まずはすばっしっこい野獣をこんがりとソテーにさせてもらったよ。奴さん、まさか味方の砲撃でこんがりにされるとは思ってもみなかっただろうさ。御蔭で今じゃ目の前であっちっこっちをドロドロに溶融させながらくたばってる。
そんな間向けを見下しつつ、オレはニヤリとした笑いを今は驚愕しているであろうタバネに向けた。
「お前さんのペットは中々に優秀だったけどよぉ……如何せんオツムの出来が残念だったなぁ。お前さんがもう少し『人間』ってもんをお勉強しておけば、少しはマシだったろうよ」
「なっ!? がっ、ぐぅ~~~~~~~………う、うるさいんだよ!」
悔しそうに唸る奴さんは中々に見物だ。その愉快な面をニタニタを見つつ、オレは懐からタバコを取り出し噴かす。
吸った煙を吐き出しつつ、オレは掠って血が出てる箇所が地味に痛むのを気にせずに満足そうに笑う。
やっぱり上手くいってると思ってる奴のああいう面を拝むのは最高に面白れぇなぁ。
自分が今まさに全部を支配してるって勘違いをしてるのが特に滑稽で愉快だ。そいつが違うってことを気付かされた時ってのは大抵二通りの反応をそいつは見せる。さて、奴さんはどっちかねぇ。
「っ~~~~~~~~~~~~! ま、まだこっちにはマッドハッターが残ってるんだよ! お前なんて真っ黒焦げになっちゃえばいいんだ!」
奴さんは前者、より頭に血を昇らせてこっちに噛み付いてきた。そうそう、後者はもう何も出来ねぇって絶望全開にして俯いてる面だよ。
よかったよかった、こんなんで後者の面をされてたらオレはつまらなさすぎてこの場で爺さんの所からかっぱらった酒でも呷ってるところだったよ。それでクソつまんねぇ面でタバネのお脳を地面にぶちまけてるだろうよ。
え? 凶暴だって? そう言うなよ、これでも真面目に御仕事中なんだからよぉ。
そんで仕事でも楽しまなきゃやってられねぇのさ。
「そのご自慢の案山子の砲撃でお前さんのペットは真っ黒焦げになったんだけどなぁ」
「むっき~~~~~~! その減らず口を黙らせてやる~~~~~~!」
奴さんを煽ると顔を真っ赤にして叫ぶや、ご自慢のオモチャに指示を叫びながら出す。
別に指示なんざぁ出さなくてもやるんだろうが、そこは奴さんの心情って奴だ。むかついて叫ばずには居られないって奴なんだろうさ。
その怒りを請け負うように、今度は案山子がこっちに向かって踊り出してきた。
それまでの連携重視の動きから、今度は単独での殲滅戦へと移行ってところだろうさ。
飛び出して初っ端は連射での荷電粒子砲。さっきまでのただぶっ放すのと違い、こっちの逃げ道を塞ぐように上手い具合に撃って来やがった。
「へぇ~、そういう事もできるのか」
そう軽口を叩きつつこっちも引き金を引く。
さっきのケダモノに比べれば速くはねぇし硬くもねぇから楽だと思うだろ? 所がどっこい、そうもいかねぇらしい。
弾は確かに当たりはしたさ。奴さんはそこまで速くはないらしい
なんだが………見た目と違い、やっぱりタバネのご自慢のオモチャだけあって一筋縄じゃいかねぇらしい。
弾が弾かれたのは当たり前なんだが、その弾かれ方が少し可笑しい。
どうにも変な感じだが、その違和感を奴さんは嬉しそうに説明してくれたよ。
「マッドハッターは通常のISよりもより強固なシールドを張ってるんだよ~! このシールドなら例えちーちゃんやいっくんの零落白夜でも破れないんだ!」
ご高説どうも。どうやらこの狂った帽子屋はその火力だけじゃなく防御力も狂ってるらしい。さっきのケダモノが装甲強度と機動性重視なら、こっちは高エネルギーの運用性重視ってところだろうさ。確かに厄介と言えば厄介だ。
それを聞いて普通のIS操縦者なら、確かに絶望しちまうんだろうさ。あの一撃必殺ですら通らないってんだからなぁ。
だけどよぉ…………オレはそれを聞いて尚………。
