恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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今回もレオスの出番はないです!


第四十七話 セシリアの想い

 レオスの設置した地雷が戦いの火蓋を切り、彼が嬉々として相銃を敵に向かって放ち始めた頃、千冬と専用機持ち五人は一室にて密談という名の一方的な恋バナを初めていた。

尚、それは乙女だけの秘密。だからこそ、その場から男である一夏は退場させられている。

 

「それで………篠ノ之、凰 、デュノア、ボーデヴィッヒ。お前等、アイツの何処が好きなんだ?」

 

「「「「ぶっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!?!?」」」」

 

からかうような口調で千冬に聞かれた四人は、それまで冷静になろうとして飲んでいた飲み物を恥も恥じらいもなく大胆に噴き出した。

ここで千冬の言う『アイツ』というのは言うまでも無く四人の思い人である一夏のことである。

 

「けほっ、けほっ、けほっ」

「ごほっ、ごほっ」

「がはっ、げほっ」

「っ~~~~~~~~~」

 

咽せている四人を見て千冬はにんまりと笑う。

そんな千冬を見ていてセシリアは背筋が凍るような気がしてきた。

まるで御馳走である草食動物を前にした肉食獣のように千冬が見えてくるのである。

そしてそれは決して間違いではないだろう。

千冬を動物に喩えるのなら、『狼』が似合っているのだから。

 

「べ、別にそんなことはっ!」

「そ、そうよ! 別にアイツのことなんて!」

「ん? 篠ノ之と凰はそうなのか? ならアイツにそう伝えておこう」

「「そ、それはっ!?」」

 

まるで当たり前のように千冬はそう言い、箒と凰は途端に慌てる。

誰だってこんなことをされればそうなるだろう。それが恋する乙女なら尚のこと。

そんな慌てふためく箒と凰を見て千冬はクックック、と意地悪く笑う。

まさに見たかったであろう反応が見れて楽しいようだ。

セシリアはそんな千冬に戦慄を覚えずにはいられない。

 

「なぁに、勿論冗談だ。私からアイツに伝えることはないだろう」

「そ、そうですか……」

 

からかわれたことに怒るでもなくほっとする箒と凰。

そんな箒に残りの二人も先程の箒同様内心で慌てていた。

それが分かっているかのように千冬は笑うと改めて言う。

 

「まったく……全員わかりやす過ぎるぞ、小娘共」

 

その事実を言われたことで顔を真っ赤にする箒達四人。

その四人を見てセシリアも千冬と同意見だと思った。この四人は露骨に分かりすぎる。

それなのに全く気付かない一夏も相当なものだ。

千冬は四人の赤面を見て笑いながら缶ビールを仰ぐと、改めて四人に聞く。

 

「それで? まず篠ノ之はどうなんだ?」

「わ、私はアイツと同門でしたから! 同門を気にするのは当たり前です!」

 

箒は捲し立てるように一気に答えたが、顔が真っ赤になっているあたり、それが建前なのは誰が聞いてもわかるだろう。

 

「次、凰」

「そ、それは……お、幼馴染みですし、私の料理の味見役ですし!」

 

鈴も大きな声で答えるが、それだけではないだろうと誰もが突っ込むくらい白々しい。

 

「ぼ、僕は優しい所です……。一夏は僕を助けてくれて、本当に優しくて。僕は一夏に救われたんです…」

 

恥ずかしさから顔を真っ赤にするシャルロット。

しかし、その声は本音であることが窺えた。

 

「それではボーデヴィッヒ。お前はどうなんだ?」

 

少女達の赤裸々な告白を聞いて楽しんでいる千冬がラウラに話を振ると、ラウラは真面目な顔でそれに答える。

 

「強いところでしょうか……特に心が」

 

その答えに少しだけ千冬は真面目な顔になった。

 

「そうか? でもアイツもまだまだ甘いぞ。詰めも考え方もな」

「そうかもしれません。ですが、それでも私よりも心の芯が強いです」

 

その答えを聞いてふむ、と頷く千冬。

何だかんだと言っても一夏は千冬に取って可愛い弟なのである。それが褒められているのは嬉しいらしい。

 

「まぁ、女の私からしてもアイツは優良物件だろうさ。家事炊事も難なくこなし、マッサージも上手い。どうだ、欲しいか?」

 

「「「「くれるんですか!!!!」」」」

 

まるでお菓子を与えるかのように軽く聞く千冬。

その質問に四人はピラニアのように食らい付く。

そんな四人に千冬は鼻で笑った。

 

「やるか、馬鹿」

 

「「「「えぇ~~~~~!」」」」

 

