恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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中々に難しい戦いですよ。書くのが……


第五十一話 やっと仕事が終わった。

 パーティーもそろそろお開きって感じだが、終わらせるには目の前のクソ真面目な神父様を大好きな神様の元に送らなきゃならねぇようだ。

奴さんはもう殺る気満々でこっちに向かって来やがった。

 

「アーメン」

 

神様への祈りを終えた言葉を吐くと共にその手に握る巨大な十字架を振りかぶる。

大剣を十字架にしたそいつが早速俺に向かって襲いかかって来た。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

雄叫びを上げながら真上から振るわれたそいつを、オレはそのまま両手に持ったオルトロスをクロスして受け止める。

途端に身体全体に衝撃が走った。

 

「ぐあっ、重えぇ!」

 

その威力のでかさに舌打ちをする。

相変わらずの剣捌きに感心しちまうねぇ。

だが……

 

「まだ始まったばかりだろ。そんなに力んでたんじゃすぐにイッちまうぜ。早漏とは言われたくはねぇだろ!」

 

受け止めた十字架をオルトロスを使っていなすと、そこから左足で蹴りつける。

その蹴りをダニエルは咄嗟に十字架から左手だけを離すと、咄嗟にオレの蹴りを防御した。

 

「ぬあぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

そして片手だけで十字架を持ち上げてオレの足目がけて思いっきり振ってきた。

 

「ちっ、このクリスチャンが」

 

防御された足を引き戻すと、そのまま後ろに飛び退く。

さっきまでオレの足があった位置に十字架の刃が通過していく。飛び退かなかったらオレの左足は今頃オレからバイバイしてるところだったぜ。

 

「やっぱり強いなぁ、あんた。神父なんか止めて傭兵になったらどうだ? その強さならどこでも雇ってくれそうだがねぇ」

「私は神に仕える者ですから。それ以外に仕える気はありません」

 

奴さんはイイ笑顔でそう言うと、十字架を再び構える。

冗談でも何でも無く、強えぇんだよなぁ、こいつ。

 

「そうかい、そいつは崇高なこった」

「はい、至上の喜びですよ」

 

笑顔で答えるダニエルに、オレはニヤりと笑いながらオルトロスを発砲する。

普通に反応出来ねぇ速度での早撃ちだったんだが、ダニエルの野郎は……

 

「はぁっ!!」

 

あのでけぇ十字架で斬りやがった。

おいおい、どこのニンジャだよ? 振りずれぇ大剣で弾丸を斬り払うなんて、本当に人間かよ? え、オレだって銃剣で斬り払ってたって? 大剣でやるのと小型剣でやるのと、難易度ってモンがまったく違うもんなのさ。

 

「これであなたを神の御許に……」

 

オレのお返しにと、奴さんは持っていた十字架の矛先をオレに突き付ける。

その先端には、黒光りする太い砲口がオレを睨み付けていた。

そして発射されるグレネード弾。

オレは咄嗟に真横に飛び退くと、さっきまでいた所をグレネード弾が通り過ぎて後ろの木に激突。その途端に爆発を起こして木を薙ぎ払った。

 

「火葬にしちゃあ随分と荒いじゃねぇか。これじゃあオレの身体が四散しちまうよ」

「他の方ならそうかもしれませんが、あなたならそんなことはないでしょう」

 

随分と持ち上げてくれるじゃねえか。

オレはそんな丈夫じゃねぇのになぁ。

 

「褒めてくれるのは嬉しいが、生憎まだグリルチキンにはなりたくないんでなぁ。悪いがお前さんが先にミンチになってくれ」

 

笑いながら再びオルトロスを乱射する。

牽制を込めた弾丸は辺りの木々を弾き飛ばし、本命はそのままダニエルの脳と心臓目がけて飛んでいく。

普通ならこいつで八割は決まるもんだが……

 

「ぬんっ!」

 

奴さんは十字架を盾にすることで全部防ぎやがった。

あんだけでかいと頑丈さもかなりらしい。

 

「まだ一杯あるんだ。精一杯楽しんでくれよ」

 

そこから更に連射してごり押しする。

オルトロスから吐き出された弾は行く先の全てを破壊すると言わんばかりに飛んで行くんだが、奴さんの十字架を破壊することは出来ねぇようだ。

奴さんの周りは木が弾けてへし折れ、地面が爆ぜて削れて荒らされていくってのによぉ。

 

「では、此方の番ですね」

 

ニッコリと笑ったダニエルはオレが避けそうな所に向かってグレネードを放つと、そのまま雄叫びを上げながら斬り掛かってきやがった。

 

「あぁああああああああああああああああああああああ!!」

「射撃戦じゃ埒が空かねぇか。なら、殺るかぁ!」

 

オレも負けじと前に出て、奴さんの象徴である十字架を迎え撃つ。

ダニエルの剛剣にオレのオルトロスは受け流すことで対応し、隙を突いて斬り掛かる。

それに対し、奴さんは十字架を巧みに使い分けて防ぎ、力任せに思いっきり斬り掛かってくる。

 

