紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

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『放蕩皇子』の真意

 

 

 

 聖アストライア女学院内部、会食の場として用意されている一室へ設けられた縦長のテーブル席には現在、Ⅶ組一同とエリゼ、この場を設けたであろうアルフィンとオリヴァルトの計十三名が席を連ねていた。オリヴァルトの登場の後、理解が追い付かない中薔薇園から会食の場へと招かれたリィン達は、テーブル席にそれぞれ座らされて直後上座に座っているオリヴァルトを見据える。そして彼らの視線を一身に受けたオリヴァルトは、一同の顔を見渡しながら口を開いた。

 

 

「改めて挨拶させてもらおう。オリヴァルト=ライゼ=アルノール……トールズ士官学院の理事長をやらせてもらっている、宜しく頼むよ」

 

 

 まず初めにオリヴァルトが話したのは、彼がトールズ士官学院の理事長を務めているという事。元々トールズ士官学院の理事長職は皇族の人間が務める慣わしになっており、名ばかりの理事長として自身がその職務を受け持っていると。世間を騒がせている『放蕩皇子』が士官学院の理事長をやっているのは、余り聞こえが宜しく無いだろうと彼自身が口にした時は一同も反応に困っていた。

 そして次に、Ⅶ組設立を決めた人物がオリヴァルト自身だという事。名ばかりであった彼が学院の運営に関わるようになったその理由、本人の談によれば一昨年のリベール旅行が原因らしい。

 

 

「『リベールの異変』……あの危機における経験が、帰国後の私の行動を決定付けた。そして幾つかの悪あがきをさせてもらっているんだが……」

 

 

「なるほど……その一つが、Ⅶ組設立という訳か」

 

 

「ああ、その通りさ」

 

 

 そして突然、オリヴァルトの対面の下座に座っているグランが不機嫌な様を隠す事なく話を遮る。彼の失礼極まりない態度にオリヴァルトが笑みを浮かべて返す正面、グランの隣の席に着いているエマは冷や汗を流しながら彼を注意するが効果は全くと言っていいほど無い。

 アルフィンやエリゼ、Ⅶ組の面々がどうなる事かと内心冷や冷やしている最中。いつの間にか一同に視線を向けられている事を知ったグランは、突如瞳を伏せてその場を立った。

 

 

「……皇子殿下の仰りたい事は大体分かりました。これ以上は聞く必要も無い、先に失礼させてもらう」

 

 

「うーん、出来れば君にも聞いてもらいたかったんだが」

 

 

 席を立ち、後方の扉に向かって歩き出したグランの後ろ姿を見て苦笑いを浮かべるオリヴァルトの視界の両端。グランのクラスメイトであるリィン達は気まずい空気の中、不敬な言動をした彼の代わりにオリヴァルトへと頭を下げた。オリヴァルトはそんな彼らを再び見渡した後、気にする事は無いと一言告げて話を本題へと戻す。

 そして、Ⅶ組設立の本当の理由がオリヴァルトによって語られ始めた最中。ラウラは一人、グランが退室した扉を心配そうに見詰めていた。隣に座っているフィーは彼女の様子に気付いたようで、周囲に聞こえないようにラウラに向けて小声で言葉を投げ掛ける。

 

 

「ラウラ、行ってあげて」

 

 

「いや、しかし……」

 

 

「ラウラさん、行ってあげて下さい。グランさんにも何か事情があるんだと思います」

 

 

 ラウラが迷っているところへ、フィーだけではなくエマからも小声で後押しが掛かる。この二人も、内心ではラウラと同様にグランの事を心配しているのだろう。ただ、彼の相手ならばラウラが一番だと考えたようだ。

 そして小声とは言え彼女達の話し声は当然のごとく周囲にもバッチリと聞こえており、オリヴァルトの話も中断されて三人の元へ視線が注がれていた。いつの間にか自分の身に視線が集中している事に気付いたラウラは、恥ずかしさで少し頬を染めながらゆっくりと席を立ち上がる。

 

 

「申し訳ありません、殿下。少し席を外させていただきます」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「まさかあの男が理事長だったとはな……完全に入学する場所を間違った」

 

 

 聖アストライア女学院正門前。会食の場を抜け出したグランは現在、夕闇の広がる帝都の空を見上げた後にため息を吐くとその場で項垂れていた。成り行きで入学したトールズ士官学院に思わぬカラクリがあった事に落ち込み、それはもう本気で学院を退学しようかと考えるくらいに。

