のび太のBiohazard[The Nightmare]-Reconstruction-   作:青葉郷慈

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Area4[一階調査]

 未知の生物が出たことでのび太は不安になっていたが、のび太はめげずに調査を再開する。のび太は渡り廊下に向かう為、南舎西部の渡り廊下の扉の前に来る。周辺にはゾンビも何もいない。のび太は慎重に扉を開ける。扉の向こう側にもゾンビはいない。それでものび太は気を張り詰めながら少しずつ進んでいく。この学校の一階の渡り廊下は南舎西部の西端と北舎中央部の西端の間にしかない。一階の渡り廊下はのび太から見て左に曲がるタイプのクランク状の廊下になっており、最初の突き当りには窓がある。クランク状の廊下を通過すると行き止まりであり、そこには先程のび太が通った扉と全く同じ扉がある。その扉を通ると北舎中央部の西端に出る。のび太は慎重に歩を進めていった。ふと、他のみんなのことがのび太の頭の中に過ぎる。

 ――そういえばスネ夫や聖奈さんは大丈夫だろうか? 報せがないのがいい報せとは云うけれど、こんな状況だからやっぱり不安だな。給食室には変な怪物が出てきたし、学校もかなり危険かもしれないな。二階に行ったジャイアンたちの安否も心配だし……。北舎中央部一階の調査が終わったら全員の報告も兼ねて、通信機で保健室に全員集まるように呼びかけるかな。

 のび太はそう考えながら、調査をできるだけ早く終わらせるように北舎中央部一階に急ぐ。しかしクランク型の廊下を進んでいる最中、二連続している曲がり角を通り過ぎた際に窓ガラスが勢いよく割れた音が聞こえた。のび太は突然の事態に驚き、北舎中央部の方に退避する。退避している最中、窓ガラスがあった場所に向かってベレッタM92FSの銃口を向け続けている。クランク型の廊下の為、二連続している曲がり角を曲がると、通過した場所の様子は見えない。窓ガラスは南舎西部の方にある為、窓ガラスを突き破って【何か】が入って来ても、のび太の方からは確認のしようがない。のび太はいつでも撃てるように、ベレッタM92FSのハンマーを押し込んでコック状態にし、撃発態勢をとる。やがて、裸足で廊下を歩いているような若干湿ったような音が断続的にのび太の耳に入ってきた。のび太はゾンビが入って来たかと思ったが、人間にしては軽い音だと思い、犬の可能性もあると推測する。その足音はのび太の方にゆっくりと近づいてくる。曲がり角から現れたのは、見るも無残な姿になった犬だった。犬種は柴犬のようだが、肋骨や内臓が露出しており、とても生きているとは思えない姿をしている。その犬はのび太を見つけると、のび太に向かって走ってくる。のび太は慎重にその犬に狙いをつけてベレッタM92FSを発砲する。その拳銃から発射された9mmパラベラム弾は犬の脇腹付近に命中し、その犬はバランスを崩して転倒する。しかし、その犬は起き上がって再びのび太の方に走ってくる。のび太は先程と同じ要領で発砲する。三発程撃った段階でその犬はぴくりとも動かなくなった。のび太は何事もなかったことに安心すると踵を返し、北舎中央部一階に続く扉に向かう。北舎中央部一階と渡り廊下を繋ぐ扉を慎重に開けて周辺を警戒するが、異常は確認できない。

