最新話をお届けする前に、お知らせです。
申し訳ありませんが、来週再びお休み致します。
来週再び1週間外に出なければならないためで、次回の更新は再来週の日曜日となります。
では最新話、どうぞ。
ルーミアがいたのは誤算だったと、ミスティアは思った。
彼女の屋台にはすでに白夜の姿は無く、ミスティアの手には紅魔館の請求書だけがある。
それと、ルーミアの前にうず高く詰まれたお皿だ。
ルーミアは今も八目鰻を食べ続けている、どうやら今夜の客は彼女と白夜だけのようだ。
「どれだけ食べるのよ」
「お腹が空いていたんだもの、仕方ないよ」
「ふぅん……お腹が空いているのに、あの子を食べなかったの」
それには素直に驚いた。
ミスティアはルーミアのことを良く知っているが、彼女が人間と行動を共にするのは非常に珍しいのだ。
何故かと言うと、我慢せずに食べてしまうからだ。
特にあんな、年頃食べ頃な少女を。
「はぁーあ……せっかく普段は来ない所にまで来たのに」
ミスティアは基本的に迷いの竹林かその近辺で行動しており、人里の近くまで来ることは稀だ。
しかし今日は出てきた、と言うのも、迷いの竹林の近辺では食糧が少ないのだ。
つまるところ、ルーミアと同じである。
人間だ。
そもそもミスティアがこういう屋台をやっているのは、焼き鳥を撲滅するため――では無く、いやそれもあるが、主な理由は人間を誘い込むためだ。
人間は人里の中だけでは生きていけない、必ず人里の外に出なければならない場面がある。
ミスティアが狙うのは、そうした人間だ。
「最近はただでさえ巫女の監視が厳しいんだから、こういうチャンスは逃せないのに」
「ダメ」
名残惜しげに息を吐くミスティアに、ルーミアが拒否の言葉を投げる。
幼げな顔をしているが、その瞳が冷たく、本気でそう告げているのがわかる。
チリチリと髪先にルーミアの妖気を感じて、ミスティアは肩を竦めた。
「ほんとに残念、あんな美味しそうな娘、最近じゃほとんどいないのに……」
健康的な少女の肉、それも
普通はどちらかに偏る場合が多いのだが、白夜の場合はどちらも兼ね備えた貴重な「食糧」なのだ。
ルーミアが執心するのもわかる、だからここまで白夜を守ってまとわりついていたのだろう。
そして今、ミスティアを牽制している。
仲が悪いわけでは無いのだが、と言ってベタベタする程に仲が良いわけでも無い。
同じ「食糧」に目をつければ、普通に対立もする。
そしてこの幻想郷には、対立を解決するための
「3枚でどうかしら?」
「ん、やるの?」
「やらないの?」
コココ、と喉の奥で笑って、ミスティアが翼を広げる。
狭い屋台の中が2匹の妖怪の妖気で満ち、カタカタと音を立てて震える。
夜闇の中、真ん丸い満月だけが世界を照らしている。
そしてその世界こそは、妖怪の世界だった。
一度滾った妖力は、鎮めないことにはどうにも出来ない。
――――弾幕ごっこ――――
それは幻想郷の人妖の共通のルールだ。
妖怪が異変を起こしやすく、人間が妖怪を倒しやすくするための「遊び」。
単純な力量差によって勝敗が決まらない、「平等な」ゲームだ。
今では幻想郷に生きる妖怪のほとんどがこのルールに従っている、ルーミアとミスティアもその例に漏れていない。
「んぐっ……ごちそうさま」
最後の1匹を飲み込んで、意外な程礼儀正しく両手を合わせるルーミア。
どこかの誰かに教わったのだろう作法の後に、脂のついた唇を赤い舌先で舐め取った。
それから懐に手を入れて、ごそごそと何かを取り出した。
何かの絵や文字が描かれたそれは、弾幕ごっこで使用する特別な
ミスティアも指先に同じ物を3枚挟んでいる、そして2人は空へと舞った。
暖簾が風に揺れ、屋台が空気の動きに震える。
満月をバックに、2匹の妖怪が舞い上がる。
片や金髪の少女、片や鳥の羽根持つ少女。
2人は空で向かい合うと、持っていたカードを指で弾いた。
クルクルと目の前で回るそれが輝きを放つ。
「あんなに美味しそうな娘(こ)、食べられないなんてたまらないわ」
「ミスティアには渡さない!」
「ルーミアにはもったいないわ!」
そして、今宵も幻想郷で弾幕ごっこが開始される。
無数にある決闘、最も新しく、そしてすぐに古くなるだろう
「闇符『ダークサイドオブムーン』!」
「鷹符『イルスタードダイブ』!」
赤と黄色、赤と青の光弾が弾けるように拡散し、収束した。
幻想郷の夜に、宵闇と歌声が響き渡る――――。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
東方シリーズを描く上で、弾幕ごっこは必須ですよね。
出来ればシリアスに美しく描きたいシーンです、きちんと描写できる機会があればまたやりたいです。
今回の東方別視点はヤマメの妹ヤマトです。
キャラクター詳細は「射命丸文:表」後書きにて。
星熊勇儀にとっての「黒谷ヤマト」
地底で自分に喧嘩を売って来る者がもはやいない中で、それでも自分に挑もうとする気概は買っている。
だが個の力ではなく、徒党を組んで勢力を上回ろうとしてくるのは鬱陶しいと思っている。
旧都の妖怪は皆が勇儀を慕っているため、今の所は衝突していない。
結論、「気にしてはいながいが、無視もできない鬱陶しい奴」
古明地さとりにとっての「黒谷ヤマト」
挑むも挑まないも、地底の管理者の地位など欲しければくれてやるのに、と思っている。
まぁ、この地底であれだけやる気がある妖怪も珍しい。
悩みどころとしては、地霊殿や旧都等、地底の有力妖怪のいない地底の地域を勝手に縄張りにしている所か。
なお、心が読めるのでヤマトの本心を知っている、故にヤマトを恐れてはいない。
黒谷ヤマメにとっての「黒谷ヤマト」
可愛い妹。
何やら土蜘蛛一族の覇がどうのと言っているが、その実、本当は自分という姉がそうしてほしいと思っていることを知っている。
まぁ、正直覇道がどうとか、あまり関心が無いわけだが。
あと、出来ればきちんと服を着てほしいと思っている。