紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

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断章ーー西ゼムリア通商会議ーー
温度差


 

 

 

 アイゼングラーフ。鋼鉄の伯爵と呼ばれるその列車の名は、現帝国政府宰相のギリアス=オズボーンに合わせて付けられた名だ。彼は平民の出であったが、十一年前に宰相の任へ就いた際、皇帝から伯爵の地位を賜わった事で伯爵位となった。それ故に列車の名もそう呼ばれ、まさに鉄血宰相と畏れられる彼の呼び名と酷似している。

 物々しい名を冠するその列車は、帝国政府の専用列車というだけの事はあり、性能も高い。その速度は一般に利用する列車の比ではなく、内装も必要以上の煌びやかさはないが、利便性にも優れている。そこがまた、彼らしいと言えばらしいのだが。

 そして、そんなアイゼングラーフ号は現在。西ゼムリア通商会議が行われる予定のクロスベルへと向かっている訳なのだが、列車内の座席の一画。窓際の席に一人座っていた彼女は、どこか寂しそうな様子で移り変わる外の景色を見詰めていた。

 

 

「……グラン君、今頃どうしてるのかなぁ」

 

 

 トワはそう呟くと、見飽きてしまった外の景色から視線を移し、目を閉じて座席に背を預ける。そう長い列車旅ではないが、彼と二人で過ごすはずだった貴重な時間。クロスベルへ到着してからはそれぞれ仕事の為、会話が行える時間は限られている。だからせめて、この貴重な時間を。二人きりとまではいかなくとも、大好きな彼と隣り合わせで、何でもない会話をして過ごせるこの時を楽しみにしていた。それを帝国政府側による情報伝達のミスで失ってしまい、普段は笑顔の彼女が、こうして寂しそうにしている姿に繋がるわけである。

 しかしこのまま現地へ着いては、折角のチャンスを、帝国政府の仕事に関わる機会を台無しにしてしまう。気分は簡単に晴れないが、仕事に私情をはさんではいけない。そう考えたトワは、気分転換にと席を立ち上がった。向かう先は、列車内部を案内された際、休憩に使っていいと教えられていたバーのエリア。テーブル席は随行団や帝国政府関係者が使用していた為、カウンター席へと移動した彼女は、紅茶を一つ頼んだ。

 

 

「いや、護衛を頼んでおいて放ったらかしとかあり得ないだろ。酒でも飲まないとやってられるかっての」

 

 

「ハハハ、宰相閣下もグラン様を信頼しての事でしょう。しかし、本当に走行中のこの列車へ乗り込むとは……驚きました」

 

 

「ったく。警戒レベル上げんなら、列車本体の外部にも注意を払えって話だな」

 

 

 カウンターには先客がいたようで、どこか聞き慣れた心地良い声と、バーテンダーの渋い声が交互にトワの耳へと入ってきた。その内容はよく聞いていなかったが、飛んでもない事というのは直ぐに理解し、同時に重要な何かを聞き逃したように彼女は感じた。しかし、ふと頭を過ぎった紅い髪の少年の姿はここにいるはずもないと、ため息をついて頼んだ紅茶を待つ。

 

 

「紅茶を何も割らずに注いでどうしたんだ?」

 

 

「あちらの方のご注文です。どうやら随行団の方のようで、可愛らしいお嬢さんですよ」

 

 

「ほう……可愛い子には目がなくてな。貸してくれ、オレが届ける」

 

 

「では、こちらを」

 

 

 マスターと男の会話を耳に入れ、もし話の内容が自分の事だったらどうやって男の誘いを断ろうかとトワは再度ため息を一つ。グラスの中で氷が転がる音と男の足音が徐々に近づき確信した彼女は、一先ず彼の話を聞いてからやんわりと話を逸らそうと決める。そして、トワの目の前へと紅茶の注がれたグラスが置かれた。

 

 

「ご注文の品です、可愛らしいお嬢さん」

 

 

「あ、ありがとうございます……え?」

 

 

 トワが視線を向けた先、隣の席へ腰を下ろした男の姿に彼女の表情が固まる。それもそのはず。マスターから紅茶の入ったグラスを受け取り、トワの元へ届けたのは、ここにいるはずのないグランだったからだ。彼女の驚く姿が見れて満足なのか、グランはにやにやとその顔を見つめ、少し間が空いて我に返ったトワは慌てた様子を見せ始める。

 

 

「グラン君!? ど、どうして……」

 

 

「いやーケルディックで待ってたんですけど、駅を通り過ぎるってんで列車に飛び乗りました」

 

