恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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百六十九話 いい加減話を進ませねぇとなぁ。

 日程が決まればあっという間に決行されるのがお仕事ってもんで、鬼畜な上司共からお話があった翌日にはもう作戦開始だ。

オレとクソオヤジとクロード、それに飛行機の操縦者を除いたほぼ全員がわくわく気分でジープにオモチャを積んでいく。ちなみに『ほぼ』って言ったのは、僅かながら『お留守番』をさせられる奴等がいるからさ。主にウチの若い連中だよ。カイルの野郎も一緒にお留守番だ。何せ野郎はどこか抜けてるからなぁ。連れて行ってミンチにされても責任は持てねぇよ。そう言うと奴さんは情けねぇ声を上げるんだが、そんな声が出るから間抜けなんだよ。手前はお留守番で十分だ。

まぁ、仮にも本拠地を手薄にするわけだからなぁ。最低限の防衛ぐらいはしねぇと。仮に襲撃されたとしても、若い奴等にゃぁ良い経験になんだろ。それで本拠地潰されましたってんだったら、その責任と鬱憤を持って潰した奴等を全部月の裏側までぶっ飛ばすだけだからよ。

 ってなわけで留守番組と地上襲撃班組がやる気を見せる中、オレは上司共と他愛無い話をしながら狭い飛行機の格納庫の床に座る。

 

「久々の大仕事だからってちびんじゃねぇぞ、クソガキ」

「そっちこそ落下した後にぎっくり腰には気をつけろよ。動けなくなった木偶の坊なんて楯にしかならねぇからよぉ」

 

互いに面をぶつけ合いながら空気を和ませる。

別に意識してやってるわけじゃねぇよ。ただ、このクソオヤジが喰ってかかってくるだけさ。

相手しねぇと余計にウザいだけだしなぁ。まったく、老人ってのは面倒なもんだよ。

 

「そこそこにしておいてくださいね」

 

クロードの野郎は呆れた様子でオレ達を見ると、ご自慢の相棒の調子を見始める。これもまた、仕事前のいつもの光景ってやつだ。

そして始まる作戦。地上でピクニックを楽しむ連中はどうせワーグナーの『ワルキューレの騎行』でも流しながらオモチャを弄りモクを吹かしてるだろうよ。

オレ等と言えば、たった4人の寂しい寂しい御空の旅に出発だ。こっちに関しちゃ特にBGMもなく、強いて挙げるなら格納庫内で妙に甘ったるい匂いと紅茶の香りが充満してることかねぇ。勿論犯人はオレ以外の二人だよ。

そんな中、予想通りと言えばその通りなんだが、クロードの野郎はオレにあることを聞いてきやがった。

 

「ところで………セシリアさんとの仲が進んだようですね」

 

今更だろうよ、この化け物相手に隠し事が出来ないってことはさ。

だからオレは素直に答える。

 

「あぁ、御想像にお任せするよ」

 

今更ギャーギャー騒ぐ歳でもねぇだろうし、こんなもんでいいだろ。

それを聞いて満足そうに笑うクロード。その面がどうにもこそばゆい。奴さんはどうにもオレにそういうことを経験させたがってたからなぁ。

そんなもんだから、奴さんは面白そうに笑う。

 

「その様子だと、もう恋仲といったところですか。あそこまで仲が良くて今更と言ったところですが」

「なんだ? クソガキもやっと童貞を卒業したってことか」

 

いつもならそんなもんに興味も湧かせないクソオヤジも話に喰いついてきた。

そんなオヤジにオレはジト目で返す。

 

「そんなことを一々報告するわけねぇだろ、ボケ」

「そうがなり立てるなよ、ガキ。めでたいことに変わりはねぇしなぁ」

 

いつもならこれで噛みついてくるんだが、どうにも調子が狂う。あのクソオヤジですら噛みついてこねぇとなぁ。

寧ろ面白いもんを見つけたって面でニマニマと気持ち悪ぃ笑いを浮かべてきやがった。

 

「んじゃ、こいつを機に手前は引退して普通に学生ってところか?」

「所帯を持って普通に暮らすのもよいかもしれませんね」

 

そうそう、前からこいつらはそうだった。

オレにこうして度々『普通』の世界を進めてきた。なんでも、まだ若いオレは取り返しがつくからだとか。

だからこそ呆れちまう。

 

「毎回そんなことを言うが、今更そんなもんに興味はねぇよ。退屈すぎて死んじまうだろうさ。お前さん等の言いたいことは分からなくはねぇよ。こう言っちゃぁ不服以外の何者でもねぇが、親分に兄貴分のお前らだ。ガキと弟分って立場のオレにはそういう『普通』な生活をさせてぇってのはなんとなくわかる。だがなぁ………」

 

本当に今更だ。クロードの野郎は前からそいつを進めてきた。クソオヤジも下手糞なりに言ってはいた。3人だけで話すなんざぁ出会った当初のことを良く思い出すよ。

あんときはまだ生きるのに必死で傾ける気なんざぁまるっきりなかったが、今なら分からなくもねぇ。確かにお嬢様とそういう生活を送るのは悪くはなさそうだ。

きっと幸せって奴なんだろうよ。世間様における幸福ってのは、きっとそうなんだろう。

だが……………。

 

