紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

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負けられない一戦へ

 

 

 

 目標というのは誰もが人生の中で掲げる目指すべきものであり、人が成長する上で欠かせない壁である。目標という壁を越え、夢だったものが目標へと変化し、また新たな夢が生まれる。そうして人は日々成長し、個々の存在というものを確立していくものだ。

 しかし、その夢や目標を親に否定された時はどうだろう。目指すべき道を理解されず、なくなく諦める者。親の元を飛び出し、自身の目標に向かって突き進む者。選択は人それぞれだが、どちらが正解でどちらが不正解というわけではない。生き方というものは、それこそ人それぞれだからである。

 あるところに、音楽家としての道を進もうとして親に否定された一人の少年がいた。幼い頃にピアニストである母を亡くし、姉は母と同じくピアニストの道へ。そして当然のように自分も同じ道を進むんだと少年が思っていた矢先、彼の目標に立ちはだかったのは帝国正規軍に所属する父親だった。

 

 

「『帝国男子たるもの、音楽で生計を立てるなど認められん』……そう言って、父さんは僕が音楽院に行こうとするのを許してくれなかった」

 

 

 帝都の街が闇夜に包まれた時刻。アルト通りに位置するエリオットの実家、その二階にある彼の自室でリィン達はエリオット本人から事の経緯を聞いていた。エリオットが士官学院に入るに至った経緯を。

 彼らがその話を聞こうと思ったのは偶然の出会いからだった。ホテルから出された地下道の魔獣退治、地下を進んで手配魔獣と思われる大型の軟体魔獣を討伐し終えた直後、リィン達は突然バイオリンやフルートを演奏する音を耳にしてその元を辿り、地下道の隠し通路を見つけてその道を更に進んだ。行き着いた先は地上、マーテル公園と呼ばれる帝都庁付近にある都民の憩いの場だった。

 空はすっかり茜色に染まり、夕刻の訪れを告げていた。そしてその夕暮れの公園に響いていた演奏はエリオットの友達によるもので、三人の男女が演奏する姿を見つけたリィン達はバイオリンとフルートの美しい音色に聞き入る。エリオットが途中で拍手をした事により演奏は途切れたが、演奏者である三人の男女は彼の姿を見ると嬉しそうに駆け寄った。三人はかつてエリオットが帝都の学校に通っていた頃の友人で、よく一緒に楽器を演奏した仲らしい。現在三人共帝都にある音楽院に通っているようで、そんな彼らがエリオットのバイオリンをまた聞きたいと口をこぼすくらいなのだから、彼のバイオリンの腕は大したものなのだろう。

 そう、だからこそリィン達は疑問に思ってしまった。士官学院でも吹奏楽部に在籍し、自由行動日には楽器の手入れをするなど音楽が好きなエリオットが何故彼らと同じく音楽院に行かなかったのかと。その理由はエリオットの実家で夕飯を食べた後、二階にある彼の自室で聞く事となった訳だ。

 

 

「『男なら軍の養成所か士官学校に入るべきだ』……あの時は正直父さんを恨んだよ。だけど結局逆らう事が出来なくて、そんな自分は音楽にその程度の気持ちしか持ち合わせていないんだって思った。だけどやっぱり諦めきれなくて、音楽に対して未練たらたらで」

 

 

 自身に対して呆れたような表情を浮かべながら、エリオットは更に話を続ける。彼が父親から反対された後に調べたところ、トールズ士官学院という場所なら吹奏楽部もあり、卒業生の半数は軍属以外の道を進んでいる事を知ってそこへ入学した。それこそが、エリオットが士官学院に入った理由。

 そしてその話を聞いた五人は、エリオットが士官学院に入った事を後悔しているんだと感じた。音楽の道を目指した挙げ句の果て、彼が進んだのは目標と正反対の軍属の道だから。そう思った折り、フィーはその考えを口にしてしまう。

 

 

「エリオットは、士官学院に入った事を後悔してるの?」

 

 

「フィーすけ、止めとけ」

 

 

 グランはつい口をこぼしてしまったフィーに注意を促すが、その後に発せられたエリオットの言葉にはリィン達全員が驚く事になる。フィーの問いを受けたエリオットは、何を当たり前な事を聞いているんだといった様子でこう答えた。

