ルナリア自然公園を進んだ先、リィン達はそこで今回の窃盗事件の犯人と思われる四人の男の姿と盗まれた品が入った木箱を見つける。遠くから観察し、男達の会話を聴くと彼等が実行犯であることは確実。男達を捕らえるために駆け出した五人は彼等の正面へと躍り出ると、両手に抱える銃を構え始めた犯人達を無力化するべくそれぞれが武器を手に取る。戦闘が開始されるが、窃盗犯の四人は大した練度もなく、サラによる武術指導を受けているリィン達四人とグランにとっては相手にもならなかった。即座に無力化に成功、そして盗品の回収とケルディックの人達に謝罪させるため連れていこうとしたリィン達だったが、その時またしても先程の笛の音が何処からともなく鳴り響く。その後に遠くから聞こえてくる魔獸の雄叫び、そして地響き。案の定、リィン達と犯人グループの目の前にはこの自然公園の主と思われる巨大なヒヒが現れた。その傍には、リィン達がここに来る途中に戦った魔獸も数体ほど見受けられる。
「流石に彼等をこのまま放ってはおけない」
「あらま、綺麗な陣形なことで……」
「致し方ない。先にこの魔獸を片付けるぞ」
リィン、グラン、ラウラの三人はまるで統率されたように横に並ぶ魔獸の群れに対して武器を構える。アリサとエリオットはリィン達の後ろ、無力化された事で身動きの取れない犯人グループの前に立って後方支援の陣形に入った。そして巨大なヒヒが雄叫びを上げたその瞬間、グランが高速で群れの側面に回り込む。今のグランにとって魔獸の群れは直線上、最早勝負は決まった。
「秘技──裏疾風!」
グランの姿が消える。超高速で接近、次々と斬撃を浴びせて駆け抜けた彼の技は魔獸達に絶大なダメージを与えた。グランが元の位置に戻り、追撃の斬撃波を決めたその時には殆どの魔獸が瀕死の状態。《ARCUS》を駆動していたアリサとエリオットによる火と水のアーツで残りを仕留め終わる。だが、唯一グランの攻撃を受けて立っている魔獸がいた。群れの中でも一際巨大なヒヒが未だ立ち尽くし、周囲に威嚇をしている。
「気を付けろ! このデカぶつ異様に硬いぞ!」
「分かった! 行くぞラウラ!」
「承知!」
続いてリィンとラウラが巨大なヒヒへと駆け出し接近、それぞれ刀と大剣による斬撃を加えた。しかし二人の攻撃は魔獸の巨大な腕によって防がれ、魔獸が腕を振り払う事により大きく後方へと飛ばされる。空中で上手く体勢を整え着地したものの、魔獸のカウンターは確かにリィンとラウラへダメージを与えていた。魔獸が追撃をしようと二人へ向かって駆けるがそれをグランが横から牽制、その間にアリサとエリオットがすかさず回復のアーツを二人へとかける。
「大丈夫!?」
「助かったアリサ!」
「エリオット、そなたに感謝を」
「ううん、任せて!」
「早く手伝ってくれっ!」
四人が声を掛け合う間に魔獸の攻撃をかわしていたグランは、一人冷や汗を流しながら尚もその攻撃を捌き続ける。そしてリィン達が加勢するタイミングを見計らう中、魔獸の大振りな一撃を顔すれすれで回避したグランが動く。伍ノ型『残月』、抜刀による一閃は確かに魔獸の体勢を崩した。その隙をラウラが見逃すはずがない。
「はあああああ──!」
駆け出したラウラは魔獸の懐に飛び込む。グランに目で合図をして彼が傍から離れたのを確認するとラウラは大剣を振りかぶり、未だ仰け反っている魔獸の胴へと叩き込んだ。
「奥義──
流れるような動作から繰り出される大剣による三連撃。一つ一つに高い威力を秘めたその攻撃は、確実に魔獸の身体へとダメージを蓄積させていく。最後の一撃を振り抜いたラウラは後方へと跳躍、横に立つリィンへ追撃を任せた。
「頼んだぞリィン!」
「くっ!……」