 北舎中央部一階はL字型の廊下をしており、北舎中央部一階の西端の渡り廊下に続く扉から北に十メートル程進むと、廊下は突き当たって東に廊下が延びている。その突き当たりから東に四十メートル程廊下は延び、約四十メートルの所で廊下は行き止まりになっている。北舎中央部一階の西端には、渡り廊下に続く扉と、その扉から北に十メートル程進んだ所に二階に続く北舎西階段があり、渡り廊下の扉から見てその階段のすぐ右に裏口の扉がある。裏口の扉は給食室の扉と同じ金属製であり、施錠されている。そこから東に進むと、南側には二年生の教室が並び、北側には西側から見て、美術室、男子トイレ、女子トイレ、教材室、北舎東階段と並んでいる。また、北舎中央部一階の東端の行き止まりにはスライド式の大きな戸があり、その先には体育館がある。のび太は近くの二年生の教室から調べ始める。二年生の教室は三組あるが、その全ての教室の戸が開かなかった。のび太は更に不安になったが、懸念を振り払って調査を再開する。のび太は次に美術室を調査することにした。慎重に戸を開けて中を確認すると、ゾンビが四体いる。のび太は落ち着いた状態で近くにいるゾンビに射撃する。9mmパラベラム弾はそのゾンビの頭部に命中し、そのゾンビは倒れる。のび太は続けて他のゾンビに向けて発砲する。9mmパラベラム弾は全てゾンビの頭部に命中し、ゾンビ一体につき一発の9mmパラベラム弾で仕留めた。会議室の時と同じようにゾンビが隠れている可能性を危惧したのび太は、慎重に美術室を調査する。美術室は数点の絵画やデッサン用の彫刻が展示してある他、児童の作品と思われる粘土で作った手が長机の上に数点展示してある。その他には何も無かった。のび太は机の下にも注意しながら隈なく調べていく。しかし、美術室には脱出に関係しそうな物は一切無かった。ただ、のび太は粘土で作った手が置いてある長机の下に落ちている一つの手帳が気になり、その手帳を調べることにした。その手帳は日記のようであり、一頁目には二週間前の出来事が記されていた。のび太はこの事件が発生した時のことが書かれているかもしれないと考え、頁を今日の所まで捲る。のび太が考えた通り、今日のことも記されていた。そこにはこう書かれていた。

〈8月9日

 今日は非常に天気がいい。でも気分は最悪だ。朝から変な人たちが現れた。僕はうまくここに逃げこめたけど、友達とははぐれてしまった。それにここも安全じゃないみたいだ。SATたい員の安どうさんが言うには、ここにもバケモノがしん入してきてあぶないらしい。これから脱出できるか心配だ。

 このじょうきょうはかなりしんぱいだけど、うれしいこともあった。僕と同じこの小学校の小学生が三人ここに来た。赤い野球ぼうをかぶった人と、ちょっと太っている人と、頭がよさそうでリーダーに見える人だ。その人たちはそれぞれ田中安お、一ろう丸はる夫、出木杉英才っていうらしい。じゅうもあつかえるってことでとてもたのもしい人たちだ。その人たちの話によると、じゅうがあつかえるからここに来たみたいだ。たしかにここにはけいさつの人はげんかんあたりよりは少ないように見える。それに体育館には大ぜいの人たちがいたはず。じゅうをあつかえる人がここにいた方が、大ぜいの人を守りやすいってことなのかな?

 

 三人の人たちが脱出するためのカギを探しに校内を回るらしい。頼もしい人たちがここを離れるのは心配だけど、一応けいさつの人もいるし、ぼくはここでおとなしくまっていよう〉

 のび太はそれを読むと次の頁を開き、驚愕した。今まで読んでいた頁とは明らかに違って、字がひどく震えていたからだ。

〈もうだめだ。ここにもバケモノが入ってきた。まだぼくには気づいていないけどいずれぼくの番が来る。びじゅつ室の外では変なおたけびもきこえる。ここから変なバケモノが見える。カメレオンみたいなヤツで、緑色でどくどくしい。ぼくはしぬのだろうかしにたくない〉

 手帳に書かれていた文字はそれが最後だった。

 ――この手帳によると、僕たちが来る前は警察組織の部隊が来ていたみたいだ。でも生存者には警察官らしき人は一人もいない。全滅したのか? それに僕がさっき撃ったゾンビをよく見てみると、一人のゾンビだけだけど、来ている服が自衛隊の制服に見える。自衛隊もやられる怪物……ここに書かれているのはカメレオンみたいな怪物とあるが、バケモノというくらいだから人間くらいの大きさは最低あるだろうな。それに極めつけは安雄と出木杉とはる夫がここに来たってことだ。最悪の事態になってなかったら、この学校のどこかにいるはず。あるいは裏山の方に逃げたとも考えられるけど、とにかく生きている可能性があるだけでもよしとしなくちゃならない。このことも後でジャイアンたちに教えよう。

 のび太は手帳を閉じてその手帳を懐に仕舞うと、近くの粘土で作った手が光ったように見え、その粘土を確認する。よく見ると、粘土が光っていたわけではなく、粘土に埋め込まれている宝石の様な物が光っていると理解する。のび太はその粘土が気になったが、脱出に関係するものじゃないと思い、粘土の手はそのままにした。のび太は美術室から出て、二年生の教室を虱潰しに調べる。しかし、二年生の教室には、脱出に関係しそうなものは一切無かった。のび太は続いて教材室の中を調べる。教材室の中は机や椅子や学校の備品が乱雑に置いてあり、調べるのも一苦労な程だった。のび太は気が重くなったが、それでもめげずに教材室の物品を調べていく。

