ハイスクールD×D ~転生した大導師~   作:尾尾

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第8話

 

  戦争が終わり、各陣営は勢力の立て直しが課題となっていた。

  それは悪魔も変わりなく戦争による被害の復興と同時に貴族、重鎮達による今後についての話し合いが日夜行われていた。

  

「それでは次期魔王はサーゼクス・グレモリー、アジュカ・アスタロト、セラフォルー・シトリー、ファルビウム・グラシャラボラスの四名でよろしいですな?」

 

『異議なし!』

 

  この話し合いで最も時間を費やしたのが次期魔王の選出であった。

  今回の戦争でソロモン72柱の約半数は断絶してしまい現在、悪魔自体が存亡の危機にさらされてしまっている状態である。そういう訳で、名家という枠組みを取っ払った上で若く求心力のある悪魔が魔王に選ばれるべきだという意見が大半を占めていた。 

  しかしそうなると面白くないのが前魔王の血筋の悪魔達である。当然世襲制だと考え自らが正統な魔王の血筋であると思っている者達がそれに反対し始めその結果、旧魔王派対新魔王派という対立が勃発し議論を長引かせていたのだった。

  旧魔王派と新魔王派の論争は過激化し遂に新魔王派が強行採決をとってしまう。人数自体は新魔王派が大多数を占めていたため旧魔王派は議論を打ち切り退席してしまった。これ幸いと新魔王派は新たな魔王を選出したのだった。

  その結界、選ばれたのがサーゼクス達四人の悪魔だ。四人とも先の戦争で輝かしい活躍をした者達である。

 

「さて、残す議題はあと一つですな……」

 

  議長の悪魔がそう切り出した瞬間に先程まで騒がしかった議会が打って変わって沈黙に包まれる。

 

「神殺しの悪魔、アレイスターの処分に対する論議を行います」

 

  アレイスターへの処分、それは対二天龍作戦の時聖書の神を殺害した事に対するものであった。あれが戦時中ならば何も問題が無かった。しかしあの時は僅かな期間ではあるが休戦中であったのだ。更に誰がどう見ても故意による殺害であり、天使、堕天使からも、お前らあれどうにかしろよという無言の圧力がかけられていた。

 

「…………どなたか意見はありませんかな?」

 

  議長がそう促すが誰一人声をあげるものはいない。それもそのはず、皆戦争を通じてアレイスターの圧倒的な力を目の当たりにしているのだ。

  誰も発言しないまま時間が過ぎていく。もう何分たったのであろうか、続く沈黙に誰もが痺れを切らし始めた時、一人の悪魔の声が響き渡った。

 

「やはり……コキュートスへの永久凍結しかないのではないか?」

 

「ちょ、ちょっとまってくれ!確かに彼は罪を犯したかもしれん!しかし戦争で最も戦果をあげたのも彼だろう!それに二天龍の時も彼がいなかったら我々は死んでいたではないか!それを忘れて永久凍結とは!」

 

「そうは言いますがグレモリー卿、あの者の力は大き過ぎる。貴方もご覧になったでしょう?あの聖書の神へと行使した力を。あれはもう一個人としての力を大きく超えている。いつかあの力が我々に牙を向くかもしれないのですよ?」

 

「そのような憶測で……」

 

  一度広がったもう波紋は止める事が出来ない。それまで沈黙を保っていた悪魔達が次々と永久封印へと賛成の意を示し始める。

 

「往生際が悪いですぞ、グレモリー卿。貴方以外はもう皆、賛成しているのです」

 

「もういい!埒があかん!私はここで失礼する!」

 

  一人反対の意を示していたサーゼクスの実父であるグレモリー卿が退席する。

  その後、まるできたない物には蓋をと言わんばかりに議論はどうアレイスターへと刑を処すかへと移っていった。

 

「しかしあの者が素直に刑を受けるとは思えませんな。かといって力ずくというのはとてもじゃないが無理だ」

 

  再び議会が無言に包まれる。

 

「そのお話、この私に任しては貰えないでしょうか?」

 

  そこへ一人の男が議会へと入ってきた。

 

「そなたは…… 確かマルファス家の跡取りだったか?」

 

「マルコ・マルファスと申します」

 

「して、そなたは何か案があるのか?」

 

「はい、必ずやアレイスターを捕らえて見せましょう」

 

「よろしい、それだけ言うのならやってみるがよい」

 

「はっ!了解しました!」

 

  マルコは怪しく笑みを浮かべながら恭しく礼をする。

こうして再び身の程を知らない男はろくに回らない頭で愚かにもアレイスターを陥れようと企むのであった。

 

 

  ♢

 

 

  アレイスターはとある屋敷の一室で読書をしていた。現在アレイスターは軟禁状態であるのだが本人からすれば何時でも抜け出せるので久しぶりの休暇のつもりでくつろいでいたのだった。

  そこに突然乱暴に扉が開かれる。

 

