紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

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一撃に見出だした答えは

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

「一体何が起きている……?」

 

 

 現在朝六時過ぎ。突如聞こえ始めた轟音と地響きに、リィンとユーシスは驚きでベッドから体を起こす。思いもよらない目覚ましに、二人の表情は何が起きているのか分からず戸惑っている様子だ。

 二人は急いで就寝用の服から制服へ着替え、現状を確かめるために部屋を飛び出した。そして同様に隣の部屋も扉が開き、そこからは同じように慌てた様子のラウラとエマが姿を現す。

 

 

「そなた達も起きたようだな」

 

 

「おはようございます」

 

 

「ああ、おはよう。それより……」

 

 

「この轟音と地鳴り……今どういった状況なのか、お前達は知っているのか?」

 

 

 軽く挨拶を交わしてからの現状確認。ユーシスの問いに、しかしラウラとエマは首を横に振った。やはり、二人も現状がどうなっているのかは知らないようである。

 そして状況を確かめ合う会話の中で、リィンはふと疑問を抱いた。そう、ラウラとエマを除いた他のメンバー……フィーとミリアム、彼女達と同室しているはずのグランを含めた三人の姿が見当たらない事に。リィンは再び問う。

 

 

「他の三人は?」

 

 

「グランとフィーの姿は先程から見当たらない」

 

 

「テラスの方にもいませんでした。それとミリアムちゃんなんですが、まだ起きなくて……」

 

 

「フン、この状況で呑気なガキだ」

 

 

 この異常事態ですら目を覚ましていないというミリアムにユーシスが呆れつつ、四人は見当たらないグランとフィーを探すべく屋敷の一階へ降りる。一階を見渡し、彼らの視界に映ったのはホウキを手に慌てた様子のメイドだった。彼女の様子を見るに現在何が起きているかは分かっていないかもしれないが、せめてグランとフィーの姿を見たかどうかの確認を取るべく駆け寄る。

 

 

「プラナ、グランとフィーを見なかったか?」

 

 

「ラ、ラウラお嬢様! 今この町で一体何が……!?」

 

 

「一先ず落ち着いて聞いてほしい。取り敢えず、グランとフィーを……私達と実習に来ていた、赤髪の男と銀髪の少女を見なかったか?」

 

 

「えっと、その方達でしたら確か……先程お館様とクラウス様のお二人とご一緒に、練武場へ行くと……」

 

 

 プラナから話を聞き、まさかと声を上げたラウラは一人その場を駆け出して屋敷を飛び出す。リィン達はそんな彼女の様子に戸惑いつつ、その姿を追ってアルゼイド家をあとにした。

 屋敷の前の階段を下り、一同は右手に建つ練武場へ駆け寄る。轟音と地響きの発生源は間違いなくこの場所だと、ラウラが扉を勢いよく開いた。

 

 

「これは……!?」

 

 

 先頭のラウラはその光景を目の当たりにして、驚愕の表情を浮かべ始める。屋内で繰り広げられていたそれは、四人の想像を遥かに超えるものだった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 導力時計の針は現在午前七時半を表す。練武場でのグラン対ヴィクターの一戦は、地鳴りと衝撃波を伴いながら今尚続いていた。アルゼイド流の門下生達が住民へ状況を説明した為か、観戦者の顔触れは開始直後に比べて明らかに増えている。因みにこのままでは練武場が保たないと判断した門下生の数名により、速やかな補強が行われたのは余談だ。

 そして未だ激戦を繰り広げているグランとヴィクターもまた、壇上へ向けられる視線の数が増えた事は肌で感じていた。互いの剣を弾き、或いは受け流し、時には回避に徹しながら。壇上から消えては姿を現すといった異常なまでの速度を保ちつつ、やがて両者は距離を取って一度その動きを止める。

 

 

「ったく、客が増えてきたな……闘いにくいったらありゃしない」

 

 

「なるほど……周囲への被害を考えながら立ち回っているあたり、そなたにはまだまだ余力が見える」

 

 

「そう言うアンタも無理に受け流しながら力を逃がしてるだろ……大分余裕なんじゃないのか?」

 

 

「フフ……否定はしないでおこう」

 

 

 周囲の視線を確認した後、一度鞘へ刀を納めたグランは僅かに不機嫌そうに漏らし、彼の様子にヴィクターは苦笑を浮かべながら剣を構え直した。そして言葉を交えて直後、両者は前へ踏み込んで再度互いの距離を詰める。

