紅の剣聖の軌跡   作:いちご亭ミルク

100 / 108
母娘の想い

 

 

 

「エリィ、援護を頼む!」

 

 

「了解!」

 

 

「ティオすけ、援護は任せたぞ!」

 

 

「合点承知です」

 

 

「全体のアシストは私に任せてください!」

 

 

 クロスベル、マインツ山道の隧道(トンネル)を進んだ先。月の僧院と呼ばれる遺跡の内部で、特務支援課の五人は邪気を放つ異形の怪物と対峙していた。クロスベル警備隊のノエルによるサポートの下、突如発生した悪魔と呼称するに相応しい魔物を討伐すべく、前衛と後衛に分けた二人一組による戦闘へと移行する。

 ロイドとランディが双方からの強襲を仕掛ければ、魔物に攻撃の隙を与えぬようにエリィの拳銃、水色の髪の少女ティオによる魔導杖の牽制。二人の援護の空いた隙をノエルによるアサルトガンの追撃で補い魔物の行動を封じ、前衛二人の連携をベースに着々とダメージを与えていく。数の利と連携を活かした作戦は、魔物へ隙を与えない。そう、確実にダメージは与えているはずだった。

 時間にして僅か十分にも満たない。しかし、その間絶え間無く攻撃を続けていた筈のロイド達の眼前には、未だ崩れない魔物の巨体がその攻撃に抗っている。

 

 

「くそっ! どんだけタフなんだよこいつは!」

 

 

 人間とは比較にならない程の桁外れた体力、或いは耐久力。

 倒れない。どれだけ攻撃を受けたとしても、苦にする様相も無く反撃の機会を待つ。ランディは悪態をつきながら依然反撃の暇を与えず、ロイドと二人攻撃の手を緩めない。

 しかし、時間が経過すると共に、次第とそれには隙が生じる。特に体力の少ない者から起き、噛み合っていた連携も保てなくなる。そしてその判断は、全体を見通せる確かな視野と、状況の分析を的確に行える者の役目だ。魔物が反撃の様相を見せ始めたのも束の間、ロイドが両の手に持つトンファーで腕の一振りを捌きながら叫ぶ。

 

 

「ランディ、エリィ達の牽制のタイミングがズレてきてる。一旦後方に下がって立て直そう!」

 

 

「くっ……仕方ねぇか!」

 

 

 ランディはハルバードで受け止めた魔物の拳を振り切り、先に後方へ下がったロイドに続いて一時前衛を離脱する。連携が上手くいかない以上、仕切り直しは最善の判断と言えた。しかし、敵のリーチから外れたとは言え、いつ仕掛けてくるかは分からない。魔物への視線は常に外せない。

 五人は対峙した魔物と睨み合う。敵も先の交戦によって警戒しているのか、飛び出す気配は無い。双方は一時的な膠着状態へと入った。特務支援課はあと一手、押し切るには一手が足りない。持久戦にしても数の利を活かすには不十分、下手をすれば消耗戦で敗北する可能性も考えられる。通常の魔獣とは違い、魔物という存在はそれ程の脅威という事だ。彼らには喉から手が出る程欲しい追撃の一手……そしてそれは、不意にそこへ訪れた。

 

 

———助太刀いたします!———

 

 

 ロイド達の後方から響く鈴のような声。驚く彼らを余所に、現れたシスター服の女性は魔物へ肉薄した。突然の奇襲に魔物も硬直したまま、隙ありとばかりに跳躍からの棒術棍が炸裂する。額と思わしき部位に振り抜かれた一撃に、魔物は体勢を崩して尚も怯んでいる。白い髪を棚引かせながら、魔物と対峙するその碧い瞳は振り返ると彼らを見据えた。

 

 

「勝機は掴みました————皆さん、ここは一気に攻めましょう!」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「かくして、俺とクロエさんの運命的出逢いは今に至ると言うわけだ」

 

 

「どこが運命的なんだよ、どこが」

 

 

 ロイドの突っ込みを受けながら、ランディの説明もそこそこに。クロエとロイド達が出会った日の事を、グランはクロスベルの道すがら聞かされていた。困り顔のクロエを見たノエルが申し訳なさそうに頭を下げている姿は、後輩としての苦労を物語っている。そもそもノエルが謝る必要は無いのだが。

 浮かれるランディの姿に呆れた様子で溜息をつき、エリィはふと気になっていた事をグランの背後へ問いかけた。

 

 

「それにしても、グラン君とクロエさんは知り合いだったのね。二人はどういった経緯で?」

 

 

「えっと、それは……」

 

 

「すみません。その件に関しては、出来れば触れないでもらえると」

 

 

 何気ない質問は、場の空気を僅かに変容させる。問われた二人の纏う雰囲気は先とは違い、明らかに重い。ここまで開放的だったグランですら口を閉ざす程には訳ありという事だろう。過去の詮索は時に悪手となる。とは言え、エリィの問いはいたって普通のものだ。彼女の方に問題が無いとすれば、それは二人の出会いの経緯に問題があると言う事。気まずさから頭を下げるエリィだったが、直後に謝る必要は無いとグランは苦笑気味に彼女をフォローした。

 淀みの生まれかけた場の空気。何とか元に戻そうと、原因の一人であるグランは隣のクロエに唐突な話題を振る。旧市街で顔を合わせた時から気になっていた事を。

 

 

「しかし、クロスベルへの活動を再開していたとはな。クオンが死んで以来、話が無くなっていたから驚いたぞ」

 

 

「————え」

 

 

 場の空気を変える為にと紡いだ何でもない言葉。グランが問い掛けたその疑問に、クロエは声を失って足を止めた。突然の事に皆も歩みを止めて彼女へ疑問の視線を向けるが、直後にその様子に驚く。目の前の光景に各々動揺を隠しきれないが、それも仕方の無い事だった。何故なら、グラン達の眼前にいるクロエは涙を流していたから。

 

 

「何やら尋常ならざる事態のようだけど」

 

 

「クロエさんどうしたんっスか!?」

 

 

「今何かありました!?」

 

 

「ええっと、特に無かった筈だけど……」

 

 

「ああ、あるとすれば……」

 

 

 冷静な様子のワジの横、ランディはクロエの涙を見て慌てふためいていた。ノエルの声に反応したエリィはロイドと共に、困惑気味にグランの顔へと視線を移す。彼女が涙を流した理由、あるとすれば直前の彼の発した一言以外には有り得ない。クロスベルの派遣……いや、恐らくはクオンという人物の死について触れた辺りだろうと。

 

 

「おいおい、どうした急に———」

 

 

 僅かな動揺を見せながらクロエの顔を視界に映したグランは、ふと訪れた衝撃に言葉を止める。気付けば彼女はグランの胸に顔を埋め、彼の服をその涙で濡らしていた。突然の行動に当人や周りも更なる驚きを見せるが、やがてクロエの口から紡がれた言葉でグランは理解する。その涙の理由を。

 

 

「良かった……思い、出したんですね。クオン様の事、バーニカ村での日々の出来事を」

 

 