 

「と、飛び乗ったって……もう、あんまり無茶したら危ないよ」

 

 

「以後気を付けます……それじゃあ、再会と、互いの仕事の成功を祈って」

 

 

 トワは相変わらず予想の埒外の行動を取るグランに困惑しつつ、その表情にはどこか嬉しさを滲ませていた。グラスを手に取り、彼の持つグラスと乾杯をして中身の紅茶を口に含んだ。グランはそんな彼女の姿に笑みをこぼした後、自身もグラスに入ったカクテルを飲み干す。

 そして、トワは手に持ったグラスをテーブルに置くと、突然丸椅子をくるりと回転させてグランの方へ体を向けた。直後にその顔はニコリと笑顔を浮かべ、彼女の人差し指は彼が手に持つグラスを指し示す。

 

 

「ところでグラン君、そのグラスに入ってたのは何かな?」

 

 

 アイゼングラーフ号がクロスベルに到着するまでの間、グランはトワによる説教を受け続けるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「つまんなーい!」

 

 

 クロスベル自治州中心部、クロスベル市の中央広場から続く裏通りの一画。建物の屋上で、紅い髪の少女が不満そうに叫んだ。そして、あどけなさの抜けきっていない齢十六の少女のそばには、彼女の使用する武器、火炎放射器にチェーンソーとライフルが一体化した特殊銃火器テスタ・ロッサが無造作に置かれている。そしてその銃器を所持しているという事は、この少女の正体は一人しかいない。現在赤い星座の部隊長を務める、シャーリィ=オルランド。血染めの(ブラッディ)シャーリィの渾名で知られる、恐ろしい戦闘力を持った少女である。

 そんな彼女の近くには、同じ赤い星座の団員と思しき三人の男が立ち並ぶ。狙撃の名手として知られる猟兵ガレス、副隊長を務めるザックス。そして中でも圧倒的な存在感を示すのは、シャーリィと同色の髪に、眼帯をつけた屈強な容姿の男。彼こそが、闘神の死後、赤い星座をまとめ上げている赤の戦鬼(オーガ・ロッソ)、シグムント=オルランドその人。

 

 

「もうすぐ式典が始まる。そうすればオルキスタワーとやらも拝めるだろう」

 

 

「パパー、それっていつ〜?」

 

 

「もうすぐだ……っ!」

 

 

 自身の娘を宥めながら、ふと違和感に気付いたシグムントは閉じていた目を見開く。周囲を軽く見渡し、ある一方向を直視した途端、彼の口角が突如吊り上がった。その様子に、シャーリィ達は疑問を抱く。

 

 

「シグムント様?」

 

 

「パパ、どうしたの?」

 

 

「フフ、士官学院とやらでぬるま湯に浸かっているとばかり思っていたが、そうか……いい面構えになったな」

 

 

 内から溢れ出す喜びを、隠す事なく笑みを浮かべるシグムントの横。シャーリィやガレス、ザックスも彼の視線を辿り、目を細めてその先を見つめる。

 シグムントの視線が示していたのは、中央広場の一画にある建物の屋根。そしてそこに佇み、彼らを凝視している人物が一人。肩まで伸びた紅い髪、真紅の瞳、腰に帯刀した一振りの刀。紅いコートを身にまとったその少年の姿は、紛れもなく彼のもの。

 

 

「あれは、まさか……」

 

 

「はは、幻でも見てるんスかね……」

 

 

 ガレスとザックスはその姿を捉え、驚きを見せる。かつては赤い星座で共に闘い、慕った、幼き部隊長の一人。二年前はその姿を見る事が出来なかった為、二人にとっては実に七年振りの顔合わせとなる。成長した彼の姿に、懐かしさと共に感慨深いものを感じていた。

 

 

「……帰って、来たんだ。パパ、帰って来たんだ!」

 

 

「ああ」

 

 

 シグムントとシャーリィにとっては、今でもその帰りを待つ大切な家族の一人。シグムントは思っていても口に出しそうにないが、彼を見つめるその表情は、再会を喜ぶ父親そのものだ。そして、一人声を上げて喜びを見せるシャーリィは、我先にと屋上を駆け出す。

 

 

「グラン(にい)が、帰って来たー!」

 

 

 四人の視線の先には、団員の皆が帰りを待ち望んでいるグランの姿があった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 アイゼングラーフ号はクロスベル駅にて停車し、姿を現したギリアス=オズボーン、オリヴァルト皇子らを導力リムジンで出迎える。二人と護衛を含み数名が乗車し、クロスベル警察の導力車を先頭と後尾に配置した状態で目的の場所へと発進した。空港や東の街道からも次々と導力車が現れ、各国の代表をある一点へ護送する。

