーセントの錯覚だおバカ」

 

 

 

ヤマト先生に指定された集合時間は9時です。

よって私たち―――うちはコト、空野カナタ、月光マイカゼの3人はそれぞれ余裕をもって1時間早い8時に集合したのですが…

 

「3人とも遅れずに来たようだね。感心感心」

 

「ヤマト先生?」

 

「早いですね…集合は9時だったのでは?」

 

ヤマト先生は私たち3人が来たときにはすでに演習場にいました。

 

「9時であってるよ。演習場の下見も兼ねてそれより早く来ただけさ。準備は出来る限り入念にするのが僕のやり方でね」

 

やっぱり几帳面です。

何時から準備していたのでしょう?

 

「ところで、コトの持っているそれはお弁当かい?」

 

「そうですが、まずかったでしょうか? 一応ヤマト先生の分も用意しましたけど……」

 

「いや、まずくはない、まずくはないんだ……ただ…」

 

「おかずはクルミ和えにしてみました。揚げ物の類は抜いてあります」

 

「…その気遣いも嬉しいんだが…」

 

ヤマト先生はクルミが好きで油っこいものは苦手とのことでしたからね。

いや~結構難儀したんですよ、弁当の定番のおかずである揚げ物抜きで献立を考えるのって。

一応、油っこくならないように揚げることはできるのですが、念には念のためです。

 

「もちろん、カナタやマイカゼの弁当もそれぞれの好物を把握して……ってなんで皆引くんですか?」

 

「(コトはコトなりに今日の演習に気合入れて準備してきたのは分かる、分かるけど……)」

 

「(驚くほど用意周到……しかし信じられないほどに見当違い……)」

 

「(優秀…確かに優秀で将来有望だ……だが……)」

 

「?」

 

私は首をかしげます。

 

「ま、まあいいや…とりあえず演習の話をしていいかな?」

 

気を取り直すようにそういうヤマト先生。

私達も気を引き締めます。

それにしても前もって準備が必要な演習っていったい……?

 

「そうかしこまらなくてもいいよ。何、難しいことじゃない、ちょっとしたオリエンテーリングみたいなものさ」

 

「「「オリエンテーリング?」」」

 

というと、あれですか?

指定されたいくつかのポイントをぐるっと回ってゴールを目指す…

 

「君たちの思い描いているその認識でおそらく間違いない。もっともポイントは指定しない。その代りあるものを取ってきてもらうことを目的とするけどね」

 

「あるもの?」

 

「そうだ。この演習場のとある場所に『忍』と彫られた石を数個置いてきた。それを取ってここまで戻ってくる。それが出来た者が演習合格、晴れて下忍だ。どうだ簡単だろう?」

 

確かにヤマト先生の言うとおり、ルールはものすごく単純です。

演習場に入って石を取ってくるだけなんて…

 

「簡単すぎて逆に不安になるね」

 

カナタが私たちの心中を代弁します。

 

「もちろん、簡単に取られないよう演習場には前もっていくつかトラップを仕掛けさせてもらった。まあちょっとした障害物競走ってところかな。刻限は今日の午後6時までだ」

 

「午後6時…」

 

午前9時にスタートするとすればだいたい9時間程度演習場で過ごすってことですね。

なかなかどうしてハードです。

お弁当を用意しておいて本当に良かったですよ。

 

「本当は9時集合でルール説明を15分ほどしてそれからのスタートの予定だったんだが……まあ、早起きは三文の徳ってことで」

 

ヤマト先生が、その場に時計をセットしながらニヤリと笑いました。

 

「少し早いが……スタートだ」

 

その言葉を合図に、私たちはいっせいに演習場に向かって駆け出しました。

 

 

 

 

 

 

「あ、ヤマト先生の分のお弁当は置いておきますね」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

 

 

 

 

 

手分けして探すという案もなくはなかったのですが、誰かがトラップに引っかかってもすぐ助けられるようにという配慮のもと私達は一緒に行動することにしました。

いくら脱落率が高いと言えども演習なので命を落とすような凶悪な罠はさすがにないと思いますが、念のためです。

 

マイカゼ、カナタ、私の順で一列縦隊を組んで演習場を駆け抜けるさなか、私たちは誰からともなく演習場の様子が昨日下見したときとは一変しているということに気づきました。

 

「……地形そのものが変わってる?」

 

私たちの先頭を走るマイカゼが驚いたように眼を見開きました。

 

