恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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今回も訓練のお話です。


第八十話 お嬢様と狙撃訓練 その2

 褒められたことで大層大喜びなお嬢様だが、可哀想なことにここから先はハードモード一直線だぜ。何せクロードは何でも出来るハイスペックな野郎だが、そんな奴にも欠点って奴がある。お小言が五月蠅いのは毎度の話だが、それ以上にとんでもねぇ悪癖って奴があるのさ。この上司様はとんでもねぇドSで、見込みのある奴を見ると、とことん着き詰めたくなるんだとさ。

御蔭でオレはは今までにかなり色々と教えられたよ。

そんな教育熱心な上司様のお眼鏡にお嬢様は見事に掛かったらしい。御蔭でクロードの眼鏡が怪しく輝き始めやがった。

 

「流石は代表候補生ですね。見事な射撃でした」

「いえ、そんなことはありませんわ。これくらい、当然ですもの」

 

クロードに褒められお嬢様は可愛らしく頬を染める。

そいつは中々に絵になる面だが、これから始まることを考えるとオレは涙が止まらなくなっちまいそうだ。

クロードはお嬢様を持ち上げると再び手元にある装置を操作し、ターゲットを複数出した。ぱっと見はさっきとかわらねぇが、その実これ程意地汚ねぇのもそうはねぇ。

 

「では、今度も同じように撃って頂けませんか」

「わかりましたわ!」

 

クロードにそう言われ、お嬢様は元気よく返事を返す。さっきの奴で手応えでもつかんだんだろう。まったくもって……可哀想だ。

お嬢様は得意げにライフルを構えてまず端から狙いを定める。

 

「では、行きますわ!」

 

勢いよくそう言って引き金を引く。

心地良い銃声が鳴ると共に遠くにあるターゲットが揺れた。

お嬢様の口元の笑みから的中したことが窺える。最初はいいんだよ、最初はなぁ。

だが問題は次からだ。

 

「っ!?」

 

お嬢様は次のターゲットに狙いを定めた瞬間、驚いて目を見開いた。

そのためか、動揺して引き金を誤って引いちまった。発射された弾は可笑しな方向に飛んでターゲットには傷一つねぇ。

それが分かってなのか、クロードは口元に笑みを浮かべてやがる。あぁ、始まっちまったなぁ。

お嬢様はそこで一端狙撃をやめ、クロードの方を振り向いた。

その面は気まずそうだが困惑してるって感じだ。まぁ、普通の訓練にゃぁそんなもんは無かったから仕方ねぇんだけどよぉ。

 

「あ、あの……ターゲットがおかしくありませんか?」

「何が……ですか?」

「その……形が変わっているし、それにサークルの位置がずれていますわ」

 

そう、お嬢様が驚いたのは二つ目のターゲットが通常に奴とは違うって所だ。

人形なのは一緒なんだがなぁ……。

 

「別に可笑しくはありませんよ。あれは人が真横を向いたときのシルエットで、その際に対しての急所が描かれてるものですから」

「えっ、そんな物って……」

 

そう、この悪趣味な上司様が直に作ったターゲットで、普通の狙撃ターゲットじゃありえねぇようなもんなんだよ。

実戦って奴では、常に敵を真正面から撃ち抜けるわけじゃねぇ。もし常に真正面しか向いてねぇ奴がいるんだとしたら、そいつはかなり前に流行ったゲームのエイリアンくらいなもんさ。つまりペラペラで横がねぇ。狙撃に求められるのは必殺。そいつを行うに当たっては、どのような状態、環境でも確実にターゲットの息の根を止める必要がある。だから相手が横を向こうが後ろを向こうが問題無く急所に弾を当てる必要があるんだよ。

身体の位置が変われば狙う箇所も変わるからなぁ。心臓を狙おうとすれば腕が邪魔になるし、頭でも頭蓋骨の密度の違いで変わることもある。

要はそれらを理解した上で相手を確実に殺せってこった。

クロードは授業をする教師よろしくにお嬢様に説明を行ってく。かけた眼鏡が更にその雰囲気って奴を感じさせるよ。

 

「狙撃は一撃必殺。そのためには確実に急所に弾丸を撃ち込める必要があります。故に対象が如何様な体位であろうと確実に仕留められるようにならないといけません。あのターゲットはそういった瞬間を鍛えるためのターゲットの一つです。あれ以外にも背を向けた物や身体を斜めにした物もありますよ」

「うぅ~、軍の演習場ではそんなターゲットはありませんでしたのに」

 

少し悔しがるお嬢様。

結構負けず嫌いな所があるからなぁ。それも自分の土俵でこうもされりゃあ確かに腹も立ちはするもんだからなぁ。

 

「ま、負けませんわ!」

「その勢きです」

 

