恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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やっと臨海学校も終わりが近づいてきましたよ。


第五十五話 リザルト

 あれからオレは風呂に入って身体中のべったりとこびりついた血糊を落とし、飯を食うことにした。

暖かい湯が身体に染みること染みること。

御蔭で傷口が開いて湯船が少し汚れちまったが、そいつは勘弁してくれ。

せっかくの温泉なんだから、堪能したいんでなぁ。

それでゆっくり浸かってたら一時間は経っちまった。まぁ、この後何かあるわけじゃねぇからいいけどよ。

それで身体をさっぱりと綺麗にしたところで、やっと飯にありつけた。

皆が並んでいる中にオレも加わって夕食を食うんだが、前は食えなかったからなぁ。流石は日本食ってやつだ。中々にイケるもんさ。

え? 外国人なのに生魚はどうなんだって? おいおい、世間様じゃあ食うに困ることの方が多いんだぜ。魚は勿論、蛇に蛙に虫まで、生で食わなきゃならねぇ時だってあるんだからよ。寧ろこれだけ生で上手いんだったら万々歳だ。アマゾンのジャングルで囓った蛇とか、サハラ砂漠で食ったサソリなんてそれこそ生臭かったからなぁ。

 

「はい、レオスさん! おかわりをどうぞですわ」

「ああ、ありがとよ。お嬢様」

 

腹が減ってたんですぐに茶碗を空にすると、気を利かせてお嬢様がおかわりを装ってくれた。本当に有り難いもんだ。

あれからお嬢様達は無断出撃についてチフユにこってりと絞られた後に帰ったら反省文と課題の提出の罰を喰らったんだと。

そのことにはショックを受けたらしいが、過ぎたことは仕方ねぇってんで気にするのは止めたらしい。

まぁ、それぐらいが人間丁度いいさ。いつまでも昔のことを引き摺ってるとエンジョイは出来ねぇからなぁ。

それで今はこうして嬉しそうに笑いながらオレの隣の席で飯を食ってる。

イチカ達は別の席で飯を食ってるんだが、周りの奴等から質問責めにあっていたよ。何でも今回の福音の件で他の奴等は旅館に閉じ込められてたらしいからな。

オレに来ねぇのはチフユが事前に言ったかららしいが、どうもそれ以外にもありそうだ。

少しばかり寂しいねぇ。

そう思いながらも、身体は正直に食い物を求めてる。

だからまだまだ食っていく。うん、労働の後の飯は一段と美味いねぇ。

 

「レオスさん、美味しいですわね」

「ああ、そうだな」

 

隣で喜んでいるお嬢様の御蔭か、結構楽しい夕飯になったな。

これでせっかくの日本なんだから日本酒があれば最高なんだが、チフユが睨みを利かせているんでそいつは無理だ。それだけが唯一残念なことだねぇ。

 

 

 

 もうすっかりと暗くなって星空が綺麗な夜空の中、オレは一人砂浜に来ていた。

別に何かするってわけじゃねぇんだが、未だに身体が燻ってなぁ。どうも久々の殺し合いの余韻がまだ残ってるらしい。初めてじゃねぇんだから恥ずかしいもんだが、よくよく考えてみりゃあ逆に今までこれほど殺してこなかった事の方が珍しい。

だからかねぇ………笑みが浮かんで仕方ネェのは。

浜辺で電子タバコをゆっくりと吹かす。

これで本物なら良かったんだがねぇ。生憎手持ちがねぇことが悔やまれるもんだ。

そこでボーとしていたら、せっかくの雰囲気をぶち壊すように携帯が鳴りやがった。

まったく、誰だと思ったら案の定、上司様からじゃねぇか。

出ねぇとうるせぇんだよなぁ。

仕方なくオレは携帯に出る。

 

「ハイハイ、そうせっつくなよ」

『遅いですよ、レオス』

 

携帯から聞こえてきたのは相もかわらねぇ美声の持ち主であるクロードだ。

 

