恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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第二十五話 恨まれた理由

 朝っぱらちょっと挨拶しただけだってのに、何でオレがこんなに怒られなけりゃならないのかねぇ~。ドイツのお嬢さん(フロイライン)に挨拶しただけだってのによぉ。

まぁ、そんなわけで朝のHRでの騒動も去ってチフユの口から連絡事項が伝えられた。

 

「今日は二組と合同でISの訓練を行う! すぐに着替えて第二グラウンドに集合! 遅れた者は私自ら処罰してやる。分かったか? わかったならばとっとと急げ!」

 

その声と共に周りの奴等が慌てて移動し始めた。

本日も我等が担任様は相も変わらない独裁っぷりを発揮しておいでのようだぜ。こいつを聞きゃあ身も引き締まるってもんだねぇ。

オレはさっき怒られたばかりだからな。流石にすぐもう一回お叱りを受けるのは御免だね。

そのままとっとと行こうと歩き出したら、

 

「ちょっと待ってくれよ、レオス」

 

とイチカに呼び止められた。

それで聞いてみたら、チフユにデュノアの世話を任されたんだとさ。

そいつは結構なことだねぇ。早速デュノアは仕事に頑張れそうだ。

 

「それで? 何でオレを呼び止めたんだい、イチカ? ここでゆっくりデュノアとの親交を深めたいってのは結構だが、そんなことしてたら我等が女王様のお怒りを喰らっちまうよ」

「それは分かってるって。それでも同じ男子だろ。だからお前もデュノアのこと助けてくれないか」

 

真顔でそう言ってくる一夏。

さすが美男子が言うと恰好がつくって奴だな。

 

「そいつは別に構わねぇが、今からヨロシクやってると遅れちまうよ。とっとと行こうぜ」

「ああ」

 

その返事を聞いてオレは第二グラウンドへと歩いて行く。

それを追いかけるようにイチカが歩くが、デュノアがその行動の速さに戸惑ってやがったもんだから、イチカが手を引いて歩いてきやがった。

おいおい、デュノアの顔が赤くなってるぜ。そんなんで隠せるのかよ、『お嬢ちゃん』。

それで廊下にでたら、待ち構えてたのは他のクラスの女共の群れってやつだ。

どうやらもうデュノアのことは知れ渡ってるらしい。中々にいい情報伝達速度だぜ。

 

「者共、であえ~~~~~~~~~~~い!!」

「あれが三人目の男の子! やだ、格好いい!」

「それでいて可愛い!」

「お母さん、生んでくれてありがとう! 今日ほどその事を感謝したことはないわ!」

 

皆デュノアに興奮気味って感じだ。

そいつは結構だが、このままじゃ邪魔で仕方ねぇ。

 

「レオス、どうする!」

 

イチカが焦った顔で聞いてきやがった。

こいつが一番チフユに怒られてるからなぁ。怒られたくねぇってのが丸わかりな面になってた。

デュノアの方を見りゃ、何でこんなに囲まれてるかわかんねぇって面になってやがった。

 

「な、何でこんなに人が一杯!」

「何でって、そりゃあ『男子』だからだろ」

「えっと………あ、そっか」

 

やっと理解したようだ。こんなんでこの先大丈夫なのかねぇ。

 

「それでだ、レオス! このままじゃ授業に遅れちまう! 流石に初日でデュノアを遅刻させるわけにはいかない」

 

流石この学園一のイケメン、言うこと一つとっても格好いいねぇ。

そこは置いといても確かにこのままじゃまずいってのは確かだな。

 

「イチカ、お前さんは優しい。だからこそ聞くが、そんなにデュノアを遅れさせたくねぇか?」

「ああ、勿論」

 

当たり前だって面で答えるイチカにオレはニヤリと笑いかけた。

 

「んじゃ、そうだな………お前さんがあの群れにダイビングして全員無料でハグしてやるって大声で言りゃあいい。そうすりゃあの群れ全部お前さんに向かって殺到するぜ。何せ我が校一番の人気者だからなぁ。その間にオレがデュノアを連れて行きゃあデュノアは遅刻しねぇしオレも怒られねぇ。周りの奴等はお前さんからハグされてみんな万々歳さ」