 

 

「後悔なんてするわけないじゃない。部活では大好きなバイオリンも弾けて、特別実習なんていうハードなカリキュラムもあるけど、僕自身の視野も広げられそうだしね。この先どんな道を歩む事になるかは分からないけど、今度は自分の意志で将来を決められると思うんだ。だから後悔するなんて事は絶対にあり得ない……何より、Ⅶ組の皆に出会えたから」

 

 

 真っ直ぐな瞳で、五人の視線と一つ一つ交わしながら口にするエリオットの言葉はリィン達にとっては赤面ものであった。エリオットだからギリギリセーフと話すリィンに対してだけエリオットは不満そうな顔をしていたが。

 親に逆らえず、それでも夢と目標を諦めきれずに決めた士官学院への道。初めも今も未練はあれど、彼自身の決意は入学当初と今とでは明らかに違うだろう。だからこの先、どのような未来が待っていようとも、エリオットがⅦ組として歩んだ道を後悔する事は決して無い筈だ。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 エリオットの士官学院を志望した理由を聞いた後、彼は姉であるフィオナのお願いにより実家で泊まる事となった。リィン達はレポート作成のため旧ギルド支部へと戻り、各々レポートの作成に取り掛かる……筈だったのだが、エリオットの実家を後にしたリィン達は現在マーテル公園へと足を運んでいる。発案者はグラン、そして彼の発案に乗ったのはラウラとフィーの二人。

 旧ギルド支部の中へ入ろうとした矢先、エリオットの話を聞いて思うところがあったのかラウラがフィーに提案したのだ。互いに抱えている問題の決着を、今日決めないかと。どうやら彼女はこのままでは眠れないらしく、フィーも同意見だったのかラウラの提案に頷いて了承の意志を見せた。そんな二人の様子を見ていたグランが彼女達にマーテル公園の一角にあるスペースを提案し、現在彼らがそこにいる理由となる訳である。

 夜のマーテル公園は、月明かりと外灯に照らされて何とも神秘的な光景を生み出し、水のせせらぎと夜虫の奏でる音はその光景を更に際立たせる。ラウラとフィーの両者が口を揃えて落ち着くと呟き、その姿を後ろから見ていたリィンとグランはやはり二人とも元々息が合うんだなと感じた。

 五人はマーテル公園の北東、人気のないスペースへと移動し、ここなら問題ないだろうという事で二人が決着を着ける場に選定。グランが立ち合いを引き受ける形で、ラウラとフィーはその場で対峙した。

 

 

「フィー。此度は私の勝負を引き受けてくれて感謝する」

 

 

「ん、一応そういう約束だったから」

 

 

「そこでだ。此度の勝負、もし私が勝ったら……そなたの過去を教えてほしい」

 

 

「……!?」

 

 

 一瞬の驚きを見せた後、ラウラの言葉を受けたフィーは怪訝な顔を浮かべて聞き返した。そんな事を知ってラウラに何の意味があるのか、何故自分の過去を知りたいのかと。

 けじめを着ける意味での今回の勝負、双方の得意分野である実戦による決着。その延長線上でフィーの過去を知ってラウラに何の利があるかと言われると特に得るものは無い筈だ。ただただ興味本意で聞きたいというだけなら、勿論フィーも話す気はない。だがラウラがそんな理由で人の過去を聞きたがる人間ではない事を彼女は知っている。だからこそラウラが聞きたがっている理由がフィーには分からなかった。だからこそ、次にラウラの口から発せられた言葉にフィーは困惑を見せる。

 

 

「そんな事は決まっている。そなたの事が好きだからだ」

 

 

「……な、何を……」

 

 

 突然の告白に、赤面したフィーは狼狽えながら後退る。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 ラウラにとって、旧校舎で初めて見た時のフィーという存在は非常に特殊なものだった。小柄な体格からは想像もつかないずば抜けた身体能力、そして双銃剣を使ったスピード主体の戦闘は学生のレベルを遥かに超える。彼女の知る武の常識からはかけ離れ、理知の外にあるフィーという存在。驚かずにはいられなかった。