「それで何の用だよ。依頼はちゃんとこなしたし、報告書は明日でも良いだろ?」

『別にそこまで急いではいませんが、ちゃんと提出して下さいね』

 

どうも上司様はオレがサボらねぇか釘を刺しにきたらしい。

信用ねぇなぁ……と思いてぇが、事実なだけに反論出来ねぇ。

ここで何か反論しようもんなら、それ以上のどぎついお小言が返ってくるんで、オレは黙るしかねぇのさ。

 

「それでクロード。わざわざオレに釘刺すために連絡入れたって訳じゃねぇだろ。本題に行こうぜ、本題に」

『そうですね。では、まず最初に……ご苦労様でした。無事に依頼は成功したようですね』

 

労いの言葉を言われるが、そんな挨拶はどうでもいいんだよ。

あまり焦らされるのは好きじゃねぇんでなぁ。

 

「そいつはどうも」

『それにあたっての貴方の結果報告をしようと思って連絡を入れました』

 

結果ねぇ。あまり聞いた所でたいしたことなんてねぇだろうに。

まぁ、これもいつものことだから仕方ねぇか。

 

「それで今回は?」

『はい。まず、今回其方に攻めてきた人数は約300人。その内軍人は100人くらいで、約三分の二は戦死しました。それ以外に攻めてきた残り200人の内、約180人は死にましたね。計、約260人くらいが貴方が殺した数ですよ』

「そいつは言い過ぎだろ。それにトラップでミンチになった間抜けを引けば半分くらいじゃねぇのか?」

『それでもですよ。御蔭で今、裏サイトで貴方の250人殺しが盛況ですよ。さらに名が売れたようで喜ばしいですね』

「冗談抜かせよ。そいつはどう聞いたってお馬鹿が遊びに来まくるって寸法じゃねぇか。全然嬉かないね」

 

どうもウチの奴等は目立ちたがり屋が多くていけねぇ。

クロードは宣伝になって良いって喜んでるみてぇだけどよ。釣られたお馬鹿の相手をする面倒臭さも考えて貰いたいもんだよ。

 

『そうですか? 私は喜ばしいと思いますが。あぁ、でも団長からは全員殺すくらいしろよ、このヘボ! って伝言を受けましたよ。手厳しいですね』

「クロード、あのクソ親父に伝えて置けよ。返ったら額でタバコ吸うコツを教えてやるから楽しみにしておけってなぁ」

『あまり派手にされては困りますけどね。取りあえずは考えておきますよ』

 

やっぱりあのクソ親父とは一遍ケリを付けた方がぜってぇいい。

そう思ってるとクロードが茶化すように言って来やがった。

 

『今じゃ『250人殺しのレオス』なんて二つ名が出てますよ』

「頭の悪いこというなよ。殺した数を数えて自慢する馬鹿はウチにはいねぇだろ。あまり弄くらないでくれ」

『あはははは、申し訳ありません。ここ最近はあまりちゃんとした仕事をしてこなかったのでどうかと思いましたが、杞憂のようでしたね』

「まったく……あまり舐めるなよ。あれぐらいウォーミングアップだっての。まぁ、あのクサレ神父は逃がしちまったけどなぁ」

『それは仕方ないでしょう。彼はあれでも一流ですからね』

 

そいつだけが心残りで仕方ねぇよ。

 

「それで、もう終わりかい」

『ええ、終わりです』

「それじゃあ、またな」

『ええ、良い夢を』

 

それで携帯が切れた。

まったく、何かと思ったら成果自慢……恥ずかしいが、弟分自慢かよ。

褒められてる側としちゃあたまったもんじゃねぇな。

しかし……250人ねぇ。まだ喰いたりねぇ気がする。だからってどうしたってもんでもねぇが。

そう思いながら再びタバコを吹かす。

 

「不味ぃなぁ」

 

そんな感想を洩らしていると、後ろから声をかけられた。

 

「あ、あの……レオスさん?」

「ん、お嬢様か?」

 

