アレイスターがはぐれ悪魔になってから長い年月がたった。あれからアレイスターは世界を巡り様々な魔術、知識を吸収する生活を送っていた。
現在アレイスターは北欧の神が住まう土地、アースガルズへと向かっている。
「北欧の魔術は奥が深いという。どれ程の物か楽しみであるな、エセルドレーダ」
「イエス、マスター」
程なくすると金色に輝く神殿が見えてきた。神殿の中からは神々しいオーラを感じる。おそらくあれが神々の住まう神殿、グラズヘイムなのだろう。
「そこの者!止まれ!ここは北欧の主神オーディン様の住まう神殿。許可なき者が通る事は許されていない!」
「ほう?あれが北欧のヴァルキリーか」
アレイスター達の行く手をヴァルキリー達が遮る。ここまで無断で侵入してきたのだ。その行動は当然の事であろう。
「なに、別段貴公らを害すつもりで参ったのではない」
アレイスターは一歩、歩みを進めた。その瞬間、ヴァルキリー達の警戒レベルが上がる。
「動くな!これ以上進むというのならそれ相応の対応を取らせてもらうぞ!」
ヴァルキリー達の長、ブリュンヒルデがそう警告した。だがアレイスターが止まる事はない。もともと北欧の魔術を見にきたのだ。わざわざそれを使ってくれるというのならそれでもいいか、というのがアレイスターの考えであった。
「ッ!ヴァルキリー隊!放てーッ!」
「馬鹿者!焦るんじゃない!!」
依然として止まる事のないアレイスターに焦った一人のヴァルキリーが攻撃の合図を出す。慌ててブリュンヒルデが止めようとするが時すでに遅し。ヴァルキリー隊が一斉に魔法を放ち、色とりどりの魔法がアレイスターへと着弾した。
「はぁ……はぁ…… 警告を無視するからそうなるのよ」
「なるほど、これが北欧の魔術か。威力はなかなかのものだ」
「そんな……」
魔法の余波による煙が晴れると傷一つ負った様子のないアレイスターが現れた。その様子に攻撃したヴァルキリー達は唖然とする。完璧に決まったはずであった。自らの腕にも自信があった。だが結果はどうだ?相手はまるで意にかいした様子がないではないか。ヴァルキリー達は己の自信が砕けそうになるが、自分達の使命を放棄する訳にもいかない。必死に自分を奮い立たせ、アレイスターの前に立ちふさがるのだった。
「良い物を見せて貰った礼だ。余も一つ、魔術をお見せしよう」
アレイスターの手に膨大な魔力が集まっていく。たった一人の筈なのにその魔力は先程のヴァルキリー達のそれを遥かに超えていた。
「ABRA……HADABRA!!!」
「きゃあああ!!!」
次の瞬間、アレイスターの手から雷撃が放たれた。ヴァルキリー隊を飲み込みそのまま神殿へと直撃する。
「ば、馬鹿な…… この様な事が……」
難を逃れたブリュンヒルデは目の前の光景に戦慄する。たった一回の攻撃で自分を除くヴァルキリーのほとんどが全滅したのだ。加えて偉大な神殿、グラムヘイズが爆破解体作業の現場の様になってしまっている。
「なんだ、思ったより残っているではないか。やはり北欧の魔術は優秀だな」
アレイスターとしては全員戦闘不能させるつもりで放ったのだがヴァルキリー達の障壁が思いのほか頑丈であったため、全滅には至らなかったのだ。それでも壊滅という言葉に相応しいだけの被害は出ていた。
そんな中、ただ一人無傷のヴァルキリーが目に入る。
「これは驚いた。まさか余の魔術を防ぎ切るとは」
「あ……あ……」
「逃げろ!逃げろロスヴァイセ!」
ブリュンヒルデが必死にまだ幼いヴァルキリーへと逃げるように叫ぶがアレイスターを目の前にして放心してしまっている。
このヴァルキリーの少女、ロスヴァイセは飛び級で訓練校を終えた非常に優秀なヴァルキリーであった。
勿論いくら優秀であろうともアレイスターの魔術を防ぎ切ったのはロスヴァイセだけの力ではない。周りの年上のヴァルキリー達がロスヴァイセだけでも守ろうと庇ったことも大きかった。
「その年齢でその技術とは……気に入った」
「ヒッ!」
アレイスターがロスヴァイセへと手を伸ばしたその時、
『グングニル!!!』
