レゾナンスでお嬢様の買い物に付き合い、色々と連れ回されている際中だ。
似合ってる水着を買えたんでご機嫌なお嬢様はその後も色々な店に行ったよ。
服屋だったりアクセサリーショップだったり、スポーツ用具店だったり。てっきりお高い高級な店にでも向かうものだと思ってたが、これが中々に珍しく普通の店……いや、こい言っちゃぁなんだな。学生らしい年相応の収入に見合った店って言うべきかねぇ。そんな普通な店に入っていったのには少し驚いたよ。
お嬢様曰く、
「このお店はクラス内でも結構好評だったので一回見に行きたかったのですの」
だとさ。
交友関係がよろしいことで結構だ。
生憎オレは未だに交友関係が広くねぇ。オレと会話してくれる奴等って言ったら、お嬢様とイチカ、それとホウキとファン、デュノアに子ウサギくらいなモンさ。あぁ、後ホンネもだったか。アイツはマイペースだから分け隔てなく接してくれるわけだ。有り難い友情だねぇ。こう考えりゃあ殆どイチカの取り巻きしか会話する奴がいねぇなぁ。それにあの子ウサギからは相変わらず毛嫌いされているようだしなぁ。中佐の一件をドイツ軍にばらした所為で看板に泥を塗ったからだとさ。そいつは逆恨みって奴だな。
まぁいいさ。こういうのは気にしても仕方ねぇし、無理に何とかしようとしたってどうにかなるもんでもねぇ。友人ってのはフィーリングが大事なんだぜぇ。
さてさて、向かった先で色々買ってくお嬢様。
当然荷物も増えるわけで、オレが荷物持ちをするのも予想の通り。こいつを予想するなんざぁ、賭けボクシングの勝敗予想より簡単なことさ。
「すみません、レオスさん……わたくしの荷物ですのに……」
「別にいいさ。どうせこうなることは予想出来てたからな」
申し訳なさそうにするお嬢様にそう答える。
ここで持たねぇなんて言ってみれば、あっという間にこの場でお偉い『女性』の皆様方に囲まれちまうからなぁ。一人でも面倒臭ぇんだ。十人揃えば姦しいじゃすまねぇよ。
誰だってそんな騒がしい目に遭いたくはねぇよな。
見知らねぇ女共にギャーギャー言われるくらいなら、進んでお嬢様の荷物を持ったほうが断然いい。その方がお互いの精神のためにもなるもんだよ。
そんなわけでお嬢様が買った荷物を持ちながら一通り店を周った後のことだ。
「レオスさん、お疲れですよね。だから少し休憩しにいきませんか?」
「別に疲れちゃいねぇが、お嬢様のご厚意だ。手厚く受けさせて貰おうかねぇ」
「ご、ご好意だなんて………」
お嬢様が何やら顔を赤くして頬に手を当ててるみてぇだが、オレの聞き間違いかねぇ。何やら字が違っていたような気がするぜ。日本語ってのは難しいねぇ。
そんなお嬢様のご厚意で何処ぞのカフェに行くことになった。
それでレゾナンスから出て歩くこと約十分。
お嬢様に案内されて来たのは少し大きな白い店だった。名前は『@クルーズ』って言う喫茶店なんだと。何でもの近辺でも有名なメイド喫茶なんだとか。
「わたくし、一度日本のメイド喫茶と言う物に行ってみたかったのですわ」
「何でだ? わざわざニセモン見に行く理由なんてねぇだろうに」
お嬢様といえばイギリスの名門貴族様だぜ。当然、『本物』がいるんだから、今更ニセモンを見に行く理由なんざぁねぇのになぁ。
そう聞いたらお嬢様はオレを見て面白そうに笑ったよ。
「だからですわ! 日本のメイド喫茶と言えば、もはや独自の文化だと聞いております。本物を知っている身として、どういった物か興味がありますの」
目をキラキラさせて自信満々に言うお嬢様。