振り向いた先にいたのはお嬢様だった。

海だから当たり前と言えば当たり前なんだが、あの青いビキニ姿だった。

相も変わらず美しい身体ってやつだ。月夜に照らされていつもより神秘さってもんを醸し出してやがる。こりゃあ一種の芸術だろうさ。

するとお嬢様はオレの方まで歩いてきた。

 

「どうしたんだい、こんなところで?」

「あの……昨日はあまりレオスさんと遊べなかったので、少しでもお話したくて。それで旅館にいなかったものですから、探していたら砂浜に」

 

顔を真っ赤にしながっらそう話すお嬢様。実に絵になる光景に少しばかり感動しちまうよ。

 

「それで本音は。どう見たって海に来る気満々だったろう」

「うぅ~……は、はいですわ。レオスさんとふたりだけで海で遊びたかったんですの。昨日は相手してもらえませんでしたし……」

 

成る程ねぇ。

確かに昨日はちっとした事があって海には入らなかったんだよなぁ。

まぁ、お嬢様だけなら別にいいか。水着はねぇけどなぁ。

 

「……OK。せっかくのお嬢様のお誘いだ。謹んでお受けしますかねぇ。でも、オレの身体を見てびびんなよ」

 

そうお嬢様に言うと上に来ていた長袖のシャツを脱ぎ捨てた。

 

「キャッ!? れ、レオスさん!」

 

お嬢様は急に脱ぎだしたオレを見て顔を両手で覆う。

しかし、ちゃっかりと両目の部分が開いてるのが丸見えだぜ。

お嬢様はそのままマジマジとオレの身体を見た途端、息を詰まらせた。

 

「こ、これは………」

「おいおい、そんなマジマジ見つめないでくれよ。照れちまうだろ」

 

そう茶化すが、お嬢様は反応せずに両手を顔から離してオレの身体を注目する。

 

「こ、この傷跡は………」

「別に驚くようなことでもねぇだろ。オレは『傭兵』だぜ。いくらでもこんな傷を作れるさ」

 

そう、オレが昨日お嬢様の前で脱がなかった理由はこいつだ。

身体中にある傷跡。裂傷。切り傷、銃創、火傷、抉れたりケロイド状になってたり。

戦場に出ればありとあらゆる傷を負うことがあるもんさ。人によっちゃあ勲章や何かみたいに自慢するもんだが、オレ等からすれば……恥だ。それだけ弱いってことだからなぁ。

するとお嬢様は俯いちまった。

 

「ご、ごめんなさい、わたくし……レオスさんが気にしていたことも知らずに……」

「別に気にしてねぇよ。ただ、あまりこういうのを見られると他の奴等が気まずくなっちまうだろ。だからあの時は脱がなかったんだよ」

 

泣きそうな顔で謝るお嬢様にそう答える。

最近こんなことが多い気がするのは気の所為かねぇ。まったく……オレのキャラじゃねぇってのに。

 

「それにな……今はお嬢様しかいないから脱いだんだぜ。他に見られねぇからな」

 

それでも俯くお嬢様。

はぁ、仕方ねぇなぁ。

オレはそのまま波が来るところまで穿いているジーパンが濡れるのも気にしないで入ると、

 

「ほれ」

「キャッ、冷たっ!?」

 

掬ってお嬢様にかけた。

それに当たって驚くお嬢様。

 

「遊びに来たんだろ。だったら思いっきり濡らしてやるよ。水着なんだしなぁ」

「れ……レオスさん!」

 

そのままお嬢様はさっきまでの沈んだ面と違って怒ってるような、笑ってるような、そんな面で海に入ってきた。

そしてオレに向かって海水をかけてきた。

どうやら気にする暇が無くなったようで何よりだ。

 

 

 

 こうしてお嬢様がぶっ倒れるまで互いに海水を掛け合った。

せっかく風呂にはいったのにベタベタになっちまった。

まぁ、お嬢様の満足そうな顔がみれたから良しとするか。

 これで2日目が終わった。後は帰るだけだ。

 

 

 


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