のび太のBiohazard[The Nightmare]-Reconstruction- 作:青葉郷慈
のび太とスネ夫が保健室の戸を開けると、保健室の中には既にジャイアンと静香と健治と太郎と金田がいた。
「のび太とスネ夫も来たか。あれ、でも聖奈さんはいないんだな」
ジャイアンがそう言うと、のび太とスネ夫は少し言いにくそうな表情をした後、のび太が口を開いた。
「ごめん、聖奈さんとははぐれてしまったんだ。状況証拠から二階に行った可能性が高いんだけど、二階で誰かの気配か何かなかった?」
のび太がそう尋ねると、ジャイアンが答える。
「いや、俺たちが探索した時は、誰かいるような気配はなかったな。だけど、このままって訳にもいかない。のび太と健治で二階を捜索してくれ。俺としずちゃんで一階を捜してみる。スネ夫と太郎と金田さんは保健室に待機してくれ」
全員はジャイアンのその提案に賛成する。のび太は残弾の確認を済ますと、健治とともに二階に上がる。南舎西階段から二階に上がると、のび太は健治に尋ねる。
「健治さんたちはここの探索担当でしたよね? 全部の教室を調べたんですか?」
のび太がそう尋ねると、健治は答える。
「一応殆どは調べたけど、入れ違いになったという可能性もあるから、一度見た所ももう一度確認した方がいいかもな。ただ、更衣室だけは調べてなかったな」
健治のその言葉でのび太はあることを思い出す。
「そうだ! そういえば聖奈さんはここの女子更衣室の鍵を持っていたはず。もしかしたらそこにいるかも」
のび太がそう言うと、健治とのび太の二人は女子更衣室に向かう。健治がドアノブを少し捻って確認する。
「開いてるぜ。もしかしたらいるかもな」
健治はそう呟いた。そして、健治はゆっくりとドアノブを回して扉を開ける。女子更衣室の中は特に変わった様子はなく、聖奈もいなかった。
「いないな。別のどこかに行ったのか?」
健治がそう言うと、のび太は反論する。
「いや、もしかしたらロッカーに隠れてるだけかもしれない」
するとのび太は叫ぶ。
「聖奈さん。僕はのび太だ! いたら出てきてくれ」
のび太がそう叫ぶと、のび太たちから見て正面奥の左側にあるロッカーが開き、中からは聖奈が出てきた。
「聖奈さん! よかった無事だったんだね」
のび太がそう喜びの声を挙げると聖奈は謝る。
「すみません。ゾンビが予想以上にいてここに隠れざるを得ませんでした。心配かけてすみません」
聖奈が申し訳なさそうにそう話す。
「いや、無事ならよかったです。スネ夫の方がとても心配していますよ。今は保健室にいるので早く行きましょう」
のび太は聖奈にそう言い掛けながら、懐に入れておいた聖奈の通信機を聖奈に渡す。聖奈はそれを受け取ると、健治に話し掛ける。
「健治君もありがとうね」
聖奈がそう言うと、健治は気に入らなそうな態度をしている。
「別に俺は何もしてねえよ。それより緑川、今度ははぐれるような真似すんなよ」
健治は聖奈とは一切目を合わせずにそう言葉を吐いた。
「うん。解ってるよ」
聖奈がそう言いかけると、北の方角のすぐそばから異様な叫び声が聞こえてきた。それは明らかに人のものではなく、野生生物の声と比較しても一線を画していた。
「何、 今の声!?」
聖奈は驚いてそう叫ぶ。健治も予想外の事態に困惑していたが、のび太は違った。のび太は先程、美術室で見た日記の中身を思い出していた。
「バケモノ……変なおたけび……まさか」
のび太はそう呟くと、女子更衣室から出て、一目散に声がした方向に向かった。
「おい、のび太! 勝手に行くな! 緑川、お前は一旦保健室に戻れ! 俺はのび太を追いかける!」
健治は激しい剣幕でそう言うと、聖奈の返事も待たずにのび太を追いかける。
のび太は周囲の状況も見ずに、声がした方向に向かって走っている。
――雄叫びが聞こえたのは北のすぐそばだからおそらく北舎。それに少し上から聞こえたから、北舎中央部三階にいるはず。
のび太は渡り廊下を通り、北舎中央部二階の北舎西階段から北舎中央部三階に上がる。北舎中央部三階に上がると、理科室から何かが激突する音が聞こえてくる。のび太は慎重にその音の方に向かう。すると、後ろから来た人物がのび太の肩を掴む。
「おい、のび太。勝手に行くなよ」
そう言ってのび太の肩を掴んだのは健治だった。のび太は振り向いて健治に話し掛ける。
「ごめん。ちょっと気になることがあってつい先走っちゃったんだ。大丈夫だよ、無理はしないから」
すると健治はのび太に注意する。
「それでも勝手な単独行動はまずい。いくらのび太が今まで一人でもうまく生き延びられたとしてもな」
「わかったよ。これからは気を付ける」
のび太は軽く謝ると、続けて話す。
「さっき聞こえた何かが激突する音は、この階の理科室辺りから聞こえたんだ。そこを調べてみよう」
のび太はそう話しながら理科室に向かって歩く。
「仕方ねえな。理科室を調べたらすぐに保健室に戻るぞ」