「……そうか。お前にも、ボルのおっさんにも世話をかけたみたいだな。これまで至らずに済まなかった」

 

 

「私やアルハゼン司祭の事はいいんです。これまで一番苦しんでいたのは、他でもない貴方ですから。バーニカ村の悲劇を知る者として、あの教会に仕える者として、グランハルト様の記憶がお戻りになったという事が、私にはとても嬉しくて……!」

 

 

 涙を流しながら眩しいほどの笑顔を見せるクロエを前に、自身の思い知らぬところで色んな人々へ迷惑をかけていた事を彼は改めて実感した。そして同時に、一時の気の迷いとは言え、クオンに関する記憶を封じた事がどれ程愚かな行為だったか。その重大さを、彼はその身をもって感じる。記憶の封印を解くキッカケとなった、現在共にこの地へ訪れている女性には後生頭が上がらないと。彼はトワの姿を脳裏に過ぎらせては、自然とその頬を緩めていた。

 二人の様子を窺っていた特務支援課の面々も、その場に取り残されたままという訳にもいかず。ロイドは会話を終えて未だ密着する両者へ、気まずいながらも事態の進展の為声を掛ける。

 

 

「えっと……取り敢えず、話は落ち着いたのか?」

 

 

「あ……す、すみません取り乱してしまって!?」

 

 

 彼の声で今の状況をようやく理解したクロエは頬を真っ赤に染め、グランの胸から離れていた。公衆の面前で、それも知った顔の前での行為としては羞恥心の限界だったのだろう。もう少し待ってあげるべきだったかと、エリィとワジが微笑ましそうに揶揄う様子に対して彼女は顔を真っ赤にしながら否定していた。

 何とか和やかな空気に持ち直した場の状況。しかし、約一名この状況を快く思っていない者が……

 

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

 

「ランディ先輩、これを機に浮ついた心を入れ替えてみたらどうですか?」

 

 

「う、うるせぇ! まだ脈はある!」

 

 

「いや、どう見ても無いと思いますけど……」

 

 

 クロエと隣合わせに立つグランを前に、悔しげな表情のランディの横。ノエルは彼の様子に呆れたと溜息を一つ。いつになったらあの人の気持ちに気付くのだろうかと、彼女の呟く声は風に乗って遥か彼方へと消えた。

 エリィとワジの二人に揶揄われる事暫く。ロイドの助けもあって漸く熱の冷めたクロエはひと息つくと、改めて皆の前で先の失態の謝罪を行い、状況の説明をするべく動き出した。

 

 

「先程は失礼いたしました。道すがら、クロスベルの案内の後に大聖堂へご足労いただけますか? 宜しければ、そこで皆さんにご説明致します」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 クロエ=ページ。それが、産まれた私に与えられた名だった。母親は日夜娼婦として働き、町の人達からは余り良い評判を聞かないけれど、私と同じ白髪に碧い瞳をした、とても綺麗で優しい人。だから、男の人に言い寄られる事も多かったそうだ。料理の腕だけは、お世辞にもいいとは言えないけど。

 父親は、町の復興支援の為に働いていると聞いた事があったが、詳しい内容は知らない。小さい頃には偶に家に帰ってくる事はあったみたいだけど、父とは会話をした事も、顔を合わせた事も片手で数えるほどだった。父の顔も声も記憶は曖昧で、あまり思い出せない。

 だから、どちらかと言うと私はお母さんっ子だ。幼少の頃から母に甘えれば何でも買ってくれた、何不自由ない暮らしをさせてもらっていた。あなただけは幸せになって欲しいからと、興味のある事は何でもさせてくれた。一つだけ、例外はあったけれど。

 私はお母さんが大好きだった。町の人達には何と言われようと、私にとっては自慢の母だった。私もお母さんみたいになりたい、そう言って叱られた事もあった。その時は、何故母が怒っていたのかは分からなかったけど。

 そうだ、私はお母さんが大好きな筈だった。なのに、大好きなその気持ちは、気が付けば驚くほど嫌悪の感情へと変わっていた。母へ抱いていた愛情は、いつしか紛れも無い憎悪に。こんな人達のところへ産まれて来なければよかったと、一晩中涙を流した。それは確か、十六になった年の事。

 

 

ーーーークロエの奴もショックだろうよ。ワシが父親だと知ったらなーーーー

 

 

ーーーーあの子には知らなくていい事です。貴方に襲われた時に身籠った子だと知ったら、あの子がどんな思いをするか。くれぐれも、叔父様が父親だという事は黙っていて下さいーーーー

 

 

ーーーーそれは、お前次第だよーーーー

 

 

「何、それ……」

 

 

 偶然だった。叔父が家の様子を心配して顔を出しに来た時、偶々二人が話している内容を耳にしてしまった。ショックだった。私は望まれて産まれた子では無いんだ。そう思うと、私は家にいるのが怖くなってすぐに飛び出した。

 今思えば、思い当たる節はあった。元々、母と叔父は余り仲が良くなかったと思う。いつも笑顔だった母が、叔父が家に来ると決まって顔を曇らせていた。私にとっての叔父は普通の人だ、私自身は特別何かを思った事はない。だから、母の嫌がっていたその理由に気付けなかった。

 結局、その後は行くあてもなくて、夜には家に戻った。叔父は帰っていて、家では母が心配そうな顔をして、私を見た途端母は涙を浮かべながら抱きついて来た。いつもだったら、母のスキンシップを嬉しく思いながら苦笑いで誤魔化す私も、その時は自分でも驚くほど無感情で。母に対する気持ちが冷めたのか、その日から母とは余り会話をしなくなった。日々の会話も殆ど交わさず、食事中も無言で気まずい空間が広がる。母は反抗期だとか親離れなのかとか一人で寂しそうにしていたけど、私にはどうでもよかった。だって、その言葉も、感情も、嘘偽りで出来ているのだから。

 自分の価値も、生まれてきた意味も失いただ惰性で過ごす毎日。そんな生活が、気が付けば二年も経っていた。母は相変わらず仕事を続け、偶に家へ来る叔父さんの相手をしているらしい。らしいというのは、叔父さんが家へ来た時は決まって私が家を出るから確認していない為だ。二人が行為をしているところなど、汚らわしくて見たくもない。母は理由があって逆らえずに従っているようにも見えたけど、私には関係のない事だ。

 

 今日もまた、叔父さんが家へと来た。私は家を出て、夜の帳が下りた頃に戻る。その時間には、叔父さんは自分の家に帰ってもういないから。いつもそうだった。家の扉を開けると、そこにはテーブルに顔をうつ伏せている母がいて。なのに、どうして。今日は何で、母がいる筈の場所に貴方がいるの?

