恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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第五十九話 夏休みでの緊急依頼

 朝っぱらから憂鬱な気分だっていうのに、その上地元に戻るまでの間は手錠で犬ヨロシクにリードで牽引だとさ。

全くもって悲しいねぇ。オレが如何に平和を愛する人間かってのは、この数ヶ月で日本政府も良く分かってくれると思っていたのによぉ。

そんなことを聞かされた日にゃぁ、とっとと寮に戻ってお嬢様が隠した酒を一杯呷って寝たくなるもんさ。お嬢様は可愛いものでなぁ、本人は隠しているつもりなんだろうけど、すぐに見つかったよ。

お嬢様は気付いていないが、あれからちびちびやってたりする。

と言う訳で、とっとと帰ろうと思うが……どうもやはりと言うべきか、どうにも厄介事ってのがありそうだ。

思えば昼休みにその前兆があったんだよなぁ。

 

 

 

「うふふふふふ」

 

昼になり、暑ぃがたまには外で飯を食おうってお嬢様に勧められたんでね。面倒ながら仕方なく付き合うことになった。

やけに威圧感のある笑顔だったんで、逆らうことはしなかったけどな。経験上、こんな面をしている奴に逆らうのは利口じゃねぇってことは知っているからよ。

 

「やけにご機嫌じゃねぇか、お嬢様」

「そうですか? うふふふふ」

 

ご機嫌真っ盛りなお嬢様は美味そうにサンドウィッチにぱくつく。

朝は少しへこんでいたようだが、一体この昼休みまでに何かあったのかねぇ。

 

「そんなに良いことでもあったのかい?」

「ええ! あぁ、楽しみですわぁ」

 

まぁ、たぶん夏休みに向けて何かいいことでもあったんだろうさ。

 この時、オレはそこまで深く考えなかったんだよなぁ………。

 

 

 

それでお嬢様は終始ご機嫌だった訳で、後は寮に帰って荷造りって所だったんだが、帰りのSHRが終わると共に鳴り出す携帯。

タイミングの良さから決まって誰がかけてきた何てのはもう嫌でも分かっちまう。

そいつにうんざりしながら携帯に出ることはせず、とっとと向かうことにした。

 

爺さんの所に。

 

バックれたい気持ちを必死に堪えつつ、理事長室の扉をノックするといつもと変わらねぇ爺さんの声がかけられた。

それで扉を開けば、いつもと変わらねぇ爺さんの人畜無害そうな笑い顔があった。

 

「そろそろ夏休みだというのに申し訳ありません」

「口でそんなこと言っちゃぁいるが、本心はそんなことまるっきり思っちゃいねぇだろ」

「そんなことありませんよ」

「そう思うんだったら『この前』のゴミ掃除、オレにやらせるこたぁなかったんじゃないか?」

「それは別、ですよ。何せ君がああも派手にやるとは思いませんでしたから」

「恥ずかしながら、オレの二つ名は爺さんも知ってるだろ?」

「それで毎回始末書が多いと愚痴っていることもですけどね」

「ちっ……」

 

前回の件はオレが一方的に悪者にされちまったよ。

笑顔で爺さんはそう言うが、腹の中でどう思ってるのやら。

オレは爺さんに挨拶を終えると、来客用のソファにどっかりと座り込む。

向かい側では会長さんが茶菓子を摘まんでいた。

 

「よう、久々だな、会長さん」

「相変わらず横柄な態度ね、貴方は」

 

会長さんはジト目でオレを睨んで来るが、一々とり合ってもしかたねぇ。

爺さんと会長さんがいるって事は……『今後の話』だろうよ。

 

「爺さん、会長さんがいるってことは、今後のお話について……てことでいいんだよなぁ」

「ええ、その通りです。聡いと助かりますよ」

「このタイミングで来れば馬鹿でも分かる話さ」

 

爺さんがご明察と笑うのを見ると、口寂しいオレは一端ソファから立ち上がると爺さんが隠している酒を目敏く見つけそいつを持ち上げる。

 

「貰うぜ、爺さん」

「おや、もう見つけてしまうとは。流石ですねぇ」

 

爺さんは変わらずの笑顔だったが、少し声音が残念そうだ。ざまぁみろ。

オレはソファに戻ると座り直し、そいつの封を切って豪快に煽る。

 

「あぁ……私のバカルディが……」

「うっせー、この陰険ジジイ。あの時オレがどれだけバーベキューで苦労したと思ってんだ。一応仕事はきっちりとする性分なんでな。御蔭で鴉や野犬に喰われねぇ限りは回収して全部燃やしたんだからな。これぐらい目ぇ瞑れよ」

 

ムシャクシャしつつ、丸々一瓶を一気に空にして一息つく。

その様子を見て会長さんは白い目でオレを見ていた。

 

「昼間からお酒なんて、最低~」

「別に何と罵ってくれてもいいぜ。碌でなしの自覚は充分にあるんでなぁ」

 

すると前と同じように少しだけ好奇心が混じった視線をオレに向けてきた。

 