 近距離に達したその瞬間、ヴィクターは目の前のグランへ大剣を振り下ろす。目にも止まらぬ速さとはこの事か。強烈な風圧を伴うその一撃は、しかしグランが僅かに半身の姿勢を取り、開始して何度目か分からない回避に成功する。反撃とばかりに神速の抜刀も、その一閃は下からの打ち上げによって不発。押し返された直後、再び訪れた横凪ぎの一振りは間一髪刀で防ぎ切る。

 

 

「やはり通らぬか……!」

 

 

「分かりきってんだろ……ッ!」

 

 

 力任せに大剣を弾き、後方に下がったヴィクターへグランは接近すると共にその姿を消した。ヴィクターは僅かに目を見開くも、直ぐ様半回転して後方から来た死角の袈裟斬りを受け止める。その際の衝撃で発生した強風は両者の髪を揺らし、地鳴りを伴って練武場内へと響き渡った。

 回り込んでも悉く防がれる刀の一撃、しかしそれでグランの攻撃の手が止まる事はあり得ない。防いだ大剣を無理矢理押し返し、尚も回り込んで空いた身体へ横一閃に振り抜く。だが彼と同時に振り向いていたヴィクターによる大剣の一振りが、僅かに速度を上回ってグランの姿を捉えた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 そして剣が触れたその瞬間。グランの姿は掻き消え、ヴィクターの大剣は空を斬る。それでも動揺は一瞬、またしても後方から感じた気配を察知して彼は振り向き様に大剣を正面で構えた。直後に訪れた剣戟と衝撃波は、分け身を使用して尚グランが刀を防がれた事実を意味する。

 

 

「背中に目でも付いてんのかよ……!」

 

 

「今のは流石に肝を冷やした……東方に伝わる武術、やはりそなたの剣は八葉一刀流だけではないようだな?」

 

 

「察しの通りだ。八葉に泰斗、東方に伝わる氣の運用から暗殺術に至るまで。こうまでしないと……いや、これでもまだ目的は果たせない──ッ!」

 

 

 顔横に刀を構えた瞬間、グランはまたしてもその姿を壇上から消す。しかし速度はこれまでの比ではないらしい、ヴィクターの表情が明らかに険しさを増した事が何よりの証拠だった。

 紅の残像は不規則に彼の周囲へ現れ、誰一人その姿を正確に捉える事は出来ていない。しかしそんな中、驚く事にヴィクターは数秒程辺りを窺うように視線を動かした後、その瞳をゆっくりと伏せる。

 

 

「────ッ!」

 

 

 閉じていたその瞳が見開いた途端、まるで剣舞を舞うかのようにヴィクターは周囲へ大剣を無造作に振りかざし始めた。時折右に左に後ろに前に、ステップを踏んでは身体をそらし、尚剣舞は止まらない。

 一見ただ一人で動いているように見える彼の動作。しかしそれは、ただヴィクターが意味もなく行っている訳ではない。そしてその根拠は、彼が剣を振る度に周囲へ響き渡る剣戟の音が何より物語っていた。

 

 

「見事なまでの体術の応用と剣技、その若さでこれ程に至ったのはまさに天武の才と言えよう……だが──」

 

 

 空を裂き、再度光速の刀を弾いたヴィクターは剣は顔の高さに構えて上を見上げる。彼の見詰める先……そこには確かに、周囲を閃光の如く移動していた筈のグランが驚きながら刀を振り上げる姿があった。

 

 

「──閃紅烈波ッ!」

 

 

「甘い──ッ!」

 

 

 上空から訪れた閃光の強襲、しかしヴィクターはそれを見事に弾き返した。対して空中へ打ち上げられたグランは明らかな隙、だが尚射程外に逃れようと彼は無理矢理身体を捻って距離を取ろうとする。

 グランが直後に放った滞空中からの刀による一閃、それに伴う風圧を利用した空中移動──しかし、それでも彼から逃れる事は出来なかった。

 

 

「逃しはせぬ──ッ!」

 

 

「なっ!?」

 

 

 突如ヴィクターを中心として発現した青の闘気、その渦は逃れようとした彼を強引に引き寄せた。完全に判断を見誤ったと、グランはその表情に悔しさを滲ませながら来るであろう一撃に備える。

 グランの姿が射程内に訪れたと同時、ヴィクターは左足を軸に大剣を水平に構えた。

 

 

「はあああああっ!」

 

 

 旋回の動作で放たれた回転斬りは、周囲へ剣圧に伴う風を巻き起こしながら引き寄せたグランを前方へ吹き飛ばす。剣戟の音を奏でる強烈な一振りは、それでも辛うじて刀で受け流したらしくグランは壇上で踏み止まった。

