いきなり襲撃されることには慣れてたが、あそこまで珍妙なのも珍しいもんだ。
だからってオレの予定が変わるなんてこともねぇ。イチカ達と一緒に更衣室まで行くと、お嬢様とイチカはそれぞれ水着に着替えるために部屋に入って行った。
さて、オレは別に泳ぐわけじゃねぇからな。そのまま二人と別れてお仕事をしようと思ったんだが、そうもいかねぇのが世の中ってモンなのかねぇ。
何せ更衣室に入る前にお嬢様から呼び止められちまった。
「あ、あのレオスさん! で、出来ればこの後、日焼け止めを塗って貰いたいのですけれど……駄目でしょうか?」
こうお嬢様にお願いされちまったよ。
ここで断るのは簡単だが、そんなことをすればお嬢様がしょげちまうのは目に見えてやがる。仕事に『真面目』なサラリーマンとしては、それでも断るべきなんだろうさ。
だが、せっかくの美女のお誘いを断るってのは『男』の沽券に関わる。
どっちを取るのかと聞かれりゃ………
「日焼け止めか? 別にいいぜ、せっかくのお嬢様のお誘いだからなぁ」
「は、はい!」
後者だな。
仕事は良いのかだって? 日焼け止め塗るのに掛かる時間を入れたって余裕で済むから問題ねぇよ。もしこれで仕事を選ぶってんなら、オレは周りの連中から玉無しのカマ野郎って罵られちまうよ。そいつは一等にむかつくだろうさ。まさに男失格って言われてるんだからよぉ。
てなわけで外に出てお嬢様が来るのを待つことになった。
それで待つこと十分弱。
その間にイチカの野郎が海パン姿で鉄板の上のポップコーンみてぇに砂浜を撥ねていったよ。
そこまでハシャぐなんてよっぽど楽しみにしていたみてぇで何よりだ。お生憎様、オレにはその楽しみってもんがイマイチわからねぇけどなぁ。
そんなことを考えてたら後ろから声をかけられた。
「レオスさん……お待たせしました……」
振り向いた先にいたのは水着姿のお嬢様だ。
前に一緒に出かけた時に買ったらしい青いビキニで、腰に巻いてるパレオが高貴な感じを感じさせるねぇ。
胸も見事な谷間ってもんがあって、歳よりも色気ってもんが出てるのもポイントだ。
これならパリコレにだって出ても可笑しくねぇんじゃねぇかな。
「やっぱりお嬢様にゃあ青が似合うな。セクシーで似合ってるぜ」
「そ、そうですの……嬉しいですわ…」
褒められたお嬢様は顔を真っ赤になってたよ。
そんな姿で恥ずかしがられると、余計に嗜虐心ってもんを刺激されちまう。
「ああ、とくにお嬢様の胸はでかいからなぁ。大きさだとホウキの方が上だが、世の中バランスってもんが重要だ。お嬢様には今の胸のサイズが一番バランスが取れてる。クラスの中でもかなり大きい方に入ってるから、ビキニってモンが良く栄えるのもわかるってもんさ。だからお嬢様の今の姿を男共がみりゃぁ、放ってはおかねぇぜ」
「はぅ!? そんな風に言われると恥ずかしいですわ……あ、あの……」
恥じらうお嬢様って弄って楽しんでたらお嬢様が妙に目を潤ませてこっちを見てきた。
ちょいと弄りすぎたかねぇ。
「レオスさんは……放っておきませんの?」
そんな目で見詰められると照れちまうじゃねぇか。
「そうだなぁ。お嬢様ほどの美人なら、放ってはおかねぇと思うぜ」
「そ、そうですかぁ! 良かったぁ~」
オレの返答を聞いてお嬢様が思いっきり喜ぶ。
そう答えたが、実際ににゃぁ『思う』だけだからなぁ。そうとはかぎらねぇけどよ。
それでお嬢様の側まで行くと、手に持っていたパラソルとシートをお嬢様から奪い取る。
