紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

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実技テストに巻き込まれた人

 

 

 

 実技テスト当日。澄んだ青空の下、《Ⅶ組》のメンバーはグラウンドへと集合していた。実技テストとは言っても内容を全く知らない皆は、今から何が始まるんだろうとそれぞれ話しながらその時を待つ。そして、予定の時刻に少し遅れてサラが到着した。

 

 

「お待たせ。それじゃ、早速実技テストの方を始めましょうか」

 

 

 そう言ってサラが指を鳴らしたその時、突然《Ⅶ組》の目の前に傀儡めいた不思議な物体が現れた。グランを除いた他のメンバーが驚き、そのリアクションを見て満足そうにサラが頷いた後、その傀儡を指差しながら説明を始める。

 

 

「こいつは、とある筋から押し付けられた物でね。色々と便利がいいから、実技テストで使わせてもらうことにしたわ」

 

 

 そして最初にリィン、ガイウス、エリオットの三名が呼ばれ前へと出る。内容は勿論、傀儡めいたその物体と戦闘し、撃破すること。しかし、ただ倒すだけでは駄目らしい。戦術リンクを活用すること、それがこの実技テストの主な目的であり、評価点にもなるという。

 

 

「リィン、ガイウス、エリオット、頑張りなさい──それでは、これより《Ⅶ組》の実技テストを開始する!」

 

 

 サラの号令の後、戦闘が開始された。リィンが前衛として斬りかかり、ガイウスがその攻撃をアシスト、エリオットは後方から二人の援護を行う。途中危ないところもあったが、三人は《ARCUS》の戦術リンクを活かして何とか撃破に成功する。傀儡が消滅し、三人が武器を納める様子を見てサラは満足そうに呟いた。

 

 

「上出来上出来、昨日の旧校舎の調査も無駄じゃなかったようね」

 

 

「む、そんなことが……」

 

 

「へぇ、リィン達頑張ってんだな」

 

 

 どうやら昨日の自由行動日、リィン達三人は旧校舎の調査を学院長から依頼されたようで、その時にもやはり魔獣との戦闘があったらしい。ラウラはその事を聞いて羨ましそうな顔をし、グランは見えないところで努力をしているんだなとリィン達に感心していた。

 

 

「続いて……ラウラ、アリサ、委員長。前に出なさい」

 

 

 またまたサラが指を鳴らし、何処からともなく新たな傀儡が現れた。その後も三人による戦闘が行われ、ラウラ、アリサ、エマ──ユーシス、マキアス、フィーによる実技テストも危なげなく終わりを迎える。だが忘れてはいけない、《Ⅶ組》にはもう一人いるということを。一人残されたグランは、グラウンドの隅で縮こまって何やら小鳥と会話をしていた。

 

 

「お前も一人ぼっちか。はは、仲間外れって辛いよな──」

 

 

「こーら、早くこっちに戻ってきなさーい!」

 

 

 一同がグランの様子にドン引きしている中、サラの呼ぶ声にトボトボと歩きながらグランが皆の元へと戻った。ちゃんと考えてあるというサラの言葉でグランの機嫌は何とか直るが、《Ⅶ組》の他のメンバーは皆実技テストを終えているため、組む相手はいないはずだ。どうするんだろう……と皆が考えていると、ある人物が一同の前に現れる。

 

 

「《Ⅶ組》の皆、こんにちは」

 

 

「えっ……トワ会長?」

 

 

 リィンが口にするように、皆の前へと現れたのはトワだった。どうして生徒会長が?と一同が不思議に思っていたり、会長だったんだ、とグランとフィーの二人が驚いたり……そんな中、サラはトワの横に並ぶと、指を鳴らして先程の傀儡を出現させ、自身の得物である強化ブレードと導力銃を取り出した。

 

 

「グラン、始めるわよ。人数合わせで忙しい会長にわざわざ来てもらったんだから……因みにそいつのレベルは五段階まで上げてるから、会長頑張ってね」

 

 

「ふぇっ!? サラ教官、私聞いてないですよ……」

 

 

「あの、サラ教官? 流石に会長が可哀想なんじゃ……」

 

 

「そうよね……私もそう思います」

 

 

「あら、それじゃあエマかアリサが代わりに入る?」

 

 

「何でもありません」

 

 

 トワを不憫に思ってエマとアリサが助け船を出そうとするものの、自分が代わりに出るのは無理だということで両者共断りを入れると直ぐに目線をそらす。最早泣きそうなトワだったが、《Ⅶ組》の皆はそれぞれ実技テストで余り体力が残っていない上、何より傀儡のレベルが五段階も上げられていることに躊躇いがあった。大丈夫だとトワに声を掛けるサラ、グランはせめてレベルを下げてくれとサラに頼み込むが、トワが目をごしごしと擦った後にそれを制す。

 

 

「グラン君、私は大丈夫だから。頑張ろうね?」

 

 

 小型の導力銃を取り出し、涙ぐみながら顔を見上げてくるトワを見てグランは決意する。

 

 

「──サラさん、戦闘中は背後に気を付けてください」

 

 

「こらそこ、物騒な事言わない」

 

 

 抜刀の準備をするグランにジト目で突っ込みを入れた後、サラは武器を構えると傀儡に導力銃の銃口を向ける。続いてトワが小型の拳銃を顔の横で構え、グランが鞘から刀を抜いた。三人共先程までと違い真剣な表情を浮かべ、特にサラとグランからは目に見えるほどの闘気を感じる。《Ⅶ組》の他のメンバーがその光景に圧倒される中、サラが号令を掛けた。

 

 