 

 

「クロエ、そろそろお前も働き時だ。アイツは最近拒むようになってきたし、手初めにワシが色々と教えてやる」

 

 

「待って、叔父さんやめて!」

 

 

 椅子を立った叔父は強引に私の腕を掴むと、身体を床へ押し付ける。木材の冷たさと、頭を打ちつけた痛みが脳に伝わるがそれどころじゃない。目の前で気持ちの悪い笑みを浮かべる叔父から、何とかして逃れないと。

 力で敵わないのは分かってる。だけど、私を守るには抵抗するしかない。叔父の手を振り解こうとするけど、やっぱり男の人の力の前では無力だ。叫んでも、暴れても力で押さえ付けられる。それでも外の人が音に気付けば、まだ助かるかもしれない。私は必死で抵抗した。拒絶して、叫んで、暴れて。だけどそれも僅かな時間。

 気を失いそうになるほどの衝撃が、私の頬を襲った。

 

 

「何のために今までお前を不自由無く育ててきたと思ってるんだ? このために決まっているだろ。感情豊かな娘は、客を満足させる様な反応が出来るからな。その辺りもワシが教えてやる、大人しくしていろ」

 

 

 酷く耳鳴りがする。痛みで意識もはっきりしない。叔父は私が大人しくなったのを確認したのか、身に纏う衣服を脱ぎ始めている。薄れゆく意識の中、自分の顔横に涙が伝うのが分かった。

 これは本当に人なのだろうか。違う。この男は人の皮を被った悪魔だ。これから私は、この悪魔に人としての尊厳を奪われるのだ。使い捨ての人形の様に、かつて望まない子を宿した母の様に。今なら分かる。母が当時、どれほどの恐怖と絶望を味わったのかを。

 

 

「お前の母親に教える時は苦労した。今のお前よりは若かったが、無駄に力が強くてよ。必死で抵抗しやがるから無理矢理押さえてたら、挿れたままイっちまってな。お陰で一年は使い物にならなかった」

 

 

「ちょっと、何をしてるんですか!?」

 

 

「もう帰って来たのか……何って見てりゃ分かるだろうが。お前がつまらんからコイツに教えてやってんだよ」

 

 

「お願い、仕事の方は全部私がするからその子には手を出さないで!」

 

 

「どの道コイツにも教えにゃならん。お前は黙ってそこで見ていろ」

 

 

 今お母さんの声が聞こえた気がした。今更だが、身勝手に嫌っていた母の助けをあてにするほどには私の心は折れてしまったようだ。

 この後私はどうすればいいんだろう。叔父……いや、実の父親に凌辱され、道具となった私に生きている価値などあるだろうか。存在している意味などあるのだろうか。もういっそのこと死んでしまおう。楽になれば、これ以上辛い思いをしなくて済む。苦しまなくて済む。そうすれば、私はきっと救われる。

 生きる事を諦めて、現実から逃げ出して。意識を手放そうとしたその時、突如響いた叔父の叫び声で急速に視界が晴れた。

 理解が追いつかない。今何が起きているのか分からない。私を襲おうとしていた筈の叔父が、突然苦しみながら隣へ倒れた。ふと温かくなった右手を上げて確認する。何かが、私の手を真っ赤に染めていた。それが叔父の流している血だと気付くのに、そう時間はかからなかった。

 

 

「あはは、やっちゃった……」

 

 

「お母、さん?」

 

 

 目の前には、包丁を持つ母がいた。白い髪は返り血で赤く染まって、包丁を持つ手は震えていて。その姿を見た時、お母さんが私を助けてくれたんだって気付いた。あんなに冷たく当たって来たのに、一方的に突き放していたのに。

 母にとって、叔父はとても恐ろしい存在だった筈だ。なのに、その恐怖を押し殺して私を助けてくれた。何故かは分からない。けれど、これだけは確かだと言えるものがある。私の胸の奥から湧いて来た、温かい感情。以前の私が持っていた、大好きなお母さんへの思い。

 そうだ、私はお母さんの事が大好きだった。いや、違う。本当は、今までもずっと母の事が大好きだったんだ。私の生まれを知った時はショックだった。それは確かだし、その点はこれからも誇ることは出来ないだろう。それでも、母の子供として生まれてこれた事は私の誇りだ。

 気が付けば、隣に倒れた叔父が上げていた呻き声は次第に収まっていた。きっと死んでしまったんだろう。こんな人、死んだって思うところなんか無いけど。だけど、この人は死んでも私達の足を引っ張るつもりらしい。

 

 

「私達もう駄目だ……クロエ、お母さんと一緒に死のう」

 

 

 私が体を起こした途端、母は虚ろな目で真っ赤になった包丁を向けて来た。急な事に動揺して、それでも体は勝手に反応した。母はきっと混乱している。叔父の血を見てパニックになっているだけだ。包丁を持つ母の手を必死で押さえて、私は母に呼びかける。

 

 

「お母さん、しっかりして! お母さん!」

 

 

「クロエは私と死ぬのが嫌? お母さんと一緒は嫌?」

 

 

「そうじゃない! そうじゃなくて!」

 

 

 ダメだ、母は気が動転して冷静になっていない。このままだと本当に一家心中になってしまう。そんな結末だけは嫌だ、こんな形でお母さんと別れたくない。これまで酷く当たって来たお母さんに、それでもずっと私を大切にしてくれたお母さんに謝らないといけないから。それから二人でやり直すんだ。二人で、新しい生活を始めるんだ。今度は私が働いて、お母さんを楽にしてあげるって決めた。今決めた。私の自分勝手で寂しい思いをさせた母に、それ以上の幸せをあげるんだ。だから、絶対に私が母を止める。そう、手に力を込めた時だった。

 

 

「楽になろう……もうね、お母さん疲れちゃった」

 

 

 ふと母の抵抗が無くなった。同時に、その手に持つ包丁の向きが反転した。刃先は吸い込まれるように母の胸へと迫っていく。力を抜いた時には遅かった。私の手に握られた包丁が、お母さんの胸を突き刺した。

 

 

ーーーー◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ーーーー

 

 

「あ、ああ……」

 

 

 目の前の事実が怖くて、恐ろしくて。母が動かなくなるまで発していた、声も表情もよく思い出せない。ただ、気付いた時には私がお母さんを殺したという事実だけが、その手に残っていた。

 どうしてこうなってしまったんだろう。自分の生まれに落ち込んで、母を遠ざけて、そしてまたやり直そうとしたその矢先に。私は私自身の手で、その未来を手放してしまった。

 

 

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ……!」

 

 

 家を飛び出して、必死で町を駆け抜けた。復興が進んでいないこの町の外は塩害の地、町の外に出たことの無い私にはどこに何があるのかも分からない。それでもいい。私は逃げ出したかった。この事実から、私が犯してしまった恐ろしい現実から。少しでも、あの地から離れたかったのだ。

 行くあてなどない。そんな事は分かっている。それでも、逃げる為には歩き続けるしかないんだ。知らない橋を渡って、知らない丘を抜けて、知らない塩の大地をただただ進んで。食事もままならない、運良く水源を見つけても塩辛くてまともに飲めない。一度眠ってしまえば、夢の中で叔父さんとお母さんが私を責める。だから、足が動き続ける限り、私はなるべく歩いた。

 

 一体あれから何日経ったんだろう。気が付けば、私の歩くペースは落ちている気がする。昨日見えた筈の岩が、まだまだ視線の先にある。何だか視界もぼやけて来た。考えようとしても、頭が上手く働かない。いつになったら、人がいる場所に辿り着けるんだろう。

