恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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百六十四話 お嬢様はどうなってるのかな。

 前回までのお話のおさらいをするとしようか。

事の発端は少し前にウチの専用気持ちにちょっかいをかけてきた子ウサギがいたんで、そいつにお仕置きも込めたお話をして学園にご案内したことだった。

まぁ、そいつが奴さんのお気に入りだってことはっそいつの話しぶりと会った時の印象で大体分かることだよ。あのお子様は自分に味方なら、それこそドが付くくらいに甘めぇ。世間じゃどうにも親しい奴にしか心を開かねぇって言われてるが、そんなもんじゃねぇのさ。何の間のと言いつつも、手前の事を認めてくれる、純粋な善意と好意を向けてくれる奴だけに奴さんは執着を見せるのさ。つまりはガキなんだよ。他の感情が混じった奴らが何を考えてるのかわからねぇから怖いんだよ。だから遠ざけて逃げる。

要は奴さんは純粋培養されたもん以外は駄目っていうか弱いか弱い箱入り娘(笑)ってことだ。

そんな奴が大事に大事にしてるペットに大怪我させたと知ってみろ? そりゃぁもうお怒りでこっちに向かってすっ飛んでくるのは明白だろうよ。

だからこそ、予想通りに奴さんはこっちにすっ飛んできた。予想通りにかなりお怒りの様子でだ。その証拠に少し前にお嬢様にノされて修学旅行の下見の際にはお休みだったチフユにそっくりなお譲ちゃんに新しいオモチャを与えて一緒にグルになって来たぐらいだからなぁ。

別にここまでの展開に文句はねぇよ。予想通りの単純な展開だからなぁ。

そんで来たからにゃぁ歓迎してもてなしてやるのが大人ってもんだ。そのための準備は用意してあったし問題はなかった。

ここ最近はどうにもよろしくない仕事ばかりだったんでね。張り切っていこうと年柄になく思ったわけだ。

それでさて殺ろうと戦った。

うん、問題らしい問題はねぇよなぁ。

奴さんのオモチャはそれなりに面白かったし、奴さん自身も悪くはなかった。まぁ、中の中って所だったが。

奴さん自身は妙に天災だの化け物だのに拘っていたようだが、こっちから言わせりゃぁ世の中そんなもんは結構いるもんさ。クソオヤジみたいな化け物もいれば、確かどこかの組織じゃぁ死体を兵器に作り変えて生き返らすなんていうホラーも真っ青なことを成功させた奴もいるらしい。奴さんが知らないだけで、案外そういったもんは多いんだよ、裏っかわってのはさ。

まぁ、そんなわけで自称天災(笑)な普通のお譲ちゃんをいじめながら叩いていったわけなんだが、思ったよりもあっさりと決着がつきそうだった。確かに奴さんのオモチャは面白かったが、奴さん自身は『普通』だったからなぁ。もしウチのクソオヤジがあんなオモチャを使ってみろ?…………あ、駄目だ。オモチャが逆に耐えられなくて壊れちまった。

まぁ、あれだ。使う奴が凄けりゃあのオモチャももっと凄くなるってことだ。こっちの命が一気にかっ攫われるくらいになぁ。

ある程度遊んだし、もうこれ以上は楽しめそうになかったんでケリをつけようと思ったんだが…………そこで美味しいところを持ってかれたってのがこのお話の顛末。

神様が何をどう考えたのか、この学園にウチの副隊長様をご降臨させやがったのさ。本人曰く、日本政府との何かしらのお話なんだとか。一応日本からも仕事は受けたりしてるから、その伝手なんだろうさ。

そのお話のついでにオレの様子を見に来たわけで、そこでオレを見たら体たらくっぷりに奴さんの教育者魂に火がついたわけだ。

そこから始まったのがお説教だよ。そりゃ殺しをする人間の常識で言えば良くはねぇってことはオレだって分かってるさ。相手を効率よく殺すには、相手が力を出す前に殺すのが当たり前。極論は気づかれない内に殺すのがベストだって目の前の狙撃主はオレにそう教えてきた。だけどよぉ~、別に少しは楽しんだっていいんじゃねぇかって思うんだよ、オレは。お仕事だって楽しまなきゃやってられねぇもんだぜ。そう言おうモンならお説教の密度が倍増しになることは分かり切っているがね。

傭兵としての心構えと勤務姿勢についてみっちり怒られたわけで、おかげですっかりと殺る気を失ったオレはもう白けちまって、そんなオレを見てすっきりしたのかクロードの野郎は今度はタバネの方に振り向いてお得意のスィーツトークだ。

さっきまでの展開から一転して何やらレディースコミック……いや、日本でだと少女漫画だったか。そんな雰囲気を醸し出すや、流石の天災(笑)さんも追いつけないのか呆然としちまってる。さっきまで殺し合いをしていたはずなんだがねぇ。