不満の声を洩らす四人。

彼女達からすれば自分の胸の内を無理矢理吐かされただけで自分達には何の得もないというのだから文句が出るのも仕方ない。

そんな四人を見てカラカラと笑う千冬は次に、セシリアの方に視線を向けた。

 

「さて、四人はこんな感じだが、お前はどうなんだ、オルコット?」

「わ、わたくしは……」

 

予想していたとは言え、こうして聞かれると周りの視線もあってか恥ずかしくなりセシリアは顔を赤くする。

そしてそれに食らい付くは、先程までいじめられていた四人である。

 

「む、それはどういうことだ、セシリア」

「何々、何かあるの!」

「あ、もしかして…」

「セシリアにも『嫁』がいるのか?」

 

さっきとは打って変わってセシリアに詰め寄る四人。

そんな四人の姿はまるで狩りをするライオンのように見えるセシリアは若干引いてしまう。

 

「いや、その、あのっ…」

 

その未知の恐怖からどう対応して良いか迷うセシリアを見て、千冬がセシリアの代わりに答えた。

 

「四人共、落ち着け。いいか、良く聞けよ。こいつが好きなのはな……」

「や、止めて下さい! キャーキャー!」

 

ニヤニヤと笑いながらそうばらそうとする千冬にセシリアは再度顔を真っ赤にして慌てて止めようとする。だが、子犬が狼に適うことなど無く……

 

「こいつはな、ハーケンの奴が好きらしい」

「あぁ~~~~~……」

 

想い人のことをばらされてしまった。

セシリアは恥ずかしさのあまり両手で顔を覆ってその場でしゃがみ込んでしまう。

その反応を見て、四人は少しの間だけ止まった後……

 

「「「「えぇえええええええええええええええええええええええ!!」」」」

 

驚愕し大声を上げていた。

 

「いや、何であの男なのだ、セシリア」

「そうよ、あんな意地悪な奴!」

 

箒は純粋に疑問から。鈴は会う度にからかわれていることからそう聞く。

 

「まさかセシリアの好きな人がね~」

「よりにもよってあの男とは! 正気を疑うぞ」

 

シャルロットは感心し、ラウラは裏の実情をほんの少し知っていることからそう聞き返す。

そんな四人にセシリアは迷い戸惑い、あうあう言いながらも答えようとしていた。

 

「いや、あの、それは……」

 

そんなセシリアを見ながら千冬はビールを呷ると、若干含みを持たせながらセシリアに聞く。

 

「私もアレについてはどうかと思うぞ。まぁ、見た目はマシな方かも知れないが、素行は最悪だし教師を敬う気がまったく感じられん。しかも十蔵さんと連んで私に内緒で勝手に事を起こす。まぁ、奴がお前のことを気に入っているようなのは何となく分かるが、正直お前にはふさわしくないと思うぞ」

 

その質問にセシリアは千冬を真っ正面から見詰める。

その瞳には恐怖に震えながらも芯を感じさせる勇気が秘められていた。

 

「そ、そんなことはありませんわ! 確かにレオスさんはあまり上品な方ではありませんけど、優しい方です。それにちゃんと人のことを心配して下さる人ですわ」

 

そう言うセシリアを見て、それがセシリアの本音だと理解した千冬はふっと笑う。

千冬から見てセシリアは周りの四人以上に恋をしている乙女の顔をしていた。

だからこそ、どうしてこんなお嬢様があんな男の事を好きになったのか気になった。

単純に面白そうだと千冬は思い、笑みを深めてセシリアに尋ねる。

 

「お前が奴を好きだというのは分かった。だが、どうして好きになったのか? 正直気になるな。そう思わないか、お前達?」

「「「「はい」」」」

 

千冬の問いかけに返事を返す箒達。

この組み合わせに四人とも気になって仕方ないようだ。

 

「そもそも、どうしてアイツのことが気になったんだ? 確か入学初日の時は男だからと言って軽視していたと思うが」

「それにあんたって如何にもな本物のお嬢様じゃない。それが何だってあんな人を小馬鹿にしてばっかな奴と。普通なら思いっきり怒ってるんじゃない?」

「何って言うか、彼って同い年には見えないよね。僕、何度か話してるけど大人と話してる気分になってくるもの」

 

箒、鈴、シャルロットの三人は不思議に思いながら聞く。

どこからどう考えたってセシリアがレオスに惹かれる理由が三人には思いつかないのだ。

 

「お前はアイツのことを良く分かっていない!」

 

対してラウラは本当に心配からそう言ってきた。

 

「『巨人の大剣』と言えば世界各国の軍でも有名で必ずブラックリストに載っているような奴等だぞ。しかも奴はその中でもことさら有名な中心人物の一人。『災厄の嵐』の二つ名を持つ凶人だ」

 

その話を聞いて他の三人も興味から聞く体勢に入った。

 

