恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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第九十五話 お嬢様も今学期からは手伝いに参加して貰いたい

 さて、二学期も始まり授業も平常運転。

オレは変わらずに真面目に受ける気もねぇんで流す日々。

このまま毎日がこんな感じなら世界は平和ってことで有り難いんだろうが、世の中そうはいかねぇってのが摂理ってもんさ。

学生にとって学期には必ず何かしらのイベントがついて回るらしい。

それはIS学園でも一緒で、何でも近い内に学園祭なんてもんをやるらしい。

詳しくは知らねぇが、何でも学生主導で学園でお祭り騒ぎをするんだと。それが日本の高校における一大ビックイベントなんだってさ。

だからなのか、ここ最近は妙に学園の奴等が浮かれてるわけだ。

そんな浮かれた空気の中、放課後になってオレはある場所に向かうために席から立ち上がった。

本当なら行きたくなんてねぇところだが、それでも仕事は仕事だ。文句は言ってもやることはやらねぇとなぁ。

簡単に言やぁ………またあの爺さんからの呼び出しだ。

此処はIS学園だからなぁ……何かしらイベントを起こす度に騒ぎが巻き起こる。退屈せずに済むハプニングが満載だ。その火消し役に毎度オレは駆り出されるんだよ。

まぁ、オレがしないと断ろうが、あの爺さまが強制的にさせんだろ。

あの腹黒い爺さまはそういう腹芸が得意だからな。

そんなオレに目が着いたのか、お嬢様がオレに話しかけてきた。

 

「どうしましたの、レオスさん? 何やらお疲れのようなお顔をなさっておりますが?」

 

オレを心配するお嬢様。そんなお優しい御心にオレの荒んだハートは癒されるよ。

 

「いやぁ、なに。ここの腹黒い爺さまから呼び出しを喰らったんだよ。どうせまた面倒臭ぇことを言い出すに違いねぇ。そいつを思うと、げんなりしちまうだよ」

「お爺さま? この学園には殆ど男性の方は居ないのでは?」

 

オレの返答に首を傾げるお嬢様。

そこでオレはちっとばかし、あの爺さまを驚かそうと思いついた。

前なら兎も角、クロードに扱かれたお嬢様なら問題ねぇだろ。

オレはまるでお茶に誘うナンパをするかのようにお嬢様に話しかけた。

 

「そうだ、お嬢様。せっかくだからお嬢様も一緒に行こうぜ」

「え、わたくしも……ですの? よろしいのでしょうか?」

「別に良いだろ。あの爺さんは若者との会話に餓えてるからなぁ。お嬢様なら喜んで向かい入れるさ」

 

オレの誘いを受けて、お嬢様はどうするか少し考えた後に、頬を染めながらも嬉しそうに微笑んだ。

 

「で、でしたら、わたくしもお供させていただきますわ」

「そうこなくちゃなぁ。それじゃ……エスコートしますよ、お嬢様」

 

手を前に差しだして口調を改めながらお嬢様を誘うと、お嬢様はオレの手にゆっくりと自分の手を置いた。

 

「ええ、お願いしますわ」

「喜んで」

 

そうしてオレは爺さんの驚く顔を見るためにも、お嬢様を理事長室へと連れて行った。

 

 

 

「ここは……理事長室ではありませんか?」

「そうだよ。ここが目的地、この学園一のワルの住処だ」

 

連れてこられた扉の前で不思議そうに首を傾げるお嬢様。

そんなお嬢様を見て笑いつつ、オレは遠慮無しに扉をノックする。

 

「おい、爺さん。来てやったんだから当然茶くらい出るんだろうなぁ」

「ちょっと、レオスさん!?」

 

返答も聞かずに扉を開けるオレにお嬢様は驚いて慌てて止めようとする。

普通に考えりゃあ、確かに止めるよなぁ。何せ学園で一番偉い『理事長』に敬意も何も払わないで返答も無しに部屋に押し入れば。

だが、そんなもんあの爺さん相手にはねぇよ。もうそんなことには慣れてるだろうし、元々気にも留めねぇ性格だろ、あの爺さんは。

お嬢様が止めるも虚しく扉が開き、オレはお嬢様の手を引っ張って一緒に部屋へと入る。

お嬢様はオレの態度に困惑しているようだが、この程度で困惑してたんじゃあこの先やっていけないぜ。

そんな俺達に、聞き慣れた声がかけられた。

 

「良く来てくれましたね。お久しぶりです。元気そうで何よりですよ」

「爺さんも変わらねぇようで何よりだ。相変わらず人使いが荒そうだ」

「それは心外ですよ。私はただ、社会人としてちゃんとお仕事をしてもらっていいるだけですから」

 

相変わらずに好々爺な感じに話しかてくる爺さん。

だが、その中身はきっとヘドロよりも黒々としていて、喰えねぇ爺さんだよ。

爺さんに挨拶代わりに話をすると、今度はソファで優雅に茶を飲んでいた会長がジト目でオレを見て来やがった。

 