何処からか声と共に槍が飛んでくる。それからは強大な神の力を感じる。相当な強者であろうとも屠る事の出来る一撃であった。だが、アレイスターとて普通ではない。慌てずにそれを容易く弾き声がする方を向いた。
「なんじゃ、まるで効いておらんわい。噂通りのようじゃな?金色の魔人よ。しかし、些か暴れ過ぎではないかね?」
「これはこれは、貴公が主神オーディンであるか?お初にお目にかかる。余は大導師マスターテリオン。世界の魔術を探求する者だ」
そこにはオーディン、トール、フレイなど名だたる神達が勢揃いしていた。全員がそれぞれの武器を持ち臨戦体制をとっている。
「お主の噂はここ北欧にもよう聞こえてくるわい。して、何用でこのような所まで参った?」
「先程も行ったとおり余は魔術が好きでな?世に名高い北欧魔術を一目見ようとここまできたのだよ」
「貴様!それだけの為にこのような暴挙を働いたというのか!!!」
神々の一柱であるロキが激昂する。確かにたったそれだけで自分達の住まう土地をボロボロにされては溜まったものではないだろう。
「やめんかロキ!他のものも一緒じゃ!決して手を出すでないぞ!」
オーディンは知っていた。アレイスターが聖書の神に対して行った事を。神々にとって最も恐れる事はその神性を失う事だ。何としてもそれだけは避けねばならない。決してアレイスターを怒らせてはならないのだ。
しかしオーディンは知識に対して非常に貪欲な神であった。アレイスターが聖書の神に何をしたのか、アレイスターは何者なのか?好奇心からつい左目の水晶の義眼でアレイスターの事を見てしまう。それがどういう事かもわからずに……
「ッッ!!!グァァァ!!!」
「オーディン!どうしたオーディン!しっかりしろ!」
アレイスターを見た瞬間に大量の何らかのイメージが頭に流れ込んできた。何だこれは。こんな物今まで見た事もない。あり得ない。理解出来ない。この世のおぞましさを密集してもこれには敵わない。
強烈な頭痛がオーディンを襲う。正気を保つ事が出来ない。
「アァァァァ!!!」
周りの神は突然の事に騒然とし始める。
「ご老公、そこらへんにしておけ。貴公程度の器ではそれ以上視るともう戻れなくなるぞ」
アレイスターがそう言うと、オーディンはその場で崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ… …お、お主は一体何なんじゃ……そのようなあり様など……」
「それを知るにはご老公、貴公では些か荷が重すぎる。さて、余の目的はもう達したのでな。ここらで余は去らせてもらおう」
「そう言うわけにはいかないだろうがっ!!!」
「いかん!やめよトール!」
去ろうとするアレイスターへとオーディンの制止を無視してトールが突撃する。北欧の戦闘神としての誇りからアレイスターをむざむざと帰す訳にはいかなかったのだ。そして、そのまま手に持つミョルニルをアレイスターへと叩きつけた。
「流石は雷神トールといった所か。素晴らしい威力だ」
「ッ⁉」
しかしアレイスターによって片手でそれを防がれる。今までこれをくらって死ななかった者などミドガルズオルムぐらいであった。それでもダメージは与えていたが目の前の魔人にはそれすらも一切見当たらない。
「そら、返礼だ」
「ガハッ!!!」
トールの腹部に一撃、アレイスターの拳が叩き込まれトールはたまらず吹き飛ばされた。
「さて、他のものもやるかね?」
神々は一様に沈黙する。北欧神話最強の神トールが一蹴されたのだ。もはや自分達ではどうする事も出来ないことはわかっていたのだ。
「それでは今度こそお別れと行こう。ではな、オーディンとその他の神よ。またいつか会おうではないか。そしてそこのヴァルキリーよ。余は貴公の事が気に入った。次に会う日を楽しみにしていよう」
アレイスターが転移を発動させ目の前から消える。残ったのはボロボロになったグラムヘイズと呆然とする神々のみだ。
「もう二度と会いたくないわい……」
オーディンのこぼした独り言だけがこだまするのであった。
閑話なので短め
やっぱりマステリ様はロリコ……