 持ち堪えたかに見えたその光景は、しかし更なる追撃を与える要因でしかない。

 

 

「──奥義、洸凰剣!」

 

 

 グランへ向けられて振り下ろされたその一撃は、光を放ちながら周囲の空間を染め上げる。黄金の羽根が舞う光景は夢か幻か──だが、ヴィクターが放ったその剣技がグランの膝を地に着かせたのは紛れもない事実だった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「やっぱり、今のグランでも勝てないんだね……」

 

 

 ヴィクターの絶技、それを正面から受けて刀を支えに何とか倒れる事を逃れたグラン。そして、そんな痛々しい姿の彼を見上げるフィーはその表情に陰りを見せながら呟いた。今の光景を視界に収めたくないと、現実から逃げるかのように彼女はその瞳を閉じる。

 現状で彼が示せる可能性……それは、赤の戦鬼と同格の実力だとグラン自身が口にしていた光の剣匠を、結局は彼が超える事が出来ないという厳しい現実だった。当人にとってもフィーにとっても辛いその事実は、安心してグランをクロスベルへ送り出すという彼女の願いを否定している。

 もう終わり、決着が着いた以上先に待ち受けるものは何一つ変わらない。グランの敗北という目の前の光景から、フィーはクロスベルで起こりうる未来を想像して顔を歪めていた。

 いつの間にか彼女の隣に移動していたラウラやエマ、リィンにユーシスも、眼前で着いた勝負以上にフィーの顔を見て表情を曇らせる。周囲に立つ門下生達や住民が驚きや歓声を上げるが、彼らの耳には何一つ入らない。練武場の一部に広がり始めた何とも言えない光景……しかし、重い空気を漂わせているその空間を直後に破る者がいた。

 

 

「はあはあ……まだだ、まだ終わっていない……ッ!」

 

 

 フラフラと、刀の支えを外して覚束ない足のまま立ち上がるグラン。風貌こそ弱々しく見えるが、その瞳からは素人であろうと分かる程に確かな意志が感じられた。この状況下でも、グランはまだ勝ちへの可能性を諦めていないらしい。

 彼と対峙するヴィクターはその姿に驚きを見せるが、グランが諦めていないと見るや否や大剣を再び顔横に構えた。しかし、その場に響いたのは応援ではなく……抗う姿を見せるグランへ向けた悲痛な声。

 

 

「もういい! もういいから! グランは光の剣匠相手でもこれだけ戦える、二時間近くも凌げる実力を……立ち回れる可能性を見せてくれたから! だからもういい!」

 

 

「フィー……」

 

 

「フィーちゃん……」

 

 

 初めてフィーが露にした剥き出しの感情に、隣に立つラウラとエマは驚きで彼女を見詰めていた。普段は眠たそうな顔ばかり。滅多にやる気を出す事もなく、感情すら余り表に出さない印象があるからこそ、その意外性にリィンやユーシスですら驚いている。

 フィーは必死に言葉を紡いでいるが、それが彼女の本心なはずがない。グランが父親には勝てないと理解させられた現状で、彼女が納得している訳がないだろう。しかし、それでもフィーにはこの戦いを止めたい理由があった。

 

 

「三年前もそうだった! グランはボロボロの身体で赤の戦鬼(オーガ・ロッソ)に立ち向かって、落とし所も着けずに丸一日も戦い続けて結局勝てなくて。勝てないって分かってたのに、最後に刀を折られるまで必死に抵抗して……! 勝てなくていいから、負けたって誰も責めないから、無事に帰ってきてくれたらそれだけでいいから……だから何処にも行かないで……!」

 

 

 これまで抑えていた感情の全てが決壊した。顔を振り、瞳に浮かんだ涙をこぼしてフィーは叫び続ける。もう三年前のような事は繰り返したくない、グランの心が折れる前に繋ぎ止めたい、彼と離れたくないと。父親と決着なんか着けなくてもいい、勝てなくてもいい、無事に帰ってくれればそれ以外は何も望まない。悲痛なまでの彼女の声には、流石に歓声を上げていた者達の声も止んでいた。

 涙を流し続けるフィーは、その顔を下へ向けて必死に涙を抑えようと唇を噛み締める。しかし、そんな中でふと耳に入った声にフィーは再び顔を上げた。

 

 

「──良いわけあるかよ」

 

 

「えっ……」

 

 