「レオスさん!?」
「レディーには優しくってのがウチの上司の考え方なんでなぁ。荷物は持ってやるよ」
「ありがとうございます、レオスさん!(レオスさん、優しいですわぁ…)」
それで上機嫌なお嬢様と一緒に砂浜に出ると、オレは丁度良さそうな所にパラソルとマットをセットする。
「準備出来たぜ、お嬢様」
「あ、はい。では……これを」
恥ずかしがりながらお嬢様が渡してきた日焼け止めを見ると流石お嬢様って思ったよ。
何せ某化粧品メーカーの特級品なんだからなぁ。こいつは一般じゃ出廻らねぇ大層な代門だ。
「随分と凄いもん持ってるんだな」
「その…これでも貴族にしてオルコット家の当主ですから」
少し誇らしげなお嬢様にさすがは貴族様だと思った。
富裕層の人間だが、その嫌みがねぇところが好感を持てるってもんだ。
お嬢様はマットに座り込むとオレを流し目で見てきた。その色っぽい仕草には中々クルもんがあるねぇ。
「そ、それではレオスさん……お願いしますわ……」
お嬢様はオレにそう言うと、ビキニの前を外して寝そべった。
身体で潰れた胸が見える光景が中々にいいねぇ~。眼福眼福。
「あいよ」
返事を返すと共に渡された日焼け止めを手に流して同じ温度になるまで馴染ませると、お嬢様の真っ白で妙にエロい背中に触れた。
「あっ、あ、あうっ…んぅ~~~~!」
塗っていくと途端に艶っぽい声を漏らすお嬢様。
こりゃあ将来が楽しみになりそうな声だ。
「お嬢様、随分と気持ちよさそうだな」
「そ、そんなこと…ありません、んぁっ!」
そう答えるお嬢様にオレはイタズラしたくなったんで、お嬢様が持ってきていた手荷物から鏡を取り出しお嬢様の前に持って行く。
「だったら……なんでこんなにお嬢様の顔はエロいんだ? 自分で見てみてどうだい?」
「っ~~~~~~~~~~~~~~!?」
どうも弄りすぎたかねぇ。
お嬢様は顔を真っ赤にしてだんまりを決め込んじまった。
それでも艶っぽい吐息と声は絶えずに出しちまってるが。
そうしてオレはしばらくお嬢様に塗っていたんだが、塗り終えた頃にはお嬢様はぐったりしてたよ。
「んじゃオレはオレで動くかねぇ」
そうお嬢様に言って離れようとしたところでお嬢様の顔が此方に向けられた。
「い、一緒に遊びませんの? それにレオスさんも水着になられたほうが……」
遊んでやりたいのは山々だが、そうも言ってられねぇんでなぁ。
そ・れ・に……
「悪いな、お嬢様。オレはこの場で水着になるわけにはいかねぇのさ。何せ……」
そう言いながら上半身のシャツを脱ぐと、お嬢様の顔が強ばった。
「こんな身体だと、みんなからの視線が集まっちまうからなぁ。オレはシャイなんでね。見詰められると照れちまって恥ずかしいのさ」
そう答えながら服を着直す。
するとお嬢様はしょんぼりとした様子で謝ってきた。
「す、すみません、わたくし……とんだ失礼を……」
おいおい、せっかく楽しんでたのにこれじゃあオレのせいで駄目になっちまうって感じじゃねぇか。そいつは良くねぇなぁ。
だからオレはお嬢様に笑ってこう答えた。
「さっきも言ったがシャイなんでな。お嬢様と二人っきりだってんなら、喜んで遊ぶよ」
「え………あっ、はい!」
お嬢様は言った意味を理解して顔を真っ赤にしてるみてぇだ。
こいつでいいだろ。
「そういうわけで、この場は退散させてもらうさ」
そう答えながら、オレはお仕事に戻って行った。