「マスター、朱乃がリアス・グレモリーに接触、予定通り眷属になる事に成功しました」
「そうか……」
朱乃をアレイスターが引き取ってから数年、そこそこの力をつけた朱乃はある任務を言い渡された。その内容は現ルシファーでありアレイスターの友でもあるサーゼクスの妹、リアス・グレモリーの眷属になれという物であった。これはアレイスター達が悪魔陣営の情報を得るための俗にいうスパイである。リアス・グレモリーが選ばれたのはグレモリー家が情愛に深い一族かつサーゼクスもいるので、いざという時にどうにかなる可能性が高いためであり、さらにアレイスターには朱乃に同性の友を持って欲しいという気持ちもあったからである。
無論、悪魔陣営だけというわけでなくそのうちフリードを天使、もしくは堕天使陣営へと潜り込ませるつもりであった。
「マスター?どうかなさいましたか?」
アレイスターはエセルドレーダの報告を聞いている時もなにやら不満気な顔をしていた。朱乃は無事、その任務を果たした。エセルドレーダには特にアレイスターが不機嫌になる訳が思いつかない。どうやらそれはフリードも同じようで不思議そうに首をかしげている。
「エセルドレーダ、魔術師が足らん」
「は?」
アレイスターの言葉に一瞬理解する事が出来ずにポカンとしていると、アレイスターがその先を話し始める。
「魔術師だ、魔術師。我がブラックロッジは魔術結社だというのにエセルドレーダを含めても魔術師が2人しか居ないではないか。その上、フリードはまるで魔術が使えん」
フリードがグフっ!とショックを受けているのを横目で見る。結局、フリードには魔術の才能が欠片も存在しなかった。魔力が全く存在しなかったのだ。魔術結社の構成員としてはどうなのかと思うが、使えないならしょうがないとフリードは己の剣の技術を鍛え続けた。結果、そこらの魔術師よりよっぽど強くなり戦闘員としては非常に優秀であった。
「これは由々しき事態だ。なので余はスカウトへ行こうと思う」
「はぁ」
いつになく熱くなっている自身のマスターに流石のエセルドレーダも若干の呆れ顔だ。だが確かにアレイスターの言葉も最もである。たった二人では組織を名乗ることさえ難しいだろう。少数精鋭にも程がある。
「実はもう目星をつけている人物がいる。これからその者の所へスカウトへ行ってくるぞ。ついて来いフリード」
「あいさー!」
先ほどまでショックを受けていたフリードはアレイスターの言葉を聞いた瞬間に元気の良い返事をして復活している。まさに忠犬フリードだ。
「はぁ……いってらっしゃいませ」
エセルドレーダは呆れながらもアレイスター達を見送る。
アレイスターはフリードを引き連れて意気揚々とスカウトとやらへ向かうのであった。
♢
「曹操、次はフランスへ行こう。どうやらジャンヌ・ダルクの子孫が居るらしい。そいつも十分英雄の素質があるだろう」
「フランスか…… ゲオルク、今度は本当だろうな。今回みたいにハズレだったらいい加減怒るぞ」
「ははは…… 今度こそは大丈夫さ」
ここはトルコの片田舎。まだ日は沈み切っておらず鮮やかな夕焼けが空を染めている。そこを二人の学生服を身に纏った中学生らしき少年達が歩いていた。曹操と呼ばれた少年は学生服の上から漢服を羽織っていて、もう一人の少年はローブの様な物を着ている。
「今回もゲオルギウスの子孫が居ると聞いていたんだけどね?リサーチ不足だったよ」
「全く……」
相方の無責任な言葉に曹操は呆れた様にため息を漏らす。ゲオルクという男は優秀ではあるのだが今回の様にしょうもないミスをする事がしばしばあったのだ。二人はそこそこ長い付き合いであるのでもう曹操がそれに苦言を言う事はない。もはや慣れてしまったのだ。
「英雄の子孫達はなかなか集まらないが神器所有者はだいぶ集まってきたな」
「あぁ、しかしやはり世界中どこでも神器所有者というのは迫害されているんだな。……被害を被るのは何時も俺たち人間だ」
「だけど曹操、俺含め皆、神器所有者は君に救われてきたんだよ」
「恥ずかしい事をいうな」
曹操は恥ずかしそうに顔をそっぽに向けた。ゲオルクは微笑ましそうにそれを見ている。はたからみても仲がいいのがよく分かる光景だ。
「ッ!曹操!!!」
「分かっている!」
次の瞬間、二人は一瞬顔を見合わせると臨戦体制をとった。曹操は手に光り輝く槍を、ゲオルクは霧の様な物を辺りに発生させている。二人の顔は先程の軽口を叩き合っていた時とは打って変わって真剣なものとなり、額に汗を垂らしながらある一点を見つめている。