 しかし、鉄血宰相の護衛を務めているはずのグランは乗車を断り、一人中央広場にその姿を残した。付近の建物の屋根へと跳躍し、駅に降りてから感じていた懐かしくも腹立たしい気配の元、クロスベル市の裏通りへと視線を向ける。ほぼ同時のタイミングで相手と視線を通わし、待ち侘びた時に口角を吊り上げた。そして……

 

 

「グラン(にい)だ〜、えへへ」

 

 

「っ……」

 

 

 屋根の上を飛び移り、駆け寄って来たかと思えば突然抱きついて来た妹。シャーリィの突拍子のない行動に、グランは戸惑いを見せていた。三年前、僅かに言葉を交わして別れた最愛にして最哀の妹。六年前にクオンの命を奪い、自身の幸せを壊した張本人。その彼女の余りにも親しげな態度に、グランはどう対応したらいいのか困惑していた。彼がまだ西風の旅団の一員だったあの時、再会した妹の事は確かに突き放した。なのにどうしてこうも慕ってくるのかと。

 グラン自身、シャーリィに対しての怒りは確かにある。彼女が大切な人をその手で奪った事は、決して許している訳ではないし、これからも許すつもりはない。ただそれは憎しみではなく、哀れみの情であった。グランが真に憎むべきは、ここにいる彼女ではなかったから。それでも、複雑な心境なのには変わりない。一度妹に触れそうになった手を、グランはゆっくりと戻した。

 

 

「シャーリィ、離せ」

 

 

「んー、もうちょっとだけ……って思ったけど、もうすぐ団に帰って来るからいっか」

 

 

「……どういう意味だ?」

 

 

「えっ? だってグラン(にい)、パパと闘いに来たんでしょ?」

 

 

 笑顔を浮かべながらシャーリィが返してきた答えは、一切の悪意無く全てを物語っていた。彼女の言葉を要約すれば、この後グランは父親との闘いに敗れ、約束通り赤い星座へ戻る事になると言っている。それはグランにとって望まないものであり、極めて不愉快な結果だ。

 しかし、彼女はまるでそれが良いことの様に話している。最善の結果であるかのように話している。赤い星座の団員達も、シャーリィと同様の考えである事は言うまでもない。何故ならそれは、グランが赤い星座から去った詳しい原因を、彼女を含め団の皆に伝えられていないからだった。事の詳細をシグムントが説明しなければ、皆も分かろうはずがない。そして、グラン本人にはそんな状況など知る由も無い。

 これこそが、グランと赤い星座の間にある食い違いであり、温度差だった。

 

 

「チッ……クソ親父に伝えとけ。互いの仕事が一段落したら、その時が決着の時だってな」

 

 

「グラン(にい)……?」

 

 

 グランは首を傾げるシャーリィを引き剥がし、屋根を飛び降りて人波の中へと紛れ込む。彼が駅前で護衛対象と別れてから数分と考えて、オズボーンとオリヴァルトを乗せた導力リムジンは既に目的の場所であるオルキスタワーへと到着しているだろう。護衛を務める以上、彼らから余り目を離しすぎるのは問題だ。クロスベル警察や各国代表の身辺警護がいるとしても、もしもの時に自分がいない状況で代表達に何かあれば猟兵という仕事の信用に関わる。

 

 

「ったく、ここにきて何を迷ってんだオレは……」

 

 

 任務についての考えを巡らし、自身の脳内を過ぎる感情を誤魔化す。そうする事で、訳のわからない迷いなど消し去る事ができた。必要なのは最善の成果、そして自身にとって最高の結果のみ。

 

 

 そう……分かり合う事など、元より不可能なのだから。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 アイゼングラーフ号がクロスベルを訪れて直後。エレボニア帝国内、大陸横断鉄道を走る列車の中。サラを含めたトールズ士官学院Ⅶ組のメンバーは、通路を挟んで各々が座席へ座っていた。A班、B班共に無事、特別実習を終え、現在目的地のガレリア要塞へ向かう途中、皆はそれぞれの実習地での話題で持ちきりだった。

 

 

「槍の聖女の幽霊なんて本当かしら。そういえば、ラウラはその幽霊を見たの?……ちょっと、ラウラってば聞いてるの?」

 

 

「……あ、すまぬアリサ。もう一度頼む」

 

 