「そっか、わかっ…ってちょっと待て! それじゃ俺が遅刻するじゃねぇか! 千冬姉の出席簿喰らうのはすっごい痛いんだぞ!」

「おいおい、お前さんの意を酌んで作戦を立ててやったのに文句かよ」

「当たり前だろ! 誰が好きこのんで遅刻するんだよ!」

 

どうやら我が校一のイケメンは突っ込みの冴え渡るらしい。

せっかく面白そうな光景が見られると思ったのに、ちっと残念だねぇ。

 

「後はそこの窓から飛び降りりゃショートカットも出来て良いだろ」

「ここ三階なんだけど! そんなこと生身でしたら怪我しちゃうよ」

 

さすがに作戦を聞いていたデュノアも突っ込んで来やがった。

まったくもって我が儘の多い奴等だぜ。

そうしてる間にもこの範囲網は狭まってきてるってのによぉ。

 

「んじゃ簡単にいくか。イチカよぉ…」

「何だ?」

「そのまま突っ走れ」

 

俺はそのままイチカの背中を優しく蹴り出し、群れの方に突っ込ませた。

つられてデュノアのそのまま群れの方に引き込まれていく。

イチカは自分が何をされたのかを体勢を整えながら理解したらしく、捕まらないように必死な面でデュノアの手を引き駆け出しながら俺に向かって恨み言を叫ぶ。

 

「レオス、お前ぇえええええええええええええええええええええええ!!」

「さぁ、デュノアを遅刻させないよう頑張れよ、我がクラスのエース」

 

オレの目論見通り、女共の群れはイチカ達を追って殺到していった。

それを笑って見ながら、オレはゆっくりと更衣室へと向かう。

何、オレは彼奴と違って人気がねぇからなぁ。こういうとき、本当に便利で助かるぜ。

 

 

 

 その後オレが着替え終わった後にイチカ達が更衣室に来た。

イチカの野郎はかなりボロボロで服は着崩れてる上に、首元や頬にキスマークが付いてやがった。

一体何をしたんやらってなぁ。このまま放っておきゃぁホウキとファンが怖ぇ面で問い詰めにくるだろうさ。勿論、面白そうだから教えねぇよ。

恨み言をぶつぶつと言いまくる一夏に時間がねぇことを伝えると、野郎は焦っていそいで着替え始めた。それを見たデュノアの面の赤いこと赤いこと。

どうやら素で初心らしい。こりゃこれで面白そうだな。

そう思いながらオレは先にグラウンドに出ることにした。

 

 

 

「本日からISの実技訓練を行う!」

 

二組の奴等と一緒に座ってチフユの話を聞いていると、近くに座っていたセシリアに声をかけられた。

 

「あの、レオスさん……HRの時のあれは一体何なんですの?」

 

どうやらウチのお嬢様は朝の挨拶が気になって仕方ねぇらしい。

それはどうやらホウキとファンも同じらしく、イチカの野郎にこそこそを問い詰めに行ってた。

さっきまでイチカの面とかに着いてたキスマークとかで顔を溶岩みたいに真っ赤にして追っかけ回してたってのに元気だねぇ。

それにお嬢様も興味津々って面で前に乗り出してきた。

そんな艶っぽい恰好で迫られるてのはそれはそれでロマンだし目の保養にいいんだが、後でチフユに怒られても知らないぜ。

 

「別にたいしたことはしてねぇよ。ただの世間話さ」

「普通、世間話であそこまで殺気立たないと思うのですけど」

 

凄く怪しんだジト目で睨まれちまった。別に嘘は言ってねぇんだけどなぁ。

 

「なぁに、昔ちょっとドイツ軍から仕事を受けたことがあっただけだよ」

「お仕事……ですの?」

「そう。そん時に受けた仕事で先方とトラブってなぁ。簡単に言やぁ、その仕事を仕切ってる奴……朝に言ったデーゲンハルト・ブランク中佐ってんだけど、そいつが上への点数稼ぎと小遣い欲しさに内職をしてたのさ。どういうわけかそれが俺達が暴れた所為で露見しそうになった。それで奴さんはおかんむり。隠蔽しようとして纏めて焼却炉にポイしようとしたわけだ」

