ハイスクールD×D ~転生した大導師~   作:尾尾

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第3話

 

  あれから一月が経ち、今日はついにルシファード王立学院の入学式だ。

 

(ここが学校という物なのだな)

 

(イエス、マスター)

 

  現在入学式の真っ最中であり魔王ルシファーが壇上で話をしている。この学院はルシファーが魔王と兼業で学院長を務めているらしい。ルシファーが出てきた瞬間に式場の空気がピシッと引き締まる。教師達からはルシファーの事を崇拝していることがよく感じられるし生徒も羨望の眼差しで壇上を見つめている。アレイスターの隣の席で先程まで居眠りをしていた生徒も何時の間にか起きているようだった。

 

(ほぅ、あれが余の父の王、魔王ルシファーか。力はさて置き人の上に立つだけの人望はある様だ)

 

(イエス、マスター。しかし所詮はただの悪魔、マスターの障害とはなり得ません)

 

(ふっ、その言い方では余が何か企んでいる様に聞こえるではないか)

 

(いえ!その様なつもりは!)

 

(ふふ、そう謝らなくてもよい。今はただこの世界を満喫するのみよ)

 

  アレイスターがエセルドレーダと念話をしているうちにどうやら入学式も終わった様だ。ルシファーが話の終わりにアレイスターの方を見てきたが大方自らの眷属の息子が気になるのだろう。アレイスターは特にそれを気にすることはなかった。

  本日の予定は終了となりとりあえずここで解散となっていた。どうやら授業などが始まるのは明日かららしい。学院の暮らしは寮生活なのでとりあえずアレイスターは寮へと向かうのだった。

 

 

  ♢

 

 

「なるほど、ここが学院寮か」

 

  アレイスターの目の前には何処の高級ホテルかと見間違うほどの建物がそびえ立っている。学校の寮としては些か不釣り合いだが貴族の子供たちが住むと考えれば妥当なところなのだろう。学院のパンフレットには寮は二人部屋であると記載されていた。しかしこの分だと二人部屋だとしても十分な広さを確保できることが伺える。

 

「失礼する。今日から同室になったものだ。これからよろしく頼む」

 

  アレイスターは自室のドアをノックし中の者の声をかけた。しかし、中からは返事が帰ってこない。

 

(マスターの呼び掛けに答えないなど無礼千万!私が断罪して差し上げましょう!)

 

(落ち着けエセルドレーダ。単にまだ到着していないだけかもしれん)

 

  エセルドレーダが憤慨しているがどうやら同室の者は留守の様である。なので先に部屋に入らせてもらおうとアレイスターはドアを開け部屋に入った。

   部屋の中は何とも殺風景な光景が広がっている。設備は机が二つとベッドが二つ、そして収納スペースのみという実に簡素な物であった。しかし、流石と言うべきか机とベッドは最高級品である。恐らく他の家具は入居者が持参する物なのだろう。

 

「Zzz……」

 

(なっ‼マスターの呼び掛けに答えずあまつさえ眠っているとは!!!もう許せません!)

 

(まぁそういきり立つな)

 

  二つあるベッドの片方から寝息が聞こえてきた。よく見れば布団が盛り上がっている。めくってみれば入学式の時隣の席に座っていた生徒が眠りこけているのがアレイスターの目に飛び込んできた。

 

(この者は入学式でも居眠りをしていただろう。恐らくこういう性分なのだ。ほうっといてやれ)

 

(イエス、マスター……)

 

  エセルドレーダは不服そうにだが従う。エセルドーレダのこの忠誠心は有難いがアレイスターはもう少し余裕を持ってもいいのではないかと思っていた。

 

「取り敢えず配付された教科書でもみてみるか」

 

  アレイスターは手持ち無沙汰になったため、おもむろに教科書を手にとって眺め始めた。学院の授業は魔術学、戦闘学、貴族の作法など多岐にわたるため教科書も様々である。アレイスターにとってはどれ一つとっても中々に興味深いものであった。

 

「ん~あれ~?誰かいるの~?」

 

「む、ようやく起きたか」

 