 グランが着ていた制服を手に顔を俯かせていたラウラは、申し訳なさそうにアリサの顔を視界に捉える。ケルディック駅で合流してからずっとこんな調子でいるラウラの様子に、アリサは心配していた。グランと別れる前、どのような事があったのかはその場にいなかったサラもB班の面々も話を聞いている。冗談混じりとはいえ、形見のように制服と刀を預けて去った彼の行動は、笑顔で見送ったといってもラウラの心に一抹の不安を残すのは当然だ。彼女と同じくグランを見送ったリィン達も、不安を拭いきれないのは同様だった。

 

 

「確かにそんな形見みたいに置いてかれちゃあ、心配にはなるわね。あの子もその気は無いんだろうけど、もしかしたらって事はあるし。確率的には、そのもしかしたらの方が高い訳だけど」

 

 

「サラ教官、もう少し言葉を選んで下さい」

 

 

 サラはマキアスの注意を受けて、苦笑気味に謝る。ただ、彼女の言葉がA班の皆にとって図星なのは事実だ。その事から目を背けては、それは逃げているにすぎない。グランが何を背負い、どんな心境でクロスベルへ向かったのか、Ⅶ組の殆どが知らない以上、向かい合うこと自体難しいわけだが。

 Ⅶ組が始動して今日まで、彼らはグランの事を知らなさすぎた。

 

 

「一つ聞きたいのだが、みんなはグランの事をどこまで知っているんだ? 俺は学院で過ごすグランの事しか知らなかった。知っている事があるなら、少しでも教えて欲しい」

 

 

 ふと、ガイウスがこの場にいる全員に問う。学院に来るまでノルドで暮らしていた彼は、当然の如く学院に来てからのグランしか知らない。だから、Ⅶ組の一員として、共に助け合う仲間として、彼の事を知りたいと願った。

 

 

「そう言われると、僕も彼の事は学院での姿しか知らないな。何度も助けられたというのに、情けない話だ」

 

 

「それを言ったら僕もだよ、マキアス。仲の良かったラウラや、知り合いだったフィーやサラ教官以外のメンバーは、殆ど知らないんじゃないかな?」

 

 

 エリオットが周囲を見渡すと、三名を除いて皆が首を横に振った。彼の話す通り、その三名を除いてグランについて詳しく知っている者はいない。一名例外はいるにせよ、同じ団にいたフィーは除いてサラやラウラも話し伝えにしか彼の事は知らない。グランが皆に語った事といえば、紅の剣聖として知られている元猟兵だという事だけ。クロスベルで彼を待ち受けているものが何か、彼が抱えているものが何か、本質的な意味で理解している者はいない。フィーでさえ、そこには至っていないのだ。

 

 

「ったく、どいつもこいつも難しい顔しやがって。そういうのは、グランが帰って来てから本人に直接聞けばいいじゃねぇか。それともあれか、そこまでお前さん達はアイツから信頼されてないってのか?」

 

 

 気怠そうにクロウの口から発せられた言葉は、実に辛辣なものだった。この状況では、からかう事が目的の冗談だったとしても皆はその言葉を真に受けてしまう。皆が食い下がる事を期待した彼だったが、この場では誰一人言い返せる者がいなかった。

 逆効果だったかとクロウが額に手を当ててため息をつく中、ふとリィンが思い出す。この空気を変えられるかもしれないと、唐突にその言葉を口にした。

 

 

「『背中は任せたぞ』……そういえば、グランはどうしてあんな事を言ったんだろうな」

 

 

 リィンの声に、その場でグランの言葉を聞いていた者もそうでない者も驚きを見せる。背中を任せるとは即ち、戦闘中での自身の身を委ねるという意味だ。前方の敵に集中する為、背後の敵は任せたという意味合いで用いられる。クロスベルと帝国に双方がいる状態で、何を考えて彼がそう言い残したのか皆には見当もつかなかった。正確には、その意味を真に理解した者もいるようだが。

 そして、その意味を理解した者の一人。サラは笑みをこぼすと説明を始める。

 

 

「これは物の例えだけど、グランが今いるクロスベルを基点とした場合、その背中は何処になるかしら?」

 

 

「それは……東のカルバード共和国は勿論の事ですけど、このエレボニア帝国も当てはまります」

 

 

「さすが委員長、その通りよ。そうね、仮にクロスベルの背中が帝国としましょう。この地では今、どんな問題が起きているのかしら?」

 

 

「……なるほどね」

 

 

「帝国解放戦線、という事か」

 

 