お嬢様は気を取り直して再びライフルを構えると、クロードがそれをよいしょする。

そしてお嬢様は再びあのターゲットに向かって引き金を引き始めた。

例のターゲットが出てもワンテンポ遅れる程度で何とか撃ち抜いていくお嬢様。流石は代表候補生ってやつだ。すぐに対応してくるのは訓練の賜物だろうよ。

あれから更に後ろ姿だったり寝そべってたりと色んなターゲットが出たが、お嬢様は何とか食らい付きながら撃っていった。

全てを撃ち終えるころには、結構汗を掻いて呼吸が荒くなってたよ。

白い肌に光る汗が何とも魅力的なモンだ。その美しさときたら宝石なんかよりも上ってなぁ。(笑)

最初は仕方ねぇが、あれは結構精神的にも疲れるもんがあるからなぁ。最初は戸惑うもんさ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………終わりましたわ」

「はい、結構です。お疲れでしょう、これをどうぞ」

 

疲労困憊なお嬢様にクロードはそう声をかけると、いつの間に持ってきていたのかスポーツドリンクなんてもんをお嬢様に渡した。

おいおい、オレの時はそんなお優しいもんはなかっただろうが。確か息絶え絶えのオレにお前さんはまるで腐った生ゴミを見るような目で『何をへばっているんですか。戦場でそうなったら死ぬのは貴方も知っているでしょう』って言ってたのが今でも鮮明に思い出せるぜ。

そこは流石紳士って奴らしい。野郎との扱いの差が激しいねぇ。

 

「あ、ありがとうございますわ……」

 

お嬢様はそいつをを早速開けると、ゆっくりと喉を小さく鳴らしながら飲んでいく。

その様子から余程疲れたらしい。

その様子を微笑ましく見ていたクロードは、今度はオレにライフルを渡して来やがった。

 

「今度は実演を見て貰いましょうか。レオス、よろしくお願いします」

「はぁ、面倒臭ぇなぁ。お前さんがした方が良いだろ、『先生』」

 

オレは面倒臭そうにクロードにそう答えると、クロードは笑顔をオレではなく何故かお嬢様に向けた。

 

「セシリアさんもレオスのお手本を見たくありませんか?」

「レオスさんの……お手本…ですの……」

 

クロードにそう言われたお嬢様は疲れながらも瞳を輝かせながらオレを見つめて来やがった。

 

「はい、是非みたいですわ!」

「だそうですよ、レオス。恰好悪い姿は見せられないですね」

 

野郎、やってくれるじゃねぇか。

あんなに楽しみにしてるお嬢様を前にやらねぇとは言えねぇようにしやがった。

たく、仕方ねぇなぁ。

オレは渡されたライフル片手にさっきまでお嬢様が立っていた場所に行くと、気だるいげに構えた。

 

「んじゃいいぜ。こいよ、クロード」

「ええ、では思いっきりやらせていただきますね」

 

クロードは嫌に清々しい顔をすると共に、手元の装置を操作する。

その瞬間に出現したターゲットだが、あの上司様はどうもオレで遊ぶ気満々らしい。

ターゲットの数はお嬢様の二倍以上。その上さっきのターゲットに続いて遠近法を用いた距離感を狂わせる奴、段差を用いて狙いづらくした奴、挙げ句はバイク並みの速度で移動し続ける奴なんてもんまで出して来やがった。

こいつ等は皆お嬢様にこの後やらせる予定だった奴だろうよ。

そいつをオレに実演させようとは、随分な真似をしてくれるぜ、本当になぁ。

 

「んじゃ……行くぜ!」

 

お嬢様の手前、かっこ悪い姿は見せられねぇからなぁ。

オレは早速狙いを付けると引き金を引く。最初のターゲットの頭をぶち抜くと、さらに他のターゲットも構わずに頭をぶち抜いていく。

心臓に弾をぶち込めば死ぬのは確実なんだが、それでも数十秒は生きてるんでなぁ。即死させるにはお脳をぶちまけさせるのが一番速いんだよ。

それはどれでも同じだが、流石に速く動くターゲットの頭は狙いづれぇなぁ。

 

「だが、こいつで終わりだ」

 

そう呟きながら引き金を引くと、動き廻るターゲットの胸をぶち抜いた。

それで動きを止めるターゲット。オレはクロードの方を振り向き不敵な笑みを浮かべる。

 

「どーよ、上司様。こいつで文句ねぇだろ」

「まぁ、及第点ですね。最後の奴も頭部を撃ち抜いていればもう少しはマシだったのですが」

「うっせぇ」

 

そんなやり取りをしながらお嬢様を見ると、お嬢様は顔を真っ赤にしてオレを見ていたよ。

 

「どうしたんだ、お嬢様?」

「っ!? いえ、何でもありませんわ!」

 

お嬢様はオレに声をかけられちゃことに驚いたようだが、何かあったのかねぇ。

 

(あぁ、レオスさん、格好良かったですわぁ……)

 

 取りあえずコレでオレの手本は終わったんだ。

後はこれをお嬢様がやるってことになるんだろうよ。

まぁ、頑張りな。

 


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