  そうこうしているうちに眠っていた同室の者が起きたようだ。まだ完全に起きていないのか寝ぼけた様な声を出している。

 

「今日から同室になったアレイスターだ。あいにくと貴族ではないので家名はないがよろしく頼む」

 

「うん、よろしく~ 僕はファルビウム・グラシャラボラスだよ~zzz」

 

  挨拶して名前を言ったかと思えばファルビウムはまたすぐに眠り始めた。

 

「なかなかマイペースな者の様だな。しかしグラシャラボラス家のものだったのか」

 

  グラシャラボラス家はソロモン72柱第25位、れっきとした貴族である。ファルビウムが貴族ではないアレイスターの事を見下す様な悪魔でなかった事は幸運であった。もしそうであったのなら良くて洗脳、最悪宇宙の塵になっていたのだから。

  ファルビウムが再び寝始めた後もアレイスターはパラパラと教科書を捲る。ふと気がつけばもう夜もかなり更けていた。

 

「明日から本格的に学院が始まるからな。余もそろそろ寝ておくか」

 

  本来睡眠など必要ないのだが一度習慣になってしまえば身体は切り替わるものである。今のアレイスターは夜はしっかり寝て早起きするという健康的な生活をおくっていた。

  備え付けられたベッドへと横たわる。さすが最高級品の事だけはある。アレイスターは全身が柔らかな羽に包まれた様に感じた。家のベッドとは比べ物にならんな、そんなな事を考えながらアレイスターは眠りに落ちるのだった。

 

 

 

 

「む、朝か」

 

  目を覚まし、ベッドからむくりと身体を起こす。やはりベッドは素晴らしくアレイスターにとってもかなり快適な使い心地であった。寮全体が慌ただしくなり始める。もう後30分もすれば朝のホームルームが始まるだろう。

 

「ファルビウム起きよ、もう朝だ。今日から学院だぞ」

 

「う~ん、僕はめんどくさいからサボるよ~」

 

  ファルビウムに声を掛けるが一向に起きる気配はない。どうやらファルビウムは睡眠魔ではなくただのめんどくさがりの様だ。

 

「しょうがあるまい。教室へは余が連れて行こう」

 

  アレイスターが魔力を練り浮遊術式をファルビウムに発動させる。するとファルビウムが毛布に包まれたまま宙に浮かび上がった。

 

「うわ~、これは便利だね。明日から毎日これで頼むよ」

 

  ファルビウムは気に入ったのかご機嫌な様子でフワフワと浮いている。

 

「それでは教室へと向かうとしよう」

 

  そのまま転移術式を発動させ二人は教室へと転移するのだった。

 

 

  ♢

 

 

  教室へと二人が転移をすると教室内が一瞬にして静まり返る。

 

「ふむ、皆のものどうかしたのか?」

 

  クラスメイトにそう問いかけるが反応が帰ってくる事はない。ファルビウムは既に空中で毛布に包まり寝始めている。すると赤髪の青年がアレイスターに話しかけてきた。

 

「学内は転移が出来ないはずだから君が教室に転移してきたのを見て驚いているんだよ」

 

「なるほど、して貴公は?」

 

「僕はサーゼクス・グレモリー。グレモリー家の長男だ」

 

「ああ、余はアレイスター。家名はない。これからよろしく頼む」

 

  アレイスターが名乗ったところで教室が一瞬湧いた。サーゼクスもそうか、君がとつぶやいている。やはり貴族でないというのは珍しいのであろう。大半の者が興味深そうな、また見下すような視線でアレイスターの事を見ている。

 

「皆さん、ホームルームを始めますよ」

 

  そこへメガネを掛けた人の良さそうな男が教室へ入ってきた。恐らくこの男がこのクラスの担任なのであろう。生徒たちは教師を見るや否や、いそいで自分の席に着いた。

 

「皆さんおはよう御座います。今日から皆さんの担任を務めさせて貰いますニコル・ハーゲンティです」

 

