紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

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初めに謝ります、アリアンロードとの戦闘は省略しました(前回の後書きを消しつつ

言い訳は後書きで見てね!


似た者姉妹

 

 

 

「ったく。こちらに来るのなら連絡の一つくらい寄越してください」

 

 

「連絡なら第二柱に言付けていたはずですが……彼女の事です、どうやら上手く伝わっていなかったようですね」

 

 

 驚きの後。やれやれと首を振りながらそばへと歩み寄るグランに、彼女は不思議そうな顔で応えるが、直後に一人納得した様子で目を伏せた。情報伝達に多少手違いが生じたようで、どうやらその第二柱という人物にミスがあったらしい。アリアンロードの口振りでは、呆れつつも予想がついていたようだが。

 

 グランも彼女の言動からある程度の事を察すると、溜息を一つこぼしてその歩みを止めた。

 

 

「ヴィータさんにも困ったもんですよ。契約の事はありますが、猟兵稼業を中断してⅦ組に在籍している今、もう少し自重してもらわないと……」

 

 

「貴方がそれを言うのですか……その契約の経緯を考えれば、この件に関してはグランハルト、貴方の自業自得だと思いますが」

 

 

 困ったように話すグランの顔を前に、アリアンロードは頭が痛いと額に手を当てながら当の本人へ同情の念を抱く。彼女のその言葉は、二人の話の中心人物であり、同じく身喰らう蛇の使徒任務を遂行する第二柱、ヴィータ=クロチルダへの同情が含まれたもの。時折行き過ぎた行いをする事もあるが、根本的な原因を作った彼がこの調子では流石に第二柱も報われないだろう、と。

 そんなアリアンロードの様子に、グランは不満気な顔をした。

 

 

「この手の話をすると結社の連中は揃ってそう言いますが、一体オレの何処に要因が……」

 

 

 不服そうなグランは腕を組みながら、当時ヴィータと交わした契約を思い出す。二年前、結社における数少ない良識を持ち合わせた人物であり、良き理解者でもあった彼を亡くし、ヴィータと二人リベールの湖でその死を惜しんだ時の事を————

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「レオン……本当に、いってしまったのね」

 

 

「……ええ、未だ信じられませんが」

 

 

 リベール王国、ヴァレリア湖の一画にて。月夜が映し出された湖面の揺らぎを目に、二人の男女がその瞳を伏せる。この地で命を散らせたかつての同僚、レオンハルトという二人が慕っていた銀髪の青年の姿を脳裏に浮かべながら。

 グランにとってはライバルのような存在であり、何かと気に掛けてくれていた良き理解者。生前、結社に所属する以前、ある悲劇の中でカリンという恋人を失った境遇を持つ彼にとって、争いに巻き込まれてクオンを失ったグランはどこか放っておけなかったらしい。お節介とまではいかないものの、色々と手を焼いてもらった事をグランは懐かしむ。

 そしてヴィータにとっては、その好意を寄せていた思い人。幾度と掛けたアプローチは悉くあしらわれ、少しも振り向いてもらえなかった。更には早過ぎる死を迎え、もう二度と言葉を交わす事は叶わず。良い男とはこうも縁が無いのだろうかと、彼女はその表情に陰りを見せる。

 

「ヴィータさん、そう悲しい顔をしないで下さい。貴女の悲しむ顔は、アイツも本意ではないでしょう」

 

 

 ヴィータの落ち込む顔を横目に、グランは彼を引き合いに出して慣れない気遣いをする。在り来たりな言葉しか思い付かず、それでも何も言わないよりはマシだろうと。彼女はそんなグランの優しさに気付くが、思った以上にその心は沈んでいるようで。

 

 

「そうかしら……そうだといいのだけど」

 

 

 笑顔で返すことは出来ず、以前その表情は悲しみに暮れたまま。

 夜の静けさは一層気不味い空気を作り出し、互いにとってこの状況は好ましいと思えない。だが、だからと言ってそう易々と変えられることが出来る程の状況でも無いだろう。誰かを失う悲しみは、況してや好意を向けていた者の死がどれ程の悲しみなのかグランは良く知っている。この時の彼は記憶封印を施されていたが、その感情だけは何故か容易に思い出し、困惑したのは別の話。