「間違いないね、昨日見たときはこんな場所に滝なんてなかった」

 

続く2番手のカナタが断言。

私も後方で同意するのです。

 

「ヤマト先生の仕業でしょうね、おそらく水遁・滝壺の術……だけじゃ無理だから土遁もですかね」

 

演習場内という限られた範囲だけとはいえ環境をがらりと変化させてしまうほどの高等忍術。

さすが上忍って感じですね。

私達とは使う術のスケールが段違いなのですよ。

 

「でも、これって要するに私たちの行動が読まれていたってことよね?」

 

「だな。私たちが予め下見をしているという事実を知らなければわざわざ地形を変えたりしないだろう」

 

「いえ、単に用意周到なのかもですよ。下見をしている“かもしれない”ってだけで理由としては十分ですし……もしくは最初から自分のフィールドを作るつもりだったとか」

 

「どんだけ凝り性なのよ…」

 

カナタはそう言いますが、実際ヤマト先生は相当に凝り性な性格だと思いますね。

趣味は建築関係の読書らしいですが、絶対細部のディテールとかに拘るタイプです。

 

「私には解るのです」

 

「コトも大概凝り性だもんね……変な感じに」

 

「む、変な感じとはなんですか!」

 

「まあまあ……しかし凝り性? な割には肝心のトラップがおざなりというか子供だましというか……見え見えなのはどういうわけだ?」

 

明らかに周囲と色が違う地面を避けながらマイカゼは首をかしげました。

 

確かに、と私とカナタはマイカゼの意見に同意します。

単純な落とし穴、丸見えのワイヤートラップ、数こそ多いですが全部捻りも工夫もない教科書通りのブービートラップ……ですらないですね。

どれもこれも仕掛けが見え見え、正直拍子抜けなのです。

わざわざ隊列まで組んでまで警戒する必要があったのかどうかすら疑問です……本当にヤマト先生は私たちがこんなのに引っかかると思っているのでしょうか?

 

「…甘く見られてるのですかね?」

 

「違う……と思う。少なくともこれが脱落率66パーセントの難易度の演習とは到底思えない」

 

「ですよね…」

 

「絶対何か落とし穴があるな……考えられるとすれば目的の石がとてつもなく巧妙に隠されている…とか?」

 

「もの凄く強い猛獣とかトラップが石を守ってるのかも」

 

「いや、ゲームのラスボスじゃないんだから……ってあり得なくはないのか」

 

「そういうカナタはどう思う?」

 

「……ヤマト先生は石を()()置いてきたって言ったよね? 3個じゃなくて。あと、取ってくることが出来た者が演習合格だとも」

 

「……まさか?」

 

「まさか石が2個しかないとかですか? い、いくらなんでもそんなエグイことは」

 

下手すれば仲間割れの種になってしまいます。

下忍はチームワークが大事だって習ったのに、演習内容に結束を崩壊させる要素を持ち込むなんてまるで矛盾しているのですよ!

 

「でも、そうでもしないと脱落率6割以上……3人に1人だけしか合格できないなんてことにはならないでしょ。チームの仲間同士で潰しあわせて勝ち残った奴だけが下忍になれる…みたいな内容でもない限り」

 

「イヤです! 私は信じません!」

 

「…そういえば聞いたことがある、水の国の霧隠れの里ではそんな風習があるとか」

 

「や~め~て~」

 

此処は木ノ葉です。

血霧の里とは違うんです。

仲間同士で殺し合いとか真っ平ゴメンなのです!

 

「……とりあえず、急ごう」

 

「……」

 

それからの私たちは終始無言で演習場を突き進んだのでした。

 

 

 

 

 

 

「ありましたね、石」

 

「ああ、ちゃんと3個あったな」

 

「どうやら私の考えすぎだったみたいね……でもこれって」

 

結論から言えば、私たちはちゃんと石を3個発見することができました。

それも探し始めてから1時間足らずという短時間で。

巧妙に隠されていたわけでもないし、恐ろしい猛獣もいませんでした。

トラップの類も終始子供だましで脅威にはならなかったのです。

 

置いてある場所も見晴らしの良い高い丘みたいなところで極めて解りやすく、しかも3個まとめて堂々と置かれていたので探すまでもなく遠目からでもはっきり見えたのですよ。

 

いや~、心配して損しちゃいましたね。

ヤマト先生が鬼畜じゃなくて本当に良かったのです。

 

 