 もしかしたら、私はもうどこにも辿り着けないのだろうか。ふと、そんな考えが頭を過ぎった。そうか、考えてみればそうだ。知らない土地を歩き続けたところで、母親殺しの大罪人に、神のお導きなどあるわけがなかった。もし、こんな私にも神様から御慈悲が下るとすれば、それはきっと……天罰だ。

 

 

「あはは……そっか、天罰が下ったんだ。だからどこにも辿り着けない、誰一人にも出会わない。そうだ、だから……」

 

 

「こんな場所で散歩とは珍しいな……ってそっちに行っても崖があるだけだぞ」

 

 

 人の声が聞こえた気がした。この場所で、そんな幻聴が聞こえる程度には私も壊れてしまったらしい。もう疲れた。何処に辿り着けるわけでもないのに、いつまでも歩き続けるのは辛くて苦しい。ただ、もう少しだけ歩けば楽になれる。何処かへ辿り着ける。そんな気がした。

 あと一歩、足を踏み出せば私の望む場所へといける。そんな思いが私の足を動かしたその時、突然身体に軽い衝撃が走った。私の体は何かの力によって、後ろへ引き寄せられた。

 

 

「おい、人の話聞いてんのか! 飛び降りるんなら他所でやれ!」

 

 

「え……ひと?」

 

 

 視界のぼやけた私の目では、よく確認できないけれど。私に向かって怒鳴り声を上げているのは、恐らく私よりも年下の少年だ。身長も私より低い、声にも幼さが残っている。彼は、こんな場所で何をしているのだろうか。

 この子はもしかして、死神か何かなのだろうか。そうでなければ説明がつかない。こんな場所に、人なんかが、子供なんかがいるわけがない。目を凝らしてみる。紅い髪に、紅い瞳。可愛らしい顔は子供らしさがあり、キリッとした目と男の子の声色がなければ、女の子にも見えなくもない。こんな可愛い死神なら、ついていってもいいかもしれない。

 

 

「何をしたらこんなに衰弱するんだよ……ったく、目の前で死なれても具合いが悪い。来いよ、飯くらい奢ってやる」

 

 

 男の子は掴んでいた私の腕を引っ張ると、何処かに向けて歩き始めた。その行き先は、きっと—————

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「いやぁ、これだけ食いっぷりが良いと料理人冥利に尽きるねぇ」

 

 

「す、すみません……」

 

 

「あっはっは……気にしないでくれ。お代は貰っているから、好きなだけ食べるといい」

 

 

 男の子は死神ではありませんでした。私が連れられた先は、バーニカ村という名の村、そのはずれにある七耀教会だった。教会の中にある食堂に連れられ、男の子が司祭の人と何か言葉を交わした後、少し席で待たされた後にテーブルいっぱいの料理が運ばれて来た。自分が女であるのも忘れて、はしたなく料理を口の中に掻き込んだ。気付いた時には恥ずかしさで顔が熱くなったけど、隣で笑っている司祭の男性の方に促されて、食事を再開した。

 最初は空腹で味わうどころじゃなかったけど、一口一口確認するととても丁寧な味付けで、私の記憶にある料理の中でどれも一番の美味しさだった。鶏肉と野菜のスープに、お魚を甘辛く煮たもの。香辛料が食欲をそそるパスタに、魚介の素材と出汁が美味しい彩のいいこの料理はパエリア、と言っていたか。他にも見たことの無い料理が並んでいるが、この厳しい国でどんな事をしたらこれだけの贅沢が出来るのだろうか。そう考えると、振舞われている立場なのに少し嫉妬してしまった。

 

 

「しかし、彼も似た子を連れて来たものだね。やはり、記憶を失ったように見えても心の中にはあの子がいるのだろう」

 

 

 そういえば、料理に夢中で肝心な事を忘れていた。私をここへ連れて来てくれたあの男の子はどこに行ったんだろう。全てを諦めて、現実から逃げ続けて、それでも生き汚く歩き続けた。そんな私を、偶然の出会いで救ってくれたあの男の子には、ちゃんとお礼を言わないといけない。返せるものはないけれど、せめてもの感謝の気持ちは伝えないと。この人なら、彼が今何処にいるのか知っているかもしれない。

 

 

「彼……そういえば、私をここへ連れて来たあの人は?」

 

 

「ああ……彼なら離れで休んでいるよ。用があれば案内しよう」

 

 

「あ、お願いします!」

 

 

 残った料理を口に掻き込んで、司祭様の後を追って教会の外へ向かった。あの男の子は教会の外にある建物で過ごしているらしい。

 目的地へ向かう途中、司祭様からあの子に関する話を聞いた。男の子の名前はグランハルト=オルランド。どうやらあの子は護衛を専門にした有名な猟兵で、仕事の報酬の一部をこの教会へ寄付しているそうだ。年は十四で、私より四つも下だ。そんな年で、彼は一人の人間として立派に自立している。私なんかとはまるで違う。そこに至るまでの苦労は、きっと想像もつかないものだろう。

 彼の情報を聞きながら、足を止めた司祭様の前に建つ小屋へ視線を向ける。三角屋根の小さな小屋は、本当に寝泊まりする為だけに建てられたような造りだ。司祭様に促されて小屋の扉を開くと、部屋の奥にある椅子に座る彼の姿があった。彼はこちらに視線を向けると、素っ気なく要点だけを口にした。

 

 

「ミラなら渡してある、暫くはここで世話になるといい」

 

 

「え……いや、その……」

 

 

 外で出会った時は何にも感じなかったのに。彼の顔を見た途端、言い様のない緊張に囚われた。初めて見た時とは全くと言っていいほど大人びた印象で、顔も幼く身長も私より低いのに、年上なのかと錯覚するほどだ。彼を見ていると、生きた時間の長さよりも、その時間で得た経験の濃さがいかに重要なのかが分かる。それほど教養の高くない私でもそう感じるぐらいには、彼の過ごして来た日々が想像を絶するものだとその身に纏う空気が物語っていた。

 緊張で中々言葉を発しない私に気を遣ったのか、司祭様は私の隣に来て代わりに話してくれた。しかし、それは想像もしていなかった内容で。

 

 

「ああ、実はその事なんだが……彼女に、ここでシスターとして働いてもらうのはどうかと思ってね」

 

 

 食事を与えて下さっただけでなく、働く場所まで提供してくれるというその内容に私は驚いた。ついさっきまで生きる事が辛く諦めかけていた私にとっては、願っても無いチャンスだ。この国でこれだけ恵まれた環境に辿り着くのは、そう簡単な事ではない。恐らくもう二度と巡って来ない機会だろう。

 この誘いを受ければ、私はこの先幸せに過ごせるかもしれない。ここに来るまでの苦労が報われるくらいには。ただ、これまでの事を思い出す中で、同時に私が犯してしまった罪まで思い出してしまった。

 そうだ、私はお母さんを殺した。私を大切にしてくれたあの人を裏切った。そんな私が、この神聖な場所にいていいのだろうか。いいわけがない。この汚れた両手で、女神様に祈りを捧げるような真似をすれば、きっと私には死ぬよりも苦しい罰が下る。そう思うと、とても司祭様の提案を受け入れる事など出来なかった。