 第二柱の心が今揺らいでしまっては、この先の計画に支障を来たす恐れがある。グラン自身は結社に恩がある訳ではないが、このままヴィータを放っておける程彼も無関心という訳ではなかった。それ以前に、悲しむ彼女を残したままというのも、流石に気が引ける。何か良い案はないかと思考を巡らし、思いのままに言葉を紡ぐ。

 

 

「オレではレオンハルトの代わりは出来ません。ですが、その穴埋めぐらいにはなれるかもしれません」

 

 

「えっ?」

 

 

 不意に話したその言葉に、ヴィータは僅かな動揺を見せた。今も隣で目を伏せている、グランの顔をその瞳に捉える。

 レオンハルトの代わりは出来ない、グランが断言したようにそれは覆しようの無い事実だろう。人の存在というのは個々が特別であり、代替の利くような単純なものでは無い。

 だからグランはこう言った、穴埋めなら出来るかもしれないと。盟主の悲願を達成する為に計画を実行する使徒、その補佐として計画を手伝う執行者。執行者のNo.Ⅱ剣帝レオンハルトとしての彼の穴埋めとして、純粋な戦力としてなら自分が尽力する事は可能だろうと。その存在の肩代わりは出来ないが、彼と同じ事をするのは無理な話では無い、グランはそう結論付けた。

 

 

「貴女が悲しむ顔をするなら、それを笑顔に変えてみせます。貴女に降りかかる災厄があれば、その悉くを振り払いましょう。それくらいなら、オレにも出来る」

 

 

「あ……ふふ、ありがとう」

 

 

 グランの言葉を受け、ヴィータは一瞬その顔を呆然とした後、僅かに笑みをこぼす。少し気恥ずかしさも感じるのか、その頬は朱色に染まり、彼に向けていた視線もヴァレリア湖の湖面に戻した。

 そして、そんな彼女の表情を見てか、身を翻した彼は安心した様子で続けた。

 

 

「ヴィータさんはいつも笑顔でいて下さい。貴女には、それが一番似合う」

 

 

「もう……褒めたって何も出ないわよ?」

 

 

「女性の笑顔ってのは、掛け替えのない宝物なんですよ。ヴィータさんが笑えば、それだけでオレにとっては報酬です」

 

 

 何処でこんな言葉を覚えるのか。齢十四の少年の幼げながらも凛とした表情を横目に、ヴィータはその頬の熱が増すのを感じた。

 冷んやりとした夜風が両者の間を吹き抜け、彼女の顔の熱を徐々に奪う中、グランは歩き出してその背を向けた。そして、その足音が少しずつ離れていく中で、不意にヴィータは呼び止める。

 

 

「ねえ、グランハルト……貴方は私を守ってくれる? 私の騎士に、なってくれる?」

 

 

「……貴女がそれを望むなら。任せて下さい、守るのはオレの十八番ですから」

 

 

「ふふ……そうだったわね」

 

 

 答えを聞き、ヴィータは嬉しそうに頬を緩めると瞳を伏せた。やがてグランの足音が消え、この場から彼が居なくなったのを感じるとその身を翻す。グランが歩き去った方向……闇夜の中へと、その熱い眼差しを向けた。

 

 

「もう、グランハルトったら……本気にしちゃうわよ?」

 

 

 熱を帯びた頬へ右手を添え、その肘を左手で支えながら彼女は悪戯な笑みを浮かべる。ヴィータがグランに拘る理由にもなった一件、どう考えてもグランが悪かった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「……特に思い当たる節は無いんだが」

 

 

「はぁ……お互い時間もありません、本題へ移りましょう」

 

 

 いつの日か、契約を交わした時の一幕を思い返してグランは頭を捻る。ヴィータと知り合ってから一番深く関わったのは契約の時ぐらいだが、別に何も可笑しい事は無かったと。

 過去の自身の行いを振り返って尚気付かない彼を前に、アリアンロードはため息をこぼすと話題を変えた。今回訪れた目的の一つ、グランをこの地へと向かわせた理由と、その答えを。