……ただ唯一、()()()()()()()()()()()()()事だけが予想外でした。

 

 

「「「デカいわああああああ(怒)!!」」」

 

 

縦は2メートル近く、横幅も1メートルある卵形の石が3つ、まるで鳥の巣みたいに仲良く並んでいるのを見た私たちは思わず声を揃えて叫んでしまいました。

毛ほども仲間割れの心配はありませんでしたね。

それどころかびっくりするほどに息ぴったりなのです。

 

「ちょっと待って! 本当にこの石!? どう見ても石じゃなくて岩のサイズでしょ!? 実は偽物で本物の石が何処かにあるんじゃないでしょうね!? というかそうであってほしい!」

 

「いや、間違いない……表面に『忍』の文字があるうえ、これは本物だという注意書きまで彫られている。他にも見慣れない術式がちらほら」

 

「几帳面にもほどがある!?」

 

「「置いてきた」なんて軽く言ってましたけど……ヤマト先生はどうやってこんなのを一晩で3つも運んだんでしょう? 昨日見たときはありませんでしたよね?」

 

これも上忍の超凄い忍術なのでしょうか?

出来なくはないんでしょうね、地形変えちゃうくらいですし。

もっとも私には想像もつかない次元の忍術ですが。

 

少なくとも私がこのサイズの石をこの場所まで運ぼうとすれば、3つどころか1つだけでも一日がかりの大仕事……はっ!?

 

「カナタっ! 時間!」

 

「……っ!? そういうことか! やけにあっさり見つかったと思ったら…」

 

「この演習の肝は見つけることじゃなくて持ち帰ることか…!」

 

私たちは確かに1時間足らずでこの場所にたどり着きました。

でもそれは障害物らしい障害物もなくほとんど一直線に突き進むことができたからです。

そしてそんな地形を無視した直線ルートを突き進めたのは私たちが忍びの常として軽装で身軽だったからで……でもこの岩を3つも運んでとなると……

 

「コト、逆口寄せの時空間忍術でスタート地点まで飛ばせない?」

 

「さ、さすがに口寄せ契約の類の巻物は持ってきてないのです……」

 

まさかこんなことになるとは…必要なものは全て持ってきたつもりでしたが。

 

「あ、でも仮にあったとしても無理そうですね。封印の術式と硬化の術式が重ね掛けされているのです」

 

これじゃ術式に阻まれて飛ばすどころか壊すことも不可能なのですよ。

固定されてはいないので動かすことはできるみたいですが。

さすが凝り性のヤマト先生、涙が出そうになるほど抜かりないです。

 

「術式の解除は?」

 

「できますよ。1つにつき5時間くらいあれば」

 

石は全部で3つなので単純に合計しておおよそ15時間……ぶっ通しで解除にいそしんだとしても演習時間を6時間ほどタイムオーバーしちゃいますね。

 

「つまり無理ってことか。まあ、仮に解除できても巻物がないんじゃ意味ないか」

 

どんだけ几帳面なのよ、とカナタ。

 

「だが、術式で壊れないように強化されているのはある意味朗報かもしれない。それなら多少乱暴に扱っても平気なのだろう?」

 

「そ、それは……その通りね」

 

マイカゼの言うとおりです。

これだけがっちり固められていれば石を横倒しにしてゴロゴロ転がして移動させても無問題なのですよ。

幸い石は転がりやすい卵形ですし。

 

「……やるか」

 

「ああ」

 

「はい」

 

現在時刻9時12分

タイムアップまであと8時間48分。

 

 

 

行きはよいよい帰りは怖い~なんて言葉がありますが。

その言葉の通り、私たちの帰り道は困難を極めました。

 

「っく、ダメだ! ここも通れない!」

 

「っ! 迂回するしかないか」

 

まず、私達だけなら楽々通り抜けられた細い隙間や獣道のことごとくが通り抜けられません。

全部石がデカいせいです。

 

「この滝も突破不可能ですね……また回り道です」

 

「わざわざ忍術で滝を作ったのはそのためか」

 

私達だけなら楽に渡れた滝が渡れません。

全部石が重いせいです。

 

「ああ! 石が勝手に坂を転がって!」

 

「っ!? バカそっちは落とし穴のトラップが!」

 

「あああ~!? また嵌まり込んだ!」

 

「これで7回目……しかも穴のサイズが石に無駄にジャストフィットしてるのがこれまた……」

 

「抜けそうにないな……今回も掘り返すしかないか」

 