 この後会食が行われている場に戻る訳にもいかず、顔を上げたグランはどうしようかと頭を捻る。そんな折、彼は背後から突然何者かの気配を感じた。

 

 

「……ラウラか。良いのか? 皇子殿下の話を聞かなくて」

 

 

「殿下には断りを入れてきた。そなたの事が気になってな」

 

 

 グランの振り向いた先には、先程彼を追うように会食の場から抜け出してきたラウラが苦笑を浮かべながら歩み寄ってきていた。彼女はグランの横に並ぶと歩みを止め、首を傾げている彼の顔を見詰めた。

 そして、途端に曇りを見せ始めたラウラの表情を見てグランは今更ながら彼女に気を遣わせてしまった事に気付く。彼はバツが悪そうに頭を掻いた後、ラウラの顔を視界の端に映しながら帝都の空を見上げた。

 

 

「……二年程前だ。オレが皇子殿下と……いや。旅の演奏家オリビエと会ったのは──」

 

 

 ラウラは突如語り始めたグランの顔を見ながら、その話を一言一句逃さまいと耳を傾けた。彼の話は、二年程前にグランが仕事の関係でリベール王国を訪れた時にまで遡る。

 当時彼が護衛任務を受け持った際、護衛対象の人物と共に温泉で有名なエルモ村へ立ち寄ったのだが、グランはその村にある旅館の中でリベール旅行中のオリヴァルトと偶然にも出くわした。

 

 

──ダメ、もう飲めない──

 

 

──相変わらず情けないわね~、男ならもっとシャキッとなさい!──

 

 

──シェ、シェラ君。背中叩かないで……うっぷ──

 

 

「苦しそうな奴を助けたのが全ての間違いだった。お陰でヴィータさんと二人『銀閃』との飲みに巻き込まれて、挙げ句の果てには朝までコースに付き合わされた」

 

 

「……」

 

 

「オリビエはいつの間にか書き置きを残して消えていてな。何が『少年よ、後を頼んだよ(ハート)』だ! 結局朝になって酔い潰れた二人を面倒見た後、トラッド平原の魔獣退治まで片付けるはめになって……遊撃士の尻拭い何か初めてしたぞ……!」

 

 

 話す内に余程怒りが込み上げてきたのか、グランは額に青筋を立てながら右の手を握り締める。恐らくオリヴァルトが今目の前に現れたら問答無用で殴り掛かる事だろう。

 そして、無言で話を聞いてくれているラウラも自分に同情してくれているのだろうとグランは彼女の顔へ視線を移す。しかし彼の予想は全く当を得ておらず、ラウラはグランの話に終始呆れ返っていた。今度は彼の視線を受けたラウラが額に青筋を立て、半目でグランを睨み返す。

 

 

「……そなたの心配をした私が愚かだった」

 

 

「あはは……冗談だよ。実際その恨みがあるってのは嘘じゃ無いが」

 

 

 ラウラの鋭い視線を受けて、苦笑しながら冗談だとグランは話した。そんな彼に対してラウラはため息を一つこぼした後、改めて疑問に感じていた内容を問う。グランは何故、突然会食の場から抜け出したのかと。

 そしてグランは彼女の問いに対し、さも当然のように返す。

 

 

「だからあの時言っただろ、言いたい事は分かったから聞く必要も無いってな。大方あの場でⅦ組設立の理由でも話そうと思ってんだろ」

 

 

 彼の返答にラウラは納得の表情を浮かべていた。今回の会食で、Ⅶ組を設立したのは自分だとオリヴァルトが明かした時点で話の流れは概ね理解出来る。次の話題は、何故Ⅶ組のような特殊なクラスを立ち上げたのかという内容になるからだ。士官学院入学初日に行われたオリエンテーリングにてARCUSの試験運用と説明を受けたとは言え、毎月行われる特別実習などはその理由に該当しない。その疑問を抱かない者はいないだろうし、ラウラ自身その疑問はⅦ組で特別実習を経験していく中で抱いていた。

 だが、それにしてはグランの言動に対して腑に落ちない点がある。それは彼が、オリヴァルトの言おうとしていたⅦ組設立の理由を理解している点だ。Ⅶ組を設立した本当の理由、そればかりはあの場で行われた僅かなやり取りで分かり得る筈がなかった。故にラウラは疑問に思う。