笑っちまうんだよなぁ。
何で? おいおい、それこそ可笑しいだろ。いいか、何でもも何も、前提が違うんだから当然だろ。オレは確かにISを使う。でもなぁ………『IS操縦者』になった覚えは一回もねぇ。あくまでも『ISを使う』だけだよ。あれは便利なオモチャの一つ。そいつをご自慢する気もねぇし、馬鹿みたいにハシャぐわけもねぇ。
車を運転する奴が、『オレは車の操縦者だ』なんて名乗ったりはしねぇだろ。使えるから使いはするけど、その程度でしかなく誇りをもったり胸をはったりなんてするわけがない……そういうことだよ。
だからオレはその程度のことで狼狽えたりなんかしねぇ。戦場じゃ理不尽は当たり前。そしてそいつを楽しみながら叩き潰すのが人生の醍醐味ってもんだよ。
だから敢えて言うのなら、オレは『傭兵(会社員)』だ。
そう、IS操縦者じゃないんだ。だからそれを聞いた所で笑うだけさ。
「なら、今度はそのご自慢のオモチャをぶっ壊してお前さんを愉快な面に変えてやるよ」
ニヤニヤと悪どい笑みを浮かべながらタバネにそう言うと、奴さんはそんなオレを見て気味悪がる。酷いなぁ、そんな目で見なくてもいいのによぉ。
「ふ、ふんッ! やってみれるならやってみなよ! ジャバウォックの時みたいな手はもう使えないんだからね!」
奴さんの負けん気の籠もった叫びを聞きつつ、オレは笑いながら案山子に向き合う。勿論言っちゃ悪いが、オレの今の面は悪い笑みを浮かべてる。何せこれからやることは、明らかに『イケナイ事』だからなぁ。
さて、ヤルと決めたからには早速行動開始だ。
まずはさっきと同じくオルトロスで牽制射撃を行い、奴さんを調子付かせないようにする。
あの案山子は当然そんな弾はきかねぇとばかりに無視してご自慢の荷電粒子砲を構えてこっちに向かってぶっ放してきた。
通常の一斉放射は確かにでかいがモーションがでかいだけに丸見えだ。避けるのだって来るのがわかってりゃぁたやすいもんだよ。
「確かに一番協力な代物だが、そこまでモーションがでかけりゃただのテレフォンパンチとかわらねぇよ。お前さんの最大出力ん時の範囲はもう大体分かってる。だからそいつはもう掠りもしねぇよ」
そう言いながら言ったとおりにそいつを余裕で避けてやる。まぁ、流石に掠りでもしたらそれこそ骨も肉も一気に持ってかれて一気に消し炭になるわけだが。生憎オレはまだバーベキューをする気はねぇし、それで失敗をしたくもねぇんでなぁ。
お礼代わりに案山子の脳天にオルトロスで応射してやれば、勿論弾は弾かれる。だが、明らかに間抜けなのは見てわかんだろうさ。オレから見たってアレは間抜け過ぎて腹を抱えるくらい笑える。だってそうだろ。ご自慢の攻撃を避けられただけじゃなく、その上余裕で眉間を撃たれるとか、馬鹿以外の何物でもねぇんだから。
それが分かったのか、案山子は更にオレへの砲撃を激しくしてくる。
今度は連射にして威力よりも取り回しを優先にした荷電粒子砲だ。
確かにモーションや溜めが無い分さっきの一斉放射にくらべりゃ避け辛い。
だが…………。
「そんなもん、アサルトライフルとそんな変わりねぇんだよ。こっちはそっちのウン倍の銃口の砲火に晒されてきたんだ。そんな二丁の連射如き避けるのに苦労なんざしないね」
そう、確かに大出力の荷電粒子砲に比べればこっちの方が隙が少ねぇとは言え、そうなっちまったら普通の銃器とかわらねぇんだよ。ISならではのおっかなさってのは、その身に合わねぇほどの大火力だ。だからこそ、あの最大出力には目を見開くもんがあった。だが、そうじゃなくてただの細かい連射にしたら、それは他でも替わりが効く攻撃にしかならねぇ。そうなればこっちは経験は腐るほど積んでるんだ。どうすればいいのかなんて丸わかりなんだよ。
だからそいつを突っ込むかのように案山子の眉間に再びオルトロスの銃弾を撃ち込んでやる。