 そして同時に、自身の腕を上げるためには必要不可欠な存在だとラウラは感じた。世界は自分が思っているよりも広く、知らない事など山ほどある。フィーという存在しかり、グランという存在しかり。

 だから彼女は興味を持った。旧校舎の地下でグランとフィーの連携を目撃し、その強さが何処からきているものなのか気になったのだ。故郷のレグラムに住む民を守るため、純粋に力を求めた彼女はその理由を探るために手合わせを願い出た。

 しかし、フィーは旧校舎での戦闘以降毎日を自分のペースでのんびりと過ごして介入の余地を与えない。手合わせを頼んでも面倒の一点張りで相手にされなかった。グランもグランで手合わせを嫌い、やっとの思いで実現したそれも手を抜かれてやり過ごされた。その時に何か理由があるのだろうと気付くも、やりきれない思いは消えないまま。

 

 

「八葉の剣技とは言え、私はグランの強さに納得がいかなかった。力があって尚持て余し、面倒の一言で片付ける……それはフィー、そなたに対しても同じだ」

 

 

「……」

 

 

「だが、初めて行われたケルディックでの特別実習。A班が窮地に陥った時、そこでグランの実力を垣間見て私は気付いた。私が既に、グランの剣に惚れ込んでいた事に」

 

 

 立ち合いを引き受けたグランが腕を組んで瞳を伏せる中、そんな彼に視線を移してラウラは話す。当時抱いたそのままの気持ちを。

 いかような理由があれど、その気持ちだけはラウラにも偽る事が出来なかった。自分を上回る剣技、彼の太刀筋、気が付けば全てに惚れ込んでいる自分に。そしてそんな折り、彼女はふと知らされてしまう。グランの強さの秘密、彼の過去の立ち位置を。

 

 

「だからこそ、私はグランが猟兵だと知って失望せずにはいられなかった。当時も今も、それはただの自分勝手な考えだと分かっていてもだ。猟兵という存在は個々に様々な事情があると頭では分かっていても、心がそれを許さなかった」

 

 

 そんな自分に嫌気が差して、ラウラ自身それからも苦悩した。自分は何と愚かな人間なのか、受け入れる事が出来ない自分はこんなにも狭量な人間だったのかと。そしてその思いを抱えたまま、彼女は更に知ってしまう。

 

 

「その後だ、フィー。そなたが猟兵だったと知ったのは」

 

 

「あ……」

 

 

「そうして二人の共通の過去を知り、葛藤を抱えた私は猟兵という存在を憎まずにはいられなかった。そして、猟兵だったそなた達をも敬遠するようになっていた」

 

 

 義を重んじる騎士道を正道とするならば、義に反する猟兵という存在はいわば邪道。そしてラウラ自身の考えと対照に属するグランとフィーの二人を、彼女は結果的に避けるようになっていた。そんな強さは認めないと言わんばかりに。

 だが、その後幾つかの偶然が重なってラウラはグランの過去の一端を知る事となった。彼が猟兵に至った経緯、猟兵の道を歩み続ける理由を。

 

 

「二人を避け続ける中で、偶然にも私はグランの過去の一端を知った。しかしその時、不思議な事に私自身グランへの戸惑いが消えたのだ」

 

 

 グランが父親を殺すために猟兵を続けている事を知り、更に敬遠するどころか彼女は何故か止めるという選択を選んだ。心が許さなかった相手を何故か間違った道へ歩ませてはならないと思った。

 その当時はラウラもそう思い至った理由が分からなかった。しかし、今となっては彼女も止めようと思い至った理由が理解出来る。

 

 

「先程エリオットの話を聞いて、私自身もう一度心と向かい合ってみた。そして漸く気付いたのだ、グランを受け入れる事が出来た理由を」

 

 

 自分の心は既に、グランという人間を認めていた。猟兵という存在がそれを邪魔してあたかも彼の存在を否定しているように感じていたが、実際は違った。グランは信頼に値する人物だと、心がしっかりと認めていたのだ。だからこそ彼の目的を止めるという選択が直ぐに浮かび上がった。猟兵という存在に囚われていた彼女の頭が、誤解を生んでいただけだったのである。

 そしてそれは、フィーに対しても同じ事。

 

 