 

 その頃、スネ夫たちの方でも調査を進めていた。スネ夫たちが調査している南舎東部一階は、保健室から出て東側に進み、突き当りを左に曲がった後、三メートルから四メートル程先の右側にある簡素な扉の先にある。扉の位置も含め、南舎中央部一階を挟んで南舎西部一階と丁度正反対の位置にある。しかし、南舎東部一階の間取りは南舎西部一階とは全く違う。南舎東部一階は、南舎中央部一階と南舎東部一階を繋ぐ扉から東西方向に延びているクランク状の廊下があり、南舎中央部一階と南舎東部一階を繋ぐ扉から東に進んでいくと、左に曲がった形のクランク状をしている。また、二連続した曲がり角の間の廊下の距離は五メートル程である。二連続した曲がり角に対して南舎中央部一階に続く扉側の一直線の廊下には、北側に水道の蛇口が四つ程度ある。そこから二連続した曲がり角の先、一直線の廊下の先は突き当りになっている。その北側と南側の壁には扉が一つずつあり、南側の扉は図書室への扉であり、北側の扉は資料室への扉である。スネ夫と聖奈は現在図書室の探索を進めている。スネ夫は図書室を調べており、聖奈は図書室の奥にある書庫を調べている。聖奈が書庫から図書室に来てスネ夫に話し掛ける。

「スネ夫君、こっちには何もありませんでした。そっちはどうでしたか?」

 スネ夫が聖奈の言葉に応答する。

「こっちはレッドハーブが一つだけだよ。特に脱出に関係しそうな物は無かったよ」

 すると、聖奈は案を出す。

「では資料室の方に向かいましょうか」

 スネ夫は聖奈の提案に賛成し、スネ夫と聖奈の二人は資料室に向かう。資料室の中にはゾンビは一体もいなかったので、二人はすぐに探索に取り掛かった。資料室は九十度左に傾けたコの字のような通路があり、入り口の扉から八メートル程進んだ所で突き当たって左に通路が延びている。そこから十メートル程進むと通路は突き当たって左に延びている。その先は七メートル程で突き当りになっており、突き当りの壁から左側に二メートルから三メートル程細い通路があり、その先は完全な行き止まりである。また、そこの南側の壁にはロッカーが六つ程横に並んでいる。入り口の扉の左側とその先の突き当りを左に曲がって進む通路の右側には資料を保管している棚が陳列されており、小冊子や本や数枚の紙が留められた資料等が詰められている。スネ夫は奥の棚近辺を探索し、聖奈は手前の棚近辺を調べる。

 

 十数分後、探索を終えた二人は成果について話す。

「スネ夫君。こっちは〈ススキヶ原小学校警備要綱〉と書かれた資料を見つけました。ただ、それ以外には何も見つかりませんでした。スネ夫君の方は何か成果ありましたか?」

 聖奈がそう尋ねると、スネ夫は答える。

「いや、こっちは何もなしだ。聖奈さんが見つけたっていう資料だけど、脱出の為の手掛かりがあるの?」

 スネ夫が聖奈にそう疑問を投げ掛けると、聖奈はそれに答える。

「手掛かりって程でもないけれど、ちょっと気になる所があってね」

 聖奈がそう話し、話を続けようとすると、扉を開けて一体のゾンビが侵入してきた。スネ夫はすかさず猟銃を構え、ゾンビを撃つ。撃たれたゾンビはその場に倒れる。

「ふう、びっくりしたな。そうだ聖奈さん、気になることってなんだい?」

 スネ夫がそう尋ねると、聖奈は説明する。

「えっとですね。一見すると普通のようにも見えますが、脱出の手掛かりになりそうな情報があります。とにかく実際見てみると解ると思います」

 聖奈はそう話しながら、ステープラーで留められたプリントの資料をスネ夫に渡す。スネ夫はそのプリントを確認する。そのプリントには大きな字で〈ススキヶ原小学校警備要綱〉と書かれている。スネ夫はプリントをめくり、留められた資料の二枚目を確認する。そこにはこう記載されている。

〈以下の要綱は通常時の対応であり、状況により対応を変更する場合がある。

1)十七時以降に校舎内またはグラウンドに用もなく児童がいた場合、即急に帰宅させること。

2)十八時までに校舎内の全ての窓を閉じ、施錠すること。ただし部活動その他の場合は担当の教員に一任すること。

3)十八時からは校舎を見回り、二十二時からは制御室に戻ること。その後はセキュリティシステムの確認の後、監視カメラを使い警備せよ。ただしディスプレイが比較的小さい為、見落としに注意すること。