この様子じゃよっぽど行きたかったんだろうよ。聞いた限りじゃクラスの奴等の情報みてぇだしなぁ。お嬢様は少しそういうところが抜けてるからねぇ。影響されやすい性格ってのは色々と難しいもんさ。
そんな訳でお嬢様と二人して『@クルーズ』へと入った。
「「「「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様~!」」」」
入って早々短いスカートを穿いたメイド達の登場だ。
黒と白に二色の色合いがまさに『メイド』って感じを感じさせるねぇ。
お嬢様はそんなメイド達を見て、
「これがジャパニーズ・メイドですのっ!」
と、テンションを上げて喜んでいたよ。
このままいったら日本に観光に来た外国人みてぇに写真を撮りまくりそうな勢いだ。
そんなお嬢様を見て逆にメイドの方が萎縮したみてぇだ。
そりゃあこっちは本物のお嬢様。溢れ出す本物の気品ってやつがある。
メイドから綺麗だ何だと小声で話し合う声が聞こえてきて、お嬢様に客からの視線が集中するがお嬢様は浮かれていて気付く気配がねぇ。それだけ楽しんでるってことかねぇ。
まぁ、それだけ『美少女』ってことだ。
そんなお嬢様に萎縮しつつ、メイドが俺達を席に案内する。座った席は窓側の席だ。
「それではお嬢様、ご注文は如何いたしましょうか?」
恭しい態度でメイドがお嬢様に注文を取ると、お嬢様は即答で答えた。
「ではオムライスとカフェオレをお願いしますわ」
「畏まりました。では御主人様は?」
「んじゃオレはコーヒーでも頼むよ」
「はい、畏まりました。オムライスとカフェオレ、それとコーヒーですね。では、お持ち致しますのでそれまでの間、ごゆっくりお待ち下さい」
メイドがそう言うと注文片手に厨房の方へと歩いて行った。
その後ろ姿を見ながらお嬢様はウキウキしているようだ。
「随分とご機嫌じゃねぇか。そんなにジャパニーズ・メイドに会えたのが嬉しいのか」
「べ、別にそういうわけでは……」
と答えるお嬢様だが、その面は思いっきり笑ってた。
言ってることと面がまったくかみ合ってないぜ、お嬢様。
「そう言やぁ何でオムライスなんだ? お嬢様がこの時間にそんなモン食うなんて珍しいなぁ」
そう聞いたらお嬢様は目をキラキラさせながら語り出した。
「何でも、日本のメイド喫茶ではオムライスにケチャップで絵を描いたり言葉を書いたりするサービスがあるらしいのですの! 是非とも見てみたくて……」
だとよ。
何とも可愛らしいことだ。
値段を見たが、日本の普通の店の二倍近くは高かったよ。お嬢様はよっぽど気になっていたらしい。
それで期待に胸を膨らませたお嬢様を見てニヤニヤと笑っていたんだが、残念なことにお嬢様ご期待のオムライスは来ないらしい。
「お前等、静かにしろっ!!」
入り口が開いたと思ったら覆面三人組の登場だ。
手に持ってるのはM92とトカレフ、それとスコーピオン。
この二つに最初の言葉を会わせれば大体の予想は付くが、決定的なのは三人組の内の一人が持ってるでかいボストンバックだな、締め切れなく開いてるところから世の中の大体の奴等が大好き、『札束』が覗き込んでた。
大方強盗でもして逃げる途中に追い詰められそうってんでここに立て籠もる算段なんだろうよ。
そのままこの場にそいつを知らしめるために天井に向かってスコーピオンを一斉射すると、聞き慣れた連射音と共に天井に大量の穴が開けられた。
「「「「「「きゃぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」
やっと事態を飲み込めたらしく、周りにいた客から悲鳴が上がったが、気付くのが遅いあたり、やっぱ日本って国は平和だねぇ。
