恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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今回は主人公のISの開発元企業の話です。


第八十八話 天才と変態は紙一重

 お嬢様が帰ってから二週間ちょっとが経った。

あん時は毎日がカーニバル状態だったが、今じゃ普通に平常運転だ。

それまで馬鹿やりまくってたアホ共も何とか持ち直して、普通に仕事するようになったよ。

まぁ、それもこれも我等が鬼畜上司のおかげさまってやつだ。

あの上司様はお嬢様がイギリスに帰ったのを見送った後、本部に戻り次第全員を集めた。

 

「セシリアさんが帰ってしまったのは悲しいですが、それでも悲しみに暮れず頑張っていきましょう。皆さん、美少女との心休まる休暇をのびのびと過ごしましたし………これからはより、頑張ってもらいますよ」

 

だとさ。

その時のクロードの面は皆忘れられねぇだろうさ。ありゃ人がして良い面じゃなかった。

そこから始まったのは、怒濤のお仕事ラッシュ。

東南アジアに向かっては麻薬密売組織を叩き潰し、ソマリアに向かっては海賊退治。アフガン辺りで正規軍に混じって紛争をお手伝いし、反組織ゲリラやテロリストが現れればそいつ等を皆グリルチキンの様にこんがりと焼いていく。

まったく、人使いが荒いったらありゃしないぜ。御蔭でこっちは休んでる暇がねぇ。

それに何か? 日本では夏って季節は開放的になるっていうが、それは外国でも同じだってか? ここ最近馬鹿をやる頭が吹っ飛んだ野郎共が後をたたねぇ。

最近だと人質を取りながら高層ビルの屋上に逃げ込み、これ以上近づくのならここから飛び降りると来たモンだ。

あまりの馬鹿さ加減にそのままそいつの足をぶち抜いてやったよ。人質共々落っこちていったんじゃないかって? 勿論落ちていったよ、馬鹿もそんな馬鹿に捕まったアバズレもなぁ。

そこから落ちるってわかってんだから、当然下にマットなりネットなり引いてあるに決まってんだろ。

落ちた馬鹿は自分の足に穴が開いて落っこちたってんで錯乱。アバズレはショックのあまりに気絶したよ。

こんな茶番に付き合わされたんだ、それぐらいで済んだことに感謝してもらいてぇくらいだよ。

連日の忙しい仕事のせいで精神的に荒んでるんだ。本当だったら喚いてる馬鹿の眉間に風穴を開けて、野郎の頭をクールダウンさせたい気持ちで一杯さ。

それをしなかったんだから、寧ろ褒められて良いはずなのに待ってたのは周りからのバッシングだ。

何でもっと穏便に出来なかったのやら死んでしまったらどうするやら。又はこんな怖い目に遭って人質の精神が傷付いてしまったらどうする気だとよ。

そんなもん知らねぇよ。オレ等が依頼されたのは、馬鹿が起こしてるこの珍騒動をとっとと終わらせろってことだからな。

そこは医者の領分だ、オレ等は関係ねぇよ。そもそも、『優しく』解決したいんだったらオレ等なんて呼ぶんじゃねぇ。

そんな下らねぇことをやらされたこっちの方が寧ろ文句を言いたいモンさ。

と、こんな感じ毎日仕事漬けで疲れちまうよ。

その御蔭でここ最近周りの奴等からのからかいはなくなったがね。

お嬢様が帰った後、あのクソオヤジが面白可笑しそう周りに言いふらしやがったのさ、お嬢様の大冒険をさ。

流石にお嬢様の冒険を笑う屑はここには居ねぇが、その分その矛先がオレに向いて、オレは皆からの笑いモンにされたってわけだ。

皆口々に青春だの何だのとニヤニヤ笑いながらほざいてきやがる。それこそ、あのカイルでさえ、

 

「兄貴、オルコットさんのキス、どうでしたか! いや、流石ですよ、あんな美人にキスされるなんて!」

 

ってオレをからからかってくる始末。

流石に寛大なオレでもコレばかりは耐えられない。カイルの野郎をその場でぶん投げてゴミ箱に頭からゴールさせてやったよ。

これで少しはカイルの野郎も学んだろ。人を馬鹿にするのは考えてからしろってなぁ。

皆もういい年した野郎なんだから、こんなことで一々はしゃぐんじゃねぇよ。

その所為で余計にクロードが気ぃ引き締めろって仕事をたんまり持ってくるんだからよ。

数えちゃいねぇが、もしかしたらこの二週間で100人近くは殺してるんじゃねぇか?

まったく、殺伐とした毎日だ。まぁ、これが嫌いじゃねぇんだけどな。

IS学園と違い、酒とタバコがちゃんと出来る開放感ってのはやっぱり良いもんだ。学生じゃこんな気持ちは味わえねぇからなぁ。

どうせもう少ししたら、また学生に早戻りだからなぁ。存分に『本物』を満喫させてもらうよ。

そんな風に毎日激務と自由がある実に充実感に溢れた生活を送っているわけだが、今回はオレだけの呼び出しで他の連中は他の仕事で出向いてる。

何でオレだけが呼び出されたのかだって? そもそも、誰が呼んだのか?

