のび太のBiohazard[The Nightmare]-Reconstruction- 作:青葉郷慈
この学校は大きく分けて北舎と南舎に分かれている。更に細かく分けると、南舎は基本的に中央部、東部、西部に分かれているが、北舎は分化されておらず、中央部一つである。北舎と南舎は南舎西部と北舎中央部の西端との間にある渡り廊下で繋がっている。階によっては南舎西部が無く、北舎中央部の西端と南舎中央部の西端との間で渡り廊下が繋がっている階もある。また、南舎中央部、南舎東部、南舎西部及び渡り廊下と北舎中央部は、ピンタンブラー錠付きの回転するタイプのドアノブが付いた、簡素な扉で仕切られている。その扉にはガラスが張られており、そのガラスはすりガラスである。南舎中央部一階は長方形型に円を描くように廊下があり、南舎中央部一階の北側の廊下には一年生の教室が並び、南側の廊下には東から職員室、南舎東階段、女子トイレ、男子トイレ、児童玄関、保健室、南舎西階段、視聴覚室と並んでおり、職員室の奥には校長室に入れる扉がある。また、南側の廊下にある部屋や玄関の内、出入りの為の扉や戸が廊下の南側の壁にあるのが職員室、児童玄関、視聴覚室であり、扉や戸が廊下の北側の壁にあるのが女子トイレ、男子トイレ、保健室である。南舎西階段は保健室の西側、視聴覚室の北側に位置し、南舎東階段は女子トイレの東側、職員室の東側の戸の北側に位置している。南舎中央部一階北側の一年生の教室はすべて廊下の北側に戸がある。南舎中央部一階北側の廊下には一年生の教室以外の部屋は無い。
まずスネ夫が話し出した。
「じゃ、僕と聖奈さんは南舎中央部の北の方にある一年生の教室の方に行くから、のび太は南舎の南の方にある職員室と校長室を調べてくれ。あまり離れないで行動していこう。何かあったときに助けを呼べないとまずいからな」
のび太はそれに答える。
「うん、解った」
すると、三人は慎重に保健室の扉を開けた。ゾンビが周囲にいないことを確認すると、のび太はすぐそばにある職員室に向かい、スネ夫と聖奈は一年生の教室に向かった。
のび太は慎重に職員室の扉を開けると、五体ものゾンビがいることに驚いた。
――まずいな、こんなに多いと勝てるかどうか解らない。ここは取り敢えず校長室に逃げ込もう。
のび太はゾンビの間をうまくすり抜け、滑り込むように校長室の中に入った。そして、すぐさま周囲にゾンビがいないことを確認した。ゾンビがいないことを確認すると、のび太は職員室からのゾンビの襲撃に備えて、周辺の椅子や机を使ってバリケードを造った。しかしバリケードを造った為、のび太は校長室から出られなくなった。のび太はまず校長室の探索から始めることにした。最初に棚を調べたが、そこには使えそうな物は無かった。そのすぐそばに大きめの金庫があったが、四桁の暗証番号が必要であり、のび太は暗証番号を知らないため、開けることができなかった。のび太は次に校長室の奥の方を調べ始めた。
一方その少し前、聖奈とスネ夫も一年生の教室を調べ始めていた。
「ここは、開きませんね」
聖奈は一年四組の教室の戸を思いっきり引いているがびくともしない。
「何かが引っ掛かっているかもしれないな、開ける手段はなさそうだし次の場所に行こう」
スネ夫はそう話すと、隣の教室の戸を開けた。
「よしっ、ここは開くぞ」
スネ夫は呟くようにそう言いながら、戸を慎重に開ける。教室の中は一つの死体が横たわっていること以外は何も変わったことはなかった。
「まず机に何か使える物が無いか調べよう。僕は窓側の机を調べるから聖奈さんは廊下側を調べてくれ」
聖奈はスネ夫のその言葉に肯定すると、二人は教室の机を隈なく調べた。しかし、使えそうな物は一切見つからなかった。机を調べ終わったスネ夫は聖奈に話し掛けた。
「こっちは収穫なしだ。聖奈さんは?」
スネ夫がそう言うと、聖奈も調べた結果を話す。
「こっちも何もありませんね」
すると、スネ夫は教室の黒板の反対側に目を向ける。
「それじゃあ次は掃除用具入れを調べよう」