 

 

「それは、出来ません! ご、ごめんなさい。こんなに良くして頂いたのに……」

 

 

「ふむ……何か訳ありのようだね。よければ、断るその理由を聞かせてもらってもいいかな?」

 

 

「そ、それは……」

 

 

 私の目を真っ直ぐ見つめてくる司祭様に、下手な嘘は通じない事は直感で分かった。このまま黙っていれば、何も答えなければ、きっと安定した生活を送れる。本当の事を話してここを出ていけば、きっともう人のいる場所へは辿り着けない。それは即ち死ぬという事。その恐怖はあるけれど、罪の意識に苦しみ続けるよりはずっと楽だ。

 私は司祭様とグランハルトさんに、ここに来るまでの事情を嘘偽り無く話した。私が母とその叔父との間に生まれた子供だという事。私を大切にしてくれた母に、辛く当たっていた事。そして、私を襲おうとした叔父から助けてくれた母を、この手で殺してしまった事。二人へ事の経緯を話しながら、いかに自分が最低な人間なのかというのを再認識した。やっぱり、私は幸せになっていい人間ではない。

 

 

「なるほど。よくある話にしては、運が無かったな」

 

 

「それは、辛かったね」

 

 

「私は、司祭様の御慈悲を受けられる人間ではありません。私のような汚れた存在が、母から受けた恩を仇で返す親不孝な娘が、これ以上皆さんへ迷惑をかける事があってはならないんです。今日は良くして頂いて、本当に感謝しています。ですから……」

 

 

「よし! ならばさっき食べたご飯の代償として、一週間ここで住み込みで働きなさい。うんうん、それがいい」

 

 

 この人は、私の話を聞いていたのだろうか。ちゃんと聞いていてくれたのなら、すぐにでもここを追い出す筈だ。もし聞いていたのだとしたら、お人好し、にしても人が良すぎる。この国でそんな同情心は命取りだ。私のような人間には意見すら許されないのは分かっているが、この人は裕福だからそんな事が言える。司祭様が素晴らしい人だというのは分かる。こんなに良い人は大陸中探したってそうはいないだろう。だけど、そんな人の良い方だからこそ、私はその良心を受け入れてはいけない。それに第一、食事代は彼が払ってくれたのではなかっただろうか。

 

 

「え……でも、お代はさっきグランハルトさんが……」

 

 

「確かに払ったぞ……まさか、五十万ミラで足りないとか言い出すんじゃないだろうな?」

 

 

「足りないねぇ。細かく言えば、あと一ミラ足りない。グラン君、今手持ちはあるかい?」

 

 

「そりゃああるが……今から死地に出て行くって奴の為にこれ以上払うのは胸糞悪いな」

 

 

「ま、待って下さい……!」

 

 

 たまったものではない。私にお金がないと分かっていて、司祭様は一ミラという金額を要求しているのだろう。二人共意地悪だ。私に用意出来ないから、選択肢を選ぶ権利を与えておきながら、その実半強制的に首を縦に振らすつもりだ。何でそこまでして私を留めるのか、その理由が分からない。もしかしたら彼らにとって何か利益があるのかもしれないが、どちらにせよ話をそのまま飲み込むわけにはいかない。あてはないけれど、何とかして用意する以外に方法は無い。

 

 

「い、一ミラくらいならすぐに用意してきます! ですから————」

 

 

「どうやって?」

 

 

「そ、それは……村の人にお恵み頂く、とか」

 

 

「————誰も恵んではくれないよ」

 

 

 これまで終始優しい笑顔を崩さなかった司祭様が、この時初めてその表情を歪めた。私を襲おうとした時の叔父なんか比では無いくらい恐ろしい顔。鬼のような怒りの表情と威圧で、私の意識を飲み込んだ。堪らず身をすくめて、視線を床下へと逸らす。これ以上直視すれば、私はきっと恐怖で床を汚してしまう。そのような痴態だけは晒すわけにはいかない。

 

 

「生きる事を諦めた人間に、ミラを恵もうなどという者はこの村にはいない。それに君は今、一ミラくらいと言ったね? この国でその一ミラを稼ぐのにどれだけの苦労が必要か、それを分かって言っているのかい?」

 

 

 司祭様のお怒りも、仰っている事も尤もだ。支援によって支えられているこの国で、お金の価値を否定するような言動がどれほど常識の無い事か、働く人々や支援者に対する暴言なのかは分かっていた。一ミラくらいなどと、軽はずみでも絶対に口にするべきではない。私は、先の発言をひどく後悔した。

 

 

「ごめん、なさい……」

 

 

「顔を上げなさい。そう落ち込まずともよい、君は大変運がよろしい。この教会で一週間働けば、君が今必要な一ミラを給金として出そう。衣食住付きだ、悪くない条件だろう?」

 

 

「いや、衣食住提供とはいえ一週間で一ミラの給金は詐欺だろ」

 

 

「んん、グラン君は黙ってよろしい」

 

 

 顔を上げると、司祭様の顔は元の優しいものへと戻っていた。優しい人が怒るととても怖いと言うが、まさにその通りだ。金輪際、この人を怒らせてはいけないと心に刻んだ。

 私に返済するあてはない。ならば、選択肢はもう一つしかない。グランハルトさんの声を一蹴りした司祭様は、微笑みながら私の言葉を待っていた。

 

 

「さて、考えは決まったかな?」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「クロエおねぇちゃん、おしえてー」

 

 

「おねえたん、おちえてー」

 

 

「はいはい、今度はどんな形が知りたいの?」

 

 

 この教会に来て、漸く一週間が経過した。シスターとしての私の仕事は主に、教会の中での雑用と、ここで暮らす二人の子供のお世話だ。その子達は、親が面倒を見きれずに手放した子と、両親を亡くして天涯孤独になった子だ。それでも、二人とも純粋で、とてもいい子達。生きる事に希望を持っていて、毎日新しい事に目を輝かせていて、私なんかとは違って未来を見ている立派な子達だ。だから、そんな子供達と楽しく過ごしていると、私の犯した過ちを時々忘れそうになってしまう。もしかしたら、多分それが司祭様の狙いなのかもしれない。

 今日もまた、雑用をこなした後に子供達の相手をする。この子達は本当に可愛くて、好奇心旺盛で、新しい事に興味津々だ。ここで働き始めた初日の日に教えてあげたものの内、あやとりという糸を使った遊びを二人が特に興味を持ってくれて。今も新しい形を教えてほしいと、五歳と二歳の女の子が言い寄って来た。

 

 

「漸くか。ここ一週間で随分と雰囲気が変わったな」

 

 

「細かく言うとあと数時間あるけどね。でも、あれが本来の彼女なんだと思うよ。心の優しい、素直な娘だ。事の経緯はどうあれ、彼女の母親はあの子を立派に育て上げた。とても素晴らしい奥方なのだろう」

 

 

「これを機に、心変わりでもすればいいけどな」

 

 