 

 

「グランは、殿下がⅦ組を設立なされた理由を知っているのか?」

 

 

 彼女はその疑問を率直に問い掛けた。何故知っているのかなどとラウラは問わない、今の自分では彼の思考回路に追い付く事が出来ないと分かっているからだ。だから今は彼の見解を聞いた後、会食の場でリィン達がオリヴァルトから聞かされているであろうⅦ組設立の理由を彼らにも聞いておこうと思い至る。

 途端に表情を真剣なものへと変えたラウラの様子にグランは笑みをこぼしつつ、再び夕闇に染まった空を見上げる。そして、バリアハートの特別実習の際に自身が辿り着いた一つの答えを口にした。

 

 

「あの男がⅦ組を作ったのはな、帝国の現状に横槍を入れるためだろうよ」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「リベールからの帰国後、私が行おうと決めた幾つかの悪あがき。その内の一つが、士官学院に『新たな風』を巻き起こす事だった」

 

 

 女学院の正門前にてラウラがグランから事の事情を聞いている最中。リィン達が残っている会食の場では現在、オリヴァルトによってⅦ組が設立された本当の理由が話されていた。彼がリィン達Ⅶ組に馳せている真の想いを。

 帝国では現在、貴族派と革新派の二大勢力が互いに対立している。その中でも革新派のトップであるオズボーン宰相は帝都民から絶大な支持を受け、武力の面においても正規軍の七割を掌握するに至っており、勢力図で見ても革新派の優位は明らかだ。実質、革新派の思惑通りに事が進んでいるという現状であった。

 しかし、貴族派がそれを黙って見ているはずがない。着々と軍備を拡張し、来るべき日に向けて備えている。貴族派と革新派の対立が行き着いた先、内戦という最悪の事態へと。リィン達も、特別実習の中でその現状は嫌というほど思い知らされた。

 

 

「帝国における貴族派と革新派の対立だけではない。帝都と地方、伝統と宗教に技術革新。そして帝国以外の国や自治州までも……現実には、様々な『壁』というものが存在する。私はまず、君達にそれを知ってもらいたかった」

 

 

 西ゼムリア大陸が抱えている様々な『壁』、オリヴァルトはそういった現状をリィン達に見せたかったのだ。それを認識させる事で、その『壁』を目の前にする事でどう考えるか、現状をどう捉えるのかを図りたかった。

 そしてもし、彼らが壁に立ち向かい、乗り越えようとする意志を見せたのならば。特別実習ほど向いているカリキュラムは他に無い。

 

 

「この激動の時代において、あらゆる『壁』から目を背けず、自らが主体的に考え行動する。そういった資質を、君達若い世代に期待しているのだよ」

 

 

 その力を、資質を伸ばすために特別実習は行われている。その話を聞いたリィン達自身、そういった手応えがあるのは確かだった。貴族や平民といった身分に関係なく集められたⅦ組、個々に様々な事情を抱えながらも乗り越えてきた彼らには納得のいく理由だ。

 そしてオリヴァルトは、Ⅶ組の運用からは既に手を引いている事も明かした。にも関わらずこの場を用意してリィン達を呼んだのは、あくまで自分の想いを伝えるため。Ⅶ組設立を提案した者として、この想いだけは伝えておきたかったと彼は話す。

 しかしそんなオリヴァルトの話を聞いた中で、現在Ⅶ組が置かれている状況に対しての疑問が、リィンにはまだ残っていた。

 

 

「お話を聞かせて頂いてありがとうございます。改めて、自分の中の芯が一本通ったような心境です。ですがお話を聞く限り、自分達が期待されているのはそれだけではないようですね」

 

 

「ほう……」

 

 

 リィンが話した疑問に、オリヴァルトは感心したように声を漏らしていた。ユーシスやマキアスも同様の疑問を抱いていたのか、リィンの話に頷いている。

 彼らが疑問に思うのも無理はなかった。理事長であるオリヴァルト以外にも、トールズ士官学院に三人の常任理事が存在する事はリィン達も知っている。マキアスの父親であり、帝都庁長官と帝都知事の肩書きを持つカール=レーグニッツ。アリサの母親であり、ラインフォルト社の会長を務めているイリーナ=ラインフォルト。ユーシスの兄であり、アルバレア家の長男に当たるルーファス=アルバレア。この三人は間違いなく、オリヴァルトとは異なる思惑を持っているだろう。