そして一気に奴さんはお優しいお言葉を掛けられて撃沈したってわけさ。あの野郎を見る目はかなり見覚えのある。それこそ今まで何度見てきたことか。

まぁ、その所為で今回のお遊びはもうお終い。結果は見ての通り、クロードの野郎の一人勝ちって所かね。

正直に言やぁもうやってられねぇって感じだ。

だから奴さんの事はクロードに任せて、オレはお嬢様の方に向かってるわけさ。

え、心配じゃないのかって? なぁに、お嬢様なら大丈夫だろうさ。確かにタバネと同じで『殺し』はしたことがねぇ処女だが、奴さんと違い『戦場を知ってる』。だから平気だろ。

そう思いながらオレは別のアリーナに向かって歩いていく。

さぁ、最愛のお譲さまは頑張っているのかねぇ。

 

 

 

 そしてアリーナに着くと、どうやらちょうど良かったらしい。

 

「クソッ! こんな雑魚ごときに、この私が!」

「そのように上から見下しているからあなたは負けるのですわ!」

 

アリーナの地面にクレーターを作りながらめり込み倒れているお譲ちゃん、そしてそんなお譲ちゃんのすぐ側でライフルをお譲ちゃんに付きつけるお嬢様。その顔からは血が滲んでいるが、寧ろその顔は美しくさえ見える。他の奴らも皆疲れ切っちゃいるようだが、死んでない辺り皆無事のようだ。

お嬢様は気を緩めることなくライフルを付きつけながらはっきりとお譲ちゃんに告げる。

 

「これ以上無駄な抵抗はおやめなさい。あなたにはもう、勝ち目はございませんわ!」

 

お嬢様の告げる通り、確かにお譲ちゃんにはもう抵抗できそうな要素はなさそうだ。ご自慢のオモチャは壊されまくったようで、武器も殆んど残ってなさそうだよ。

その事実は実に悔しそうにお嬢様を睨みつけるお譲ちゃんの面を見れば良く分かる。

 

「くそ、クソ、くそぉおおおおおおおおおおおお!! 認めるか! こんなことが……織斑千冬以外にこのように無残に負けることが、認められるかぁ!」

「だから負けけたのだと理解しなさい。相手の能力を過小評価し、慢心して油断しているからそうなるのですわ。仮にも人を殺したことがある人なら、その程度のことができなくてどうするのです。出来ていないから、未だに人を殺したこともない私達にあなたは負けるのですわ」

 

お嬢様の言葉に皆頷き返す。なんとまぁカッコイイことかねぇ。思わず見惚れちまいそうだ。

もうお譲ちゃんに打つ手は残ってねぇ。なら、おとなしくするのが妥当だろうさ。

だが、奴さんはそうは思わなかったらしい。

 

「せめて………せめて貴様だけでも………死ねぇぇええええええええええええええええ!!」

「なっ!?」

 

お譲ちゃんはそう叫ぶと、悪あがきとばかりに刃がピンク色に輝くナイフを展開してお嬢様へと飛びかかった。

どうやらそれぐらいは残っていたらしい。壊され続けた所為で途中でスラスターが爆発したが、それでも止まりそうにねぇ。

そのまま行けばお嬢様の胸を突き刺すだろうその刃。絶対防御があるから大丈夫だなんてことは…………少し不安だねぇ。どっちみちやることは一緒だが。

オレは腰辺りに付けられたホルスターから相棒を引き抜くと、そいつでお譲ちゃんのナイフに3発程打ち込んだ。

 

「っ!? くそ!」

 

急にあたった弾丸でナイフをとりこぼしたお譲ちゃん。そんなお譲ちゃんに向かって今度は俺がお譲ちゃんに語る。

 

「お前さんはもう少し無謀と勇敢の違いに関して学ぶべきだろうさ。それを知ってるだけでかなり世の中変わるもんだ。だからお嬢様に今更卑怯な手を使うなよ。お前さんのそれは丸見えだからよぉ」

 

そう言うとともに、お譲ちゃんは今度こそ力尽きたかのようにしゃがみこんだ。

その様子を見ていてお嬢様は弾丸が飛んできたであろう方角に眼を向ける。

そしてオレの姿を見て感動したかのように顔を真っ赤にし始めた。

 

「れ、レオスさん!?」

「よおぉ、お嬢様。よく頑張ったなぁ。お譲様の成長が見れて嬉しかったぜ。だから今夜は一緒に酒を飲もうぜ」

 

その言葉にお嬢様は満面の笑みで答えてくれた。

 

「はいですわ!」

 

 

 

 これで今回の騒動は終わったらしい。

それにしても………オレ、本当に何もしてねぇなぁ。ちょっとばかし頑張っただけだが、それで後は全部他の奴らに持って行かれたような気がする。

だからまぁ………今日は深酒決定だな。

そう思いながら、オレはお嬢様たちの元へと歩いて行った。


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