 

 

「第三柱……いや、今は元か。『教授』が施した記憶封印(メモリーシール)とⅦ組の監視の件についてですか」

 

 

「はい。と言っても、今回の用は前者のみになりますが……その様子では、自力で解除出来たようですね」

 

 

「まあ、色々ありまして。自力とは言い難いですが、一応取り戻しました」

 

 

「そうですか……やはり、貴方をこの地へ向かわせて正解でした」

 

 

 苦笑いをするグランの姿に、黄金の騎士は頬を緩めた。今は亡き身喰らう蛇の第三柱、ゲオルグ=ワイスマンによって施された自己暗示型の記憶封印。当時反対した彼女だったが、彼が立案した計画の成功の為、そして何よりグラン自身がそれを望んだ為に実行されてしまった愚策。当初は迷いが無くなり任務に支障を来たさなくなったグランだったが、それが後に自身の成長の足枷、何より本来の実力を出せなくなる程の事態になっていた。今グランが浮かべている苦笑いは、当時のアリアンロードの反対を押し切って決行してしまった挙句、結局は彼女の助言により解決を迎えた事に対する気不味さからきているものだった。

 

 

「当時は本当に失望しました。貴方にあれだけ太刀打ち出来なかった神速でさえ、十度の内に二度はその姿を捉える事が出来ていたのですから」

 

 

「あの時は本気でアイツに怒鳴られました。『こんな体たらくでどうするんですの!』って。オレにその意味が分かる訳無かったんですが」

 

 

「フフ……先日あの子が報告に戻った時の嬉々とした姿、貴方にも見せてあげたいほどでした」

 

 

「オレとしては、それ模擬戦の流れになりそうなんで遠慮したいんですが……どうやらアイツにも心配を掛けたみたいだ。戻る機会があれば、少しは付き合うと伝えておいて下さい」

 

 

「分かりました。あの子もきっと喜ぶでしょう」

 

 

 かつての失敗と、それによってもたらされた様々な出来事を両者は笑顔を浮かべながら話す。先月、帝都を襲撃したテロリストの一件において、ドライケルス広場に現れた元同僚の一人をグランは脳裏に過ぎらせ、いつか謝らなければと呟いた。

 思いの外長くなったが、余り談笑をしている余裕は互いに無い。リィン達の事だ、グランの帰りが遅くなれば当然心配して様子を見に来るだろう。それはグランにとっても、アリアンロードにとっても好ましい事態では無い。そろそろ頃合いだと、両者は得物を構え始めた。

 

 

「さてと……それじゃあ手っ取り早く始めましょうか」

 

 

「約一年振りになりますか。以前貴方に課した条件、此度取り戻したそれが条件足り得るのか、見極めさせてもらう予定でしたが……少し予定を変えます」

 

 

 ふと、アリアンロードはそう口にした。今回グランを試しに来たのは他でもない、彼がクロスベルで赤の戦鬼と相対するに相応しいかの判断も含め、彼がこの地で培ったものの確認をする為である。個人的に楽しみだったりするのは彼女以外の知るところではないが。

 だが、その予定を変えるというのは腑に落ちない。グランが過去を取り戻している事は既に明白だが、現在の彼が具体的にどの様な状態なのかは彼女にも分かっていない筈だ。しかし、次の彼女の言葉で全て納得する事になる。

 

 

「貴方は少し節操の無さを自覚した方がいい。今回は、その点を重点的に教えましょう」

 

 

「え」

 

 

 アリアンロードは鋭い目つきで馬上槍(ランス)を構え、グランの姿を見据える。断罪を下すその矛先は、月夜の光に照らされて白銀の輝きを放っていた。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「グランさん、遅いですね……」

 

 

「流石にあの子でも『鋼の聖女』相手は分が悪いんじゃない?」

 

 

 エベル湖の畔、ローエングリン城の聳える陸の波止場。異変の収まった城を見上げながら、心配そうな表情のエマとセリーヌが彼の帰りを待っていた。どうやらリィン達は保護した子供二人を届ける為に町へ帰還した様で、この場には彼女達しかいない。何人かはエマと一緒に残ってもいいものだが、そこは彼女の事だ。何かと理由をつけてリィン達だけ送り出したのだろう。