「勝てなくていい? 勝った方が良いに決まってるだろ。誰も責めない? 周りが責めなくてもオレ自身が責めるんだよ。無事に帰ればいい? 例えクロスベルから無事に戻っても、クソ親父と対等か超えない限り、オレは一生クオンを守れなかった過去を引きずったままだ」

 

 

「だったらどうしたら……!」

 

 

「言っただろ? フィーすけに、オレが今現在示す事の出来る可能性を見せてやるって。そうしないと、お前は安心して学院で待ってくれないだろうからな」

 

 

 不思議な事に、壇上に立つグランは笑みをこぼしていた。その表情が意外で、フィーは涙を浮かべたまま顔を驚きに染めている。彼を正面から見据えているヴィクターも、その表情から何かを感じ取ったのか警戒するように身構えた。

 グランはフィーへ向けていた視線を対峙するヴィクターへ戻すと、その視線を今まで以上に鋭くさせて両手持ちの刀を顔横に構える。

 

 

「歯ァ食いしばれよ光の剣匠。大切な妹を納得させる為の、守るための今現在オレが出せる最高の一撃だ」

 

 

「良いだろう、心行くまで存分にお相手いたそう……!」

 

 

「オオオオオオオ──ッ!」

 

 

 空間を揺らすは戦鬼の叫び(オーガクライ)。その瞬間、これまでの比ではない紅の闘気が場を完全に支配する。グランはその身を蜃気楼の如く揺らめかせ、周囲へ凶悪なまでの威圧感を漂わせていた。立つ者は皆一様に、重りを付けられたかのように体が自由に動かない。

 そしてグランと対峙するヴィクターもまた例外ではなかった。目を見開いて空間を支配する異常に驚きつつ、一瞬の閃きと同時に闘気を最大にまで解放する。その青き闘気は、場を支配する紅の闘気に唯一の抗いを見せていた。

 

 

「見切れるか! 万端を断つ終焉の太刀、視認の敵わぬ閃紅の刃を──ッ!」

 

 

「これは……!?」

 

 

 ヴィクターはその表情を驚愕に染め、直ぐに姿を捉えるべくグランへ詰め寄る。しかし捉えたと思われたその大剣は手応えもなく、グランの姿が掻き消えると共に空を斬った。

 だが先も似たような状況にて、ヴィクターは確かにグランの追撃の数々を凌いだ上で更に上回っている。もし同じ事を繰り返しているのであれば、グランの刀は防がれるだろう。

 しかし、グラン自身が最高の一撃だと言い放ったそれは……確かに彼の予想を上回っていた。

 

 

「(姿が見えない。いや、だが彼の異常なまでの速度だけが原因ではないようだ……っ!?)──なるほど。完全にのまれてしまったらしい……その若さでこれ程の意志を見せるとは、全く先の楽しみな少年だ」

 

 

 この場に働いている現象のカラクリに気付き、ヴィクターは感嘆の声を漏らしながら先と同様に瞳を閉じる。五感の殆どをシャットダウンし、ただ己の力と経験を信じた心眼による見極めを選ぶ。

 異様なまでに静まり返った空間は、グランが移動しているような空を切る音も、彼の気配すらも完全に消え失せていた。張り詰めた空気の中、これから起こるであろう一幕に全ての者の注目が集まる。

 

 

──見ておけフィーすけ。これが、現時点でオレが示せる可能性の全てだ──

 

 

「来るか──!」

 

 

「絶技──紅皇剣!」

 

 

 ヴィクターの後方、彼に光の如く速度で接近するグランの姿が現れる。認識していなかった筈のその姿に、しかしヴィクターはまたしても反応して見せた。反転して大剣を振り抜き、彼の後方には刀を振り下ろしたグランが立っている。

 遅れて鳴り響くは剣戟の音、それは今までのどれよりも澄んだ音だった。心地の良い音を感じながら、両者の姿に皆の視線が集まる。

 

 

「──くっ!?」

 

 

「グラン!?」

 

 

 片膝を着いたのは虚しくもグランだった。刀こそ支えにしていないが、気配を完全に絶って尚捉えられた事に悔しげな表情を浮かべつつ呼吸を荒げている。そんな彼を悲痛な顔でフィーは見上げ、彼女の周りからもラウラ達の残念そうな声が漏れていた。

 しかし、彼女達の落胆も束の間。

 

 

「どうやら、完全には捉えきれなかったようだ……っ!?」

 

 