「大罪人アレイスター!貴様の刑が決まったぞ!大人しく従うんだな!」

 

「もう少し優雅に出来ないのか?扉が悲鳴を挙げているではないか」

 

  アレイスターは読んでいた本をパタンと閉じ立ち上がる。

 

「ふむ、貴公とは何処かであったか?何やら見覚えがある気がするが……」

 

「き、き、貴様!この俺の顔を忘れたと言うのか!」

 

  マルコが激昂するがアレイスターは首を傾げるばかりで思い出した様子は一切ない。興味のない物には一切頭のリソースを割かないアレイスターはマルコ・マルファスという男の事は当然覚えていなかったのである。

 

「ふ、ふん!まぁいい。本来ならお前はコキュートスへの封印刑だがこの俺がここで殺してやる!」

 

「余を殺す?貴公の様な三下が?残念だがそれは不可能だろう」

 

「そういっていられるのも今のうちだ!これを見ろ!」

 

「貴様……」

 

  マルコを守るように二人の男女が現れる。その容姿は死んだ筈の父エドガー、母ミーシャと瓜二つであった。

 

「ヒャハハハハハハ!!!どうだ驚いたか!こいつらはお前の親のクローンだ!こいつらを作るのには苦労したぜ!だが流石のお前もこいつ等には攻撃できまい!」

 

「やはり三下だな、貴様は」

 

「ヒャ?」

 

  アレイスターは二人のクローンを躊躇なく切り殺す。

 

「実に浅はかなり。この様な皮だけ似ている紛い物で余をどうにか出来ると思ったのか?だが我が両親の死を侮辱したのは事実。故にその命を持って詫びよ」

 

  そう言うや否や剣を一閃、マルコの首を跳ねた。あまりの剣速にマルコは自分が死んだ事さえ気付かなかっただろう。アレイスターにしては随分と優しい制裁であった。

  アレイスターはゴトリと落ちた首を掴む。

 

「さて、エセルドレーダよ。この件の黒幕にも挨拶せねばな」

 

「イエス、マスター」

 

  アレイスターとエセルドレーダはそのまま貴族達の元へ向かうのだった。

 

 

  ♢

 

 

「これであの者が成功すれば万事解決ですな」

 

「そうですな」

 

  はははは、という笑い声が議会沸き起こる。貴族達はまるで肩の荷が下りたかのような笑顔を浮かべていた。貴族達は自分たちが何をやったのかまるで分かっていないのだ。この場に真にアレイスターの事を理解している者が居たらきっと場にいる悪魔全員の事を愚か者と罵ったであろう。

  

「皆の物、ずいぶん楽しそうではないか。余も混ぜては貰えぬか」

 

「あ、アレイスター!!!」

 

  突然現れたアレイスターに議会は騒然となる。

 

「まぁそう騒ぐな。余は土産も持参したぞ?」

 

「ひっ!」

 

  そういってアレイスターは何か球状の物を議会の中心に投げ入れた。先程切り落としたマルコの生首だ。

 

「き、貴様!こんなことしてただで済むと思っているのか!」

 

「なに、この者は先程余を殺そうとしてきたのでな。正当防衛で殺してしまった。その時に何やら議会がどうのこうの言っていたが皆は何か知ってはおらぬか?」

 

「し、知らぬ!わし等は知らぬぞ!」

 

  議長が答えるがあくまでしらを切るらしい。

 

「誠か?」

 

「ほ、本当……ギャァァ!!」

 

  アレイスターが議長の腕を切り飛ばした。その行動に一切の容赦はない。他の悪魔はそれを見て顔を青ざめている。

 

「誠か?と聞いている」

 

「た、確かにお前を封印刑に処すことにはなっていた!しかし殺せとは言っていない!」

 

「ほう?最初からそういえば腕も無事だっただろうに」

 

  アレイスターは議長から目を外し議会をぐるりと見回した。場にいる悪魔達は次は自分の番ではないかと思い戦々恐々としながらアレイスターと目を合わせまいと下を向いている。

  沈黙が続く。しばらくするとアレイスターが口を開いた。

 

「それほど余が邪魔ならば自ら出て行ってやろうではないか」

 

  予想外のアレイスターの言葉に悪魔達は目を丸くした。

 

「本来ならば皆殺しにしているところだが…… 貴公らのような者でも居なくなればサーゼクス達が困るであろう。よって今回は殺しはせん」

 

  自らが助かったことに胸を撫で下ろす悪魔達。

 

「二度目はない。しかとその胸に刻んでおけ」

 

  その言葉を最後にアレイスターの姿が忽然と消える。緊張の糸がきれた悪魔達はその場にへたり込むのであった。

 

 

  ♢

 

 

「貴公らか。随分と情報が早いではないか」

 

「アレイスター、今ならまだ正当防衛で済むはずだ。戻ってくるんだ」

 