「私は既に、グランを心の中で認めていたのだ。頭が認め、心が許さなかったのではなく、猟兵という考えに固執した私の頭が認めようとしなかっただけだった。そしてフィー、そなたに対してもそれは同様だった」

 

 

 フィーと打ち解けたいと思うようになった頃から、彼女は既にフィーという存在を心から認めていた。幾つかの不幸なタイミングでここまで仲違いが助長してしまった事は否めないが、結局のところフィーは信頼出来る人間だとラウラはとうの昔に分かっていた。グランの時と同じく、固執した考えが誤解を生んでいただけで。

 そしてそこまで気付く事が出来れば、後は彼女の性格である。気になったら知らずにはいられない。

 

 

「グランの時もそうだが、どうやら私は気に入った相手の事は知らなければ気がすまない性格らしい……フィー」

 

 

「……何?」

 

 

「だから私は、そなたがそう在る事の一端を知りたい。勿論これはただの私の我が儘だ、それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

 最後に瞳を伏せて、ラウラはフィーからの返答を待つ。自分の思いは届いただろうか、開けたくなる目を必死に閉じてただ彼女からの返答を待っていた。

 数秒の沈黙、ラウラには数分にも数十分にも感じたことだろう。そして目を閉じて考え事をしていたフィーは、何か決意するようにその瞳を開いた。

 

 

「分かった。いいよ、ラウラに話しても」

 

 

「いいのか、フィーすけ?」

 

 

「ん。ただ、報酬は自分の手で掴み取るのが猟兵の流儀」

 

 

 心配するようにグランが声を掛ける中、フィーは彼に頷いて見せた直後に双銃剣をその手に握った。目の前で同じく大剣を構えたラウラを見据えて、その両手には更に力がこもる。自分の過去を話す事になれば必然的にグランの過去も出てくる事になる、彼女にとっては特に負けられない一戦。

 そして、だからこそラウラにとっても負けられない一戦となる。フィーとグランが猟兵時代に面識がある事は普段の彼らを見ていれば分かる、彼女に過去を聞くという事はグランについても少なからず知る事が出来るのだから。彼の目的を止めるためのヒントを、今自分に出来る精一杯を見つけるために。

 

 

「報酬などとは思わない……勝利の(いさおし)とさせてもらおう……!」

 

 

「上等……!」

 

 

 グランが合図を掛ける間もなく、二人は前方へ飛び出した。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 帝都のマーテル公園でラウラとフィーによる一騎打ちが始まった頃、トリスタにあるトールズ士官学院の学生会館は未だに明かりが点いていた。生徒会室の中では現在四人、部屋の主であるトワが鬼気迫るといった様子で書類整理を行い、同学年のアンゼリカ、ジョルジュ、クロウがソファーからその様子を観察している。彼らの手にも何枚か書類が握られている事から、生徒会の仕事を手伝っている事が窺えた。

 書類整理を手伝いながら談笑する三人の現在の話題は、これまで以上に必死になって仕事をこなし始めたトワについて。彼女の身を心配してのジョルジュから出た話題だが、アンゼリカとクロウの二人は彼に対して特に問題ないだろうと話した。

 

 

「トワが必死になってんのは多分、あの後輩君絡みだろ」

 

 

「君にしては中々鋭いじゃないか。恋する乙女は強しと言ったところかな、流石の私も彼には少し妬けてしまうよ」

 

 

「そうか、グラン君か……最近よく旧校舎に出入りしているようだし、僕の所にもARCUSの整備で頻繁に来ていたよ。その彼をトワがねぇ……」

 

 

 ジョルジュは顔を綻ばせ、仕事中のトワに視線を向ける。そしてそんな彼の視線に気付いたのか、書類整理を行っていたトワは走らせていたペンを止めて彼らの座っているソファーへと視線を移した。ちょこんと小首を傾げる彼女の姿にアンゼリカが悶えながら、その様子に苦笑いを浮かべたクロウとジョルジュがトワへ向けて声を上げる。

 

 

「あんまり切羽積めると肝心な時に体調崩すぞ。今のペースを落としても夏至祭には間に合うんだ、もちっと肩の力抜けって」

 

 