「何、その二つ名? あんたの『ドイツの冷水』っていうのとは違うの?」

「随分と仰々しい名だな」

「格好いい……のかな?」

 

そんな三人にラウラは声を荒立てながら説明し始める。

 

「そんな生優しいものではない。奴の二つ名はそのまま奴の所行を表す。奴が一端戦場に姿を現せば、それは文字通り破壊の嵐を引き起こす。奴が銃を納めた後に残るのは嵐に飲み込まれ破壊され尽くした残骸だけだ。過去、奴は単独で四個師団を壊滅に追いやったことがある。もはや化け物と言ってもいい。そんな奴を何で好きになる」

 

ラウラが知る限りトップクラスの危険人物。それがレオスであった。

彼女は過去にドイツ軍に傷を負わせたレオスを未だに許し切ってはいない。

しかし、軍のトップから獣の尾を踏まないよう強く言い聞かされたことで引き下がっているのが現状である。

そんな説明をされたセシリアはというと……

 

「やっぱりレオスさんは凄い御人ですね…」

 

目を輝かせていた。

先程の話もセシリアの耳には単に想い人が凄いと言っているようにしか聞こえない。

 

「いや、そういうことでは」

「やめておけ、ボーデヴィッヒ」

 

そんなラウラを千冬が止める。

それもセシリアの気持ちを理解しての行動だ。

そしてセシリアは先程まで質問されていたことにやっと答える。

 

「わたくし、実は入学初日に襲われたんですの」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

急なことに驚く四人。

まさか誰がいきなりそんな話を振られるなんてわかるだろうか。

セシリアは昔を懐かしむかのように語っていく。

 

「別にわたくしが目的だった訳ではありませんでしたけどね。当時、わたくしはレオスさんと同室だと言われ……いきなり男の人と同室だなんて、と思って怒りながら自室に先に向かいました。それで扉を開けたらいきなり中から人が飛び出して来てレオスさんを狙ってきたのです。その時わたくしはレオスさんの前にいたので、このままではわたくしに銃弾が当たってしまうことに。その時はいきなりのことで反応出来ず……」

 

そこで言葉を一端切ると、四人が緊張からか固唾を飲み込んだ。

 

「しかし、そんなわたくしをレオスさんは助けて下さいました。わたくしの身体を引っ張って身を挺してわたくしを守って下さいましたわ。そしてレオスさんはあっという間に男を鎮圧すると、混乱しているわたくしをそっと胸に抱きしめたのです。それで『落ち着くまでしばらくこのままでいろ』と言って下さいました。あぁ、あの時のレオスさんの温もりは忘れませんわ」

 

まるで夢心地のように恍惚な顔で思い出すセシリア。

その表情は恋する乙女にふさわしいものであった。

 

「それからわたくしはあの方のことが……。その後もわたくしが代表候補生として言ってはいけないことを言ってしまった時もフォローして下さいましたし、わたくしが周りからきつく言い過ぎだと言われたときも庇ってくれて。そして極めつけはあの試合ですわ。それまで男性なんて弱いと思っておりましたが、レオスさんのような凄く強い人をわたくしは見たことがありませんわ。その格好いい雄姿、公平でありながら優しく他者を助けられるその精神。わたくしが理想とする男性そのものですわぁ! だ、だからわたくしはレオスさんのことが……」

 

やっぱり恥ずかしさが勝ったのか最後辺りは声が小さくなっていくセシリア。

そんなセシリアに箒、鈴、シャルロット、ラウラの四人は何だか羨ましくて仕方なく見えた。

そして千冬はそんなセシリアを見て内心で苦笑する。

 

(そう言うが、その襲ってきた奴を生きたまま爆弾と一緒にトランクに詰めて海外に運んで爆破したんだぞ……とは言えんなぁ)

 

こうしてセシリアの話を聞いた五人はお腹一杯となり、少しした後解散となった。

 

 

 

 尚、その頃レオスはと言うと……

 

「ぎゃぁああああああああああああああ!? 俺の腕ガァあああああああああああ!!」

「な、何でここにあんな化け物がいるんだ! 聞いていない!」

「応援を求める、応援を求める! 対象αが出現。駄目だ、此方ではもう押さえきれない!……ごぷっ」

 

軍人や傭兵が皆血みどろの池の上で藻掻き苦しむ中、ただ一人で相銃を振るい、敵を撃ち貫き切り裂いていった。

 

「どうしたどうしたぁっ!! この程度はまだ前菜だぜ。まだまだ料理は出て来るんだからここの程度で満足してるんじゃねぇ!」

 

まさに地獄の住人のような狂騒な笑みを浮かべながら、レオスは敵を殺していった。

 

 

 まだ熱い夏の宴は始まったばかり……


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