見事に眉間に当たり弾かれる弾丸。勿論ダメージなんざぁ与えられないことは分かりきっている。ただ馬鹿にしただけさ。
もう一回同じ所を攻撃されたことを奴さんのAIはどう考えるのか………まぁ、大体分かるだろうよ。
奴さんは更に馬鹿にされたってんで、今度は癇癪をおこしたガキみたいに身体を独楽のように回転させながらご自慢の荷電粒子砲を連射してきたのさ。
その姿は以前も見た覚えがある。そうそう、臨海学校の時に暴れてた奴が確かそんな感じの攻撃をしてきたか。あの攻撃は結構厄介だ。何せ銃口が定まらずにぶっ放してるわけだから、要はヤク中の乱射とかわらねぇ。御蔭で避け辛いし読み辛い。
これは流石にねぇ……臨海学校の時みたいにミストレインで一気にゴリ押し出来れば楽なんだが、アレの『源典』はダニガンしか使えねぇ程にぶっ飛んだ代物だ。生身で持ち運べるようなもんじゃない。元からあんなゲテモノに頼るような気はないがね。
そんなわけで乱射を避けつつも様子を見ることに。するとタバネはそんなオレにしてやったりって感じなニヤケ面をしてきたよ。
「さっきまで大きな口を叩いていた割には手も足もでないみたいじゃないか! やっぱり化け物よりも束さんの方が上っていうことだね~!」
どうやら調子にノッてきたらしい。
そいつは少しばかりクるもんがある。嘗められているのはあまりよろしくねぇなぁ。だからこそ、オレは更に笑うことにした。
「そういうなよ、直ぐに結論に至るのは時期尚早だぜ、タバネ。だからこそ、お前さんの顔を驚愕で染め上げてやるよ」
そう奴さんにそう言うと、オレはニヤリと笑いながら案山子へと声をかける。
「ってわけでこれ以上のお遊びに付き合うのはしまいだ。だからこそ、今度はこっちからやってやるよ」
そう言ってまずは挑発代わりにオルトロスで牽制。案山子の眉間に三発ほど当ててやる。
そして怒ったであろう奴さんがさっきと同じように回転しようとしたところで更に追撃。軸足の間接部分をピンポイントで集中的に鉛玉をぶち込んでいく。
幾ら硬いシールドだろうと間接部まではそう全ては防げねぇだろうさ。そこまでガチガチにしてたらあの機動は出来ネェからなぁ。
その予想通り奴さんはバランスを崩した。別に壊れちゃいねぇが、衝撃でそれくらいは起きる。
そうなると回転できねぇわけだ。だから案山子は別の攻撃方法を取らざる得ない。
そこで奴さんが取れるのは、その場からの砲撃だ。それが最大出力なのか連射なのかまでは知らねぇが、そこは問題じゃない。
問題なのは、それしか出来ねぇって事だよ。
「お前さんにお伽話の答えを教えてやるよ。オズの案山子が脳を欲しがったのは自分が馬鹿だと認識してたから。だが、そいつは違う。何せ案山子は自分が馬鹿だってことを理解してたからなぁ。そこを考えられるなら、お脳なんてなくても充分だ。お前さんはどうなんだ?」
そう話しかけると共に、オレはオルトロスである部分を狙う。
皆にいきなりだが聞いてみたいことがある。
絶対防御やシールドバリアは何処まで適用されるのかって問題だ。ISに攻撃が当たれば必ずシールドは削れる。でもISに触れられないわけじゃねえ。もしそうだったのなら、ISに触れたもんは全部シールドで弾かれることになっちまうからなぁ。それに手前の攻撃だけ通して向こうの攻撃だけ防ぐ、なんて便利な代物があるわけねぇんだよ。鉄板で盾を作ったって、そこに狙撃用の穴がなけりゃ防ぐ側の攻撃は通らねぇのさ。
つまりだ……シールドが発生するのが相手の攻撃でも、向こうの攻撃が出る部分は必ず『シールドが発生しない』ってわけだ。
だからこそ、オレは奴さんがオレに向けて来た『穴』に銃弾を叩き込んだ。
『ッ!?』
突如爆発した両手の砲口に驚きを見せる案山子。