 そして中でも、マキアスの父親レーグニッツ知事とユーシスの兄であるルーファスは、革新派と貴族派として互いに対立する立場である。この二人だけを見ても、違う思惑を持っている事は容易に想像が付く。

 

 

「君達も知っての通り、常任理事の中でもレーグニッツ知事とルーファス君は互いに対立する立場にある。イリーナ会長はARCUSや魔導杖の技術方面で関係しているが、その思惑は私にもよく分からない。先程も言ったようにⅦ組の運用は私から外れ、三人の理事達に委ねられている……そして特別実習の行き先を決めているのは他でもない、彼らなのさ」

 

 

「そうだったんですか……」

 

 

 オリヴァルトの話に驚いた様子で声を漏らすリィンの周囲。アリサやエリオット、その他Ⅶ組のメンバーも一様に驚きを見せていた。Ⅶ組設立の発起人であるオリヴァルトを除いて運用される現在の状況、確かにそれぞれ違う狙いを持っていると考え至るのは当然である。

 

 

「Ⅶ組を設立するにあたり、彼らから譲れない条件として提示されたものでね。正直躊躇いはしたものの、それでも我々は君達に賭けてみる事にした。君達が、帝国の抱える様々な『壁』を乗り越える“光”となる事を──」

 

 

 だが、それも自分達の勝手な思惑に過ぎないと彼は続ける。リィン達はあくまで、士官学院生として青春を謳歌するぺきだろうと。彼がⅦ組に向ける期待も、常任理事の三人がⅦ組に抱く思惑も、結局のところは一方的な考えに他ならない。リィン達はリィン達で、あくまでも自分達のために学院で時を過ごすべきである。青春というものは、人生の中でも今のリィン達にしか味わえないものなのだから。

 

 

「あはは……」

 

 

「そう言って頂けると、少しだけ肩の荷が降りました。ですが、殿下は先程“我々”と仰いましたが……他にも、殿下の考えに賛同する方々が?」

 

 

 安堵の様子で苦笑いをするエリオットの左、不意にアリサから疑問の声が上がった。士官学院に新たな風を巻き起こしたいというオリヴァルトの想い、彼の発言からそれに賛同する同志が他にもいるのだろうかと疑問を抱いたのだ。

 そして問いに対してオリヴァルトが口にした人物の名は、リィン達にとっても実に馴染みのある者の名前だった。

 

 

「ああ、ヴァンダイク学院長の事さ。元々私もトールズの出身で、あの人の教え子でね。Ⅶ組設立にも全面的に賛同をしてくれてたんだ」

 

 

「なるほど……確かに、学院長には色々とお世話になっているな」

 

 

「はい、ヴァンダイク学院長には何かと配慮して頂いていますね」

 

 

 ヴァンダイクとの関係を聞き、納得の表情を浮かべながら頷くガイウス。 彼の言葉を肯定するようにエマも続き、他の者達も同意見のようだった。自由行動日の恒例になっている旧校舎の調査などは特に、危険と知っていながらもⅦ組の成長のために調査の依頼をリィン達に出すといった配慮まで行っている。彼らがここまで一歩一歩進んでこれたのも、ヴァンダイクによる協力があってこそのものである。

 

 

「Ⅶ組の運用方針に口を出せる立場ではないが、理事会での舵取りなども行ってくれている。そして何より、彼は現場に最高のスタッフを揃えてくれたからね」

 

 

「えっと……サラ教官の事ですか?」

 

 

「彼女だけではないがね。だが、ヴァンダイク学院長が彼女を引き抜いたのは非常に大きかっただろう。帝国でも指折りの実力者だし、彼女の経歴を見てもこれほど特別実習にうってつけの人材はいないだろうからね」

 

 

 リィンの問いを受けて笑みを浮かべながら答えるオリヴァルトに対し、なるほどとリィン、アリサ、エリオットの三人は頷いた。ケルディックでの特別実習にてグランからサラの経歴を知らされている三人は、遊撃士の過去を持つ彼女なら間違いなく適任だと思えるからだ。フィーも猟兵をしている時期にサラと出会っているため彼女の過去は知っており、リィン達三人と同意見だろう。

