恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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第五十七話 後片付けはちゃんとしよう。

 昨日はお嬢様と夜の海でハッスルしたわけだが、中々に驚いた。

あの作戦の後だってのにどこからそんな元気が出るのか、若者の不思議ってやつだねぇ。

さて、そんな楽しい時間も過ぎ去って翌日。

部屋で目を覚ました後は飯食って行き同様にバスでIS学園までカムバックだ。

特にすることもねぇんで、飯を食ってささっと帰るとしますかねぇ。

思い返してみて、まぁ悪くはねぇ臨海学校だった。

久々の生の仕事でハッスルしたのは、ここ最近の鬱憤を晴らすにゃぁ最適だったさ。

ただ、たぶん『あっち』じゃ今頃面倒臭せぇ話が出回ってる頃合いだろうよ。

これでビビって手を出さねぇって奴なら良いんだが、自分の方が強ぇとか言って挑んでくる馬鹿が増えるのは勘弁だ。偶にそういう奴とかいるからなぁ。相手にすることほど面倒なことはねぇんだよ。

それにお味噌がイッちまってるお馬鹿な組織の頭がより賞金を上げたりするもんだから、それに釣られたクソ共がさらに仕掛けてくることもあるわけで、何かと面倒なのが避けられねぇ。

まったく……人気者は辛いねぇ。御蔭で有名人がどんな気分なのか分かっちまう。

こんなんで分かりたくはねぇけどなぁ。

いけねぇいけねぇ。せっかく悪くねぇ気分なのにこんなことばっか考えてたんじゃあテンションが下がっちまう。

気持ちを切り替えて部屋を出るて飯を食うために大広間へと向かう最中、お嬢様と鉢合わせた。

 

「あ、レオスさん。おはようございますわ!」

「ああ、おはようさん」

 

お嬢様はオレを見るや、ぱぁっと思いっきり顔を輝かせた。

朝からお嬢様の笑顔ってのはいいもんだねぇ。心が洗われてくみてぇだよ。

御蔭でさっきまでの憂鬱なモンが少しは和らいだ。お嬢様には感謝だなぁ。

お嬢様はそのままオレの隣に着くと一緒に歩き出す。

 

「今日で臨海学校も終わりだと思うと、少し寂しいですわね」

 

少し寂しそうにそう言うお嬢様。

たぶんお嬢様にとっては初めてのことだったんじゃないか。集団で旅行なんてのは。

オレなんてそれこそ年がら年中だ。仕事だがね。御蔭で見飽きるじゃすまねぇくらい連中と面突き合わせてる。本当に今更だがねぇ。

 

「その様子だとお嬢様は楽しめたようだな、この行事」

「はい!」

 

何とまぁ輝かしい笑顔だことで。

見てて眩しすぎて目が痛くなりそうだ。

 

「レオスさんはどうですの? 臨海学校、楽しめました?」

「ん? そうだな………」

 

楽しそうなお嬢様にそう聞かれ軽く振り返る。

 

「まぁ、悪くはなかったぜ。お嬢様の水着姿も見られたしなぁ」

「なぁっ!? そ、そうですの………嬉しいですわ…」

 

答えた途端に顔を真っ赤にしてもじもじし始めるお嬢様。

まったく、からかいがいのあるお嬢様だ。見ててイチカとは違った面白さってもんがある。だからついつい弄っちまうんだがねぇ。

そのまま臨海学校についてお嬢様と話しながら大広間へ。

席に着いてチフユの有り難いお言葉を受けた後にやっと食い始めたが、お嬢様が終始喜んでいたよ。飯も美味いが、美少女が一緒だと尚更心が潤うねぇ。これがムサい野郎だと朝からげっそりしちまうからなぁ。まぁ、もう慣れたけど。

それで飯を食ったらあとは部屋に戻って帰り支度。

オレは他の奴等と違って旅館の女将とかに挨拶もしなきゃならないんで遅くなりそうだ。そんな訳で女将に迷惑かけた事で礼を言いにいったんだが、お構いなくだとさ。

ちゃんと迷惑料は爺さんから貰ってるだと。

あのジジイ、そういうところは本当にちゃっかりしているよ。

だったらオレにも迷惑料を払って貰いたいもんだ。毎回無茶を聞いてるんだからよぉ。

後はバスに乗って帰るだけなんで、全員バスに搭乗し始める。

イチカの野郎はホウキ達に捕まって早々にバスに連れて行かれたよ。

今頃後部座席で座り込んでいるだろうさ。

お嬢様も先に行ったようだし、オレも乗り込もうかねぇ~。

そう思ってたんだが、どうもオレは簡単には席に着けねぇらしい。

 

「あら、貴方が噂の」

「あん? 誰だい、アンタ?」

 

後ろからいきなり声をかけられたんで振り返ると、そこには金髪の美女が立っていた。

歳は二十前半ぐれぇで、胸の谷間がよく見えるカジュアルなスーツを着てる。ぱっと見ですぐにIS学園の関係者じゃねぇことがわかった。何せ見たことねぇ面だからなぁ。

 

「噂の有名人に会えて光栄よ。私はナターシャ・ファイルス。福音の操縦者よ」

「ああ、あれの操縦者か」

 

福音の操縦者か……そういえばイチカに丸投げしといたんだったか。

それにしても有名人とはねぇ。その割にオレを見る目が厳しいのは何か含むところでもあるってところか?