健治はそう言いながらのび太についていく。理科室の戸はスライド式の戸であるが、内側から何かが激突したかのように歪な形になっていた。のび太はその戸を開けようとしたが、歪んでいる為、開けられなかった。
「のび太、もういいだろ。ここの調査は後でやろう」
健治はのび太にそう言い聞かせると、のび太はしぶしぶ了解したが、理科準備室の扉の前を通った時、のび太の耳に何かの物音が聞こえた。
「ちょっと待って健治さん。今、理科準備室から物音が聞こえた。そこだけ調べてみよう」
のび太はそう言い終わるか終わらない内に理科準備室の扉を開ける。健治も半ば呆れながら黙ってのび太についていく。理科準備室の扉を開けた先にはのび太の見知った人物がいた。
「安雄! お前もここにいたのか!」
のび太はそう叫びながら安雄に駆け寄る。のび太が駆け寄ったその人物は、氏名を田中安雄と云う。そして、赤い野球帽と緑の襟付き半袖Tシャツ、黄色の半ズボンを穿いており、青色の靴を履いていた。のび太はすぐに安雄に駆け寄った。するとすぐに安雄の異常に気付いた。
「安雄! この怪我は一体どうしたんだ!」
安雄の左肩にはおびただしい量の血液が流れており、何かに噛まれた痕があった。その噛まれた痕は非常に大きいものだった。
「ちょっとへましちまってこのざまさ。毒を持った生物に噛まれちまった。悪いけど、血清を取って来てくれないか? 保健室には確か、ブラックマンバの血清が薬品棚にあるはずだ。それを頼む」
安雄がそう話すと、のび太は驚きながらも通信機を取り出す。
「解った。保健室にいるスネ夫に連絡してみる」
のび太はそう話しながら、スネ夫の持っている通信機に通信を掛ける。暫くしてスネ夫が通信機に出た。
「こちらスネ夫。のび太、一体どうした?」
すると、のび太は説明する。
「今、理科準備室なんだけど、安雄を見つけた。だけど物凄い怪我をしていてかなり危ない状況だ。安雄の話によると毒を持った生物に噛まれたらしい。ブラックマンバの血清が保健室の薬品棚にあるって話だけど、持ってきてくれないか? そっちの方が早そうだから」
のび太がそう話すと、スネ夫は了解する。
「ああ、解った。探してみるよ」
スネ夫はそう言うと、通信機の通信を切った。のび太は通信機を懐に入れると、安雄に話し掛ける。
「安雄、一体何があったんだ?」
のび太がそう訊くと、安雄は答える。
「ああ、いろいろ話したいことはあるが、毒のせいであまり話すことはできないな。今、俺が襲撃されたのはカメレオンみたいな巨大な怪物だ。襲われたのは理科室だったから、もしかしたらまだいるかもしれない」
安雄は苦しそうにしながらもそう話した。すると、健治がのび太に言う。
「おい、のび太。これ以上こいつに何か話させるのはやめた方がいいぞ。毒が回るかもしれない」
健治がそう言うと、のび太は肯定する。そして、一分位経ったところで理科準備室の扉が開いた。そこにはスネ夫と聖奈の姿があり、聖奈は救急箱を持っていた。
「聖奈さん! スネ夫! こっちだ早くしてくれ」
のび太がそう言うと、聖奈は重体の安雄に近づく。
「何なのこの傷痕……? この大きさだと、人間より大きい猛獣じゃないの」
聖奈がそう呟くと、のび太は聖奈に話し掛ける。
「詳しい話は後で安雄に訊くよ。とにかく治療をお願い」
聖奈はのび太の言うことに肯定すると、救急箱からプラスチック製の容器と注射器がいくつか入ったケースを取り出す。そのプラスチック製の容器はボトルネック型をしており、回すタイプの蓋が付いている他、〈ブラックマンバ用蛇毒抗血清〉と書かれたラベルが貼られている。すると、聖奈が申し訳なさそうに言う。
「でも、どうしましょう。私、注射をしたことがないので、注射のやり方が解りません」
聖奈がそう言うと、のび太が言う。
「でも早くしないと、安雄が死ぬかもしれない」
のび太がそう言うか言わない内に、健治が聖奈を押しのける。
「どけ。俺がやる」
健治はそう言うと、救急箱の中から消毒用の脱脂綿を取り出す。そして、依然として何かを探している。その後、健治は自分の懐を探したり、周辺を見回したりした。そして、聖奈の方を向いて言う。
「緑川。首のリボン貸してくれ」
健治がそう言うと、聖奈は疑問を露わにする。
「何に使うの?」
すると、健治はやや早口で説明する。
「静脈注射をするから腕を縛るんだよ。ここにゴムチューブとかの縛る為の道具が無いからな」
健治がそう言うと、聖奈は襟元に巻いている赤いリボンをほどいて健治に渡す。健治はそれを受け取ると、縦に丸めて安雄の左腕の二の腕にきつく縛った。次に救急箱の蓋を閉じ、救急箱に安雄の肘を乗せ、
「こんなもんか」
健治はそう言うと、安雄から離れる。
「健治君、何で注射の仕方知ってるの?」
聖奈がそう訊くと、健治は聖奈の方を見ずに答える。
「前に病院で知り合い……いや、家族が注射を受けているのを見て覚えたんだよ」
健治はそう言いながら、血清の入っている容器と注射器の入っているケースを救急箱に仕舞う。