スネ夫はそう言いながら、掃除用具入れの扉を開けた。すると掃除用具入れの中から何かが入った箱が出てきた。その箱は厚紙製であり、縦15cm、横7cm、高さ3cmほどの大きさの直方体の箱だった。その箱は左半分が赤、右半分が白色をしており、大きな字で〈9mmParabellum〉と書かれていた。スネ夫はそれをよく見てみた。
「これは、――見た感じ拳銃弾だな。あまり詳しくないから自信ないけど。これは聖奈さんが持っておいてくれ。僕の持っている銃はこの弾薬を使用する銃じゃないから」
そう言うとスネ夫は、〈9mmParabellum〉と書かれた赤と白のツートーンカラーの箱を聖奈に渡した。聖奈はそれを受け取ると、懐に仕舞う。
「じゃあ、次は教卓を調べてみましょうか」
聖奈はそう言うと、教卓を調べ始める。そしてある物を見つけた。聖奈が見つけた物はタグが付いている鍵だった。タグには〈資料室〉と書かれている。聖奈はそれをスネ夫に見せる。
「資料室の鍵か。収穫はあったし、この教室はもう調べる所がないな。次へ行こう」
スネ夫がそう切り出すと、二人の後ろで物音がした。スネ夫は驚いて叫び、スネ夫と聖奈は後ろを振り返った。二人の視線の先では窓ガラスが割れており、ゾンビ化した犬が入ってきていた。
「グルルル」
唸り声を挙げてゾンビ化した犬が近づいてくる。スネ夫はゾンビ化した犬に猟銃を向けた。彼はよく狙いをつけて引金を絞ると、彼の持っていた猟銃が大きな銃声を立てながら火を噴いた。発砲された弾丸は散弾であり、OBuck弾だった。複数のペレット弾がゾンビ犬の胴体に命中し、ゾンビ犬はぴくりとも動かなくなった。
「ふぅ、なんとか凌いだみたいだね」
スネ夫はそう呟きながら、持っている猟銃――『十三年式村田銃』のボルトハンドルを引き、空になった『28番径OBuckショットシェル』を排出した。そしてスネ夫は、懐から新しい28番径OBuckショットシェルを取り出し、薬室内に装填してボルトハンドルを戻した。すると、聖奈が感心した様子でスネ夫に訊いた。
「スネ夫さん凄いですね。どこでそんな猟銃なんて手に入れたんですか?」
スネ夫は、少し間を持ってから答えた。
「――ああ、これは街で逃げていたときに猟師の人から貰ったんだ。その猟師の人とははぐれたけどね」
スネ夫のその言葉を聴いた聖奈は何かに気づいた表情を一瞬だけ浮かべると、呟くように言う。
「そうなんですか――」
聖奈は暗い表情をしていた。
「次の教室へ行こうよ。もたもたしてちゃ、ゾンビに襲われるかもしれないし。こんなんじゃまだばててないよ」
聖奈はスネ夫のその言葉を聞くと、表情が少し明るくなった。
「ええ、のんびりしてる場合じゃないですよね」
聖奈はまるで自分をたきつけるかの様にそう言い放つ。そして二人は教室を出て、一階南舎の一年生の教室を虱潰しに調べていった。しかし戸が開いた教室は、資料室の鍵があった一年三組の教室だけだった。
「もうここら辺には探索する教室はないな」
スネ夫がそう呟くとスネ夫は続けて話す。
「じゃあこれから資料室へ行って探索するか」
スネ夫がそう言い終わるか言い終わらない内に、彼の懐に入れてある通信機が鳴った。スネ夫はいきなりの着信に驚いた。すると、聖奈は落ち着いた口調でスネ夫に言う。
「着信ですよスネ夫君。落ち着いてください」
その聖奈の言葉を聞くと、スネ夫は気を落ち着かせ、通信機を耳にあてた。
「もしもし、のび太? どうしたんだよ」
電話の主はのび太だった。
「ああ、ちょっとまずいことになった」
のび太がそう話すと、スネ夫が尋ねる。
「まずいことって何だよ」
のび太はゆっくり現状を説明する。
「スネ夫たちと別れた後、職員室に入ったんだけどゾンビが予想以上にいて、とても戦えないから校長室に逃げ込んできたんだ。それでゾンビが校長室に入ってこないようにバリケードを張った。だけどゾンビが扉の所に集まってきて、バリケードを外すに外せないから脱出できないんだ。かなりきつい状況だから助けに来て欲しいんだ」
それを聴いたスネ夫は驚く。