しかしリィンは踏み込めずにいる。この戦いの中でリィンは何かを掴みかけていたのだが、未だにそれが掴めていない。リィンが攻め倦ねている間にも魔獣は態勢を整え、このままでは硬直状態になってしまう。せっかく与えたダメージも回復され、戦況が振り出しに戻ってしまうその前に何とか仕留めなければならない。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるリィンの視線の先で、リィンの心境を察したグランが捨て身の猛攻を仕掛ける。
「(頼むぞリィン……)はあああああ──!」
グランが闘気を高めて直後、魔獸の周囲を縦横無尽に駆け回る。時折残像を残しながら幾重も魔獸の身体を斬り刻み、悶え苦しむ魔獸の様子を片目で見ながら一向に止めようとしない。そして連撃の末、魔獸が大きく体勢を崩した。グランは魔獸の真上へと跳躍し、刀を両手持ちに切り替えるとそれを上空に高々と振り上げる。
「奥義──
急降下と同時に魔獸へその一撃を振り下ろす。強烈な一振りをグランが叩き込んだ事により魔獸は大きく体力を削られ、瀕死の状態に陥った。そしてそれが魔獸の潜在能力を呼び起こしてしまったのか、魔獸は直後に大きな咆哮を上げてグランに向かいその腕を振りかぶる。しかし、グランは攻撃後の硬直で腰を落としたまま回避することができない。ラウラが、アリサが、エリオットが、繰り出される一撃を予感してグランの名前を叫んだ。そんな中、今までじっと目を閉じて集中していたリィンがその目を見開く。
「……掴んだ!」
リィンの持つ刀に焔が纏い始める。高速で魔獸へと肉薄したリィンは炎の斬撃をその身体に次々と加え、魔獸の胴を焼き尽くす。そして、刀を両手に持ち変えたリィンは渾身の一撃を繰り出した。
「斬──ッ!」
駆け抜け様に与えた一撃は魔獸の体力を大きく奪い、魔獸は最後に断末魔を上げてその場で崩れ落ちていく。緊張の糸が解れた瞬間だった。アリサとエリオットは大役を果たしたリィンの元へ笑顔で駆け寄り、次々にリィンに称賛の言葉をかけている。グランはそれを遠目に笑みを浮かべて立ち上がると、傍へ駆け寄ってきたラウラとハイタッチを交わした。
「全く、とんだ無茶をする。そなただけでも事なきを得ただろうに」
「結果オーライだろ。第一オレがあれを倒したところで、何か得るものがあったとは思えないしな」
無事に魔獸を倒した五人は互いを称賛し合った後、改めて窃盗犯の元へ近寄った。四人とも先の戦いを見て戦意喪失したのか、既に抗う様子を見せない。そしてリィンが四人へ大市の人達に謝罪してもらうぞ、と声を掛けたその時だった。ホイッスルの音が鳴り響き、直後にやってきた領邦軍の兵士八人がリィン達五人の周りを取り囲む。そして両手で持った銃をリィン達に向けてその動きを制限すると、そこに隊長の男が現れた。リィン達が困惑する中、ラウラは男に問う。
「取り囲むのは彼等の方ではないのか?」
「何故だ? 彼等がここにある商品を盗んだという証拠は何処にもない。それに──盗んだという点なら、お前達にもその容疑はある」
ラウラの問いに、隊長の男は何と今回の窃盗事件の犯人はリィン達五人にも容疑があると言い出した。笑みを浮かべながら話すその様子は最早確信犯としか言えない。アリサとエリオットは男の言動に呆れ果て、リィンとラウラが領邦軍の兵士達に鋭い視線を浴びせる。そして兵士達がリィン達五人を拘束しようと詰め寄ったその時、彼等の持つ銃全てが突如バラバラになった。刀を納刀する音が聞こえ、その場にいる全員の視線がグランへと向けられる。
「貴様、今何を……!?」
「──弁えろよ。揃いも揃ってこの様か……今度は全員のその首を落とすぞ?」