「レオスさんっ!」
「残念だったな、お嬢様。オムライスは取りあえずお預けのようだぜ」
「そんなことを言っている場合ではありませんわ!」
せっかく残念なお嬢様を慰めようとしたら怒られちまった。
お嬢様は正義感って奴を前面にだしてこの状況をどうにかしようとしてるようだ。
まさにノブリス・オブリージェってやつかねぇ。
覆面三人組は一席を陣取ってこれからどうするか相談中のようだ。誰を人質に取るかだってよ。
外からはパトカーのサイレン音が響いてきやがった。数はざっと六台。
『お前達はもう包囲されている! いい加減無駄な抵抗はやめて投降しろっ!!』
拡声器のでかくうるせぇ声で鼓膜を叩く。
そいつは実に癪に障るわけで、当然三人組を苛立たせやがった。
「うるせぇええええええええ!! 黙って車を用意しろっ!!」
スコーピオンを持ってる奴が窓から外に向かって斉射すると、パトカーに当たってフロントガラスが割れたりして外が騒々しくなった。
どうも野次馬も一杯らしいねぇ。
さて、この根比べを見てるのも悪くはねぇが、それだといつまで経つかわからねぇ。そのまま門限でも過ぎようモンなら、我等が担任にして寮長様のチフユに怒られちまうよ。そいつはおっかねぇ。出来ればゴメン被るな。
そんなわけでオレはお嬢様に提案をするのさ。
「さて、お嬢様。このままオムライスが出るのを待つか、こんなうるさい店はとっとと出て行くか。どっちがいい?」
真剣な表情で覆面を見ていたお嬢様にそう言うと、お嬢様は意味がわからねぇって面になってた。
「それってどういう……」
「どっちでもオレとしてはいいけどよぉ。流石にいつ来るかわからねぇオムライスを待つより、別の店にでも向かった方が建設的だと思うぜぇ」
「何を言っているんですの? でも、この状況を見過ごすわけには……」
どうやらお嬢様はオムライスを待つことは無理だって判断したみたいだな。
なら…………別の店にでも行くとするかねぇ。
オレはゆっくりと席から立ち上がると、電子タバコを吹かし始める。
そしてそのまま席にあったもんを物色して覆面の奴等へと歩き始めた。
「おい、手前! 何勝手に動いてるんだ、止まれ!!」
一人が気付いてトカレフをオレに向けるが、オレは気にせずに近づく。
「お前さん達が何処でかくれんぼしようと勝手だが、このままじゃあウチのお嬢様が楽しみにしているオムライスがでねぇんだよ。大人しく別の店でやってくれないかい?」
「そんな事出来るわけねぇだろ、この馬鹿!」
悲しいねぇ。
奴さんは鬼に捕まりたくないってんでこの場所から動いてはくれないってさ。
なら………
仕方ないよなぁ。
「そうかい、そいつは……残念だよっ!」
そう言うと共にテーブルから拝借した『フォーク』をトカレフを突き付けていた奴の顔面……露出している目に向かって投げつけた。
「なっ!? くそっ!」
奴さんはそれに気付いて慌てて目を防ぐため腕を上げた。
それで一瞬にして銃の狙いからはずれ、視界から隠れることが出来る。
その一瞬で間合いを詰めると腕を掴み背中へと捻りあげた。
「まず一人、捕まえたぁ」
「いだだだだだ!?」
にやりと笑いながら絞めあげると手からトカレフがこぼれ落ち、悲鳴が上がる。
「なっ、何やってるんだ手前ぇ!」
「ヤスを離せ!」
慌てて銃を向ける残り二人だが、撃たれたくはないんでね。
そのまま絞めあげてる奴を盾にする。
「別に好きなだけ撃っていいけどよぉ。撃ったらお前さん達のお仲間がミートパテに早変わりするぜぇ」
「や、やめてぐれ、撃たないでっ!」
必死な声でそう言う盾。