「それより、保健室に戻ろうぜ。そうだな、のび太が安雄を運んでくれ。あと、緑川は救急箱を持て。俺と骨川で周辺の警戒をする」
健治がそう提案すると、反対する者は一人もいなかった。のび太は安雄をゆっくりと動かして背負う。健治は安雄の姿勢を安定させる。安雄は銃火器の様な物とバッグを担いでいたので、それは健治が持った。そして健治は扉に向かって歩く。
「骨川は後ろを警戒してくれ。俺は先行して安全を確保する。俺の後ろにのび太、緑川の順で並んでくれ」
健治はそう言うと、扉を開けて廊下に出る。廊下にはゾンビはいなかった。健治が廊下を進むと、他の三人は健治に続く。道中は数体のゾンビが出てきたが、排除しつつ無事に通過できた。保健室の前に着くと健治が保健室の戸を開ける。するとのび太は、保健室の奥にあるベッドに安雄を寝かせる。健治は寝ている安雄のそばに、さっきまで安雄が担いでいた銃火器の様な物とバッグを置く。そして、野比のび太、骨川スネ夫、ジャイアン、源静香、翁蛾健治、山田太郎、緑川聖奈、金田正宗は保健室のテーブル付近に集合する。
「よし、じゃあ、調査結果をそれぞれ報告しようぜ。俺としずちゃんのところは、残念ながら何も無かった。相談室にはパソコンがあったが、パスワードが掛かっていたらしい。以上だ、次を頼む」
ジャイアンがそう言うと、次は健治が話す。
「俺が見つけたのは、とりあえずはいくつかの弾薬だな」
健治はそう話しながら、9mmパラベラム弾と12ゲージショットシェルが入った箱をテーブルの上に出す。
「あとは、警察が遺したと見られる資料だな」
健治はそう話しながら、資料をテーブルの上に出す。全員はそれを隈なく読む。
「ここに『裏里』とありますね。裏山には何回か行ったことがありますが、その旅館の存在は知りませんでしたね」
のび太がそう話す。
「場所から考えて、一般人が使う旅館ではないのでしょう。学校から行けることを考えると、学校の職員か関係者が利用する所だったのだと思います。私たちが見つけた資料では、警備員が宿舎として使っている記述がありました」
聖奈はそう話しながら〈ススキヶ原小学校警備要綱〉と書かれた資料をテーブルの上に出す。
「ここの記述には相談室を仮眠スペースとして使っていると書かれています。夕方から翌日の朝方にかけての警備では相談室を使っていたのでしょう。先程武君がパスワードでロックされていて使えなかったというパソコンをメール送受信用に利用していたという記述もありますし、警備員が相談室のパソコンのパスワードを知っているのかもしれません」
聖奈がそう説明すると、スネ夫が言う。
「てことは、学校の裏山にあるっていう裏里に行けばまた何か見つかるかもしれないってことか? だったら、今すぐにでも行った方がいいんじゃないか?」
スネ夫がそう提案すると、のび太は反対する。
「いや、待ってくれ、裏口の扉は頑丈に施錠されているし、そもそも怪我人の安雄を無闇に連れ回す訳にもいかない。この学校での調査も満足に終わってない状況でふらふら場所を変えるのも問題だと思うんだけど」
のび太がそう言うと、健治は賛成する。
「俺はのび太に賛成だな。裏里の調査は視野に入れた方がいいが、今急いで調査することもない。それに、さっきの、安雄っていったか? あいつのあの傷は只事じゃない。あいつに何があったか訊く必要もあると思うぜ」
健治がそう提案すると、全員はそれに賛成する。すると、のび太が話す。
「じゃあ、最後は僕の探索結果の報告だね。僕の方は、この日記が一番の収穫かな? あとは、こんなエンブレムを見つけたんだけど」
のび太はそう話しながら、美術室で見つけた日記帳と教材室で見つけた校章を模ったエンブレムをテーブルの上に出した。そのエンブレムを見た聖奈はのび太に訊く。
「このエンブレムは何か理由があって持ってきたのですか?」
聖奈がそう訊くと、のび太は答える。
「これは教材室の重要そうな箱に入ってたんだ。施錠はされてなかったけど、施錠できる箱に入っていたし、何かに使う物なのかと思って」
のび太がそう答えると、聖奈はエンブレムを観察して言う。
「何に使う物なのかはよく解らないですね。校章を模ってはいますけれど、衣服等に刺すような針も立て掛けるような物もありません。ちょっと違った使い方でもするのでしょうか?」
聖奈はそのエンブレムをじっくりと観察していたが、結局は解らずじまいだった。すると、美術室にあった日記を読んでいた健治が言う。
「この日記帳にあるバケモノってのが気になるな。それと、のび太に訊くけど、ここにある〈田中安お〉ってのは理科準備室で倒れていたやつか?」
健治がのび太にそう訊くと、のび太は答える。
「ああ、そういえば言ってなかったね。さっき理科準備室に倒れていたのは田中安雄だよ。あと、その日記帳にある〈一ろう丸はる夫〉、〈出木杉英才〉も僕の知り合いだよ。一郎丸はる夫はちょっと太ってて、蜘蛛が苦手だったっけ。出木杉英才はかなり頭が良くて頼りになるよ。出会えればこの状況を打破する案を出してくれるかもしれない」