「そんな! だって悪いのはご自分なのに」

「まったくだ。そんな逆ギレに巻き込まれたこっちはたまったもんじゃねぇよ。それでその中佐がこっちに寄越したお客さんを全員残さず歓迎してあの世へとお帰りして貰ったってわけ。だけどそれじゃあ面子で飯食ってる俺等は納得いかねぇのさ。それを許したら舐められちまうからなぁ。だからなぁ……」

 

そこで一端切ると、お嬢様が息を飲み込んだ。

どうやらこう言った『冒険話』はあまり聞いたことがないらしく興味津々らしい。

オレはそこで笑みを深めて話す。

 

「そん時、中佐のお家に遊びに行って中佐の内職を黙ってる代わりに小遣いを巻き上げたんだよ。そしたらあの野郎、さらにキレて襲ってきたのさ。流石に依頼もされてねぇのに正規軍人に手だしたら色々と厄介だからなぁ。バレない程度にボコたんだよ。そいつに着いて下手に言い訳すりゃあ軍に内職がバレちまうからな。どうやら奴さんはその時のことを未だにご執心らしい」

「う、うふふふふ……」

 

お嬢様の口から笑い声を殺した笑いが漏れた。

どうやら話している内容はアレなのに、オレの話し方がツボに入ったらしい。

そこまで面白い話だったのかねぇ?

オレ等に取っちゃ日常茶飯事だからなぁ。

 そんなふうに話してたらチフユがこっちに一喝してきた。

それを受けてビクっと震えるお嬢様。

どうやら同じことでファンも怒られたみてぇだ。それで二人は前に出されたと思ったら模擬戦するよう言われた。二人とも最初は怒られたこともあってやる気が出なかったみてぇだが、チフユが何か吹き込んだらやる気になってやがった。どうせケーキか何かで釣ったんだろうよ。

その対戦相手について聞こうとしてたとき、突如オレのIS『スカイウォーカー』から上空からの接近警報を知らせた。オレの機体は狙撃なんかも行うため、レーダーも長いんだよ。

それで見てみたらマヤがIS着込んで飛んでやがった。しかもこの感じからして落下中。

落予測地点は………成る程。

オレはセシリアにプライベートチャネルを繋いだ。

 

『どうしましたの、レオスさん。いきなりプライベートチャネルなんて。織斑先生に怒られてしまいますわ』

「何、少し後ろに離れときな。たぶん面白いことになるからよ」

『?』

 

セシリアはオレが言っていることがあまりわからねぇみてぇだが、素直に後ろに下がった。

そしてオレもその場から立ち上がり歩き始めると共に……

 

「きゃぁあああああああ、ど、どいてください~~~~~っ!!」

 

上空からマヤの悲鳴が聞こえてきた。

それを聞いて蜘蛛の子を散らすように逃げていくクラスの面々。

そして落下予測地点にいる………イチカはいきなりのことに慌ててISを展開するが、物の見事にマヤと激突した。

その場で巻き起こる砂煙。

それが晴れて見りゃ、そこには……

 

「あ、あの……織斑君……で、出来ればもうちょっと優しくしてもらえませんか? そ、その、ちょっと強いです……あぅ」

「な、な、なぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

マヤを押し倒してあのばかでかい胸を揉んでいるイチカがいた。

 

「あっはっはっはっはっはっはっはっは! やっぱりイチカは予想を裏切らねぇなぁ!」

 

それを見て爆笑するオレ。

彼奴は所謂コメディー体質だからなぁ。たぶんこうなるんじゃないかと思ったぜ。

それを見たファンとホウキが激怒してイチカへと襲い掛かりに行った。

 

『………レオスさんは人が悪いですわね。教えて差し上げれば良かったですのに』

 

セシリアはそうオレに言いつつも、どこか笑っていた。


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