  ニコル教諭が壇上に立ち自己紹介をする。ハーゲンティといえばソロモン72柱第48位、やはりこの学院では教師もそれ相応の家柄を持つものがつとめているようだ。

 

「この学園は立派な悪魔として相応しい力、知恵、振る舞いを身につけて貰います。ぜひ同じクラスメイトの仲間たちと切磋琢磨して将来立派な悪魔になって貰いたいと私は考えています。本日の予定は皆さんの力量を把握するための筆記テストと模擬戦です。さぁ、いきなりですが先ずは筆記テストを始めますよ」

 

  そう言うとニコル教諭はテストを配り始める。内容を見れば魔術の知識、ソロモン72柱、礼儀作法などの様である。アレイスターの様に長い時を過ごしていればある程度の知識は着くというものだ。開始五分ほどでアレイスターはさっさと終わらせた。チラリとファルビウムの方を見てみれば案の定眠っている。しかしどうやらテストはしっかり終わらせている様子だ。ファルビウムは存外優秀な奴なのかもしれん、余った時間でアレイスターはそんな事を考えていた。

 

「はい、そこまでです。次は模擬戦に移ります。今から20分後に開始しますのでそれまでに運動場に集合しておいてください」

 

  次は模擬戦である。この学院の生徒はアレイスターを除いて全て貴族で構成されている。貴族の悪魔は変わった力を持つ家が多かった。なので恐らく模擬戦でもその家柄特有の様々な力を見る事ができるだろう。アレイスターはそれを楽しみにしながら運動場へ向かうのだった。

 

 

  ♢

 

 

  時間になるとニコル教諭が二人づつ名前を呼び始めた。どうやら一対一の模擬戦の様である。

 

「ルールは相手が降参するか私が止めるまで。フェニックスの涙があるのでたとえ大怪我を負ってしまっても大丈夫なので安心してください。この模擬戦は皆さんの現在の力量を測るものです。なので相手を殺さない限りは全力で行ってください」

 

  教師の合図と共に次々と模擬戦が始まる。しかしまだまだ若い悪魔ばかりなので、ただ魔力弾をぶつけ合ったりするだけの大して見応えの無い試合ばかりが行われていく。本人達は真剣なのだろうがアレイスターにしてみれば子供のお遊びでしかない。

 

(随分低レベルな戦いですねマスター。見る価値もありません)

 

(そう言ってやるなエセルドレーダ)

 

  アレイスターも確かにエセルドレーダの気持ちも分からない事は無かった。少しがっかりしつつもファルビウムの方を向いて見れば、既にファルビウムは試合を棄権し木陰で寝入っていた。

  数分後、サーゼクスの名前が呼ばれた。どうやら次の試合はサーゼクスらしい。サーゼクスは恐らく他の者とは違うであろう、そう感じていたアレイスターは期待しつつサーゼクスの試合を見つめる。

  試合の開始と共にサーゼクスが魔力弾を放つが相手はそれをよける。しかし外れた魔力弾が運動場の壁を大きく削り取った。消滅の魔力だ。それは本来、バアル家特有の力、サーゼクスの母はバアル家出身なのでサーゼクスがその力を引き継いで生まれたのだ。ここにきて初めてアレイスターの興味を引く力であった。それを見た相手はその威力に戦意喪失している。どうやらそのまま降参したようだ。恐らくこのクラスではサーゼクスが最も強いのだろう。相手の不甲斐なさに不満を抱きつつもアレイスターは笑みを浮かべるのだった。

  

 

  ♢

 

 

「次!マルコ・マルファスとアレイスター!」

 

「ふむ、ようやく余の番か」

 

「お前がアレイスターか。この学院はお前みたいな平民がいて良いような場所じゃないんだよ。どうせ親に頼んで無理やりいれてもらったんだろう!!俺が勝ったらこの学院から出ていくんだな!」

 

「マルコ・マルファスといったか?貴様の様な存在は既知である。つまらん、実につまらんな」

 

「なっ‼」

 

「二人とも!早く準備をしなさい!」

 

  マルコはアレイスターの眼中には全く入っていなかった。しかしエセルドレーダが念話で怒声を挙げている。

 

