恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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百六十二話 そろそろ決着

 どうやら奴さんもそろそろ手札が尽きてきたらしい。既に手前の手札にあったキングもクイーンももう役立たずになっちまって、残ったのは手前自身っていうジョーカーのみだ。

何でそんなことがわかるのかだって? それはよぉ……奴さんの面を見れば丸わかりだ。それまで余裕があった面が今じゃ焦りに焦って面白いように歪んでる。それは今までずっと見てきたもんだよ。追い詰められた時にする面だ。だから分かるのさ。

奴さんはどうにも認めたくねぇらしいが、そういう面をしちまう辺り、やっぱり『人間らしく普通』だねぇ。

 

「そろそろ本気を出すってかぁ? おいおい、そういうのは嘗め過ぎだろ。ここまでやられといてやっと腰を上げるなんざぁ遅すぎだろ。早漏も駄目だが、遅漏も大概嫌われるぜ」

 

からかいがてらにそう言ってみたが、奴さんからの返事は返ってこねぇ。帰ってくるのはおっかねぇ面と燃えるような殺意だけだ。

まぁ、悪くはないね。やっともう少しはまともになりそうだよ。

 

「うるさい、お前は死ね」

 

奴さんはそうおどろおどろしく言うと、手をオレに向けてきた。

そいつが何をしでかすのかを見てみたいもんだが、取りあえずは軽く横に飛び退く。何せそいつでどうなるのかわからねぇんだからなぁ。まぁ、奴さんがオレに気付く前にさっきまで活きの良かったペットの残骸をワイヤーで引っ張り上げて入れ替える。

そしてその機能が発動したのが入れ替わった直後だった。

空間事態に変化があった。まるで光すら通さないような程の濃密な闇の柱が一気に立ち上がり、それに飲み込まれた残骸はその姿を一切視認出来なくなる。そして柱が収まるとそこには、原型すらなくなったナニカが押し潰されていたよ。

たまにはファンシーな表現も悪くはねぇだろ。オレにだってそれなりの感性ってもんはあるのさ。

 

「おいおい、一体何をやったらこんな風にプレスされた鉄クズが出来上がるんだ?」

 

種明かしを求めてみると、奴さんは素直に答えてくれた。どうやら奴さんはマジシャンじゃねぇらしい。知られた所で何とも思わねぇんだとよ。

 

「これは『王座の謁見』の完全版。光すらねじ伏せる超重力の前には如何なる物質であろうと潰される。私のハート・エンプレスはその場の全ての重力を操る!」

 

そう叫ぶなり、さっきと同じようにオレに向かって手を翳す奴さん。何がしたいのかがわかりゃぁ後は逃げ回れば良いだけだ。オレが逃げる度に後ろから追いかけられるようにその超重力とやらの柱が立ち上がりまくる。

音すら聞こえてきそうなそいつに追っかけ回されるのは、何やら戦車の砲撃網の中をかけずり回ったときを思い出させるよ。あの時も中々にスリルがあったなぁ。

まぁ、それでも……………。

 

「あの時ほど冷や汗は掻かないがね」

 

まだまだ余裕は有り余ってる。確かに攻撃力は高いだろうが、奴さんの手を翳す行為からして狙いを付けるのはあれだ。なら、その手を見てれば大方の攻撃地点は予測出来るもんだよ。丸わかりすぎる狙いってのは、それこそ子供のイタズラよりもわかりやすい。だから………………。

 

「まったく恐くネェなぁ」

 

不敵に笑いながら感想を述べてやると、奴さんは更に顔を凄い事にしながら叫ぶ。

 

「五月蠅い、死ね、死ね、しねぇえぇええええええええぇえええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

更に過激になる重力砲撃が大地を揺るがして巨大なサウンドを叩き出す。さっきの二倍以上になった攻撃に普通なら目を剝くもんだが、オレからすればそうでもねぇなぁ。寧ろやってることは同じだから、軽く教えてやるかねぇ。

オルトロスを構えると、奴さんがオレに向かって翳してきた手に向かって引き金を引く。別にこんなので壊せるわけがねぇんだ。ただ当たれば良い。

予想通り弾に当たった手は僅かながらぶれた。そしてその途端、奴さんご自慢の攻撃も同じように見当違いの方向へと飛んでいった。

 

「お前さんのその手は軽すぎなんだよ。だからこうして簡単に弾かれる」

 