「ほう?やはり二人とも優秀な様だな、フリード」
「はいな、ボス」
曹操、ゲオルクが見つめていた場所に突如、魔法陣が出現しその上に二人の人物が現れた。
「始めまして、余はブラックロッジが大導師マスターテリオン。こちらは部下のフリードだ」
「どうもよろぴく~♪」
一人は金髪の、もう一人は白髪の男だ。白髪の方はまだいい。確かに強者の雰囲気は感じられるがまだわかる。だがもう一人は別だ。恐ろしい程の力を感じる。気を抜けば膝まづいてしまいそうになるのを曹操は必死に堪えた。それに今この男は何といった?マスターテリオン…… その名は……
「金色の魔人…… アレイスター……」
「ふむ、余としてはマスターテリオンの方を広めたいのだが…… 何故何時もアレイスターと呼ばれるのだろうかフリード」
「そりゃ昔の大戦の時のボスの悪名が強すぎるからでしょ」
「なるほど」
曹操は目の前で楽しそうに会話をしている二人を目にしながらも槍を握る力を緩める事は無い。何故なら目の前の人物が圧倒的な強者だからだ。金色の魔人アレイスター、かつて大戦時に天使、堕天使両陣営に莫大な被害をもたらし二天龍さえ容易く屠ったと言われている大悪魔だ。大戦を生き残った者たちは今だにアレイスターの事を恐れているという。
この時、曹操自身は気づかなかったのだが槍を握る自身の手は力を込め過ぎて真っ白になっていた。
「それで、マスターテリオン殿は私達なんぞに一体何の用があるのでしょうか?」
「そう固くならんでもいいぞ、三国志の英雄の子孫、曹操よ。余が会いにきたのは貴公では無い。ゲオルク・ファウストの子孫、そなただ」
「俺ですか?」
ゲオルクはまさか自分とは思わなかったため変な声が出そうになるが、それをぐっと堪える。ゲオルクの持つ神器、絶霧は神滅具だ。アレイスターはそれが狙いなのだろうか?二人はそう考えるがその予想はアレイスターによって否定される。
「何か勘違いしている様だが余が欲するのは貴公の持つ神滅具などでは無い。それが持つ能力など余にかかれば魔術で再現出来る程度の物だ。余が真に欲するのは貴公の魔術の腕、つまり貴公自身だ」
「ッ!なんと…… それは光栄だ」
ゲオルクは絶霧を再現出来るというアレイスターの言葉に絶句するが、実際にアレイスターが言うのだから可能なのだろう。それよりも驚愕すべきはアレイスターが自分が欲しいと言ったことだ。おそらく世界で最も魔術に精通した男であろうアレイスターからそう言われるのは魔術師としては素直に嬉しかった。しかしゲオルクにはその誘いを受ける気はなかった。
「貴方の言葉は非常に嬉しい。だが俺はその誘いを受けるつもりはない」
「ほぅ?」
アレイスターの表情が心なしか楽しそうな表情へと変わった。薄く笑みを浮かべ、視線でゲオルクにその先を言う様に促している。
「俺は既に曹操というリーダーがいる。曹操の英雄になる、そして人間としてどこまで行けるかを追求するという信念に共感してるんだ。だから貴方の誘いは断らせてもらう」
「ゲオルク……」
ゲオルクはアレイスターを目の前にしてハッキリと拒絶の言葉を口にした。曹操は嬉しそうな、驚いた様な顔をしている。すると、それを聞いたアレイスターは手を叩きながら笑い始めた。
「素晴らしい!人間としての高みを目指す、良いではないか。余は常々、最も強い生き物は人間であると思っている。貴公達の信念は実に素晴らしいな」
金色の魔人は人間の可能性を語る。その様子は実に楽しそうだ。アレイスターの怒りをかうのではないかと思い、内心戦々恐々としていたゲオルクはアレイスターのその反応に呆気にとられる。
「誘いを断られてしまったのは残念だが良き者達に出会えた。余は貴公達の行く末を楽しみにしているよ。帰るぞ、フリード」
「はいな。でもボス、俺っち来た意味あったんですか?」
「特に無いな」
「ちょ!ボス!」
アレイスターとフリードはそう言うと曹操達の目の前から姿を消した。アレイスターの姿が消えた瞬間、身体にかかっていた重圧が消え失せる。二人はホッと肩を撫で下ろした。
「ふぅ~ いやはや驚いた。まさか金色の魔人のお出ましとは。全く生きた心地がしなかったな」
「あぁ、俺は曹操が手を出すんじゃないかとヒヤヒヤしたよ」
「いや、あの隣にいたフリードとかいう奴が睨みを効かせていたからな。手を出し様にも出せなかった。今の俺では金色の魔人はおろかあれにも敵わないだろう」