「クロウの言う通りだ。僕達が手伝ってる今のペースなら明日には終わるんだし、少しくらい休憩してもいいと思うよ」

 

 

「うん、それは分かってるんだけど……何だか落ち着かなくて」

 

 

 二人の労いの言葉に感謝しながら、トワは苦笑いを浮かべて椅子を立つと三人の座っているソファーへと歩み寄る。アンゼリカの隣に座り、彼女に頭を撫でられながらジョルジュが用意していたお茶を啜った。頭を撫でられるのはいつもの事らしく、学院の生徒達がいる前ならともかく旧知の仲である彼らの前なら大して反応を見せていない。だから逆にアンゼリカにはいいようにされるわけなのだが。

 ほっとため息を吐き、湯呑みをテーブルに置いたトワは自身が落ち着かない理由を話した。

 

 

「夏至祭に行っても、実習中のグラン君に会えるかなって思っちゃって……」

 

 

「そんな事で悩んでんのか? サラの話じゃARCUSが使えるんだし、連絡取れば早い話だろ?」

 

 

「グラン君達は遊びで帝都にいるわけじゃないんだから、私の勝手で呼び出したりなんて出来ないよ……それに最近、グラン君には何だか避けられてるような気もするし」

 

 

 建前は旧校舎の調査が忙しくて生徒会室に中々いけないというグランの話だが、実際のところ彼女が薄々感づいている通りグランがトワを避けている。その理由を彼女達が知るよしもないが、分からないからこそ彼に会っていいものかと思うわけだ。こればっかりはクロウとジョルジュにもアドバイスのしようがなく、頭を悩ませる。

 しかし、トワの隣には現在その手に関して学院内でもスペシャリストと言っていい人物がいる。話すかどうか悩んだ後、アンゼリカは隣で気落ちしているトワの肩へ腕を回しながら口を開いた。

 

 

「そう言えば先日グラン君に会った時、彼はこんな事を言っていた。『会長には十分すぎるくらい楽しい時間をもらった、オレとしてはそれで満足です』──とね」

 

 

「えっ……」

 

 

「おい、ゼリカそれは……」

 

 

「アン、流石にそれは……」

 

 

 端から見れば、アンゼリカの発言はトワにグランの事を諦めさせる意味合いのこもったものであり、余り誉められた発言ではない。事実今の発言でトワの表情は泣きそうになり、クロウとジョルジュも咎めている。しかし、アンゼリカがその言葉に込めた意味は違った。

 

 

「だが、私はそんな言葉を口にした彼の表情からこう感じ取った。『叶うならば、会長ともっと同じ時間を過ごしていたい』──とね。グラン君がどんな事情を抱えているのかは分からないが、本当は彼もトワの傍にいたいんだろう。私としては何とも妬けてしまう事になるが」

 

 

「それって……」

 

 

「先程のように愛らしいトワも好きだが、私はいつも皆のために一生懸命になっているトワが一番好きだ。こんなに可愛いんだ、もっと自分に自身を持たないとね」

 

 

「そういうこった」

 

 

「アンも初めからそう言いなよ」

 

 

 微笑みながら話す彼女なりのエール、トワの心には確かに伝わった。士官学院に入学した時から同じ時間を過ごした彼女だからこそ、トワにとってはその言葉にどこか勇気付けられるものがある。傍で同じく笑みをこぼしているクロウとジョルジュにいたっても、彼らの存在があったからこそトワはこうして生徒会長なんていう職務も全う出来ているのだ。力強くないはずがなかった。

 

 

「えへへ……ありがとう。アンちゃん、クロウ君、ジョルジュ君」

 

 

 二年生組の絆は、ここに来て更に固く結束した。

 

 

 




夜だけで丸々1話、しかもまだ終わっていない……因みに閃の軌跡Ⅱは棚に飾って二日目です。

ラウラにとって、フィーにとって、グランの事も含めて負けられない一騎打ちが始まりました。私の拙い戦闘描写でどこまで書ききれるだろうか……多分無理。

そして何とここで会長少しですが出ました。今回は二年生組の絆を再確認した形ですね、クロウが生徒会の仕事を手伝ったのは本当にトワのためなのかな?……きっとそうだと信じたい。

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