「そ、それでさ……お酒って美味しいの? ウチ、結構厳しいから飲んだことなくて」

 

オレの手にあるもう一本のバカルディを興味津々に見る会長さん。

どうにも飲んでみたくて仕方ねぇって感じだが……。

 

「悪いね。こいつは爺さんが無理難題をふっかけた分なんでな。やる気はこれっぽっちもねぇ。お子様は黙ってミルク飲んでるくらいが丁度良い」

「むぅ……私、君より一つ年上なんだけど」

「歳をとれば大人って訳じゃねぇよ、お嬢ちゃん」

「キィーーーーーーー!」

 

物欲しそうな会長さんをからかって少し遊んだ後、改めて爺さんに話を振る。

 

「それで爺さん。今後の話ってのは?」

「ええ、そうですね。では、話しましょうか」

 

その声に会長さんも真面目な顔で聞く体勢を取った。

 

「新学期までは私達IS学園と更識君で織斑君を守りますので、君は翼を休めて下さい」

 

完結に言う爺さん。まぁ、予想通りだな。

オレだって完璧にはフリーじゃねぇからなぁ。それに爺さんの手駒でもねぇから、丁度良く使い回せねぇ。まぁ、それ以外もあるんだろうけど………。

 

「分かりました。では、これからは私が影ながら彼を守りますので」

 

自信満々に胸を張って主張する会長さん。

あまりやり過ぎると、会長さんの出番がないからなぁ。

会長さん、今までやることなかったから暇でしょうがなかったんだとさ。

 

「ああ、大体分かったよ。オレはゆっくりと本業に打ち込めって事だろ」

「ええ。君の会社の方から仕事が詰まっているので夏休みの間は休ませて欲しいと」

 

十中八九、クロードの野郎だな。

まぁ、仕事が詰まってるのは予想していたから、こうなるのも予想済みだけどよ。

さて、今後の話も終わったことだし帰ろうと思ったんだが、どうやらそうもいかねぇらしい。

爺さんが妙に可笑しそうな笑いを浮かべてオレを見ているんだからなぁ。

 

「爺さん、どうかしたのかい。妙に笑うじゃねぇか」

「そうですか?」

「ああ、まるでこれから面白そうなことが起きるのを待ってるガキみてぇな目だ、そいつは」

 

爺さんは笑いながらオレにこう答えやがった。

 

「まぁ、そうですね。私が見る分にはとても楽しいでしょう」

 

その答えはすぐに鳴った携帯から知らされた。

そいつにを見ると、上司様の名前がディスプレーに表示されていた。

爺さん達の方を見ると、二人とも出ていいと頷いたんで、すぐに出る。

 

「もしもし、いきなり何用だ? こっちはそろそろ帰り支度をしなきゃならねぇんだがなぁ。詰まってんだろ、仕事」

『ええ、それは失礼しました。ですが、此方も急用ですので』

「急用?」

『はい、急務の用件です』

 

急にそんなことを言われたのもアレなモンだが、それ以上に可笑しな気配を感じるぜ。

特にクロードの口調が僅かにぶれてやがる。

こいつは………笑ってるのか?

 

「それで、随分と怪しい用件ってのは?」

『はい、それについてですが……護衛任務ですよ』

「護衛? そりゃまた随分と奇特な奴だな、そんな依頼をした奴は」

 

巨人の大剣ってPMCはその強さから殆ど殲滅戦にしか呼ばれねぇ。その俺達に護衛を依頼する奴なんてザラだろうよ。

 

『しかも貴方宛の個人依頼ですよ』

「マジかよ……誰だよ、オレを指定したアホは……」

 

余程お味噌が残念な事になっている奴に違いねぇ。もしくはオレを狩るための誘いか、こいつは。

そしてクロードから依頼について明かされ、オレはそれに驚き復ることになった。

 

『依頼内容は護衛。期限は約一週間。そして護衛対象は……『セシリア・オルコット』です』

「………はぁ?」

『聞こえませんでしたか。では、もう一回繰り返します』

 

そしてクロードの口からもう一回依頼人の名前と依頼の内容が語られる。

聞いたオレはまさに度肝を抜かれたってやつさ。

真逆……お嬢様の護衛とはね。

爺さんのさっきの面もよ~く分かったぜ。

こいつの所為だな。

 

『そういうわけで、貴方はこのまま対象を護衛して下さい。では』

 

そう言って通話を切るクロード。

それを見計らったかのように理事長室の扉がノックされた。

 

「はい、どうぞ」

 

爺さんが扉に返事をすると、静かに扉が開いた。

そしてそこにいたのは………。

 

「うふふふふ、よろしくお願いしますわ、レオスさん!」

 

満面の笑みを浮かべたお嬢様が立っていた。

 

 

 

 これで何故、お嬢様がご機嫌なのかの理由が分かった。

さらには爺さんやクロードがグルであり、この依頼自体が架空のもんだってことも。

その光景に頭痛がしたが、何よりもオレを見てニヤニヤと笑っている会長さんが一番むかついた。

 こうして、オレは依頼という名のお嬢様の短い旅行に付き合うことになったのだった。

 


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