ゲオルクは曹操の言葉に驚く。何故ならフリードがそこまで強い様には見えなかったからだ。
「そんなにか?正直そうは見えなかったが……」
「軽そうな奴だったがあれは強いぞ。いくら挑んでも切り捨てられるビジョンしか見えなかった。それにあの金色の魔人の側にいる奴が弱いはずがないだろう?」
言われてみればそれもそうか、とゲオルクは思う。こんなトルコの片田舎で予想外のエンカウントをするとは思ってもみなかった二人は一気に精神力を使った気がした。
その後、曹操とゲオルクは当初の予定通りフランスへと向かうのであった。
♢
暗闇の森の中を一人の着物を着た女性が走っている。その後ろからは何人かの追っ手がその女性を追いかけていた。
「はぁ……はぁ……」
「ははは!何時までも逃げられるとは思うなよ!」
最悪だにゃん……追っ手はまだまだ沢山いるし……
「痛っ!」
「ふはは!遂に追い詰めたぞ、SSランクはぐれ悪魔、黒歌よ!」
「チッ!」
私、黒歌は主殺しをしてはぐれになった転生悪魔。妹の白音を守るためとは言え肝心の白音には拒絶されてしまった。それから追っ手の悪魔達から逃げる日々が始まった。逃げても逃げてもそれは終わらない。私はそこそこ強いっていう自負があったから今まで追っ手に捕まる事はなかったけれど、追っ手を殺してしまう事はあった。そのせいでどんどんはぐれとしてのランクが上がっていき、遂にSSランクになってしまった。SSランクといえば上から二つ目、その上があの金色の悪魔のみということを考えれば最上位と言っても過言ではない。その結果、悪魔達も本腰をいれ始めたのか今までとは違い大戦を生き残った古くからの強者達を送り込んで来た。力では負けるつもりは無かっけど相手は経験が違う。徐々に徐々に追い詰められてしまったのだ。
「散々逃げ回ってくれたがそれも今日で終わりだ!Sランク以上は生死問わず。今まで貴様に殺された同胞の敵をここでとってくれる!」
「白音…… ゴメンね駄目なお姉ちゃんで……」
足は傷つき動かない。もうダメだ……殺されると思った時、誰かの声が辺りに響いた。
「変わった気配があると思えば…… 面白そうな事になってるではないか」
金髪と白髪の2人組だ。二人ともどう見てもヤバそうな感じがする。絶望が二倍になったかと思えば、今にも私を殺そうとしていた奴が悲鳴を上げた。
「あ、あ、あ、アレイスター!な、何故だ!何故貴様がこの様な所にいる!」
「アレイスター!?」
さっきまで余裕な態度だった追っ手の悪魔が狼狽え始めた。顔は青ざめて全身が震えている様に見える。何事!と思ったけど追っ手の口にした名前に私も驚愕と共に納得した。金色の悪魔アレイスター、そんな大物が現れるとは思っても見なかったからだ。
「ふむ、貴公は猫又か?なるほど……」
「にゃ!にゃあ……」
アレイスターが私を見つめている。美しい金色の瞳だ。まるでその瞳に吸い込まれるような錯覚を味わう。そして、同時に猫又としての本能が私に告げた。この人は格が違う、逆らってはダメだと。
「あ、あ、アレイスター!い、今ならその悪魔をおいて去るとならば、み、見逃してやらんこともないぞ!むしろそのままいなくなって欲しいな~なんて……」
「外野が煩いな…… フリード、始末しろ」
「了解っすボス」
「な、何だ貴様は!やめ……ギャー!」
あっ…… 白髪に追っ手が殺されたにゃん。さっきまであれだけ余裕かましてた癖に最後はかませみたいなやつだった。それでもあいつを瞬殺するなんて、白髪の方もヤバ強いにゃ。
「貴公、名はなんという?」
「く、黒歌だにゃ」
「黒歌か、貴公は何やら変わった術が使える様だな」
「仙術のことかにゃ?」
「仙術か…… ふむ、魔術適性も高そうだ。ならば黒歌よ、我が部下となれ」
「にゃ!?」
部下!?私が金色の魔人の!?
「なんだ?不服か?」
「そそそそんなことないにゃ!めっちゃ嬉しいにゃ!」
無理無理無理!この人からの誘いを断るなんて無理にゃ!
「よし、目当ての人物には断られてしまったが良い拾い物をしたな」
にゃ!なんか凄い上機嫌だにゃ!けっこう……いやかなりカッコいい……っていやいやいや!この黒歌さまに限ってそんなニコポみたいな……
白音ぇ…… お姉ちゃんヤバイのに目を付けられたかと思ったらもっととんでもないのに捕まっちゃったにゃ……
♢
後日、黒歌はブラックロッジが社員旅行もあり福利厚生もしっかりしている超優良企業?だと分かり大喜びするのだった。