 ヴィクターも遅れて片膝を着いた。門下生や住民達はその光景に驚き、悲痛な表情を浮かべていたフィーは俯きかけたその顔を上げる。グランとヴィクターが背を向けながら、互いに膝を着くその現状に段々と彼女も理解が追い付いていく。

 グランの太刀は、彼の渾身の一振りは確かに光の剣匠に届いていた。グランが最終目標に掲げる赤の戦鬼に、彼が立ち向かえる可能性が今確かに証明されたのだ。膝を着いた二人がゆっくりと立ち上がる中、たまらずにフィーはグランへ向かって駆け出した。

 

 

「グランっ!」

 

 

「っと、痛ててて……どうだ、しっかり見てたか?」

 

 

「うん! グランの刀が光の剣匠に届くとこ、バッチリ見てたよ!」

 

 

「そりゃあ良かった。これで見逃してたら、また一戦頼まないといけなかったからな」

 

 

 胸に飛び込んできたフィーを苦笑を漏らしながら受け止め、直ぐに笑顔を浮かべると嬉しそうな彼女の頭を優しく撫でる。現状で彼が示せる可能性が確かに証明できたのだ、フィーだけでなくグランとしても嬉しいことこの上ないだろう。

 グランがフィーの頭を撫で続ける傍、遅れてラウラ達も彼の元へと駆け寄った。

 

 

「父上が膝を着くところなど初めて見た……本当に、そなたは遠い所まで行っているのだな」

 

 

「なに、最後のアレは初見殺しだ……次は無いだろうよ」

 

 

「それでもですよ。グランさん、本当にお疲れ様でした」

 

 

「はは、とんでもない勝負を拝見させてもらったよ」

 

 

「非常に興味深い一戦だった……一応礼は言っておこう」

 

 

「おうおう、凄いだろ?」

 

 

 ラウラ達から激励の言葉を受け、調子に乗ったグランはどうだと言わんばかりに胸を張る。これが無ければ本当に素晴らしい光景なのだが、それもご愛嬌というものだろう。調子に乗るなと苦言を呈しつつ、皆は笑顔を浮かべてグランを取り囲んでいた。

 そしてそんな彼らを微笑ましく眺めていたヴィクターは、傍へ歩み寄ってきたクラウスの姿を視界に映す。彼に顔を向けて直後、その手に持っていた大剣を用意している箱へと納めた。

 

 

「最後の一撃は素晴らしき内容でしたな。私は反応すら出来ませんでしたが、氣を放出しての場の支配でしたか」

 

 

「恐らくはな。相手を自身の闘気で飲み込み、場を完全に支配しての気配遮断だろう。互いが観衆という制限下でなければ、痛み分けに持ち込めたのかも怪しい程だ。分け身という東方の技も含めて、どれも齢十六で身に付けられるような熟練度ではない。一体どれ程険しい道程を歩んできたのか……」

 

 

 皆に囲まれて笑顔のグランを見詰めながら、ヴィクターは穏やかな表情で話していた。グランがこれまでどのような道を歩んできたのかを想像して、しかし結論には至らずに瞳を伏せる。そんなヴィクターの様子にクラウスも笑みをこぼしながら、同じくその瞳を伏せた。

 そしてまた何かやらかしたのか、顔を真っ赤に染めたエマがグランへ声を上げる最中。瞳を伏せていたヴィクターはふと、思い出したとその瞳を開く。

 

 

「そう言えば、かつてユン=カーファイ殿が言っていたな。『堕ちる運命を辿りながらも、自らの意志で至る道へと繋げた興味深い少年がいる』と。もしや、彼の事かもしれぬな」

 

 

「なるほど……確かに彼の印象には当てはまりますな。内に抱える怒りと悲しみ、それらを受け止めて尚進み続ける意志が先の一戦で垣間見えました。本当に、末恐ろしい少年ですな」

 

 

「フフ……全くだ」

 

 

 二人が互いに漏らすその笑みは、将来が楽しみな人材を見つけた事による嬉しさか、はたまた新たな強者と巡り会えた喜びか。それは、当人達にしか知り得ない事である。




なんか釈然としない終わり方になってしまったかもしれません。結局勝敗なのですが、一応引き分けになります。あくまで現状は、パパンと同格のヴィクターにグランの一撃が届くという可能性を証明する事が重要だったので。今回の戦いが終わり、今グランとシグムントが戦ってグランが勝てる確率は三割くらいでしょうか。つまり七割はパパが有利なわけで……うん、勝てる気しないね(白目)

フィーに若干のキャラ崩壊が……あんまり感情を激しく表す子じゃないし、これはタグをつけた方が良いのかな?

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