ハイスクールD×D ~転生した大導師~   作:尾尾

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第5話

 

  アレイスターの学院生活も五年が経ち、残すところ後一年。未だ他の生徒には怯えられているがファルビウム、サーゼクス、アジュカ、そしてセラフォルーという掛け替えのない友を得ることができた。

 

(まさか余に友などというものが出来るとはな……)

 

(イエス、マスター)

 

 アジュカとセラフォルーが騒ぎ、サーゼクスがそれを煽る。アレイスターがそれを見守りファルビウムは相も変わらず眠りこけている。アレイスターもこの他愛もない時間の事を気に入っていた。

  5人は思うーーーこのまま平和な時がずっと続けば良いのにと。

  しかし現実は無慈悲にもアレイスター達五人に襲いかかる。

  悪魔、天使、堕天使の三竦みによる戦争が始まったのだ。悪魔と堕天使が冥界の覇を掛けて争ったのか?それとも古来より続く天使と悪魔の小競り合いが発展したのか?戦争が始まった理由は誰にも分からない。小さな争いは昔からあった。それが何時の間にか大きな戦へと発展してしまったのだ。

 

「戦争は嫌だね。ゆっくり眠ることが出来なくなっちゃうよ」

 

「お前はどんな時でもそればっかだな」

 

  はぁ~、嫌だ嫌だと言いながらベッドで転がっているファルビウムへアジュカがツッコミを入れる。しかし何が起きようともマイペースを貫き通すファルビウムの存在はサーゼクス達にとって少しでも戦争の事を忘れさせてくれる為ありがたかった。

 

「今でこそ大人の悪魔達が戦っているけどこのまま戦争が激化すれば僕達学生も徴兵されるかもしれないな」

 

  サーゼクスがボソッと言った独り言によりアレイスターを除いた4人はまた顔を暗くさせる。

 

(マスター、マスターのお力を持ってすればこの戦争を終結させる事などたやすいのでは?)

 

(確かに余が天使と堕天使を皆殺しにすれば済むであろう。だがそれをすればもうこの4人とは共に居られぬ。大導師たる余が友を失う事を恐れるとはな……)

 

(マスター……)

 

  エセルドレーダは始めて聞くアレイスターの弱音に驚きを隠す事ができない。かつて背徳の獣、666の獣と呼ばれ大十字九郎以外に興味を示さなかった大導師マスターテリオンはこの世界で過ごす内に確実に変わってきているのだった。

 

 

  ♢

 

 

  戦争が始まって数ヶ月、遂にサーゼクスの予測通り学院の生徒も戦争に徴兵される事となった。ほとんどの貴族は悪魔こそが至高の種族であると思っている為、多くの学生達も我先にと勇んで戦争に参加していた。

  勿論アレイスター達も強制的に参加させられる事となる。学生でもとりわけ優秀な五人の力により悪魔陣営の戦線は持ち上がった。

  サーゼクス、アジュカ、セラフォルーの三人はその武勇を持って敵を殲滅しファルビウムはその類稀なる戦術、戦略を用い軍勢を指揮する。しかしアレイスターはその上をいった。アレイスターと相対した敵軍は必ず壊滅する。運良く生き残ったとしてもアレイスターへの恐怖心から二度と戦場に立つことができなかった。

  金色の髪をなびかせながらたった一人で敵軍を蹂躙する、その圧倒的な姿からアレイスターは天使、堕天使陣営からは畏怖を込めて金色の魔人と呼ばれていた。

  しかしいくらアレイスター達が勝利を収めようとも所詮それは局地的なものだ。元々天使、堕天使の扱う光に弱い悪魔は三竦みの中で最も弱い勢力である。現状、アレイスター達がいるからこそ何とか踏みとどまっている状況であった。

 

 

  ♢

 

 

「あの魔人をどうにかしなくてはなりませんね」

 

「しかし主よ、あの者の力はあまりに圧倒的。セラフであろうとあの者を討つのは厳しいでしょう」

 

  ここは天界。現在アレイスターへの対抗策を話し合っている真っ最中である。

 

「私に考えがあります。冥界の外れにあの魔人の母が住んでいるとの情報がありました。その者を襲い人質にしなさい」

 