「きっとそいつをしたら、オレは絶対に後悔するし何よりも手前らしくねぇんだよ。人生色々ってのが通説だが、その中でもきっと共通してることがあるんだったら、そいつはきっと、『手前らしく生きること』が一番充実してるってことなんだろうよ。だからその誘いは今のところはお断りだ。何せまだ、オレはこの『手前らしい生活』を満喫したいんでな」

 

結局のところはこいつに行きつく。

お嬢様との幸せな日々ってのは魅力的だが、別にそいつは急ぎじゃねぇ。いずれはってのは考えなくはねぇんだ。だから今はまぁ、この殺伐としていながらも刺激的な生活を送らせてくれよ。一番充実している時間を過ごさせてくれ。

オレのそんならしくねぇしみったれた答えを聞いて、クロードとクソオヤジは実に呆れた面をしつつも仕方ねぇなぁと笑った。どうせオレの答えも分かり切ってただろうさ。

だからその変わりなのか、クロードが微笑ましい笑顔で釘を刺してきた。

 

「別に貴方の人生です。貴方の好きなように生きればいい。ですが……セシリアさんを悲しませるようなことはしてはいけませんよ。彼女は私にとっても大切な生徒……のようなものですから」

「そいつは分かってるよ、当たり前のことだろうさ。お嬢様を悲しませるのはやっちゃいっけねぇってことは、例え手前であろうと許されねぇし許さねぇよ」

「分かってるなら結構です。だからこの作戦でもしものことがないように」

「そう言うんだったらパラなし降下なんて真似をさせないでくれよ。いくらこっちがISっていうオモチャがあるからってきついもんはきつい」

 

苦笑交じりにそう答えると、クロードもつられて笑う。

事前の打ち合わせで今回の降下に関し、オレは『スカイウォーカー』の一次展開を展開してそいつで降下する予定になってる。前も説明したが、一次展開はコアの反応無しに使える上に強化外装って代物だからある程度丈夫だ。だから今回降下にオレが選ばれたってのもある。と言っても、こんなオモチャがあろうがなかろうが、オレがパラ無しで降下させられるのは一緒だったろうがね。

 そんな風に適当に時間を潰しながら過ごすこと数時間。

予定通り地上の連中がクラッカーを慣らしつつ派手に暴れ始めるのを確認しつつ、こっちも予定通りに『落とされた』わけだ。

こうして前回の終わりに繋がるわけだ。

 

 

 

「行くぜ、クソガキィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!」

 

先に降下するクソオヤジの咆哮を鼓膜に叩きつけられつつ、オレも飛び出しながらテンションを高め叫んだ。

 

「あぁ、派手に行くぜ! ロックンローーーーーーーーーーーーーールッ!!」

 

さぁ、しみじみとしたお話はもう終わりだ。

ここから先は刺激的なオトナだけの社交場だよ。だからこそ、まずはパーティーの始まりを告げる鐘を鳴らさねぇとなぁ。

一次展開は量子変換ができねぇから持てるだけオモチャを持って飛び降りたわけだ。そこで盛大な花火を打ち上げるべく、オレは4本ほど派手な花火を持ちだしたんだよ。

大戦車ミサイル『RPG』、本来戦車相手にぶっ放す代物をオレは降下しながら真下にある待機中の戦闘ヘリに向かってぶっ放す。それも片手に一本の系2本、そしてぶっ放した後のもんはその場で投げ捨て、背中に無理に積んだ2本を引っ張り出して更に撃ちこんだ。

結果、屋上に置いてあったヘリは盛大な花火、もとい盛大な火柱を上げて爆散した。

その爆風も利用して何とか落下速度を緩めながら屋上に叩きつけられるように着地。そのまま体に装着されている強化外装が壊れるのを感じたまま床を転がり衝撃を逃す。

そして起き上がりながら辺りを警戒。

 

「がぁっはっはっはっは!!」

 

オヤジがヘリを踏みつぶしてぺしゃんこにしながら飛び出し楽しそうに笑う。流石は化け物。タバネにマジで言いたいよ。本当の化け物は生身でかなりの高度から降下して戦闘ヘリを踏み潰しながら無傷ではしゃぐ馬鹿だっってことをさ。

そのままオヤジは暴れるのに移行。近くに会ったヘリを掴むとジャイアントスイングでぶん投げ始めた。

 

「こっちも負けてられねぇなぁ!」

 

そう叫びながらこっちも動く。

近くに合ったヘリ目掛けてオルトロスを引き抜き、飛ぶのに必要なプロペラとローターをぶっ壊させてもらう。

そして全部ぶっ壊した所でやっと来たここの住人にオレとオヤジは笑いながら一緒に言った。

 

 

「「どうも、巨人の大剣だ。依頼でお前らをぶっ潰しに来た」」

 

決してわざとじゃねぇ。

ただ、ハモっただけだ。

そう言いながらオレ達は今度はそっちに襲いかかっていく。

真下の地上辺りも、盛大な花火が上がってきていた。


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