のび太はそのように、一郎丸はる夫と出木杉英才の説明をした。すると、ジャイアンが驚いて言う。
「ちょっと待て! 出木杉がここにいるのか?」
ジャイアンがそう言うと、のび太が答える。
「その日記帳には、その日記帳を書いた人物が安雄とはる夫と出木杉に会ったと書かれているよ。その時には警察組織がこの学校に展開してたみたいだけど」
のび太がそう答えるが、答えるのを待たずにジャイアンは健治から日記帳を奪うように取る。そして、安雄たちのことが書かれているところを読んでいる最中、健治が話す。
「田中に訊けば解ることかもしれないが、日記帳にあるカメレオンみたいな変なバケモノってのが気になるな。変な雄叫びが聞こえたともあるし、さっき聞こえた雄叫びと関連してるかもしれない」
健治がそう言うと、のび太は違和感を感じて健治に質問する。
「健治さんって、安雄のことを田中って呼ぶんですね」
のび太がそう言うと、健治は不思議そうに答える。
「え? だって田中安雄だろ?」
健治がそう言うと、のび太は答える。
「いや、まあ確かにそうですけど。安雄のこと田中って呼ぶの先生くらいしかいないから違和感感じただけです」
のび太がそう答えると、ジャイアンが話す。
「よし、これで取り敢えず全員の調査結果は終了したな。この日記帳によると、出木杉やはる夫もこの学校にいたみたいだが、今はどこにいるかわからない。警察と一緒に行動していた可能性があって、警察が裏山にあるという『裏里』っていう旅館を第二の避難所としてしているから、そこにいるかもしれない。だが、学校の調査も二階までしか済んでいないから、まずは学校の調査を進めよう。取り敢えずは、安雄が目を覚ますまで休憩をしようぜ」
ジャイアンがそう話すと、異論を放つ者はいなかった。全員はソファーや床に座って各々で休憩する。のび太はスネ夫に近づいた。
「スネ夫、確か猟銃が壊れたんだったよね?」
のび太がそう尋ねると、スネ夫は答える。
「ああ、ちょっとへましちゃってな。どこかで武器を探さないとね」
スネ夫がそう言うと、のび太は懐からUziとその予備マガジン二つを取り出しながら話す。
「じゃあ、これを使ってくれよ。この銃は連射が効くけど、ぶれやすいから僕には合わないんだ」
のび太がそう話すと、スネ夫はUziと予備マガジンを受け取る。
「すまないなのび太、ありがたく頂くよ」
すると、後ろから健治がスネ夫に近づく。
「骨川、確かお前ってパソコンとかに詳しいんだよな。さっきもハッキングしてたし」
健治がスネ夫にそう話し掛けると、スネ夫は答える。
「いとこのスネ吉兄さん程じゃないけどね。それで、何かあったの?」
すると、健治は小脇に抱えているノートパソコンをスネ夫に渡す。
「これは視聴覚室にあったパソコンだけど、これで何か解らないか?」
健治はスネ夫にそう話す。その間、スネ夫はノートパソコンの電源を入れてパソコンの状態を調べる。
「このノートパソコンは、スライドのデータをプロジェクタに転送して、映す為のものだと思うからあまり発見はないと思うけど、調べてみるよ」
スネ夫がそう言うと、のび太はあることを思い出し、懐を探った。そして、ある物を取り出した。
「スネ夫、このフロッピーディスクを給食室の控え室で見つけたんだけど、これも調べてくれないか?」
のび太がそう話すと、スネ夫はフロッピーディスクを受け取る。
「解った。こいつも調べておくよ」
スネ夫はそう言いながら、ノートパソコンの操作をする。
「のび太、ちょっといいか?」
健治がのび太にそう尋ねる。
「うん、大丈夫だけど」
のび太がそう答える。すると健治は小声で話す。
「話があるから、トイレに来てくれないか? 他のやつらには聴かれたくない話だからな」
健治がそう言うと、いつの間にか近くに来ていたジャイアンも言う。
「俺もついていっていいか? 俺ものび太に話があるからな」
ジャイアンがそう言うと、健治はそれを承諾し、のび太も承諾した。のび太と健治とジャイアンの三人は保健室の近くの男子トイレに入る。
「じゃあ、俺から話すぜ。単刀直入に訊くけど、源静香ってのび太の知り合いなんだろ? どんな人間なんだ?」
健治がそう訊くと、のび太は答える。
「どんなって言われてもなあ……。優しくて、他人への配慮がきくって感じかな?」
のび太はそう答えると、健治は話す。
「俺が見たところ、あいつは異質だ。この状況に怯える訳でもなく、剛田やのび太みたいに積極的に調査を進めている訳でもない。どうにも腑に落ちないんだよな」
健治がそう言うと、ジャイアンも話す。
「俺も腑に落ちないところはあるぜ。さっきしずちゃんと調査した時、銃の扱いは父親の友達に教えてもらったって言ってた。だけど、それってあり得るか? いままでそれを一切言わなかった上に、今まで何度も冒険した中で俺たちが気付かないはずはないと思うんだが」