そいつはアレだ。こんなオレでも、一応は『専用機持ち』なんだぜ。企業所属のなぁ。つまりオレを呼んだのはその企業様ってことだ。

実に面倒くせぇが、これでも一応は出向扱い。お仕事はちゃんとやらねぇとなぁ。オレは真面目なサラリーマンなんでね。

そう言うわけで、オレは面倒なのを噛み殺しながらその企業『Pursue the fantasy those who(幻想を追い求める者達)』へと出向いた。

 

 

 

 出向く度に毎度の如く思うことだが、この会社名は何の皮肉なんだろうねぇ。

『幻想を追い求める者達』……字面にすりゃあ実にロマン溢れる格好いいもんだが、その実中身は他の企業じゃ頭が可笑しすぎて悪影響だってんで弾かれた変態共の巣窟だ。

連中は限界やらコストやらリスクってもんをてんで考えねぇ。

常に幻想っていう夢を追い求めてやがる理想主義の限界主義者共。

安全性ってもんを母親の胎ん中に置いて来ちまった巫山戯た奴等だよ。

そんな奴等と面を合わせなきゃならねぇと思うと、毎度の如く辟易しちまうよ。

オレは『一般人』なんだ。頭の吹っ飛んだ『変態』と会うだけでも気後れしちまうよ。

だが、グダグダ言っても始まらねぇ。

大人しく門を潜るとしますかねぇ。

 そして門を潜り次第、エントランスへ。

ここまでは普通。受付に座ってる若い女もそこまで変な感じはない。

オレはそのまま受付へと向かった。

 

「ちょっといいかい?」

「はい、どうなさいましたか?」

 

オレに話しかけられて少し驚きつつも営業スマイルを浮かべるお嬢さん。

結構美人なだけに話しやすそうで助かる。

驚いたのはオレの見た目だろうよ。ガキがこんな所に何の用だってな。

 

「オレは出向でこっちに来てるハーケンってモンだ。ウェイブの馬鹿はどこに居る?」

「ウェイブ………あぁ、ウェイブ・ホルスト部長ですね。えっと……アポイントは?」

 

ウェイブの名を聞いた途端に顔を顰めた受付嬢。

そう嫌そうな顔しなさんな。オレだってそんな顔をしたいくらいなんだからよ。

何せ奴さんと来たら、この会社位一の変態だからなぁ。オレのスカイウォーカーを作ったのもこいつだ。

あの可笑しな仕様の機体を作る辺り、その変態っぷりがにじみ出ているだろ。

オレは微妙に笑顔が崩れかかっている受付嬢に顔を近づけて静かに言う。

 

「アポはあの馬鹿に聞かなきゃ証明は出来ねぇ。まぁ、出向での社員証ぐらいはもってるさ。それよりもアンタも苦労してそうだなぁ。あの馬鹿は毎度可笑しなことしかしねぇだろ」

「そ、そうですね~……あ、確かに社員証は確認しました。出来ればしたくありませんが、此方から内線でお電話を……」

 

受付嬢が苦笑しつつ内線を取ろうとするも、それは突然俺達に掛かってきた馬鹿でかい声で中断された。

 

「その必要はなぁあああぁああああっぁああああぁあああああああい!! 何故なら、私は既に出向いているからだ」

 

その声にひぃっと短く悲鳴を上げた受付嬢と共に声のした方を向けば、そこに居るのは白と黒のツートンカラーの頭に白衣を纏、その下にはギタリストのようなレーザージャケットを着込んでいる男が妙なポーズを取って立っていた。あぁ、やっぱり来ちまったか。出来れば会いたくなかったよ。

そいつはオレを見ながら妙に嬉しそうなガキみてぇな面でこっちに歩いて来た。

 

「やぁやぁ、久々だね~、ハーケン君。私の『娘達』はどうだい」

「よぉ、相も変わらずぶっとんだ恰好してるなウェイブ。お前さんの娘のせいで酷い目に遭ってばかりだよ」

「それは結構。それだけ活躍出来ているということだからね」

 

嬉しそうにそう語るこいつこそ、件のウェイブ・ホルストだ。

テメェの作った兵器を我が子のように可愛がり溺愛し、壊せば号泣する変態だよ。ちなみに欲情することもしょっちゅうだ。本人曰く、生身の人間には勃起しないらしい。

そのくせ、一旦悲嘆に暮れた後はケロっと真顔に戻ってそれまでの教訓を活かしてさらに頑張ろうと前向きな奴だよ。

明らかに常人とはかけ離れた精神構造は最早人じゃねぇ。まだあの『篠ノ之 束』の方が幾分もマシだ。あっちは美人だしな。こっちはガチで銃口の中にブツぶっ込んで腰振ってる所を見たことがある。ありゃマジで引くレベルだ。

そんな変態に話しかけられるってだけでも鳥肌が立つってもんだが、これも仕事だ。襲われないだけマシだと思うしかねぇ。

 

「相変わらずテメェの作ったモンに歪んだ愛情を持ってるな」

「何言っているだい。娘を愛するのは親として当然のことだろう! あぁ、スカイウォーカーはどれだけ素晴らしく成長したのだろうか……いかん、考えたら勃ってきてしまった!」

 

その大声の発言に受付嬢は顔を青ざめさせ、オレは今すぐにでもこの変態のブツをオルトロスで吹っ飛ばしたい気分で一杯になった。

 


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