「ああ、本当に。しかし、グラン君まで付き合うことはないだろうに……仕事の方はいいのかい?」

 

 

「任せっきりってのも気が引けるしな。元より自由な商売だ、おっさんが気にする必要はない。それに、どうせ明日には旅立つつもりだ」

 

 

「そうか……私としては、君にもここで暮らしてほしいけどね」

 

 

「特別な縁でも無いだろう……支援金の話で偶然知り合っただけだ。おっさんはオレを買い被りすぎだっての」

 

 

「……すまない、失言だったようだ」

 

 

 少し離れた場所から、司祭様とグランハルト様の話し声が聞こえてくる。その内容までは詳しく聞き取れなかったけど、多分今日私がここを出て行く事について話しているのだろう。私の中では、どうするかはもう決めている。

 今日はここにいられる最後の日だ。だから、せめてこの子達には一つでも多く教えてあげよう。そう思っていると、子供達は今教えたばかりのあやとりの形を保ったまま、二人の話し声が聞こえる方へと向かって走ってしまった。

 

 

「おっさん、クロエおねぇちゃんに教えてもらったー。カニー!」

 

 

「かにー!」

 

 

「そうかい、良かったね。そしていい加減私の事はアルハゼン司祭と呼びなさい」

 

 

「えー、おっさんはおっさんだよー」

 

 

「おったんおったん〜」

 

 

 あの子達は、またあんな言葉遣いをして。直すようにと言い聞かせているけれど、中々言うことを聞いてくれない。初めは怒るけど、気がついたら子供達の可愛さに許してしまっていて。私には、躾の才能がないというのもここで知った事の一つだ。兎にも角にも、子供達の言葉遣いが直らない要因の一つは、あの話の輪の中にいるのだけど。

 

 

「いいじゃないか、慕われている証拠だろ」

 

 

「全く、君の真似をしているというのに他人事な。二人とも、グラン君の真似をしていては立派な大人になれないよ」

 

 

「あーグランハルト様の悪口言ったー!」

 

 

「ぐあんはるとたまのことわるくいったー! おったんのあほー!」

 

 

「あ、あほ……?」

 

 

 流石にこれ以上の暴言を見過ごすわけにはいかない。今日までとはいえ、子供達の面倒を任せられた以上私にも責任がある。私に出来る精一杯の怖い顔を浮かべながら、急いで四人の元へ向かった。今一瞬グランハルト様が私に気付いて笑っていたけど、流石にそれは失礼じゃないだろうか。ともかく、二人には説教をします……自信はないけど。

 

 

「こらこら二人とも。司祭様になんて事を言ってるの、謝りなさい」

 

 

「クロエおねぇちゃん怒ったー!」

 

 

「おこったー!」

 

 

「こら、待ちなさい……!」

 

 

 やっぱり、子供達はきゃっきゃと笑いながら走って逃げた。司祭様のように怖い顔をするのは中々に難しい。あそこまで怖いと嫌われてしまいそうだから、少し怖いくらいでいいのに。私には威厳というものがない。きっと、人を怒るというのが向いていないのだろう。八つ当たりと言ってはそれまでだけど、一人笑っている彼へと標的を変える事にした。

 

 

「もう。全く、あの子達は……グランハルト様も、子供達の前では言葉遣いに気をつけて下さい」

 

 

「今日出て行く人間にしては、妙に面倒見がいいじゃないか」

 

 

「それは……」

 

 

「まあ、肝に命じておくよ」

 

 

 彼は冗談混じりに言ったつもりだろうけど、それを言ってしまわれると、私には何も言い返せなかった。少し気まずくなったのか、グランハルト様は子供達を追って一人教会の外へと向かって行く。その後ろ姿を見詰めながら、私はこれからについて考える事にした。ここを出て行った後、どうするのかを。

 考えては見たものの、結局はどうするもこうするもなかった。死に場所を探して、再び塩の大地を彷徨うだけだ。そんな自分の姿を想像したら、彼の皮肉は当然の事だと思えた。そんな中、落ち込む私に同情したのか、司祭様はいつもの優しい笑顔で話しかけてくれた。

 

 

「彼の言った事は気にしないでいい。どうだい、ここの生活もいいものだろう?」

 

 

「はい。二人ともいい子で、こんな私にも優しくしてくれて。この一週間は、私にとって夢のような時間でした。本当に楽しくて、幸せで、こんな日がずっと続いたらいいなって思います」

 

 

「それは良かった、この教会も人手不足でね。クロエさん、君さえよければこの教会でシスターとして生きる道を選んではみないかい?」

 

 

 一週間前、司祭様に提案されたシスターとして生きる道。あの日はすぐに否定したけど、今の私は少し言葉に詰まるくらいには気持ちが変わっていた。それほどまでに、ここでの生活は楽しく、幸せなものだった。もしかしたら、ここでこのまま過ごすのも悪くないかもしれない、そう思ってしまう。

 だけど、それは許されない事。あってはいけない事だ。名残惜しく思いながら、私は揺らぐその決意を声に出した。

 

 

「……ごめんなさい。やっぱり、私はここにいていい人間ではないと思います。純粋なあの子達を見ていたら、余計にそう感じてしまって……」

 

 

「お母さんを殺めた事が、まだ許せないかい?」

 

 

 司祭様の言葉に静かに頷く。私が忘れてはいけない事、背負い続けなければいけない母親殺しの罪。私を恨んでいる母が見ているこの世界で、私が幸せになる事は許されない。もし母に許してもらえるとすれば、それは恐らく私の死だ。私がこの命を持って償う事で、初めてその罪の意識から解放される。だから、そう。私には、きっとその道しか残されていない。

 沈黙が広がる中。司祭様はポケットから硬貨を取り出すと、私の前に差し出した。

 

 

「約束の給金だ。ただ、これを受け取る前に少し話を聞いていきなさい」

 

 

 そう言って、司祭様はとある話を語ってくれた。それは、ノーザンブリアのどこかで起こった二人の少年少女の話。

 

 あるところに、十歳ほどの少年がいた。彼はその年で恋人がいて、恋人と二人で暮らすため、彼は恋人であるシスターの少女の故郷、ノーザンブリアのとある村へ訪れた。

 村の者達は、その少年を快く受け入れた。少女が村人達から慕われていたというのもその理由だった。彼女が連れて来た子が、悪い子なはずがないからと。少年はその日から、村の仕事を手伝いながら、村はずれにある教会で少女との生活を始めた。

 そして少年がノーザンブリアでの生活を始めて数日後、ある騒ぎが起こった。何処からか、少年の素性が村の者達に知れ渡ったらしい。少女が連れて来たその少年、実は村に来る以前は猟兵として過ごしていた。それも、北の猟兵ではなく、赤い星座というかなり有名な猟兵団に所属していたのだ。その日から、村人達は少年に対して冷たく接するようになった。少年が何か悪さをしたというわけでもないのに、酷い話だ。当然、少女はその事を知って悲しんだ。

 少年が猟兵だった事は少女も知っていた。混乱を避けるために、敢えて村人達に少年の過去は伝えなかった。しかし、現実はそうもいかない。村人達との間に亀裂が生じた少年は、彼らと距離を置きつつ教会での生活を続けた。