ジャイアンがそう話すと、のび太が言う。
「しずちゃんがそんなこと言ったの? まだ何も解らないけど、もしかしたら何か隠し事でもしてるのかな?」
のび太がそう言うと、ジャイアンが意見を話す。
「そうだな。その可能性はあるな。とはいえ、まだ推測段階だけどな」
ジャイアンがそう話すと、健治は提案する。
「しかし、だからといって今詮索するのはまずい。何かの勢力が関係しているかもしれないからな。取り敢えずは今まで通り接していった方がいい」
健治がそう提案すると、のび太とジャイアンは賛成する。その後三人は、保健室に戻った。保健室に戻っても、安雄はまだ目を覚ましていなかった。のび太は金田の近くに寄って、金田に話し掛ける。
「金田さんって料理できるんですか?」
のび太がそう尋ねると、金田はゆっくりと答える。
「そうだな。家事はずっと妻に任せっきりだったから、できないかもな。それがどうかしたのか?」
すると、のび太は答える。
「さっき探索したときに給食室に食料があったんですが、調理しないと食べられそうにない物だったので訊いたんですが」
のび太がそう答えると、金田は発語する。
「そうだな。今はまだ焦る時ではないが、確かに食糧は必要だ。慣れない作業だが、必要な時になったら試してみよう」
金田がそう話すと、のび太は嬉しそうに答える。
「ええ、お願いします」
のび太はそう答えると、安雄のそばに移動し、安雄が目を覚ましたらすぐわかるようにした。
それから十数分後、安雄の体が少しだけ動いた。
「安雄!」
のび太はそう叫ぶと、安雄に近寄った。やがて安雄が話す。
「のび太か。大分迷惑掛けちまったみたいだな」
安雄がそう言うと、ジャイアンたちも安雄に駆け寄る。
「安雄! 無事なのか!?」
ジャイアンがそう迫ると、安雄はゆっくりと上体を起こす。
「ああ、もう大丈夫だ。あまりでかい声は出さないでくれ」
安雄は辛そうにそう言うと、ゆっくりと話す。
「訊きたいことは色々とあるだろうけど、取り敢えずざっくりと話すぜ。まず、俺とはる夫は本屋にマンガを買いに行った帰りに変な奴らに襲われたんだ。その最中、出木杉に助けられた。出木杉はなぜか銃火器を持っていたけど、警官に譲ってもらったとか言っていたな。出木杉は俺とはる夫に銃火器を分けて、そしてこの学校に向かった。俺たちが来た時はまだ警察がいたんだが、巨大なカメレオンみたいなバケモノが現れて、警察はほぼ全員やられちまった。俺たちはそれから屋上に向かったんだが、空を飛ぶ翅の生えた蜘蛛に救助のヘリが落とされたんだ。それから俺たちは裏山にあるっていう裏里に向かったんだが、その途中で、俺はカメレオンの怪物に捕まっちまったんだ。命からがら逃げだしたが、理科準備室まで逃げるのが精一杯だった。その直後にのび太たちが来てくれなかったら死んでただろうな」
安雄がそう話すと、安雄は横にあるコルトM79の薬室を確認する。
「てことは出木杉とはる夫は、裏里に行ったってことか? 他に人はいなかったの?」
のび太が安雄にそう尋ねると安雄はゆっくりと答える。
「ああ、出木杉とはる夫の他には、SAT隊員の安藤雅義さんと自衛隊員の山本誠司さんとロシアから来たっていうナーシャさん、それと俺たちの担任の
それを聴いていた聖奈は口を手で押さえ、目を逸らした。
「とにかく、裏里には出木杉たちがいるかもしれないってことだな。ただ、カメレオンの怪物がいまだに理科室にいる危険性もある。安雄がそうだったように、裏山に向かう途中でまた襲われる恐れもあるから、カメレオンの怪物を何とかしないことには裏山には行けないな」
のび太が意見を話すと、スネ夫は気付いたことを言い出す。
「でも、救助ヘリを撃墜した蜘蛛ってのも気になるよ。その後はどうなったんだ?」
すると、安雄は答える。
「ああ、その蜘蛛はどこに行ったか解らない。というのも、ヘリに糸を放射している飛行している蜘蛛に翅があるのが少し見えたってだけで、すぐにヘリが墜落して爆発したんだ。俺たちはすぐに退避したから、その翅の生えた蜘蛛がどこに行ったかは解らない。大きさは多分十センチメートル位だったと思う」
安雄がそう答えると、スネ夫は何か思いつめたような表情で呟くように言う。
「そうか、解ったよ。これからはそんな変な蜘蛛が出ないことを祈るよ」
すると、スネ夫の様子を訝しんだのび太が尋ねる。
「スネ夫、一体何なんだ? その翅の生えた蜘蛛を知っているのか?」
のび太がそう尋ねると、スネ夫はのび太の方を向いて話す。
「そうか、そういえばのび太はあの時いなかったな。海賊の時のこと覚えてるか?」
スネ夫がそう話すと、のび太は記憶の中を探った。やがて、一つの答えに辿り着く。
「もしかして、Mr.キャッシュの時のことか? 確かにあの企業は生物兵器だか生体兵器を開発していたみたいだけど……。でも、その件については片付いたはずだろ?」
のび太は思い出したことを話すと、スネ夫はゆっくりと話し出す。