「なっ⁉ 主よ!いくら戦争とはいえども民間人を狙うなど!それにその様な行動は我らの正義に反します!」

 

「よく聞きなさい、ミカエル。その者は悪魔に身を売った元エクソシストです。これは異端者への断罪なのです」

 

「しかし……しかしそれはあまりにも!!!」

 

「これは命令ですミカエル。エクスカリバーの使用を許可をします。これよりケルビムと共に冥界へ向かいあの魔人を討ちなさい」

 

「ぐっ!了解……しました……」

 

  ミカエルと呼ばれた天使は拳を握りしめ渋々と聖書の神の命令に従う。

  この時、行動したのが天使のみであったのならあの様な事は起こらなかったであろう。しかし不幸にも、そう不幸にも堕天使陣営も同じ事を考え行動を起こしていたのだった。

 

 

  ♢

 

 

  「何をしておるのだミカエル!早くしろ!」

 

「ケルビム…… やはりこの様な事は間違っているのではないか?」

 

「何を言うか!主の御言葉に間違えなどあるはずなかろう!」

 

  ケルビムと呼ばれた天使がミカエルの事を叱咤する。このケルビムという天使はセラフの中でも最も神に狂信的な天使であった。

 

「ミカエル!堕天使だ!堕天使が居るぞ!糞!奴らめ、どうやら同じ事を考えていたようだ。こうしてはおれん!私が堕天使を押さえる!お前は目標を確保しに行け!」

 

「え、ええ……」

 

  アレイスターの母、ミーシャが住む家へと着いた二人の天使は堕天使と一人の女が戦っている様子を目にする。情報通りなら炎の神器を使用しているあの女が目標人物なのであろう。ケルビムは堕天使に奪われまいと急いで戦いに介入する。

 

「貴様ら堕天使の好きにはさせんぞ!」

 

「くっ!天使まで!」

 

  ミーシャの体は堕天使との戦いで既に満身創痍だ。かつては凄腕エクソシストであったが長く戦いから離れていた上に堕天使の数は10人以上。中級、下級堕天使のみのようだが多勢に無勢であった。むしろ今まで持ったのが奇跡的だ。

  

「ふん!見よこのエクスカリバーの輝きを!貴様ら堕天使などものの数ではないわ!」

 

  ケルビムの介入により次々と堕天使の数が減らされてゆく。ただでさえ上位天使であるケルビムが聖剣エクスカリバーを持っているのだ。中級、下級程度の堕天使では相手になるはずもなかった。

 

「ちっ!天使が出てくるとは!ここは俺が押さえるからお前は目標を連れて撤退しろ!」

 

「わかった!」

 

「きゃっ⁉」

 

  ケルビムに叶わないと悟ったのか一人の堕天使がミーシャを捉え撤退しようとする。この時既に堕天使を振り払う力がミーシャには残っていなかった。

 

「何をしているミカエル!奴を逃がすな!」

 

「くっ!」

 

  慌ててミカエルが光の槍を投げるが集中力のない槍は簡単に避けられてしまう。

 

「もうよい!私がやる!主の命を遂行出来ないのは残念だが堕天使に連れていかれるぐらいならここで滅してくれるわ!食らえ!!!」

 

  ケルビムの持つエクスカリバーから特大の斬撃が飛び出す。それはやすやすと堕天使とミーシャを飲み込んだ。その一撃はまさに聖なる一撃。斬撃が通った後にはもはや何も残っていない。この場で生きているのはケルビムとミカエルの二人の天使のみだ。

 

「ミカエル!貴様のせいで主の命を成し遂げる事ができなかったではないか!」

 

「申し訳ありません……」

 

「もう良いわ!懺悔は主の前で行え!天界へ帰るぞ」

 

  二人は天界へと帰還しようとする。しかしその時何処からか底冷えのする様な声が聞こえてきた。

 

「貴様ら…… 一体何をしているのだ……」

 

「ぐっ!」「ぬ!」

 

  途轍もない重圧が二人を襲う。気がつけばアレイスターが二人の目の前に佇んでいた。

 

「でおったなアレイスター!今しがた貴様の母親を断罪したところよ!貴様もこのエクスカリバーの錆びにしてくれるわ!」

 

「余の母を……殺した……?」

 

  ケルビムがエクスカリバーで斬りかかる。

 