4)もし校舎内で不審者、侵入者を見つけた場合、即急に取り押さえて児童指導室への連行を義務付ける。その後は児童指導室にある備え付けの固定電話より、規定の連絡先に連絡すること。

5)原則として警備は二人一組とし、一人が警備している間はもう一人は相談室を仮眠スペースとする。相談室にあるパソコンにはメールが届くので、最低限約一時間周期で確認すること。また、休憩中の警備員と警備中の警備員は常に連絡を取れるようにしておくこと。

6)宿舎は芒野山にある裏里とする。〉

 一通り目を通したスネ夫は聖奈に尋ねる。

「これといっておかしいところは見当たらないけど。これのどこに脱出の情報があるの?」

 すると聖奈は資料を指差しながら説明する。

「一番最後の行に〈6)宿舎は芒野山にある裏里とする。〉ってありますよね。この裏里というのが気になります。私もそんな所があるのは知りませんでしたが、もしかしたら生存者がそこにいる可能性もありますよね? 学校の調査が一段落したら、芒野山に行ってみましょう。ここからだと、裏口を通ればすぐに行けるかと思います」

 聖奈がそう説明すると、スネ夫は感心する。

「さすが聖奈さん! そんなところまで気づくなんて凄いよ。後でみんなにもそのことを報告しようか。一旦保健室に戻ろう」

 聖奈はスネ夫のその言葉に賛成し、二人は資料室から出て保健室に向かう。しかし、南舎中央部一階に続く扉を開けたところでゾンビが姿を現す。聖奈は驚いて躓き、尻餅をつく。スネ夫も咄嗟のことで猟銃を撃つことができなかった。ゾンビは尻餅をついた聖奈に襲いかかろうとする。スネ夫は十三年式村田銃の銃床でゾンビを突いて攻撃し、ゾンビはよろける。スネ夫はその隙に聖奈を起こそうとするが、もう一体のゾンビがスネ夫に襲いかかろうとしている。

「スネ夫君危ない!」

 聖奈がそう叫んで、スネ夫は自分の左から来たゾンビに気づき、咄嗟に後ろに跳ぶ。聖奈は床を転がってゾンビから距離を離そうとしたが、スネ夫とは反対方向に退避せざるを得なかった。

「聖奈さん! ここは一旦分かれよう! 僕は南舎東部一階に行くから、聖奈さんは南舎中央部一階に行ってくれ」

 スネ夫がそう言うと、聖奈は応える。

「ええ、解りました。スネ夫さんも気を付けて!」

 スネ夫は南舎東部一階に退避し、聖奈は南舎中央部一階の一年生の教室が並ぶ廊下の方に退避する。ゾンビはいつの間にか数を増やし、スネ夫を追いかけて南舎東部一階に向かって歩いている。スネ夫は退避しながら十三年式村田銃に二十八番径ショットシェルを装填し、ゾンビに発砲する。シングルショット式の速射性に欠ける銃でありながら、スネ夫は一体ずつ確実にゾンビを仕留めていく。ゾンビは次々とその場に倒れる。残りのゾンビも数体程になったが、廊下の行き止まりも迫ってきている。歩いてきているゾンビが残り一体になると、スネ夫は取り敢えず安心し、ゾンビの頭部に照準を合わせた。しかしその時、足元にいるうつ伏せのゾンビがスネ夫の足を掴んだ。驚いたスネ夫は慌てて、足を掴んでいるゾンビに向かって発砲する。散弾はゾンビのうなじ辺りに命中し、そのゾンビは脱力した。あと一体歩いてきているゾンビを射殺する為、スネ夫はショットシェルの排莢と再装填を試みたが、一瞬遅かった。スネ夫に歩いてきているゾンビは彼の持っている十三年式村田銃を叩き落とした。ゾンビの力が強かったかそれとも猟銃の型が古い為脆かったのか、叩き落された十三年式村田銃は銃身が折れて使い物にならなくなった。スネ夫は咄嗟に資料室に逃げ込む。しかし、ゾンビもすぐに追いかけてくる。

 ――しまった。もう武器がない。しかも資料室に逃げ込んだのはまずかった。資料室は狭い上に袋小路だ。このままじゃゾンビに殺される……。

 スネ夫は何か使える物がないか探す。すると、懐から何かが落ちた。落ちてきたのは通信機だった。スネ夫は咄嗟にのび太の持っている通信機の周波数に向かって通信を行う。


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