「ああ、あの企業は確かに生体兵器を開発し、販売していた。観賞用、愛玩用、そして兵器用があったみたいだね。色々な時代に販売していたから、この時代に無いとは言い切れない。販売する直前にタイムパトロールの取り締まりが間に合ったとはいえ、全てを取り締まることができたとは限らない。帳簿を改竄して、取り締まり対策をしていた可能性もあるしね。そして、その企業の生体兵器の中に翅の生えた蜘蛛がいたんだ。さすがに詳細までは解らないけど」
スネ夫がそう話すと、ジャイアンが発語する。
「てことはスネ夫は、Mr.キャッシュの野郎が売っぱらった生体兵器を買い取った企業か個人が、この事件に関与している可能性があるって言いたいんだな」
ジャイアンがそう言うと、スネ夫は肯定する。
「ああ、まあそんな感じだよ」
すると、聖奈がバツが悪そうに言う。
「あの、さっきから一体何の話をしているんですか?」
聖奈がそう尋ねると、のび太はそれに答えようとしたが、健治が制止した。
「いや、止めておいた方がいいぜ。そんなこと話しても解決にならなそうだ。話が長くなりそうだしな。それに、今の話を聞いた限り、結局は推測ばかりで根拠は何もない。根拠があるならまだしも、個人の推測を共有したところで何か変わるとは思えないな」
健治がそう話すとのび太は言う。
「そうだね、確かに推測だよ。僕たちにとってはあの事件は終息したし、もししていなかったとしてもそれを知る術は今はない。やはり今まで通り調査を続けていくのは変わらないよ。でも、この町から脱出して余裕ができたらみんなに話題の一つとして話そうと思う」
のび太がそう話すと、全員はのび太の言い分に納得した。
「ああ、そうだ。これを渡すのを忘れてたよ」
安雄は、懐から一つの紙を取り出してのび太に渡した。のび太はそれを開いてみると、それは楽譜だった。その楽譜には〈月光〉と書かれていた。
「月光か……。僕にはよく解らないな。しずちゃん何か知ってる?」
のび太がそう尋ねると、静香は話す。
「聞いたことはあるけど、弾いたことはないわね」
静香がそう話すと、健治が楽譜を覗き込む。
「月光、『ピアノソナタ第十四番『幻想曲風に』』の第一楽章か」
健治が呟くようにそう言うと、のび太は驚く。
「健治さん知ってるの?」
すると、健治は答える。
「ああ、ちょっと前はピアニストになるのが夢で、ピアノスクールにも通っていたからな。これくらいなら弾けるぜ。でも、これがどうかしたのか?」
健治がそう話すと、安雄がゆっくりと話す。
「俺もよくは解らないんだ。それを弾くと何か変化が起きるってのが出木杉の見解だ。俺たちの学校に、夕方になると音楽室からピアノの音が聞こえるっていうのがあっただろ?」
安雄がそう話すと、のび太が答える。
「ああ、そうだね。この学校の七不思議になってたっけ」
すると、安雄は続きを話す。
「ああ、これは出木杉が言っていたことなんだが、『実際に起きていないことがうわさになることもあるけど、これに関しては違う。何かしらの現象に対する解釈の一つとしてその七不思議がある。おそらくは本当に夕方にピアノが鳴っている。もちろん人為的なもので。何の為にピアノを弾いているのかは解らないけど、聞こえてくるのは常に月光という曲らしい。それを弾いてみれば何か判明することがあるかもしれない。僕の予想では、月光を弾くことで、何かの仕掛けが動くとか、錠が解除されるとかかな』と言っていたな」
安雄がそう説明すると、のび太が意見を話す。
「確かに、あり得ない話じゃないな。その噂があるのは夕方――時間としては十八時から十九時位のはずだ。さっき聖奈さんが見つけたと言った、〈ススキヶ原小学校警備要綱〉と書かれた資料には、十八時には施錠をして児童を帰宅させようとしている。もしかしたら、警備員かあるいは警備内容に関係するものが音楽室にあるのかもしれないな。とにかく行って確認してみよう。健治と僕が音楽室に行くよ」
のび太がそう言うと、健治は賛成する。
「ちょっと待って! 私も行くわ」
そう言ったのは聖奈だった。
「別にいいけど、僕と健治だけでも大丈夫だと思うけど」
のび太がそう話すと、聖奈は強気な態度で言う。
「いえ、念の為私も行きます!」
聖奈はそう言って、少し強引についていく。のび太、健治、聖奈の三人は保健室を出て、北舎中央部二階の音楽室に向かう。音楽室の戸を開くと、音楽室は特におかしいところはなかった。
「よし、じゃあさっそく月光を弾いてみるぜ。これは冒頭部分だけだから、一分程度で終わると思う」
健治はそう話しながら、グランドピアノに向かい、演奏の準備をする。その間、聖奈は健治の様子をずっと見ていた。やがて、健治の演奏が始まる。のび太は周囲を警戒しながらも、健治の演奏を聴いていた。聖奈は演奏中もずっと健治を凝視している。演奏開始から一分程度経過すると、唐突に演奏が終わり、健治は振り向いた。
「楽譜通りに弾くとこんな感じだな。で、何が起こるんだ?」