にっと笑いながらそう言うと、奴さんは血走った目でオレを睨みながら更に咆える。

どうやらこの超重力とやらは広範囲には展開出来ねぇらしい。まぁ、それは奴さんの連射具合から大体わかっちゃぁいたがね。

奴さんが操れる重力ってのは奴さんが操作しようとした部分だけだ。だから広範囲を操作しようとすると、その出力も下がるらしい。

これが奴さんの攻撃を避けつつ探ってみた情報。何もただ殺すだけが御仕事じゃねぇんだ。こういう探りも出来なきゃなぁ。

流石にこのままってわけにもいかねぇからなぁ。オルトロスで度々おちょくるように撃ち込んでやると、奴さんはもう死ねとファックしか言えねぇ感じになりながら真っ赤に染まった目でオレを睨みながら声にならない声で叫び続ける。

せっかくの美人が台無しだな、こりゃぁ。

しばらくそうしてると、奴さんは痺れを切らせたのか今度は自分からこっちに突っ込んで来やがったよ。

 

「ガァアァアァアアァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!」

 

瞬間加速すらも驚きの速度でその予兆もなくオレの目の前に現れた奴さん。そしてそのまま殴りかかるわけだが、その動き事態は素人丸出しなだけにすぐ読める。

ひょいっと避けてやると、拳が叩き着けられた地面が盛大に爆ぜた。その威力たるや、ファンが以前キレた時の比じゃねぇくらいすげぇ。

 

「大方さっきのは手前に掛かる重力を減らして抵抗力を低くして接近、拳を振り下ろす際に荷重力をかけたってあたりか」

 

奴さんから種明かしを聞いてりゃ大体はわかるもんだ。どうやら今度は手前に掛かる重力を操作しての接近戦をしかけてきたらしい。

 

「死ね、死ね、死ねよ! 死んじゃえよ!」

 

そして奴さんからの滅茶苦茶な蹴りや拳がオレに向かって飛んでくる。

確かに威力だけならヤバイ。何せISのパワーに重力のおまけ付きだ。下手をすりゃオヤジに近いかもしれないくらいだろうよ。つまり武器もなしに戦車を砕ける。

そんなもんを生身に受けてみろ。オレは一発で良くてミンチ、悪けりゃ血煙に早変わりだ。そんな超マジックを体験させられるのは御免だね。

でもまぁ、心配するほどでもねぇだろ。何せ…………。

 

「確かに威力はでかいが、そんなお粗末な拳じゃ虫だって殺せネェよ、お嬢ちゃん」

 

奴さんはまったくもってなってねぇ。

今までご自慢の細胞だよりだったんだろうよ。ロクにCQCが出来ちゃいねぇんだ。型も何もあったもんじゃない。ただ暴れてるだけで、殺しのために最適な動きってもんが出来てねぇ。だからよぉ………避けるのに苦労もしねぇし怖さなんて感じねぇ。

奴さんのラッシュをニヤニヤと笑いながら避け続け、少し息が切れてきたところで今度はこっちから仕掛けてやる。

 

「本物って奴を見せてやるよ、お嬢ちゃん。舌、嚙むなよ」

 

そう言うなり奴さんが放ってきた右ストレートを避けるや掴み、奴さんの懐へと一気に巻き込みながら飛び込んで腰を跳ね上げる。確かにクソ重いが、今の奴さんの右手は文字通り『重い』からなぁ。その重さを利用して一気に腕を下に引っ張り込む。

結果、奴さんは……………。

 

「がはっ!?」

 

地面に背中からダイブした。

オレが何をしたかって? 答えは単純、一本背負いって奴だよ。

日本の格闘技ってのは凄いよなぁ。相手の力を利用するなんて、他の御国じゃ考えつかねぇもんだよ。素直に感心する。こんなもんでも覚えねぇとあのクソオヤジを相手には出来ねぇんだよ。

急に地面に叩き着けられて奴さんはいきなりのことに驚いて愉快な面を晒してやがった。だからそんな奴さんにオレは見下しながら話しかけた。

 

「いくらオモチャが凄くても、その遊んでる奴がお粗末だと駄目だねぇ。何が細胞単位でオーバースペックな天災だ? こんな風に投げ飛ばされる奴なんて天災じゃなくて単なる『普通なガキ』だよ、お嬢ちゃん」

 

それを聞いたらもうアレだね。

奴さん、泣き出しやがった。泣きながらオレを殺す気満々で咆え始める。

 

「五月蠅い五月蠅い五月蠅い!! 今更普通扱いなんてするなぁ!」

 