 フィーを初め、ユーシスの声に皆も答えに辿り着いた。帝国の現状は、革新派と貴族派の対立は勿論の事、最近になって帝国解放戦線という名のテロリストが暗躍している事が発覚した。サラの導きによって出された結論は、グランがクロスベルにいる間、テロリストがいる背中を、帝国を任せたという意味となる。

 だが、そこに一つの疑問が残る。帝国解放戦線の狙いは、あくまで鉄血宰相ギリアス=オズボーンの首だ。その男がクロスベルにいるというのに、一体何をもってグランがそういった言葉を残したのかという事。

 

 

「この事はガレリア要塞で説明する予定だったんだけど、今回の通商会議を受けての情報局の見解よ。これはグランの見解と同じなんだけど……帝国解放戦線の連中、どうやらクロスベルだけでなく、この帝国でも何か仕出かすみたいね」

 

 

 詳細はガレリア要塞の中で話す事になるらしいが、サラから告げられた内容に一同も驚きを隠せない。先月の帝都襲撃に続き、またしても愚かな考えを抱くテロリスト達に怒りや呆れを感じていた。そして、サラは尚も続ける。

 

 

「あとは……これはグラン独自の見解なんだけど。私達が今から向かうガレリア要塞も、そのリストに入るようね」

 

 

「おいおい、マジかよ」

 

 

「ふーん……そこはクレアも盲点だったかもね」

 

 

 終始気怠げだったクロウとミリアムの顔に真剣味が増した。皆も驚いているが、現時点では鉄壁を誇るガレリア要塞に襲撃するはずもないと踏むのが妥当だろう。グランの伝言を伝え聞いたクレアは、鉄道憲兵隊の人員の一部をガレリア要塞へ派遣する事にしたが、他の重要地点の警備に配置する為の人員を割く為、余り多くは派遣できていない。実際問題、ガレリア要塞は重要拠点ではあるが、他の地点を手薄にするリスクを負ってまで人員を割く場所ではない。何しろ帝国正規軍最強と謳われる第四機甲師団が駐屯する場所を襲撃するなど正気の沙汰ではないし、あり得ないと考えるのが普通だ。結果的には、ガレリア要塞側に襲撃の可能性を伝えたというだけで、それだけでは常在戦場の帝国正規軍にはあまり意味のない情報だろう。有益な情報となると、襲撃のタイミングや手段といった具体的な内容が望ましい。

 とはいえ、確かにグランはその可能性を考えた。そしてもしもの時、その背中を任せるとリィン達に言った。そこまで考えが至れば、グランがⅦ組の皆を信頼しているかどうかなど容易に分かるというものだ。

 

 

「そうか。グランはそこまで考えて、私達に託したのだな……」

 

 

 ラウラの表情に、そしてⅦ組の皆の顔には徐々に笑顔が戻った。グランは既に、自分達を友として、信頼に足る仲間として見てくれていたのだ。そして無事に帰って来る為に、帰って来た時の為に、この帝国を任せると言って別れた。であるならば、その期待と信頼に応えないわけにはいかない。

 

 

「残りの特別実習、必ず無事に終えてグランの帰りを待とう!」

 

 

 リィンの声に、皆がその場で頷いた。一丸となり、この特別実習も成功させて見せると。グランが帰って来た時、笑って彼を迎えようと。ガレリア要塞に向けて、Ⅶ組の決意は更に強固となった。

 

 

「(紅の剣聖……末恐ろしいぜ、ったく。この先敵にならない事を祈るばかりだな)」

 

 

 ただ一人、窓の外を眺める男を除いて。




 少し更新速度上がりました、はい。(今後も維持できるとは言っていない

 ところで本編について触れていきますが、グランが赤い星座を辞めた理由は、シグムントが話していないのでシャーリィや団の皆は詳しく知りません。せいぜいシグムントと親子喧嘩してるんだろうとしか認識していないという……今はいませんが、バルデルさんは知っていたようですね。仮に知っていたとして、シャーリィ達がグランに対してどう思うかは……分かりません。ただ、シャーリィが知っていた場合、トワを見つけたら問答無用で排除するでしょう。グランに、赤い星座以外に帰る場所があっては困りますから。だって大好きなお兄さんだからね……恐ろしい娘!

 そしてリィン達は漸くというか、グランの事を知らなさすぎると改めて思い始めました。彼がクロスベルから帰って来たら、直接話を聞くでしょう。そこで詳しくグランの過去編をやるよ!

 最後に……トワ教官とかグラン参戦フラグじゃないですか、北方戦役の後で帝国の為にグランも教官になるとかだと酷過ぎ……まあ多分やるけどね!(流石は会長キチry

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