 そしてそんなある日、村の中に魔獣が迷い込むという事件が起きた。凶暴な魔獣は、畑を食い荒らすだけに飽き足らず、逃げ惑う村人達にも襲いかかった。騒ぎを知った少女は村へ急いだ。当然、少年もそれに付き添った。二人が村に着くと、目の前では魔獣が暴れ回っている最中。少年は腰に帯刀した刀を使い、村人に襲いかかっている魔獣を殺した。

 この時、少女は不謹慎ながら少し喜んだ。この一件で、少年も村人達に受け入れてもらえると思ったからだ。彼は村人達の命を救った。感謝されこそすれ、非難される謂れは無いのだから。

 だが、村人達は魔獣の返り血を浴びた少年を見て恐怖した。あんなにも凶暴な魔獣を、彼は事も簡単に殺せると知ったからだ。一人が罵倒を浴びせると、それに続いて村人達は少年を責め立てた。こんなにも恐ろしい人間は見たことがない、今すぐここから出て行け……と。

 恐怖というのは時に、目の前にある最も重要な事実を見逃してしまう要因になる。そして、その村人達が見逃していた事実を明確にしたのは、やはり少年の恋人である少女だった。

 

 

『みんなを守ってくれてありがとう、グランハルト』

 

 

 少女の言葉で、村人達も漸く我に返った。少年は自分達を救ってくれた命の恩人なのだと。なのに、何故あの様な酷い事を言ってしまったんだと。少女の行動によって、徐々に村人達の意識は変わっていった。その日から村人達も、少年に対して優しく接する様になった。少年と少女は、それから二人で幸せな日々を過ごしたのだそうな。めでたしめでたし。

 

 

 ……何だか強引な終わり方のような気がしないでもないけど。その二人は、結局幸せな日々を過ごすことが出来たのだ。微笑ましいと思う。だけど、司祭様は何故私にこんな話をしたのだろうか?

 

 

「さて、こんな話をして私が何を言いたいんだと思うだろう? 私が言いたいのはね、今の君が少年を責め立てた村人達と一緒だという事だ」

 

 

「私が、ですか?」

 

 

「今の君は、現実に怯えて本当の事が見えていない。恐怖の影にある真実に目を向けていない。心を冷静にして考えなさい。襲われていた君を助け、自らを犠牲にした君のお母さんは、どんな気持ちだったと思う?」

 

 

「……っ!?」

 

 

 その言葉に、私は堪らず顔を背けた。私がこれまで逃げて来た現実。母を刺してしまった時の、母の言葉や表情。思い出したくない。私にいつも微笑んでくれたお母さんが向けてくる憎悪の目を、軽蔑の顔を思い浮かべたくない。私には、私が母を裏切ったという事実だけでいい。

 

 

「……きっと、私を恨んでいると思います」

 

 

「そうか……それが君の答えなら、私からはこれ以上何も言わない。約束の一ミラは貰っておこう。ただ、ここを出て行く前にグラン君へ挨拶していきなさい」

 

 

 司祭様は諦めたように一ミラを握ると、窓から教会の外へと視線を向ける。あの子達が遊んでいて、その様子を少し離れた場所で見守っているグランハルト様の姿が見えた。司祭様に見送られて、私は彼の元へと歩み寄る。

 私をこの場所へ導いてくれたのは、紛れもなくこの人だ。何があったとしても、その感謝と、与えられたひと時の幸せは絶対に忘れない。

 

 

「グランハルト様。その、助けて下さってありがとうございました」

 

 

「礼はいらない。生きる事を諦めた人間の礼なんか不要だ」

 

 

 彼の機嫌は悪そうだ。でもそれは仕方のないこと。せっかく助けた人間が、生きるあてもないのに死地へと出て行くのだ。怒ってくれているだけ、この人も司祭様と同じで優しい人だ。このまま立ち去ってもいいけど、どうせ最後ならせっかくだから、あの話の事を聞いてみるのもいいかもしれない。思い切って、司祭様から聞かされた話の事を聞いてみた。その話を聞いた彼は、特に驚く素振りも見せなくて。まるで他人事のようだった。

 

 

「おっさんも面白い話をしたもんだな」

 

 

「あの、この少年ってもしかして……」

 

 

「で、それを話しにここへ来たのか?」

 

 

 返って来た反応は、想像とは違ったけれど。私が本当に聞きたいのは、もっと別の事だ。自分では完結していながらも、どこか迷っているあの時の事。この疑問を彼に言い切ってもらえれば、私はきっと迷わない。納得して、この一生を終えられる。

 

 

「きっと母は、私を恨んでいると思います。でも、司祭様はその答えに納得されていないようで……グランハルト様は、どのように思いますか?」

 

 

「知るか。答えはお前にしか分からない、気になるんならもう一度思い出してみたらどうだ? お前が母親を殺した時、どんな様子だったかをな」

 

 

 彼も、司祭様と同じだ。主観的な話ではなく、私自身が見た真実を求める。答えは、分かりきっているのに。私には事実だけでいいのに。母は絶対に、私を恨んでいる。その言葉が欲しいだけなのに。思い出せと言われると、無意識でもあの時の事が脳裏に過ぎってしまう。あの時の事を必死で誤魔化す為に、反射的に顔を俯かせる……でも、彼に顎を持ち上げられてそれはかなわなかった。

 

 

「……っ!?」

 

 

「顔を背けるな。その過ちは、例えお前が死んだとしても消えるものじゃ無い。未来永劫、償い続けなければいけない罪だ。だからこそ目を向けろ。お前が殺した時、母親はどんな顔をしていた? 感情の無い無機質なものだったか、それとも絶望に染まっていたか? よく思い出してみろ」

 

 

 駄目だ、彼の瞳から視線を外せない。意識を逸らして誤魔化しきれない。このままじゃ、あの時の母の顔を思い出してしまう。そんな苦しみは求めてない、母が私を恨んでいる事実だけでいい。なのに、なんでこの人達は私を苦しめようとするの?

 あああああああ……!? 嫌だ、思い出したくない! 母の顔は、母の顔は————

 

 

「え、嘘……」

 

 

「もしかして、笑っていたんじゃないのか?」

 

 

 そう。私が母を刺した時、お母さんの顔は笑っていた。何で、訳がわからない。大切にしたのに、恩を仇で返されて、裏切られて。なのにどうしてお母さんは笑ってるの? 疑問はそれだけじゃない。この人はどうして、母が浮かべていた顔が笑顔だと知ってるの? この人は一体何を知ってるの?