「えっ、そうなのか! よしっ、僕と聖奈さんは職員室に行く。のび太はそれまでバリケードを固めておいてくれ」
スネ夫がそう指示すると、のび太はそれに肯定した。
「ああ、解った。なるべく早く来てくれよ」
スネ夫はそれに応える。
「解ってる。急いで行くよ」
会話を済ませると、スネ夫は通信機の通信を切り、ポケットに通信機を入れた。そして、聖奈に事情を説明しながら職員室へ走っていく。少しすると、職員室の前に着いた。すると聖奈が呟く。
「のび太君、無事でいて」
――意を決して二人は職員室の中に入る。スネ夫が職員室にいる複数のゾンビを見ながら呟く。
「……ゾンビの数は五体か」
五体のゾンビがスネ夫と聖奈に気づき、スネ夫たちの方を向いて近づいてきた。スネ夫が猟銃を構えて戦闘態勢に入る。
「僕がこの五体のゾンビを相手するから、聖奈さんは後ろから何かが来ないか警戒しておいてくれ」
「解ったわ。スネ夫君も気をつけて」
聖奈はそう応えると、『ベレッタM92FS』を構えて後方と周囲を警戒した。廊下には聖奈から見える位置にはゾンビはいない。聖奈は職員室の中の死角からゾンビに襲われないように周囲を見回して警戒する。一方スネ夫は、五体のゾンビに猟銃を向けている。彼はゾンビに照準を合わせて猟銃を発砲する。単発式の猟銃の為、一発撃つ毎に再装填しているが、スネ夫は冷静にゾンビに照準を合わせて発砲していた。散弾が当たった五体のゾンビは不快な呻き声を挙げてその場に倒れていく。
「どんなもんだい!」
スネ夫は自慢げにそう言い、十三年式村田銃に再びショットシェルを装填する。その後、スネ夫と聖奈は校長室へと続く扉の前まで移動する。スネ夫は扉の向こうの部屋に向かって思いっきり叫んだ。
「おーいのび太! ゾンビは始末したぞ! バリケードを外してくれ!」
その後一拍置いて、バリケードを外す音がスネ夫と聖奈に聞こえた。そして校長室に続く扉が開き、のび太が姿を現した。
「のび太さん! 無事でよかったです」
聖奈がのび太を見て思わず声が出た。
「ありがとう。スネ夫と聖奈さんが近くにいなかったらどうなっていたか解らないよ」
「まっ、こんなときだし助け合っていくのが普通だろ。次から気をつけろよ」
「解ってるよ」
「じゃあ探索を再開するか」
のび太とスネ夫がそう会話すると、聖奈が言う。
「あっ、でもその前にちょっと休憩しませんか? 疲れちゃって」
聖奈のその言葉にスネ夫は肯定する。
「いいね、僕も少し疲れたし。のび太、校長室にはゾンビはいなかったんだろ?」
のび太はスネ夫のその言葉に答える。
「ああ、校長室はだいたい調べたから大丈夫だ。校長室の中にはゾンビはいなかったよ」
すると、スネ夫は二人に声を掛ける。
「よしっじゃあ校長室で一旦休憩しよう」
すると、三人は校長室の中へ入っていく。
「校長室なんて初めて見ますね」
聖奈がそう呟くと、のび太がそれに答えるように言う。
「まあ普通はこんな所なんて入らないからね。僕は見覚えあるけど」
のび太が何気なくそう話すと、聖奈は驚く。
「え! のび太君校長室に入ったことあるんですか?」
聖奈が驚いてのび太に軽く詰め寄るとのび太は恥ずかしそうに答える。
「いやあ、ちょっとしたことで校長室の掃除頼まれてね。ただ、少し前に見た時は見なかったオブジェのような物があるね」
すると、のび太は悪魔のような容姿の石像の横に移動する。
「この悪魔みたいな像は前に来た時は無かったな」
聖奈とスネ夫はのび太の横にある悪魔のような像を見る。
「校長室にはこんな物もあったんですね。校長先生の趣味かしら?」
聖奈が考えを表すと、スネ夫も同様に意見を言う。
「確かに趣味かもしれないね。趣味がいいとは言えないかもしれないけど」
スネ夫がそう言い終わるか終わらない内に校長室の奥から大きな物音がした。当然三人は驚いた。先にスネ夫が動き、彼は部屋の奥を見た。スネ夫の視線の先には扉があった。彼はのび太と聖奈に見たままの状況を話す。
「奥に扉がある!」