 結社の幹部とも言える使徒との接触。グランが心配だと現場に向かおうとしたエマだったが、行ったところで何も出来ないとセリーヌに止められた。ただただこの場でグランを待つ事しか出来ないもどかしさに駆られ、彼女の不安は増すばかり。それに彼女が問題にしているのは、何もグランがアリアンロードと戦闘を行なっているという点だけではない。

 

 

「セリーヌ。やっぱり私達も……」

 

 

「やめときなさいって。彼なら無事に戻ってくるわ。あの女ならともかく、鋼の聖女なら下手な干渉はしないでしょう」

 

 

「でも……もしグランさんがこのまま執行者に戻ってしまったら……」

 

 

 そう、エマが心配しているのはグランの身の安全だけではなかった。彼がこのまま、第七使徒と共に結社へ戻るのではという可能性の話だ。セリーヌは大丈夫だと口にしているが、根拠が無い以上彼女の心配が消える事はない。

 エマは依然不安げな表情で城を見詰める。そして、そんな彼女を足元で見上げているセリーヌは、不意に笑みをこぼした。

 

 

「それにしても、不思議なものね」

 

 

「どうしたの、急に笑ったりして」

 

 

「貴女を見ていて可笑しくなったのよ。彼の正体に気付いた時にはあれだけ敵意剥き出しだったのに、今じゃコレだもの。猫だって笑うわ」

 

 

 エマはその言葉に首を傾げ、どうやら含まれた意味に気付いていない様子。遠回しに言われても何が言いたいのか分からないと、セリーヌに説明を催促し、その言葉に答えるように彼女は続けた。

 

 

「あの子の事、好きなんでしょ?」

 

 

「っ!? な、何を急に言い出すの!?」

 

 

「ノルド高原の実習、だったかしら? あれからアンタのあの子に対する接し方が変わったもの。深く聞かなかったけど、何かあったんじゃないの?」

 

 

 セリーヌが言い放った思いもかけない言葉に、エマは顔を真っ赤にして明らかな動揺を見せた。先々月に行われたノルドでの実習を思い出し、更に彼女の声が詰まる。そんなエマの様子に、セリーヌはため息を一つこぼす。

 グランに対しての特別な感情、はっきり言ってしまうとエマにもよく分からなかった。不意打ちの様に放つグランの言動に戸惑う事はこれまでもあったが、基本的な彼は自分勝手で欲望に忠実だ。普段は女性の胸ばかり見て顔を緩ませるグランを、エマは好ましく思っていない。ただそれは、嫌悪感とは違う何かというのもまた事実だった。

 

 

「私にはよく分からない。だけど、ラウラさんはグランさんの事を……それに、グランさんとトワ会長は……」

 

 

「それよ。トワって子がいる以上、あの子が学院を離れる事はない。少なくとも今すぐになんて事は有り得ないわ」

 

 

 ここで、セリーヌの誘導に掛かったという事にエマは漸く気付いた。

 グランが結社に戻ってしまうのではという不安は、確かにトワという存在がいる限り解決される。トワが学院を卒業する来年まで、余程の出来事が起きない限りグランが学院を離れる可能性は低い。先の不安は、思いがけない質問から解消される事になった。

 しかし、何故かエマの表情は晴れない。

 

 

「そう、よね。トワ会長がいればグランさんは……」

 

 

「はぁ……こうは言いたくないけど、アンタは少しあの女の事見倣いなさい」

 

 

 表情の優れないエマを見上げ、またしてもセリーヌは深いため息をつく。これはとうとう手の施しようがないと彼女が呆れ返っている矢先、不意に前方から物音がした。疑問に思った彼女達は顔を向け、薄暗い道に現れる人影をその目に捉える。

 

 

———あ、あの鉄仮面覚えてやがれ……くっ!?———

 

 

「アレって……」

 

 

「グランさん!?」

 

 

 セリーヌが目を細める中、グランの姿だと気付いたエマが急いで彼のそばへ向かって駆け出す。赤い刀身の刀を支えに何とかここまで辿り着いた様子のグランは、支えにしていたその刀を滑らせてしまいその場に倒れかける。しかし間一髪、間に合ったエマが彼の身体を支えて転倒を防いだ。