「おいおい、神父様が大切な十字架をそんな手荒に扱ったら、神様だって怒るんじゃねぇのか?」

「いえいえ、これは神の御元に誘うための十字架。神も寧ろ喜んで下さっていることでしょう。これを使うということは、それだけ教えを広めるために活動しているということなのですから」

「さいで。随分といい加減な神様もいたもんだ」

「神は寛大なのですよ」

 

そんな会話をい挟みつつも、変わらずに攻め合いは続いていく。

前も殺りあったが、相変わらずの化け物じみたスタミナだ。まったく衰える様子がねぇ。

こりゃあ爺さんになっても元気なままだろうよ。

 

「いい加減死んでくれると助かるんだがなぁ。もうそろそろ夕方になっちまう」

「でしたら、貴方が神の御元に行って下されば速やかに静かになりますよ。その方が貴方も健やかに静かに暮らせるでしょう」

 

奴さんはまだまだ真面目にお仕事する気満々らしい、まったくもって見習いたいくらいの真面目さだ。

そこから再び射撃戦に移行。

奴さんのグレネードが辺りを爆破して炎上させていく。

オレの放った弾丸が辺りを蜂の巣にして荒していき、あっという間に荒れ地に変える。

十字架が振るわれる度に太い木がぶった斬られ、銃剣を振るう度に木に深い切り傷が出来上がる。

これだけ見れば中々に愉快なもんだが、生憎身体は愉快なことにはなってねぇ。

奴さんはオレの弾丸を四発ほど喰らったようで、脇腹や二の腕から血を流している。

対してこっちはあっちこっち切り傷だらけさ。まぁ、それだけなら向こうの方が重いと思うもんだが、こっちは防弾防塵のチョッキだってのにそれすら切り裂かれて胸の皮を斬られたんだぜ。少しでもずれればオレの身体は真っ二つだよ。

そんなきつい状態が続くってのは精神的にきついモンがある。

その所為で疲労するってんだから、戦況は互角かこっちが不利だ。

 

「いい加減疲れて来ちまったよ。どれだけ殺りあったんだ、オレ達?」

「そうですね……大体朝から数えれば六時間ぐらいでしょうか? 貴方がごねるからこんなに掛かってしまったんですよ」

「そんなにか。いい加減帰りたくなってきたよ、オレは」

「私も早く戻って信徒の皆様にミサを開きたいです」

 

互いに意見が一致するってのはいいねぇ。

 

「「だから……」」

 

「とっとと死んでくれ」「神の御元に行って下さい」

 

これまで以上に、さっき以上に本気で互いに襲い掛かった。

身体のあっちこっちから血が出たが、その痛みも含めて懐かしい。

この生の痛みがたまらなく生の実感って奴を感じさせる。

戦場で殺し合う、ISでは絶対に味わえない感覚。そいつががオレを満たす。

別に平和が嫌いなわけじゃねぇが、やっぱり人間刺激は欲しいもんさ。

奴さんも普通なら死んでも可笑しくないくらい弾喰らってるのに、まだぴんぴんしている。

おかげでより張り合いってもんが出て来る。

だが……こいつで終わりだ。

 

「いい加減に死ね、クソ神父。腹が減って仕方ねぇんでなぁ」

 

首目がけて思いっきり体重を乗せて振りかかる。

それを十字架で防ごうとするが、そいつはもう一丁のオルトロスをぶっ放すことで妨害する。

 

「っ!? 仕方ありません!」

 

ダニエルは後ろに退くと共に左手を使って首を防御した。

オルトロスの銃剣はそのまま奴の首を切り裂くことはなく、代わりに奴の左手を斬り飛ばした。

その切り口と感触からオレはがっかりしちまう。

 

「なんだよ、義手かよ」

 

残念そうな顔をするオレに向かってダニエルは苦笑する。

 

「昔事故に遭いましてね。まぁ、本物の腕より便利ですよ。しかし、困りました。これでは貴方を神の御元には誘えない」

「元から行く気はねぇよ。これでこっちが有利だ。いい加減手前に説法されるのもうんざりなんでなぁ。ここで決めさせてもらうよ」

 

そう言うと、奴さんはイタズラするガキみてぇな笑い顔をした。

 

「申し訳ありませんが、お断りします。私にはまだ神の教えを広め、迷える者を救うという使命がありますから。ですので……」

 

そこで一端止めると、斬った左腕の中から何かを取りだして投げてきた。

 

「本日はこれにて。再び貴方に相まみえるときを楽しみにしておりますので。これで貴方が神と共にあれば良いのですが、時間が必要なこともありますからね。では……」

 

そう言い終えると共に、そいつはオレの目の前を光で真っ白に染めやがった。

 

「ちっ! 閃光弾かよ」

 

咄嗟に目を覆うが、少しばかり喰らっちまった。

その場からバックステップで離れるが、視界が少し歪む。

それで辺りを見渡した時には、もうあのイカレ神父の姿は何処にもなかった。

 

「………逃げられたか。まぁ、仕方ねぇなぁ。後追いかけても面倒なだけだし」

 

そう言ってオレは辺りの様子を探るが、もう生きてる奴の気配はなかった。

 

「それじゃ、帰りますかねぇ。腹も減ったし」

 

そう独り言を呟いて懐の電子タバコを咥えながら帰路についた。

 

 


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