それを聞いて戸惑って撃てないでいるお仲間を見ると涙がちょちょ切れそうになっちまう。麗しい友情ってやつだ。感動感動。
だが、それじゃあここの問題は解けねぇんだよなぁ。
「と、そういうわけで撃つなよ。と言っても、お前さん達の友情にオレは感動しちまったよ。だからお仲間は……帰してやるよっ!」
その言葉と共に締め上げていた腕を完璧にねじり上げて間接を外すと共に中の健を断裂させる。
それで上がる絶叫を心地良く感じながら残りお二人さんに向かって盾を投げつけた。
「なっ!? ぐはっ!」
「いてぇっ!」
友情の深いこいつ等は綺麗に仲間を受け止めてくれたよ。
それを見て笑いながらオレは先程と同様に間合いを詰めると、M92を持っている奴の手を掴み、巻き込んで拳銃を引っぺがすとともに窓へ向かって投げ飛ばした。
「がぁあああぁあぁああああああああ!!」
そのまま悲鳴を上げてこの『二階』から落下する覆面。
下にあったパトカーをクッションにして落っこちたよ。見事にパトカーの装甲がへこんだようだ。周りの観客の声がそいつを盛大に彩る。
「後はお前さんだけだな」
奪ったM92のセーフティーを慣れで外すと共に床でのたうってるさっきまで盾をしていた奴の両膝を撃ち抜き、そのままスコーピオンを撃って弾き飛ばした。
「くそっ! 何でこんな…」
忌々しいって目でオレを睨む残り一人。
盾だった奴は痛みと出血で気絶したようだ。
「悪いな。鬼ごっこだって時間制限はあるってことだよ」
「う、うるせぇ! ここで捕まる訳にはいかねぇんだ!」
すると追い詰めた最後の一人が来ていたコートを脱いだ。
ここで下は全裸でした、なんてオチだったら笑えるが、出てきたのはダイナマイトを巻いた身体だった。
そいつはそのまま起爆スイッチをオレに向かって突き付ける。
「来るな! 来たらこいつで全部巻き込んでやる!」
そう叫ぶ奴さんを見て、溜息を吐いちまう。
いやはや、まったく……わかってねぇ。
「お前さんは思い違いって奴をしてるねぇ。見てて余り面白く……ねぇよっ!」
そのまま一気に最後の覆面との間合いを詰めると、スイッチを持っていた腕を握り全力で握り潰す。めっきゃっといった骨が砕ける音と肉が潰れる感触を味わい、右手に持っていたM92の銃身を奴さんの口に叩き込んだ。
前歯がへし折れ、口から血が溢れる。
「っっっっっっっっっっっっっっっっっっ!?」
右腕と口からの激痛に声にならない声を上げる覆面を見てオレはニヤリと目を見て笑う。
「ガタガタ震えて自爆も糞もねぇんだよ。だから……選ばせてやる。このまま起爆スイッチを押す前に手前の汚ねぇお味噌をぶちまけられたいか、大人しくこのまま鬼に捕まるか、好きな方をな」
そして凄みを混ぜた笑みとともにトリガーに力を入れて、カウントを取る。
「10、9、8,7……」
「んごぉッ…!!」
そのカウントに焦る覆面に笑いかけ、そして……
『0』
カウントが0になった。
「時間切れだ。じゃあ……清掃会社に電話しなきゃな。これでお終い、ゲームセットだ。あばよ」
そう告げると共に……
『ばぁあああああああんんんんんんん!!』
銃声のような物が鳴り響いた。
だ・け。ど・残念ながら清掃業者は必要ねぇんだよな。何故なら、
撃ってねぇから。
覆面は目剝いて失禁して気絶したよ。
種明かしは簡単で、ただ声真似をしただけだ。人間、怖いと錯覚しやすいからねぇ。
オレはそれを見て銃を捨てるとお嬢様の方へと歩いて行く。
「んじゃお嬢様。そろそろ時間だし帰るとするか」
「え、ええ…………」
戸惑うお嬢様の手を引いてオレ達は店を出た。
何せそのままだと厄介だからなぁ。どうせ証拠を掴んでも爺さんなら揉みけせんだろ。