そりゃ普通に考えればそうだろうさ。『エネルギーが溜まりつつある部分を破壊されれば爆発する』んだからよぉ。
これで奴さんご自慢の荷電粒子砲は黙らせた。
後はグリルだろうがソテーだろうが刺身だろうがお好きにどうぞってのが普通なんだが、IS相手にはそうもいかねぇ。だからさ……。
オレは案山子をどうするのか、もう決めてるんだよ。
未だに困惑を隠せねぇ案山子にニタニタ笑いながら近づくと、奴さんは流石に不味いと思ったのか後ろに飛び退こうとする。だが、そうはさせねぇよ。オルトロスで奴さんの逃げ場を逸らしていき、あっという間に案山子をアリーナの壁まで追い詰めた。
そうなれば奴さんの行動は更に限られる。案山子は砲撃を失った以上、残されてるのはその不気味に長い両腕だけだ。だからそいつをオレに向かって振り回してきた。
「確かにIS同士なら無駄なもんだが、生身の相手ならそれだけで致命傷だなぁ。その一撃で脳天が弾ける」
案山子の答えを見て愉快に笑いつつ、
「だが、考えがなさ過ぎで安直すぎだろ」
振りかぶってきた腕を掴むと一気に力を流して関節を決める。
一瞬だけ動きを止めた案山子の腕を掴みつつ、オレは空いたもう片方の腕を使って案山子の胸や手足の関節にあるものを懐から引っ張り出してくっつけていく。
そして付け終わるとともに案山子を投げ飛ばした。
なぁに、クソジジイの相手をしてりゃぁ相手を投げるくらいは出来る様になるモンさ。
投げ飛ばされた案山子はIS特有のPICを使って柔らかく着地するわけだ。
だが、ここから先はもう意味がない。何せ決着はもう付いたんだからなぁ。
オレはタバネにも聞こえるように話しかけた。
「ISのシールドバリアや絶対防御が発生する条件は、主に飛んで来た攻撃が直撃したときだ。そこだけ見れば便利だが、いつもそれじゃぁ触れもしねぇ。んじゃ何処でその差が付くのか? どこまでが攻撃で何処までが攻撃じゃないのか? そいつの答えは対象のサイズと速度だ。つまりISに対して危害が加えられる可能性がある速度を出すもんなら、それはシールドに適用されるってわけだ。なら……………零距離でISの装甲にくっついたものにシールドは適用されるのかねぇ」
そう言うと、懐からとある花火のスイッチを取り出した。
「オズの案山子は確かに脳を欲しがったのは自分が馬鹿だから。だが、手前が馬鹿だってことを考えられる奴はその後どうすれば良いのかを手前の空っぽの頭でも必死になって考える。だから自分なりに上手くいくように頑張れるんだよ。あの物語でも言ってるように、そのことを意識し頑張れる案山子にはもう必要ねぇのさ。だが……お前さんは駄目だね。せっかくのAIなのに親の言うことだけに従って言われた通りにしか動けないお前さんは………オズの案山子以下だ」
そしてスイッチを押し込むと、あの案山子にくっつけたモンが大爆発を引き起こす。
今回使ったのはC4じゃねぇよ。ハンドアックスってあだ名が付けられてる爆薬だよ。その特性は『爆発の威力に指向性を向けること』だ。だからオレは案山子の身体の装甲にくっつけて『爆発の威力を零距離』で直にぶつけてやったのさ。
結果……………。
あっという間に案山子は案山子からスクラップにジョブチェンジだ。
絶対防御だろうが何だろうが『零距離からの攻撃』に耐えられるのようには設定されてねぇんだよ。何せ本来この機能は『宇宙空間における危険物から身を守るため』のものであって『零距離からの爆発に耐える』なんてことは想定してねぇんだから。耐えられるんだとしたら、そいつはかなり分厚い装甲板だろうさ。
それに比べて明らかに薄いISの装甲がそれを受けてみろ。
答えは見ての通りだよ。
その結果を見て言葉が出なくなってるタバネに、オレはニンマリと笑いかけた。
「さて、後は…………お前さんだけだよ」
そろそろ、大剣を振り下ろさないといけねぇからぁ。