健治がそう言うのとほぼ同時に、音楽室の壁に掛かっているベートーヴェンの肖像画の下の壁が右に動き、人一人が通れる位の横穴が開いた。それを見たのび太は話す。
「出木杉君の予想は見事に当たってたみたいだ。多分、このピアノの鍵盤がパスワードの入力装置かそれに類似した物なんだろうね」
のび太がそう話すと、のび太は続けて話す。
「この先を調査しようか。ただ、全員で行くと危ないかもしれないから、最低一人はここに残っていよう」
のび太がそう話すと、いの一番に聖奈が言い出す。
「じゃあ、私がのび太君とこの奥に行きます! 健治君はここで待ってて」
聖奈のその態度に対してのび太は疑問を持っていた。
「聖奈さん? さっきから何か変じゃない?」
のび太がそう疑問を投げ掛けると、健治はのび太の疑問に対して自分の推測を話す。
「大方、変なプライドかあるいは見栄を張っているんだろ。年下のはずの俺とのび太に女子更衣室まで助けに行かせて、おまけに得意分野らしき医療に関しても、さっき俺が安雄に抗血清の注射を行った所為で面子丸潰れってところだろうしな」
健治がそう言い終わらない内に、聖奈はのび太の手を引っ張って、ベートヴェンの肖像画の下にできた穴の先に進んだ。穴の先は一直線の通路だけがあり、六メートル程で行き止まりになっている。行き止まりの壁にはここの小学校の初代校長の像があるのみだった。
「ここにあるのはあの像だけね。取り敢えず調べてみましょう」
聖奈がそう呟くように言うと、一人で先に進む。のび太は相槌を打って、聖奈の後ろをついていくかたちで進む。のび太は安易に触れてはならない問題だと思い、先程の健治の言葉に関しては一切言及しないことにした。
「のび太君見て」
聖奈がのび太にそう言うと、のび太は像を確認する。像にはおかしいところはなかったが、像の台座の所には金色の物体があった。その物体には校章が刻まれている。
「これって、さっきのび太君がもっていたエンブレムと色が違うだけでそっくりじゃない?」
聖奈がそう気付くと、のび太は答える。
「確かにそうかもしれない。大きさも同じくらいだし。もしかして外せるのかな?」
のび太はそう答えると、台座にある金色の物体を引っ張ったが、びくともしなかった。
「引っ張って駄目なら押してみろってね。もしくは回すとか?」
聖奈がそう提案すると、のび太は金色の物体を押したり、回したりした。金色のエンブレムを右に回すと、金色のエンブレムが右に九十度回転し、台座から外れた。外れた物体は大きさも形状も、のび太が教材室で見つけた校章を模ったエンブレムそっくりであり、相違点は金色か茶色かだけだった。
「金色のエンブレムか。意味ありげだけど、何に使う物か解らないのは変わらないな」
のび太はそう呟きながら、金色のエンブレムを拾い上げる。その瞬間後ろの壁が動き、先程通ってきた穴が閉じた。
「閉じ込められたのか?」
のび太がそう呟くと、聖奈は初代校長の像を調べる。そして、あるものを見つけた。
「のび太君、さっき金色のエンブレムが嵌まってた穴にスイッチの様な物があるみたい。教材室で見つけたっていうエンブレムを嵌めればいいんじゃない?」
聖奈がそう提案すると、のび太はさっそく試した。教材室で見つけた茶色のエンブレムを像の穴に嵌め込むと、再び壁が動き、穴が開いた。
「予想は当たってたみたいね。一旦音楽室に戻りましょう」
聖奈はそう言いながら音楽室に向かって進む。のび太も聖奈に追従して歩く。ベートーヴェンの肖像画の下にある横穴を通って音楽室に行くと、健治が口を開く。
「途中閉じてたが、何か発見はあったのか?」
健治がそう訊くと、のび太は金色のエンブレムについて話そうとしたが、それより先に聖奈が話す。
「金色のエンブレムを発見したわ。台座からエンブレムを外すと壁が閉じたけど、のび太君が教材室で手に入れたエンブレムを嵌め込んだらうまく開いたわ」
聖奈がそう説明すると、健治はエンブレムについて尋ねる。
「その金色のエンブレムを見せてくれないか?」
健治がそう尋ねると、のび太は健治に金色のエンブレムを渡す。健治はそれをしばらく眺めると、呟くように言う。
「これだったら、見たことがあるな。確かここの近くの掲示板付近にあったはずだ」
健治はそう言うと音楽室を出て、そばにある掲示板に向かう。のび太と聖奈も健治についていく。掲示板のすぐ右の壁には、エンブレムが丁度嵌まる大きさの窪みがあった。健治はその窪みに従って、右に九十度傾けて、金色のエンブレムを入れる。そして九十度左に回すと、錠が解除されるような音がすぐ左で聞こえた。健治は左にある掲示板を動かそうとする。すると、掲示板は左にスライドした。掲示板が元あった場所の壁には、立方体の横穴が開いていた。そこには深紅色に輝く宝石があった。
「何だろうなこれ? のび太、どう思う?」
健治がのび太に話を振ると、のび太は深紅の宝石を暫く眺めた後、あることに気付く。