さらに、行きで子供だましとバカにした数々のトラップがここにきて牙をむきました。

石がゴロンゴロン転がるせいで分かっていても避けられません。

おまけに石が視界の大半を塞いでしまううえ、体力を消耗して注意力が落ちるのも相まって本気でトラップに気づかなかったり…

 

岩が落とし穴に嵌まり込むたびに、貴重な札やらチャクラやらを消費して3人がかりで引っこ抜かなければならないのですよ。

 

「…確かこの先はワイヤートラップがあったはずだ」

 

「ああ、見え見えで楽々またいで回避できたあれですね」

 

当然ながら、意思なき岩はまたぐことはできません。

 

「迂回か…」

 

「迂回するしかないですね」

 

「また迂回……」

 

 

 

 

 

 

イルカ先生曰く、一流の忍びが本気で警戒したらどんなに巧妙に罠を仕掛けてもたちどころに見抜かれてしまうそうです。

故に仕掛け人はあの手この手で警戒を削ぐ、警戒していない時を狙うなどの工夫を凝らすわけで。

任務帰りなどでヘロヘロになった時をねらえば、子供だましのトラップだって命取りになったりするのですよ。

『忍たる者、何時いかなる時でも警戒を怠るべからず』なんて教科書には書いてましたけど、ずっと警戒して集中力を保ち続けるなんて土台無理な話なのです。

忍びだって人間ですしね。

慣れない重労働で体力的に追い詰められた状態ではとても集中力を維持できません。

 

本調子ならたとえ石というこれ以上ないくらいのお荷物があったとしても避けられたはずのトラップに幾度となく引っかかりまくること早5時間、ロスにロスを重ねて気づけば時刻はお昼過ぎになっていました。

 

これ以上の強行軍はさすがに効率が落ちるということで一度休憩を取ることに。

 

「……どのあたりまで進んだ?」

 

「大体全体の4分の1ってところかな。で、時刻は今2時過ぎくらいだから…」

 

「こんなペースだと3人そろって不合格ですね」

 

どよ~んとした空気が流れました。

あれだけ苦労して、まだ3倍の道のりが残ってるとか正直絶望です。

 

カナタもマイカゼも、そして私も皆泥だらけになって頑張っているのに。

カナタの幻術も、マイカゼの剣術も、私の符術も、演習内容がこんな単純明快な肉体労働ではほとんど役に立ちませんしね。

 

「しかし、演習がこんな内容だとはね。おかげで下見とか連携の特訓とかの昨日の準備の大半が無駄だ」

 

「まともに役に立ったのはコトのお弁当くらいだもんね……どうかしてる」

 

「もっと作ってくれば良かったです…」

 

「いや、十分よ。あと言い忘れてたけど、ありがとうね。お弁当美味しかったわ」

 

「私からも礼を言う。正直最初に見たときはどうかと思ったが、もしコトが用意してくれていなかったら空腹で倒れていたかもしれない」

 

「ど、どういたしまして」

 

たぶん、私の顔は赤くなっていると思います。

用意した甲斐があったというものですね。

なんかもうこれだけで演習が合格したみたいな気分になってしまうのです。

 

「じゃあ、デザートに果物でも「「それはいらない」」残念です…」

 

 

 

 

 

 

時を遡ること前日の演習場。

下見を終えた私たちは特訓のため再び最初の地点に集合しました。

日は落ちてあたりは真っ暗ですが、こんな時こそ私の符術の出番なのです。

強力な術は少ないですが、便利な術なら有り余っているのですよ。

 

「符術・雷遁雷光外灯!」

 

周囲に生えている演習場の樹の幹に貼り付けた札がまばゆい光を放ちました。

札を光らせるだけの簡単な術ですが、おかげで光源は確保なのです。

 

「おデコに貼り付ければ、暗い夜道も怖くない!」

 

「いや、それは本人が怖いでしょ」

 

カナタがビシッと突っ込みました。

やっぱりダメですかね?

 

「便利なものだな、光の出力を上げれば目眩ましも可能か?」

 

「……っ!? そ、その発想はなかったのですよ」

 

マイカゼ、貴女は天才ですか?

 

「まあ、できなくはないけど、わざわざ起雷札を使う必要はないかな、目眩ましがしたければ普通に光玉があるし」

 

カナタがマイカゼに説明して……ってなんでカナタが答えるんですか?