グランから発せられる殺気がこの場を一瞬で支配した。領邦軍の兵士達は向けられた殺気に恐れをなして後退する。リィン達は自分に向けられているものではないと分かっていても冷や汗が止まらない。このままでは拙い、間違いなく隊長の男は無事ではすまない。危機を感じたリィン達がグランに声を掛けようとした正にその時、ある人物によって張りつめた空気はやぶられる。
「そこまでです。ここから先は、我々鉄道憲兵隊が引き受けます」
軍服姿の綺麗な女性が水色の髪を棚引かせながら、五人の女性軍人を引き連れて一同の元に現れるのだった。
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クレア=リーヴェルト、それがリィン達の目の前に現れた女性の名前だ。階級は大尉、導力演算器並の頭脳と称され、その卓越した指揮能力から『
「君達には感謝してもしきれない。今回は、本当にありがとう」
「そんな、自分達は出来ることをやっただけで──」
「謙遜することはありません。此度の窃盗事件は紛れもなく、皆さんによって解決されたのですから」
元締めの言葉にリィンを始め照れている五人だったが、クレアの称賛の言葉には五人も自然に笑みを浮かべていた。初めての特別実習は、リィン達に様々な経験をもたらし、帝国の現状を改めて認識させる。もしかしたら、サラはこういった帝国の実状をリィン達に見せるために特別実習というカリキュラムを作ったのかもしれない。今回の実習で考えさせられるものがあったリィン達は各々意見を話しているが、その横でクレアがリィン達五人の会話へ割って入る。
「もしかしたら、私は余計な事をしたのかもしれませんね。領邦軍が駆けつけた後の対処も含めての、特別実習だったのかもしれません」
──流石にそこまでは考えてなかったけどね──
一同の元に聞こえてきた声は、リィン達に聞き覚えのあるものだった。声の方へ皆が視線を向けると、そこには歩み寄ってくるサラの姿が。B班のフォローを終えたサラは、たった今駆けつけたようだ。
「お疲れだったみたいね……二日目の課題はともかくとして、今回の実習内容は大した成果よ」
微笑みながらそう話すサラだったが、リィンの中で二日目の課題は、という言葉が引っ掛かる。一日目はサラから直接課題の書かれた紙を受け取ったが、そう言えば二日目は誰からも渡されなかった。リィンが横にいるアリサへと問い掛ける。
「二日目の課題……アリサは知ってたか?」
「知らないわよそんなの……ラウラは?」
「ふむ……私も心当たりがないな。エリオットはどうだ?」
「僕も知らないよ……グランは?」
そして皆の視線を受けたグランは少し考える素振りを見せた後、ダラダラと額から汗を流しながら制服の胸ポケットへと手を伸ばした。そして出てきたグランの手には、初日にサラから受け取ったものと同じ、トールズ士官学院の紋章の入った紙が。
「──女将さんから受け取ってたの忘れてたわ」
その後、グランがアリサとラウラから小一時間説教を受けたのは言うまでもない。
ーーーーーーーー
「……」
空が漆黒に染まり、町中や街道灯の明かりが目立ち始めた頃。ケルディックからトリスタに向かう列車を丘の上で遠目に見ている人物がいた。その者の手には縦笛が握られており、列車を見詰めながら呟く。
「『
だが問題ない、とその人物は続けて呟く。列車が遠くへと進み見えづらくなると、声からして男と思われるその人物は踵を返して暗闇の中へと姿を消していった。
──全ては、あの男に無慈悲なる鉄槌を下すために──
ただ一言、深い憎しみを感じさせる声がその場に残るのだった。
『閃光烈波』 円LL(対象指定) 威力SSS 気絶100%
はい、グランも一応使えます。裏疾風に奥義三連発で漸く倒せるってグルノージャ強すぎww
それと活動報告の方ではアンケート行ってますんでよかったらコメントお願いしますm(__)m