その女の後ろにはチフユが控えてたが、どうもオレとこの女の会話に介入する気はねぇらしい。まったく、困ってる生徒なんだから助けて貰いたいねぇ。

ナターシャはオレを嫌悪するように睨みながら話しかけてきた。

 

「貴方に助けられたのは事実だから礼は言うわ。でも……貴方のような人殺しに感謝することは出来ない」

 

どうも奴さんは傭兵が嫌いらしい。

 

「そいつはどうも。だが……軍用ISの操縦者をしているアンタがそんなことを言うのかい?」

「否定する気はないわ。でも、それでも………よ」

 

奴さんは正義のためなら仕方ねぇって口らしい。真面目なことで。

その正義感からすると、オレがしてきたことは同じ事でも許せそうにねぇらしい。

オレからすれば差なんてねぇのになぁ。

 

「それで? そんな気にくわねぇオレにいつまで話してる気だい」

「それもそうね。じゃあ助けてありがとう、『災厄の嵐』さん」

 

二つ名で嫌みをあの女は言うと、今度はバスの中に入り込みやがった。

それで聞き耳を立てりゃあ、イチカの周りの奴等が騒ぎ始めたようだ。何でもイチカはあの女に助けて貰った礼を言われると共に頬にキスされたらしい。

オレとはまったく扱いが違うねぇ。

それで周りの奴等を煽るに煽ったあの女は笑顔でバスを降り、チフユに捕まって説教を受けている。

さて、やっとバスに乗れると思ったんだが、歩き始めた途端に携帯が鳴り始めた。

このタイミングで鳴るってのは、嫌な予感しかしねぇなぁ。

そして見てみりゃ案の定、爺さんからだった。

 

「はい、もしもし」

『あ、おはようございます』

 

いつもとかわらねぇのほほんとした声で挨拶する爺さん。

そういや最近は聞いてなかったなぁ、爺さんの声。

 

「ああ、おはようさん。それで、いきなり何の用だ? これからもうバスに乗ってもう戻る所なんだがねぇ」

『ああ、はい。そのことでお話が』

「……何だか碌な気がしねぇなぁ」

『はい、当たりです。実は『後片付け』の件なんですけど……』

 

後片付けねぇ。

基本は爺さんがやるって聞いてたはずだがなぁ。きっと出来れば聞きたく無いことをきかされそうだ。出来れば聞きたくはねぇんだが……依頼人だからなぁ。

すると爺さんは予想以上に最悪な事を言い出しやがった。

 

『あまりにも森の損壊が激しいものですから、其方の修繕にお金を持って行かれまして。申し訳ありませんが、『生ゴミ』はご自分で片付けてもらえませんか』

「………おいおい、ここまで最悪な気分は久しぶりだぜ。爺さん、アンタはオレに一人でバーベキューをしろっていうのか?」

『本当に申し訳無いですけど、その通りです。お手伝いは出せそうにないですね。といっても、貴方が余りにもやり過ぎたのが原因ですからね~』

 

出来れば今すぐにでも爺さんの尻の穴を溶接して頭に変わりの穴を開けてやりてぇ気分で一杯だ。

だが、まだ依頼達成を直に報告していない以上、依頼は継続中だ。

だから依頼人の要望は出来る限りは聞かねぇとならねぇ。

 

「………爺さん、追加はちゃんと払えよ」

『まぁ、仕方ないですね。色は付けておきますから。では』

 

爺さんはそう行って通話を切った。

全くもって憂鬱な気分だ。だが、やらねぇとなぁ……。

その後オレはチフユにまだ残らなきゃならねぇことを伝えると苦ぇ顔をしたが、我等の担任様も爺さんには何も言えねぇらしい。

それを伝え終わると、旅館の女将にもう少し迷惑をかけることを伝えたらまたお構いなくだと。その迷惑料も込みだったんだとさ。

あのジジイ。もとからやらせる気満々じゃねぇか。

あとで理事長室の酒でもふんだくらせてもらうぜ、本当。

そして最後にお嬢様に連絡だ。

かなり帰りも楽しみにしていたみたいだからなぁ。

 

「もしもし、お嬢様」

『レオスさん、どうしましたの?』

 

携帯でさっそく電話をかけるとすぐに出た。

 

「悪いが一緒に帰れそうにねぇや。先に行っていてくれ」

『そ、それはどういうことですの!』

「どうもこうもねぇ。そのままだな。急に爺さんから頼まれ事をされてなぁ』

『またあの『お爺さん』ですの? はぁ……せっかくレオスさんと一緒にバスでお喋りしたかったのに………』

 

かなり残念そうな声を出すお嬢様。

本当に申し訳ネェなぁ。

 

「悪いな、お嬢様。替わりといっちゃあ何だが、今日の夜はお喋りにとことん付き合ってやるよ」

『ほ、本当ですの!』

「ああ、本当だ。執事みたいに畏まって紅茶でも淹れてやるサービス付きだ」

『や、約束ですわよ! 絶対ですからね!』(れ、レオスさんと夜通しでお喋りなんて……素敵ですわぁ!)

「ああ、約束するよ。傭兵は契約は破らねぇんでなぁ」

『はい!』

 

お嬢様のご機嫌も戻った所で電話を切り、オレは一人山へと向かって行く。

爺さんに言われたとおり……

 

死体って生ゴミを処分しねぇとなぁ。

 

 

 

 こうしてオレの臨海学校は一人でバーベキューすることで終わりを迎えた。

 

 


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