 だが、残された四名はそんな事など知りもしない。マキアス、ユーシス、ガイウスにエマは四人とも同様に疑問を抱き、オリヴァルトの話にも今一理解した様子を見せていなかった。故に、彼らの疑問にオリヴァルトは答える。

 

 

「帝国遊撃士協会にその人ありと言われた若きエース。最年少でA級遊撃士になった恐るべき実力の持ち主──『紫電』のバレスタイン。それが君達の担任教官さ」

 

 

「サ、サラ教官は遊撃士だったのか」

 

 

「A級遊撃士……事実上の最高ランクか。まさかあの教官にそのような経歴があったとはな」

 

 

 この場で初めてサラの経歴を知ったマキアスとユーシスは共に驚き、ガイウスとエマに至ってもそれは同様だった。とは言え彼女の実力の高さを知っている彼らからしたら納得のいく過去であり、驚きを見せたのもほんの僅かである。次に口々に呟かれた言葉は、あれで遊撃士が務まるのかというユーシスによる発言を初めとした散々なものであった。笑い声を漏らすオリヴァルトを除いて、学院でのサラを知らない皇族一人と女学生一名は苦笑いを浮かべるのみである。

 

 

「ハッハッハッ……まあ、サラ教官の私生活における問題点は兎も角として。彼女を士官学院へと引き抜いた事により、私にとっては嬉しい誤算があってね。グラン君の過去は本人から聞いているかい?」

 

 

「えっと……はい。猟兵として要人警護の仕事をしていたのは知っています。それにしても……嬉しい誤算、ですか?」

 

 

「ああ。サラ教官が彼を士官学院へと導いた事は、私が理想の形として実現させたⅦ組において更なる恩恵をもたらしてくれる結果となった」

 

 

 オリヴァルトの問いにリィンが代表として答え、他の者達に戸惑うといった反応が無いところを見ると、彼が嬉しい誤算と称する人物がこの場にいない少年の事だと既に彼らは理解している。ラウラが先程追いかけた、今のⅦ組において必要不可欠な彼を脳裏に過らしている事だろう。

 学院では問題を起こす事の方が多いが、年相応の少年のようでありながら、窮地を向かえると普段とは打って変わって頼りになる存在。これまで自分達Ⅶ組が『壁』にぶつかった時、一歩前を進んでは引っ張ってくれていた頼もしい仲間の一人。

 

 

「東のカルバード共和国を初め、帝国と共和国の二国間に挟まれたクロスベル自治州、猟兵の雇用を禁止していた帝国南部のリベール王国でさえその存在を認めた。要人警護の仕事上、西ゼムリアの首脳陣クラスと人脈を持ち、齢十六にして剣聖の名を冠された稀代の天才──」

 

 

 各国の重鎮達のみとは言え、大陸規模に渡るというグランの知名度には一同も驚かないはずがない。マキアスに至っては口をパクパクさせて開いた口が塞がらない状態である。

 ただ、その中でもフィーだけは驚いた表情こそしているが周りほど戸惑ってはいない。直ぐに普段通りの表情へと戻り、その時の彼女の顔はどこか嬉しさに染まっているようにも感じ取れた。実の兄のような彼が誉められて、フィーにとって嬉しくないはずがないのだろう。

 そしてオリヴァルトがリィン達へ向けて話したその内容に込められた意味は、グランという人物の存在の大きさと、彼がⅦ組の中で期待されている役割についてのものだった。

 

 

「『紅の剣聖』グランハルト。それが、君達と共に学院生活を過ごしている彼の総評であり、帝国の現状において抑止力になり得る可能性を持つ人物の一人さ」




はい、ごめんなさい。アルフィンとエリゼがまさかの空気……だってⅦ組の設立理由の回だもん!(開き直り)

空の軌跡FC後に当たるのでしょうか。オリビエが温泉巡りしていた時にグランは一度会っていたりします。そしてグランの猟兵としての仕事は要人警護が主なので、各国の重鎮クラスからは評価が高いです。年齢を考えたら相当優秀だなって感じの評価ですね。ただ士官学院に来てからの彼を見せたら評価が総じて下落しそう……因みに民衆からの知名度は低めです。

そしてちゃっかり出ちゃった深淵さんの名前。た、ただの護衛任務だから……(震え声)


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