「さてと、それじゃあ始めましょうか。後方支援と全体の指揮は会長に任せるわね」

 

 

「はい!」

 

 

「オレは全力でトワ会長を守ります」

 

 

「はいはい、あんたも私と前衛務めるの」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「しかし、凄いものを見せられたな……」

 

 

 グラン達がそれぞれ武器をしまう姿を見ながら、リィンが口を開く。戦闘中のトワによる的確な指示、サラの戦闘能力の高さ、そして何より……サラとトワの二人は《ARCUS》の戦術リンクを完璧に使いこなしていた。状況に合わせて時折リンクを切り替えながら、グランや互いの動きをカバーする。それは、リィン達が目指しているものに他ならない。そして、マキアスには他にも気になることがあった。

 

 

「しかし、グランのあれは戦術リンクによるものではなかったようだが……」

 

 

「ああ。リンクを繋げていないにもかかわらず、教官の動きに完璧に合わせていた。かなり場馴れしているな……ふん、お前にしては珍しく意見が合ったな。マキアス=レーグニッツ」

 

 

「こちらの台詞だ。ユーシス=アルバレア」

 

 

 意見が合っても仲が悪いのは変わりなく、二人は相変わらず睨み合いながら火花を散らしている。それぞれが先の実技テストの感想を口にする中、サラはパチパチと手を叩くと皆の視線を集めた。

 

 

「はーい、先ずは今週末に行われるカリキュラムについて説明するわよー。あっ、会長これ配ってちょうだい」

 

 

 サラから十枚の紙を受け取ったトワは、メンバーに一枚ずつそれを渡して再びサラの横へと戻る。各々が紙に書かれている内容に目を通し、疑問は直ぐに生まれた。紙にはA班、B班でメンバーが五人ずつに分けられ、実習地と書かれた場所も記されている。

 

 

「《Ⅶ組》の特別なカリキュラム、それはこの課外活動の事よ。あなた達にはこの紙に書いてある場所にそれぞれ行ってもらって、用意された課題をこなしてもらうことになるわ」

 

 

「みんな、頑張ってね!」

 

 

「みんな、頑張ってね!」

 

 

「会長の真似をしない……グラン、あんたも行くの」

 

 

 トワの横で同じポーズを取って他人事のグランは、サラの言葉に敢えなく撃沈。面倒くさそうに頭の後ろで腕を組んでいた。サラはその様子を見て深くため息をついた後、ふと笑みを浮かべる。

 

 

「あんたの目的のためにも必要なことよ。頑張りなさい」

 

 

「──まっ、それじゃ仕方ないか」

 

 

「……ん?」

 

 

 二人の小声で行われていた会話を、近くにいるトワとフィーが首を傾げながら聞いているのだった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 日にちは過ぎて実習日を迎える。第三学生寮の一室、グランの部屋の前では何故かリィン、エリオット、アリサ、ラウラの四人が集まっていた。理由は簡単、集合時間になってもグランが一向に起きて来ないからである。しびれを切らした四人がこうして赴き、彼を起こすために色々と模索しているところだ。

 

 

「グラン、グランってば! も~、早くしないと列車の時間に遅れちゃうよー!」

 

 

「全然起きないわね……こうなったらラウラ、ドアごと壊してもらえるかしら?」

 

 

「ふむ、承知した」

 

 

 アリサの声に、ラウラが大剣を鞘から抜くと大きく振りかぶった。流石に拙いだろうということでリィンとエリオットが必死に止め、ドアが破壊されることはなかったが、このままでは列車の時間に遅れてしまう。どうしよう……と四人が大きなため息をつく中、上の階からサラが降りてくる。どうやら彼女も今起きたらしい。

 

 

「あら、A班はまだここにいたの」

 

 

「いや、それなんですが──」

 

 

 リィンは苦笑いをしながら事の経緯を説明し、その話を聞いたサラもため息をつくとドアを叩いてグランを起こしにかかる。勿論、リィン達と同じことをしたところでグランが起きてくるはずがない。サラはそこに付け足す。

 

 

「早く起きなさーい! オルランドくーん!」

 

 

 サラが声を発したその直後だった。部屋の中からはドタバタと音が聞こえ、ものの数秒で音が止むと部屋のドアが開く。中からは、荷物を持ったグランが物凄い笑顔で出てきた。

 

 

「いやー! グラン=ハルト、ただいま起床しました。みんな、遅れて申し訳ない!」

 

 

 グランはそう言った後、サラの肩に腕を回して何やらこそこそと話している。アリサとラウラはグランの様子に呆れており、そのグランは視線が合うと如何にもな作り笑いで誤魔化していた。そんな中、リィンは先程のサラが発した言葉に疑問を持つ。

 

 

「(オルランドって何だろう……もしかして誰かの名前か何か?)」

 

 

 その答えは一部の人間にしか分からないのだろう。少なくとも、この学院でそれを知っているのは担任であるサラ、その他の教官達、後はグランの事を昔から知っている旧友のフィーくらいか。リィンは頭を悩ませながら、いずれグランが話してくれるだろうということで余り深く考えなかった。

 

 

「おはよう、グラン。そろそろ駅に向かわないか?」

 

 

「ああ……と言うことでサラさん。次何か口走ったら寝込みを襲いますから」

 

 

「最低ね」

 

 

「最低だな」

 

 

「グラン、あんたそこの女子二名に軽蔑されてるわよ」

 

 

 実習地に向かう途中、列車の中でグランがアリサとラウラに弁解するのに必死になっていたのは言うまでもない。そして余談だが、ブレードと言う対戦ゲームでグランはその女子二名にフルボッコを食らったとか。

 

 

 


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