「な、なんだと⁉エクスカリバーが⁉ぐっ!」

 

  しかしアレイスターはそれをまるでハエを払うかのような動作で弾く。ただそれだけでエクスカリバーがガラス細工のように粉々に砕け散った。エクスカリバーが折れた事に驚愕するケルビムはその隙にアレイスターに首を掴まれる。

 

「がっ!き、きさま……」

 

「お前が?お前如きが余の母を殺したというのか?」

 

「ぐ、ぐぅぅぅ!」

 

  徐々にアレイスターの手の力が強まっていく。

 

「ケルビムを離しなさい!」

 

  ミカエルがケルビムを助けようと光の槍をアレイスターへと放つ。しかしその時アレイスターの横で浮かんでいた本が一瞬輝き次の瞬間、本は少女へと変化した。そしてミカエルの槍は容易くその少女によって防がれた。

  

「マスター、只今戻りました」

 

「大義である、エセルドレーダ」

 

  アレイスターの事をマスターと呼ぶ謎の少女。アレイスターに従者のように従っていた。

 

「余は怒っているぞ。あぁ、怒りという感情をこんなにも感じるのは初めてだ」

 

「っ⁉」

 

  アレイスターがそう言うと何時の間にか周囲の光景が変わっていた。先程の場所ではない。360度何処を見ても真っ暗闇で音も何も聞こえなかった。

 

「貴様らには無限の苦痛を与えよう。喜べ、滅多に味わえるものではないぞ」

 

  そこから先は地獄だった。アレイスターによって焼かれ、斬られ、砕かれ、潰される。手足を折られ、目玉はくり抜かれ、内臓を生きたまま抜き出され、心臓を目の前で潰される。身体中磔にされ謎の生き物に貪られる。毒に侵され全身に酸を浴びせられる。只々ケルビムとミカエルの絶叫だけが響き渡っていた。

  死にたい!そう叫んでもそれが叶う事はない。一体全体どういう訳か死ねないのだ。いや、正確には死んでも生き返らされるのだ。殺されて生き返る、殺されて生き返る。永遠と続く拷問のなかで見えたアレイスターの顔は深い悲しみと憎悪に染まっていた。

  あぁ、これは罰なのだ。ミカエルは終わらないループの中でそう思った。狂いそうになるが狂う事はない。もういっそ狂ってくれた方が楽になれるのに。ただ全身の痛みと死ぬ事への恐怖がミカエルを襲い続けた。

 

「貴様は伝令役だ。帰って聖書の神に伝えよ。貴様は余が直々に殺すとな」

 

  もうどれだけの時間がたったのだろう、一体何回死んだのだろう。気がつけばミカエルは天界の宮殿の目の前で倒れていた。手足は潰れ身体中の骨は折れている。普通ならば間違いなく死んでいる怪我だ。恐らくアレイスターによって無理矢理生かされているのだろう。辺りにケルビムが居る様子はない。アレイスターの言葉通り自分だけが神への伝令として生かされているのだ。薄れゆく意識の中で辺りが騒がしくなるのを感じた。聖書の神はもう終わりだ。あれに手を出すべきではなかったのだ。驚愕した表情の神を見ながらミカエルは意識を失うのであった。

 

 

  ♢

 

 

  ミカエルとケルビムへの制裁を終えアレイスターとエセルドレーダは今はもう見る影もなくなってしまった実家の前にいた。

 

「マスター、私が完全に機能を取り戻した今ならお母上を復活させられるのでは?」

 

「それはならんエセルドレーダ。確かに生き返えらせることはできる。しかし母の肉体と魂は既に消滅している。もし生き返らせてもそれは母の情報をコピーした唯の肉人形でしかないのだ。幾度となく世界を壊し作り出してきた余が言う事ではないがな」

 

「マスター……」

 

「母の命はここで終わった。そう、終わったのだ。良き母であった。願わくば最後にもう一度、もう一度だけお会いしたかった……」

 

  世界を超えた大導師マスターテリオンはこの日初めて涙を流す。

  マスターテリオンが立ち去った後には光り輝く立派な墓が立てられていた。

  その墓にはこう彫られていた。

 

『偉大なる母ミーシャ   ここに眠る』

 

  

 

  


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