  もう少しで冥界の出口に差し掛かった所でサーゼクス、アジュカ、セラフォルーの三人が待ち構えていた。どうやら三人はアレイスターを引き止める様子だ。

 

「残念だがそうはいかない。もう悪魔につく義理などない。それに余はこの世界が知りたいのだ。大人しくそこをどいてもらおうか」

 

「君をはぐれにさせる訳にはいかない。それに僕たちは次期魔王だ。いくらかの口添えぐらいはできるはずだ」

 

「組織の長として私情を挟むのは感心せぬぞ、サーゼクス」

 

「アレイ君!」

 

「くどい。我を通すのなら力を持って示して見せよ」

 

  アレイスターから威圧感が噴き出す。

 

「マスター、そこの小娘は私にお任せ下さい」

 

「エセルドレーダか。まぁよい。殺さぬようにな」

 

「よう、アレイスター。ずいぶんと可愛い子連れてるじゃねーか」

 

  アレイスターの横に少女が現れる。三人は一瞬驚くが警戒を緩めることはない。なぜならばその少女からはアレイスターと同等の威圧感が感じられるからだ。

 

「ふむ、貴公らには見せた事が無かったか。紹介しよう。我が相棒にして、最愛の伴侶。エセルドレーダだ」

 

「始めまして、マスターの友と雌猫」

 

「うそ……」「本当かい?」「マジか」

 

  サーゼクス達は三者三様に驚く。まさか友人が結婚しているとは思わなかったからだ。特にセラフォルーは呆然としている。

 

「さぁ、いつまでも話していてもしょうがない。いい加減始めようではないか」

 

「貴方の相手は私よ、雌猫」

 

「ッ!」

 

  アレイスター、エセルドレーダ対サーゼクス達の戦いが始まった。

  戦いといってもアレイスターから攻撃する事はない。ただひたすら相手の攻撃を弾く、弾く、弾く。サーゼクス達も全力を持って攻撃するがアレイスターはまるで意にかいした様子はない。

 

「もう気は済んだか?」

 

「はぁ……はぁ…… ま、まだだ……」

 

  いかにサーゼクスとアジュカが超越者と言われていようともアレイスターとではそもそもの自力が違いすぎる。その差は歴然であった。もはやサーゼクスとアジュカの体力は尽きかけていた。

 

「マスター、こちらは終わりました」

 

  エセルドレーダがアレイスターに声をかける。その姿はアレイスター同様、全く汚れておらず右腕にはボロボロのセラフォルーを抱えていた。

 

「よくやった、エセルドレーダ。さて、こちらも終わりとしようか」

 

  アレイスターが動く。次の瞬間、サーゼクスとアジュカは地面に倒れていた。構えていたはずだった。しかし何をされたかもわからずに地に伏している。

 

「あ……れい……すた……」

 

「今日、余達の歩む道は別れる。だがいつかまたその道が交差する日がくるだろう。その日まで暫しの別れだ」

 

  その記憶を最後にサーゼクスとアジュカの意識は途切れた。

 

「いるのだろう?ファルビウム」

 

「アレイスターは何でもお見通しだね?」

 

  突然、アレイスターがファルビウムの名を呼ぶ。すると木の影からのそのそとファルビウムが現れた。

 

「貴公も余を止めるか?」

 

「えー、無理無理。サーゼクスとアジュカの二人掛かりでダメだったのに僕一人で何とかできるはずないじゃないか」

 

「ふっ、貴公らしい発言だな」

 

  アレイスターは笑う。ファルビウムもそれにつられて笑った。

 

「アレイスター、僕たちは頑張るよ。いつかこの冥界の体質を変えてみせる」

 

「そうか」

 

「きっとまた会える日がくる。君に何かあるとは思えないけど、それまで元気でいて」

 

「ああ。それではな、我が友ファルビウムよ」

 

「うん」

 

  アレイスターはファルビウムに背を向け歩き始める。

 

「これから何をしようか?エセルドレーダ」

 

「イエス、マスター。マスターが望むのならどのような事でも」

 

「そうか。そうだな、この世界のあらゆる魔術を知るのもよい。今度は純粋に魔術探求のためにブラックロッジを作るのもよいな」

 

「イエス、マスター。マスターと共にならどこへでも」

 

  この日、アレイスターははぐれ悪魔としての認定を受ける。そのランクは悪魔史の中で例のないSSSランク。ただし懸賞金はかけられる事は無かった。金に目のくらんだ若い悪魔達の犠牲をなくすための措置だ。

 

大戦を生き残った者はこう語る。

 

  その悪魔に決して手を出す事なかれ。

さもなければ死すら生ぬるい責め苦を負わされるであろう。

 

神殺しの悪魔、アレイスター。彼が表舞台に舞い戻るのはまだはるか未来のことであった。




第一部終了です。何話か閑話を挟んだあと原作に入ろうと思います。

そしてまさかのマルコ君再登場でした。

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