(あの無礼者には一切の容赦は入りません。ハイパーボリアゼロドライブを撃ち込んであげましょう)

 

(そんなもの撃ったら冥界その物がなくなってしまうだろう。それにあれはリベル・レギスがないと撃てん)

 

「それでは試合開始!」

 

「くたばれこの平民がーーッ!!!」

 

  マルコが開始の合図と共に大量の魔力弾を放つ。そしてそのままアレイスターへと命中し爆音と共に大量の土煙を巻き上げた。

 

「ははは!どうだ!平民なんかがここに来るからいけな「もう終わりか?」 は?」

 

  土煙が収まるとそこにはまるで何もなかったかのようにアレイスターが佇んでいた。

 

「やはり貴様はつまらんな。あれだけ大言をはいた癖にこれだけの攻撃しか出来ないのか」

 

「な、な、なんで⁉」

 

「もうよい、早々に去ね」

 

「ギャー!!!」

 

  アレイスターが指を鳴らすとマルコの影がまるで生きているように動きだしマルコの四肢を切断する。そしてそのまま胴体を串刺しにした。

 

「な⁉お、終わりです!もうやめなさいアレイスター!!!」

 

  再びアレイスターが指を鳴らすとマルコを串刺しにしていた影が元に戻りマルコがドサッと地面に落ちた。慌てて教師が近づきフェニックスの涙を振りかけるが損傷が大き過ぎるせいかあまり効果が見受けられない。

 

「ふむ、フェニックスの涙も存外たいしたことがないな」

 

「呑気にそんな事を言っている場合ではありません!!!貴方が引き起こした事なのですよ!!!」

 

「そう騒がなくても大丈夫だニコル教諭。これを治せば良いのだろう?」

 

  アレイスターはそう言うとまた指を鳴らす。すると一瞬マルコを光が包む。光が収まるとそこには気絶した五体満足のマルコの姿があった。

 

「これで良いのだろう?」

 

「あ、ああ……大丈夫です……」

 

  ニコルはフェニックスの涙を持ってしても治らなかったマルコの傷をアレイスターが一瞬で治したのを見て呆然とする。殺す以外なら何でも良いといったのは自分である、マルコが無事だった以上ニコルはアレイスターを叱ることはできなかった。

  マルコを治療したアレイスターはファルビウムの元へと歩みを進める。先程の惨状のせいかクラスメイト達は次々にアレイスターへと道を開けている。クラスメイト達はかなり怯えているようであった。そこへただ一人、アレイスターへと声をかける者がいた。サーゼクス・グレモリーである。

 

「今のは少しやり過ぎじゃないかな?アレイスター」

 

「やり過ぎ?あれがか?」

 

  サーゼクスが少々怒気を含めながら問い詰めるがアレイスターは心底理解できないといった表情を浮かべる。

 

(あれはやり過ぎだったか?エセルドレーダ)

 

(いえ、全くそのようなことはありませんマスター。邪神の幻覚を見せて精神崩壊させてもまだ優しいぐらいです)

 

  アレイスターはエセルドレーダにも尋ねるが当然と言ったような返答が返ってくる。

 

「四肢を切断する必要はなかっただろう」

 

「なるほど……あれはやり過ぎだったのか。すまんな、次からは気をつけよう」

 

「え?あ、ああ。そうしてくれ」

 

  サーゼクスとしてはもしかしたらアレイスターと事を構える事になるかもしれないと思っていたがアレイスターがすぐに謝ったので呆気にとられる。アレイスターとしても常々以前と同じ感覚ではいけないと考えていたので素直にサーゼクスの言葉に従うのであった。

 

 

  ♢

 

 

  放課後、アレイスターは学院長に呼び出されていた。十中八九模擬戦の事だろう。

 

「アレイスター、只今到着した。入室許可をもらおう」

 

「おう、入れや」

 

  無駄に豪華な扉の奥から魔王ルシファーの声が聞こえる。大導師マスターテリオンと悪魔の王、魔王との会合が今始まるのだった。

 

  




学院編はすぐ終わる予定。

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