「まだくたばってなかったのね。聞いたわよ、この夏休みはとても『ご活躍』したらしいじゃない。あなた、かなりの有名人よ」

「そういうなよ、会長。会社員がお仕事をするのは当然のことだろ? ただ、上司から無理難題を押しつけられて、そいつを必死に汗水垂らして熟してっただけさ」

 

そう会長に言うと、会長はふ~ん、って感じに流していたが、気に喰わねぇって感じだなぁ。また出番が取られるとでも思ってるんだろうかねぇ。

そんなつもりはねぇし、譲れるならこっちから譲りたいもんだ。

二人とそんな会話をした辺りで、そろそろ事態に追いついたらしいお嬢様が不安そうにオレに声をかけた。

 

「あ、あの、レオスさん。この人達は………」

 

見た感じから片方が一つ上の先輩、もう片方が用務員ってことは分かるらしいが、そこから先はわからねぇって感じだな。

初見なら誰だってそんなもんだろ。

それはあっちも同じらしく、爺さまは笑顔を変えねぇが、会長は少し驚いているみてぇだ。

爺さまの面は気に喰わねぇが、会長の面白い面が見れただけマシだろ。

オレはお嬢様を前に出して二人に軽く紹介する。

 

「これがオレのお嬢様、かのイギリス名門貴族、オルコット家の御当主様、セシリア・オルコット嬢だ」

「た、確かにそうですけど、直に言われると、何だか恥ずかしいですわ……(それに……『オレの』だなんて……レオスさんったら大胆ですわぁ!)」

 

お嬢様は顔を真っ赤にしながら恥ずかしがる。

その様子を見た二人は何かしら分かったらしく、口を開いた。

 

「あなたが今年入ったイギリス代表候補生の一年生ね」

「成る程。これが君のお気に入りだね」

 

さて、この二人にお嬢様のことを紹介し終えたたんだ。今度はこの二人についてお嬢様に紹介しねぇとなぁ。

 

「お嬢様、そこの胡散臭い笑みを浮かべてる爺さまが轡木 十蔵。理事長の影に隠れて裏で色々やってる大悪党だ。そしてそこで茶菓子をパクついてるのアホ面が此処の学園の生徒会長様だよ」

 

オレの説明を聞いて、最初に文句を言ってきたのは会長だった。

顔を赤くして怒ってるようだ。

 

「何がアホ面よ! それに私はお茶は飲んでいてもあなたみたいに茶菓子は食べないわよ」

「そうかい。生憎仕事柄、食えるモンは食っておけが信条なんでな。オレは会長みたいなお上品ではないんだよ」

「むぅ~~~~! ああ言えばこう言う!」

 

会長が怒ってるのを尻目に、今度は爺さんがオレに抗議を入れて来た。

 

「胡散臭いは流石に傷付きますねぇ。それに大悪党だなんて。私はただ、この学園を少しでも良い学園にしようと思ってるだけですよ」

「オレが知る限り、爺さんほど胡散臭く腹黒い奴は見たことがねぇよ。それにその大切に思ってる学園の生徒を使って汚れ仕事をやらせる奴が大悪党でなくて何だって言うんだ?」

「それはそれですよ。何より、立派な『お仕事』なんですから。君は生徒ですが、同時に『会社員』なんですから。お仕事はしませんとね」

「けっ、言いやがる」

 

オレの悪態に爺さんはのほほんと笑顔を返す。

これだから老獪な爺さんは苦手なんだ。何を考えているのかわからねぇからなぁ。

そして二人はオレからお嬢様に視線を変えて改めて笑顔を浮かべた。

 

「どうも、初めまして。私はこの学園の用務員をしています、轡木 十蔵と申します。一応妻の代理でここの理事関連の仕事を手伝ってもいますが。よろしくお願いします」

「初めまして。私はこのIS学園の生徒会長をやってる更識 楯無よ。二年生でロシア代表を務めさせてもらってるの。よろしくね」

「あ、はい! よろしくお願いしますわ。先程紹介していただきましたが、セシリア・オルコットです。よろしくお願いします」

 

二人の紹介にお嬢様も笑顔で応じる。

良い光景だが、どうしてオレとは此処まで扱いの差が違うのかねぇ。

 自己紹介も終えてお嬢様とオレは会長が座ってるのとは反対側のソファに座る。その際にお嬢様は上品に腰掛けたが、オレは気にせずにどっかりと座るとお嬢様から注意されちまった。

そう堅い事は言わないで欲しい。勝手知ったる何とやらだ。

そして爺さんがお嬢様にお茶を出すと、改めてお嬢様に話しかけた。

 

「ようこそ、理事長室へ。これから始まるのは、学園の安全をより守るために話し合いです。オルコットさんも協力してくれると嬉しいですね」

「え? それって………」

 

その意味が理解出来ずに聞き返すお嬢様。

そんなお嬢様には可哀想だが、これでもうお嬢様は『こちら側』だ。

さぁ、一緒にお仕事を頑張ろうぜ。

そう思いながら、オレはお嬢様の顔を見て笑っていた。


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