そして起き上がるなり、奴さんの機体の装甲各所が展開し、何やら出始める。あぁ、確かホウキのISに装着されてる展開装甲だったか。奴さんが開発したもんだから奴さんの機体につけられてても可笑しくはねぇか。

 

「私はただ、認めて貰いたかっただけだもん。私は凄いって言ってもらえて、その上で皆と一緒に色々やりたかっただけだもん!」

 

叫びながらこっちに向かって再び突進するタバネ。今度は展開装甲の御蔭で更に速い。

が、いくら速かろうが動きそのものはかわらねぇよ。そのままさっきみたいに投げ飛ばしてやった。

 

「なのに皆私のことを信じられないって目で見て避けて、排斥して!」

 

少し離れた所から今度は展開装甲によるエネルギーの斬撃を飛ばしつつ、さっきの超重力で攻撃してくる奴さん。そんな奴さんの言葉を聞きつつ駈けながら距離を詰める。

 

「だから私は普通じゃない。見回りから避けられるのは普通じゃないから! だったれ別にいいもん! 普通じゃなくていい………天災でいいって。なのに………今更普通になんて戻れるか! 何で私が避けられてるのに、お前等化け物は!」

 

奴さんのご託を聞いていて呆れつつ、オレは本気で距離を詰めた。

あっという間に奴さんの目の前に立ち、驚く奴さんの面を愉快に笑いながら答えた。

 

「そんなガキみたいな癇癪起こしてるから普通なんだよ、お前さんは。オレ等は別に人に好かれたいとも思わねぇし、認められたいともおもわねぇ。そんなもんは仕事の結果で勝手に伝わるもんだからよ。ただ普通に仕事して飯食って寝てるだけで化け物呼ばわりだ。世の中そんな奴等ばかりなんだよ、ったく」

 

そう答えながら奴さんの顎に横からオルトロスの銃口を突き付けた。勿論銃剣は避けてだ。

 

「こいつでしまいだ」

 

そして引き金を引くと、銃弾は奴さんの顎に直撃。ただし、シールドが発動して奴さんは無傷だが。

しかしだ……………。

 

奴さんはその後盛大に倒れた。

 

「な、何で!? このハート・エンプレスは赤椿と白式のワン・オフ・アビリティーを持って無限のエネルギーと全てを消し去るエネルギーを持つ最強の機体なのに!」

 

困惑するタバネ。どうやらそっちに気が行きすぎて気付いていないらしい。天災(笑)も案外間抜けらしい。

 

「いくらお前さんのオモチャが凄くても、お前さん自身が普通なんだ。耐えられるわけねぇだろ」

 

その言葉にキッと睨んで来るタバネだが、顔を真っ青に変える。やっと気付いたか。

 

「授業で習った話だが、ISのシールドバリアは確かにかなりの攻撃を防げるが、その衝撃までは完全にはふせげねぇ。なら、零距離からの銃弾を顎に直に叩き込まれたらどうなるのか? 答えはお前さんの今の状態だよ」

 

答え合わせをニヤニヤ笑いながらオレはタバネに明かす。

 

「銃弾の威力は確かに防げる。だが、その衝撃は残り、そいつはお前さんの脳を揺さぶったんだよ。何、人間軽く力を入れるだけで脳震盪を起こせるモンさ。幾らオモチャが上等で頑丈でも、使う奴まではそうじゃねぇ。これもISの弱点ってやつだよ。これが戦場をしってる奴だったらそんなモンにはならねぇようにするが、お前さんは知らないが故に気付かなかったんだよ。バリアに頼りすぎて弱点を剥き出しすぎだ」

 

そして更に奴さんの顎にオルトロスを向ける。

 

「そしてもう一つだ。いくら機体が頑丈でも、中身がそうじゃねぇ以上、中身だけを殺す手段ってもんもあり得る。このままお前さんの顎を左右に何発も撃ち続ければいい。それだけでお前さんの大切なお脳はパンチドランカー状態を引き起こして役立たずのゴミ屑に成り果てるだろうよ。更には脳みそが耐えきれず壊れて死ぬっておまけ付きだ。だからこれで『普通』なお前さんはもう終わりだよ」

 

引き金に力を込めつつ最後に奴さんに笑いかけた。

 

「化け物だってお前さんは言うが、化け物だってそれなりに忙しいんだ。ガキの我が儘に付き合ってるほど暇じゃないんでなぁ。生まれ変わったら、その時は酒とタバコの味が分かる大人になるんだな、お嬢ちゃん」

 

 

 そして銃声がアリーナに木霊した。


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