 

 

「グランさん、大丈夫ですか!?」

 

 

「い、委員長か……何でここに———」

 

 

「今はそれより、早く怪我の治療を……!」

 

 

 疑問に思うグランの言葉を遮り、エマは彼を地面に寝かせて自身も正座でその場に腰を下ろす。彼の頭を太股に乗せ、膝枕の要領で治癒行為へ移った。グランの身体の周囲を温かな淡い光で包み、恐らくはノルドの地で見せた力を使用しているのだろう。身体の痛みに顔を歪ませていたグランの表情は、次第に安らぎを取り戻していく。

 淡い光は収まりを見せ、やがて完全に消失した。時間にして僅か数十秒の治癒行為だが、今回はそれで十分だったようだ。体調を伺うエマの声に、ほんの少しの痛みがあるだけで問題無いとグランは立ち上がった。

 

 

「助かった委員長。ったく、第七柱は手加減ってのを知らねぇのか」

 

 

「えっと、グランさん? 結社の第七使徒と何かあったんですか?」

 

 

「ああ、これが酷いなんてもんじゃ……あ」

 

 

「今更隠しても無駄よ、私達も気付いてたから」

 

 

 心配そうに問いかけたエマへ口を滑らせたグランは、直後に現れたセリーヌの言葉で要らぬ心配をしたと焦り混じりの表情を元に戻す。これで結社の執行者が務まっていたのが不思議だと皮肉をこぼすセリーヌに、グランとエマは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 微妙な空気が漂う中、そう言えばとエマが話題を変える。

 

 

「グランさん、あの後ローエングリン城の中で何があったんですか?」

 

 

「ああ、ヴィータさんの事で第七柱とちょっとな……いや、別にオレ悪くないんだが」

 

 

「姉さんの事を……里を出ても、あの人は周りに迷惑かけてばかりなんですね」

 

 

 グランの話を聞き、エマの表情が途端に陰りを見せた。これは口にしては不味かったのかとグランはセリーヌに視線を向けるが、彼女は気にしないでいいと一言。どうしたものかと頭を悩ませる中、ふと何かを思い出したグランは笑みを浮かべる。

 

 

「委員長、実はそうでもないぞ」

 

 

「えっ?」

 

 

 不意に呼ばれ、顔を呆けさせたエマはグランの顔を瞳に映した。その顔が少し可笑しく見えたのか、グランは少し笑い声を漏らすと、彼女に向けていた視線を夜空へ移し、先の言葉を続ける。

 

 

「オレにはそっちの事情は分からないが、少なくともヴィータさんがいて良かったと思う事もある。あの人の純粋な笑顔はな、華があるって言うのか、こう、見てると嬉しくなるんだよ。そうそう、委員長はそういう時のヴィータさんに似てる」

 

 

「私が姉さんに、ですか?」

 

 

「ああ。だから委員長も、出来ればオレの前では笑っていてくれ。さっきみたいな落ち込んだ顔じゃなく……な」

 

 

 首を傾げているエマへ再度視線を向け、グランが浮かべた笑顔はとても優しげな表情だった。彼女はその顔を瞳に映し、ノルドで同じ様な事があった事を思い出して頬を赤く染める。恥ずかしそうにしながら顔を僅かに背けた後、瞳を伏せて口を開く。

 

 

「……が、頑張ります」

 

 

「こ、この子いつか女に刺されるわね……」

 

 

 顔を背けるエマの様子に笑みをこぼすグランの足元。セリーヌはそんな二人を見上げながら、そう遠くない未来を想像して顔を引きつらせるのだった。




見事に戦闘描写が書けなくなりました(涙
光の剣匠の時から違和感を覚えつつも、アリアンロードとの戦闘も書いていたら分かりにくいったらありゃしない! あれ、どうやって書いてたっけ……暫く戦闘シーンは無いかもです。

更新遅すぎて見放されてると思ったら、温かな言葉をいただいて感激中です。少しずつペースを戻せたらいいな……

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