 私は即座に彼へ詰め寄った。そして、その疑問に対する彼の答えは、実に単純なものだった。

 

 

「そりゃあ、母親だからだろ」

 

 

「えっ……」

 

 

「これまで色んな人種を見て来たが、これだけは寸分違わず同じだった。母親ってのはな、男親みたいに理屈じゃなく本能で子どもを愛する生き物だ。だから見返りも求めず子どもを育てる、無償の愛を捧げ続ける。自分のお腹を痛めて、生命を分け与えた掛け替えのない存在だからだ。お前の母親にとっても、それは変わらなかったんだな」

 

 

 見返りを求めない? 母親はみんな同じ? それが、恨んでいないという理由になるのだろうか。お母さんは、本当に私を恨んでいなかったのだろうか。分からない。でも、それだけじゃお母さんが笑ってた説明がつかない。

 

 

「お前の母親はきっと、狂いながらも確かな意識があったんだろう。だから最後に理性が働いた、子供を傷つける前に自分の死を受け入れた。そして、自分の胸に包丁が刺さったのを知って安心した。『この子に怪我をさせなくて良かった』ってな。それなら、死に際にお前を見て笑顔なのにも納得がいく」

 

 

「あ……」

 

 

 ある日の記憶を思い出す。それは、日常の中で母と私が交わしていた何でもない会話。中には、同じ事ばかり毎日口にしている言葉があって。しつこいって、分かったからって、その言葉にいつも苦笑で返していた。

 

 

————お母さんの仕事を手伝いたい? 馬鹿なこと言わないの! あなたがお金の事を考えなくていい、お母さんに任せなさい————

 

 

 違う。

 

 

————クロエったら、最近お母さんに冷たくない? はぁ、そろそろ子離れしないといけないのかな————

 

 

 違う。

 

 

————何かあったらお母さんに言いなさい。絶対に、お母さんがクロエを守るから————

 

 

 そうだ。

 

 

————あなたは私の宝物なんだから。もう、お母さんクロエの事だーい好きっ!————

 

 

 そう、だ。そうだった。お母さんは、いつだってそうだった。うるさいって嫌がったフリをしても、分かったからって流そうとしても、いつも笑顔で私に言ってくれた。その顔が幸せそうで、こっちまで嬉しくなって、私もそんなお母さんが大好きで……!

 

 

「おっさんが言ってたぞ。クロエさんは、素晴らしい母親に育てられたんだろうって。あのおっさんの目は確かだ。それが断言するくらいだ……あんたは、いい母親を持ったんだな」

 

 

 何で忘れていたんだろう。私は、お母さんが恨んでいると思っていて、私を嫌いになったんだと思っていて。私に向けてくれていたあの笑顔を、その幸せそうな顔を、私自身がその思い出から消そうとしていた。お母さんを刺した事を、殺してしまった事実だけを受け入れて。そんな現実に、恐怖に怯えて本当の事を忘れていた。

 今なら思い出せる。鮮明に思い出せるよ。あの日、母を殺してしまったあの時。母は、お母さんはいつもと変わらない笑顔で、私にこう話してくれたんだ。

 

 

『お母さんのところに、生まれて来てくれてありがとう。クロエ、ずっとずっと大好きだよ』

 

 

「お母さん、お母さんっ……!」

 

 

 本当の事を思い出した。その瞬間、涙が止まらなくて、とめどなく溢れてきて。お母さんがくれた沢山の愛情が、私を幸せにしてくれたあの笑顔が、全ての思い出が蘇った。

 お母さんが息を引き取るその前に、私もだよって、お母さんが大好きだよって言えなくて。そんな後悔で胸が苦しくなって、それでも大好きなお母さんの笑顔が浮かんで。それすらも許してくれそうなくらい、お母さんのとびっきりの笑顔が浮かんできて。ごめんなさい、ごめんなさい……!

 

 

「あー、グランハルト様おねぇちゃん泣かしたー!」

 

 

「ぐあんはるとたまのあほー!」

 

 

「悪かった悪かった。ったく、女を泣かせる役回りなんか振るなってんだよ……あとは頼んだぞ」

 

 

 私は本当に取り返しのつかない事をして、それなのに自分のことばかり考えていた。私自身が恐ろしくて、現実が怖くて逃げ出してしまった。そんな私の心の弱さが、母の与えてくれた愛情すら隠してしまって。

 

 

「どうやら、気付いたようだね」

 

 

「はい……! 私、お母さんを裏切ったんだって、そう思って、でも違くて、それで……!」

 

 

「一つずつでいい。ゆっくり、落ち着いて話しなさい」

 

 

 司祭様に背中をさすられながら、嗚咽も少しずつ収まってきて。涙はまだまだ止まらないけど、頭の中は言葉を紡げるくらいの余裕が戻ってきた。私に微笑みかけてくれる司祭様に、私は思い出した全ての事を打ち明けた。

 

 

「私、お母さんに恨まれてるんだって思ってました。お母さんを刺した時、母は私を見て、親不孝者って、裏切り者って軽蔑の眼差しを向けているんだって思ってて。でも、考えたら違いました。お母さん、私の事が大好きで、ダメダメで、でもとっても優しくて……!」

 

 

「うんうん、君を見ていれば手を取るように分かる。いいお母さんに恵まれたんだね」

 

 

「私、そんなお母さんの事が大好きで、なのに殺してしまって。だから恨まれてるんだって、そう思って。でも、それでもお母さんは、私の事を大好きで、いてくれて……!」

 

 

 せっかく落ち着いてきたと思ったのに、また涙と嗚咽が止まらなくなって。だけど、私の想いは司祭様に伝わったようで、司祭様はお父さんみたいな優しい顔で私を撫でてくれた。

 

 

「素敵なお母様だ。クロエさん、あなたはお母さんに救ってもらったその体を大切にしなければならない。そして同時に、犯してしまった過ちは、その手で償い続けなければいけない。生きる事を諦めるというのが、命を捨てるなどという愚行が、いかに間違いか……今なら分かるね?」

 

 

「はい、はい……!」

 

 

 私の過ち。それは、お母さんを殺してしまった事もそうだけど、それだけじゃない。現実から目を背けて、恐怖から逃げ出してしまった事。本当の意味で、母の愛情を仇で返そうとしてしまった事だ。今なら分かる。私は、この罪を背負って生き続けなければいけない。生涯をかけて、償い続けなければいけない。それがきっと、これから私が為さなければいけない事だ。

 そして、全てをやり終えた後に、直接お母さんに伝えるんだ。ごめんなさいって、私もお母さんの事が大好きだよって。

 

 

「さて、もう一度問わせてもらおう。クロエ=ページさん。この教会で、シスターとして生きる道を選んではみないかい?」

 

 

 司祭様のその言葉に、私は力強く頷いた。




祝、100話!
と、そんな事はさておきまして。あけましておめでとうございます。節目の話数だから主人公についてとかそんな事はなく、まさかのクロエの過去編で二万文字超えた。あの、グランの過去回想一万文字くらいだったよ……?(涙

さて、本編の話に参ります。クロエの過去、重いながらもそれを乗り越えた彼女はとても強い女性です。グランと出会わなければ、あの一歩で崖下へ落ちて悲しい結末になっていたでしょう。グランと出会ったからこそ、あの一歩が希望の一歩に変わりました。バーニカ村の教会、説明は不要かもしれませんが、かつてグランがクオンと過ごしていた場所です。アルハゼン司祭はクオンの父親というわけですね。アルハゼン? どっかで聞いた名前のような気が……気にしない気にしない。剣の達人とか、そんな事はないヨ……?(目そらし

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。