「これが何を示しているのかは解らないですが、青色に輝く宝石なら美術室にあったような気がします」
のび太がそう話すと、健治は提案する。
「じゃあその宝石も気になるし、一旦美術室によってから保健室に戻ろうぜ。取り敢えずその宝石はのび太が持っていてくれ」
のび太と聖奈の二人は健治のその提案に賛成する。三人はそれから、北舎西階段から北舎中央部一階に行き、美術室に向かった。美術室に入ると、のび太は青い宝石が埋め込まれた、手を模った粘土を手に取る。そして青い宝石を取ろうとした。しかし、いくらやっても一向に取ることができなかった。
「深く埋め込まれて取れないなら、その粘土を溶かしたらどうだ? そうだな、給食室ならいいんじゃないか?」
健治がのび太にそうアドバイスをすると、のび太は忠告をする。
「でも、さっき給食室には昆虫の形をした人間大の怪物がいたから注意しないと」
のび太がそう言うと、健治と聖奈は驚く。
「え!? そんな話聴いてなかったんですけど」
聖奈がそう驚くと、のび太は謝る。
「さっき、安雄の件とカメレオンの怪物の件で気を取られてて、言うのを忘れてたんだ。ごめん」
すると、健治が仲裁する。
「まあ、いいじゃねえか。その怪物はもう倒したんだろ?」
健治がそう言うと、のび太は頷く。
「でも、倒したのは一体だけだよ。もしかしたら他にもいるかもしれない」
のび太がそう話すと、健治は呟くように言う。
「できることならこれ以上妙な奴が現れないで欲しいな」
そして三人は粘土を持って給食室に向かう。給食室のキッチンのガスコンロまで到着すると、昆虫の様な怪物は床に横たわったままだった。のび太は鍋に水をはり、ガスコンロに火をつけると、粘土を水の中に入れる。
「熱湯とまではいかなくても、ある程度の温度になるまでしばらくここで待たなくちゃならないな」
のび太がそう呟くと、健治は話す。
「じゃあ、俺は先に保健室に戻るぜ。あまりに遅いと心配するだろうしな」
健治がそう言うと、のび太は健治を呼び止める。
「健治さん、ちょっといい? 何であの時、金のエンブレムがあそこに嵌められてたって知ってたの?」
のび太がそう尋ねると、健治は答える。
「ああ、あれはだな、前に悪友と十九時位に学校に忍び込んだ時に偶然見つけたんだ。昼間はあの場所に金色のエンブレムなんて無かったから、やはりあれは警備員が使っていたものだろうな。あそこに貴重品を隠しておけば基本的には見つからないし、セキュリティ的な意味でもあそこは何かを隠すのに適した場所なのかもな。まあなんにせよ、宝石の使い道が早いところ見つかるといいな」
健治はそう言うと、保健室に向かう。のび太は湯が沸くまでの間、昆虫の様な怪物を調べることにした。昆虫の様な怪物は、腕や関節は昆虫のようだったが、手の様なものがあった。しかし、指は二本しかなく、人間の腕の様な棒状のものを掴むことしかできないような形状をしている。手は六本の脚全てに存在している。また、顔にあたる部分は完全に蠅そのものであり、眼球ではなく複眼がある。のび太は次にその怪物を引っくり返した。昆虫の様な怪物は背の部分に翅があったが、体躯に対して翅が小さく、自由に飛翔できるか怪しい大きさだった。
――この昆虫の様な怪物は一体何なのか解らないけど、顔を見る限り蠅である可能性が高いだろうな。さっきスネ夫が言っていたMr.キャッシュのあの企業が絡んでいる可能性は考えにくいが、Mr.キャッシュや、生体兵器や改造生物を開発していたDr.クロンが関係している可能性はある。それにまだ姿が見えないドラえもんの所在についても心配だ。
のび太はその怪物を観察しながら思考を張り巡らせた。すると、聖奈がのび太に話し掛ける。
「のび太君ってこういうの平気なの? 昆虫とか怪物とか」
聖奈がそう尋ねると、のび太は聖奈の方を向いて答える。
「まあ、怪物は今まで何回か見たことありますし、昆虫も苦手なものはないですね。ゴキブリとかも平気ですし。ただ、蜂は刺してくるので嫌いですけど」
のび太がそう話すと、聖奈は感心する。
「凄いですね。私にはとてもじゃないですが、できそうにないです」
聖奈がそう言うと、のび太は励ますように話す。
「聖奈さんだってハーブのことに詳しいじゃないですか。いざというときには役に立つじゃないですか」
のび太がそう話すと、聖奈は呟く。
「でも今まで役に立っていないですし、これから役に立てるか心配で」
のび太は聖奈のその言葉に答えるように言う。
「そんなに気を張らなくてもいいと思いますけど。そんなに役に立つことは考えないで、みんなでここを脱出する方法を考えましょう」
のび太はそう言って励ますと、ベレッタM92FSの装弾を確認する。それから数分後、のび太は鍋の様子を確認する。鍋に入っていた粘土はすでに融けていた。のび太は鍋に入っている湯を捨てると、青色に輝く宝石を取った。
「宝石も取ったし、そろそろ保健室に戻ろう」
のび太がそう言うと、聖奈は肯定し、のび太と聖奈は保健室に向かう。