スネ夫のその言葉を聴くと、のび太と聖奈は更に驚いた。しかし、のび太がその扉を確認しようと動いた途端、壁の一部分がスライドし、扉を隠してしまった。
「あれっ、消えたぞ。おかしいな」
スネ夫はそう呟いて不思議がる。のび太はこの状況について考える。
「多分そうかな?」
のび太はそう独り言を言った。
「ん? のび太何か言ったか?」
スネ夫がそう訊くと、のび太は自分の考えを話す。
「扉が消えた理由が解ったんだよ。……多分ね」
「消えた理由ってなんだよ?」
スネ夫がそう訊くと、のび太は壁に貼り付くように設置してある、悪魔の像を見た後、校長室の中央付近にあるまったく同じ像を見る。
「僕の考えが正しいなら、この悪魔の像のすぐ横の床にスイッチがあって、そこに重さが加わることで扉が現れると思う。さっき僕が無意識に踏んだ所がそのスイッチの可能性が高い。だから、ここに何か重しになるような物を置けば扉が現れると思う。さしあたり、部屋の中央にある悪魔の像を移動すればいいんじゃないかな?」
のび太がそう説明すると、聖奈が驚く。
「そこまで気づくなんて凄いですね! そこの像が動くかどうかは解りませんけれど、取り敢えず試してみましょうか」
聖奈はそう言うと部屋の中央にある像に近づいて像を動かそうとする。のび太とスネ夫も手伝う。三人が動かそうとしている像は、170cmはありそうな程大きかったが、その見た目に反して簡単に動いた。三人は壁にある悪魔の像の横にぴったりくっつくように微調整して動かす。うまく運び終えると、運んだ像のすぐ下にある床が音を立てて少し沈み、校長室の奥からも音が鳴って再び扉が現れた。
「凄いなのび太。さっそく調べよう」
スネ夫はそう呼び掛けながら、現れた扉を開ける。すると、スネ夫が再び二人に呼び掛ける。
「この中は意外と狭いよ。僕とのび太で調べるから聖奈さんはここにいてくれ。何か異常があったら読んでくれればここに戻るから」
「ええ、二人とも気をつけて」
聖奈がそう言葉を掛けると、のび太とスネ夫は警戒しつつ扉の奥に入っていく。するとスネ夫が呟くように言う。
「どうやらここは校長先生の趣味の部屋らしいぞ」
「でも今はそんなこと言ってられないんじゃない?」
「まあ、非常事態だしな。早く調べるか。僕は部屋の右半分を調べるからのび太は左半分を調べてくれ」
「よし、解った」
二人はそう会話すると、探索に取り掛かった。少ししてスネ夫が話す。
「こっちは収穫なしだ。のび太は?」
「こっちは更衣室の鍵が一つだね。後は何も無いな」
「それだけか。まあいいや、聖奈さんも待ってるからここの探索は終わろう」
二人はそう会話すると部屋から出る。のび太は聖奈に報告をする。
「あの隠し部屋には更衣室の鍵しかなかったよ。女子更衣室の鍵みたいだから、後で聖奈さんが調べておいてよ」
のび太はそう話しながら、〈児童用女子更衣室〉と書かれたタグが付いている鍵を聖奈に渡した。
「このタグには、〈児童用女子更衣室〉と書かれているので、二階にある女子更衣室の鍵みたいですね。後で調べておきます。ではそろそろ探索を再開しましょうか」
聖奈がそう呼び掛けると、三人は校長室を出て、職員室から出る。廊下に出ると、聖奈がのび太に向かって話し掛ける。
「のび太さん、探索してる途中でハーブを見つけましたか?」
「あ、そういえば校長室でグリーンハーブが二つあったよ」
のび太はそう言いながら二つのグリーンハーブをポケットから出した。聖奈がそれを受け取ると、聖奈はスネ夫とのび太に向かって話し掛ける。
「では私はハーブの調合をしに保健室に戻ります。怪我をしたら治療できるように準備しておかなくてはいけないので」
「なら残りの探索と制圧は僕とのび太でやるよ。保健室も絶対安全とは言えないから、聖奈さんも気をつけて」
「ええ、解ってます。調査の方はお願いしますね」
三人は会話を終え、聖奈は保健室へ入った。そしてスネ夫はのび太に向かって話し掛ける。
「よしのび太、会議室から調べるぞ」
「ああ、解った。気を引き締めて行こう」
のび太とスネ夫は慎重に会議室の戸を開ける。