いや、間違ってないんですけど。

 

「私も剣術を披露できればよかったんだが…生憎、今は刀を持ってきていない」

 

「コト、木遁で木刀とか出せないの?」

 

「鞭なら出せますよ、しかも棘付きの」

 

「木刀は出せないのね?」

 

「果物なら出せますよ! あと野菜と…「木刀は出せないのね?」…はい」

 

私は観念しました。

今のところ私が木遁で出せる植物はどれもこれも茎とか蔦とか花とか葉っぱとか柔らかいものばかりで、木刀に使えるような硬い木質は作り出せないのですよ。

一体何が足りないんでしょうね?

 

「まあまあ、それに十分凄いじゃないか。新鮮な果物や野菜をどこでも出せるなんてサバイバルでは大助かり「…いのよ」…え?」

 

「不味いのよ。それも一口かじるだけで卒倒するレベルで。私の知る限り、コトの木遁・果樹豊作で出した青果物を完食した猛者(もさ)は秋道チョウジ君ただ1人よ」

 

「大丈夫、栄養は満点ですから!」

 

「でも不味いよね?」

 

「大丈夫! 栄養は満点ですから!!」

 

「でも不味いよね??」

 

「…………はい」

 

私は観念しました。

何というか、所詮は即席栽培ってことなのでしょうね。

私みたいな小娘がちょっと思いつきで作った程度の忍術で生み出された青果物が、お百姓さんが時間をかけて丹精込めて育てた本物の作物に敵うわけがないのでした。

 

私の符術『木遁・果樹豊作』

現時点ではバナナで滑らせる以上の使い道なしです。

 

 

 

 

 

 

「しかし、諦めはしないのですよ! 私は成長するのです! 日々術の研鑽と改良を積み重ね、いつかは美味しい野菜を作れるように「そんな暇あったら修行しろ」……ひょっとしてカナタ怒ってますか?」

 

「別に? そりゃ来る日も来る日も試食させられたけど? 一時、八百屋さんの前を通りかかるだけで吐きそうになったりもしたけど? 全然、別にこれっぽっちも怒ってないわ」

 

「ごめんなさい~」

 

私は五体投地で土下座しました。

まさかそこまで…

 

マイカゼが恐る恐る

 

「自分では試食しなかったのか?」

 

「しましたよ? それでも自分以外の人の意見は貴重なので。野菜嫌いのナルト君は絶対に食べてくれませんし」

 

料理の試食とかもそうですが、ずっと1人で試食していると舌が慣れて分からなくなってしまうんですよね。

あと私自身、不味さに慣れているというか……まだ料理下手だったころに文字通りさんざん味わいましたからね。

料理上達の基本はとにかく試食です。

不味い失敗料理を自分で食べるところからスタートなのです。

 

いつかナルト君にも美味いって言わせるような野菜を出せるようになってやるんですよ。

失敗を積み重ねた先に成功があるのです………のはずです。

 

「あのさ? 前から聞きたかったんだけど、コトって忍者になりたいの?」

 

「…? なりたいですよ? というか、今更なんでそんなことを?」

 

「どう見ても忍者に向いてるように見えないからよ」

 

カナタの言葉にマイカゼまでもが深く頷いて肯定しました。

 

「コトは本気で忍者になりたいの?」

 

「本気ですよ。私は忍術で暮らしを豊かにできる、そんな忍者になりたいんです」

 

「もはや忍者じゃないでしょそれ……いや、まあコトの覚悟は伝わったからいいか」

 

「?」

 

「休憩は終わりね」

 

カナタはそう言って改めて真剣な表情で私とマイカゼに向き直りました。

 

「とりあえず結論から言うよ。まず今のままでは絶対に間に合わない」

 

カナタは断言しました。

 

 

 

「もう諦めましょう。無謀な挑戦をするのはもう止めよ」

 




本当は一話で演習を終わらせたかったんですが、無理でした。

演習内容は地味に頭ひねったところです。
思えば、原作の鈴盗りって物凄く考えられた試験でしたね。
チームワークの大切さを教えつつ、上忍の凄さを見せつけつつ、それでいて漫画的見せ場であるバトルシーンもあり…

チームワークのチの字もなかった最初の第七班と違って、第九班は終始ほのぼのしています。

そもそも仲間割れの危険性をはらんでいた班って、合格した班の中では第七班だけのような気がしますね。
猪鹿蝶は仲良しトリオだし、第八班は冷静なシノ、引っ張るキバ、従順なヒナタでバランス悪くないし…

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