恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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スランプが継続中で辛い今日この頃です。


百五十八話 悪くはねぇんだが、やっぱりそれ以上を知ってる身としては少し物足りない

 やっと始まったタバネとのダンス。

奴さんみてぇな奴と踊るのは今回が初めてなんでね。柄にもなく緊張してるしワクワクもしてる。そう、この心境ってのはマジシャンを見るガキの心境に近いだろうさ。

今まで色々な奴等と殺り合ってきたが、タバネみたいな奴とはさっきも言ったが初めてだ。だから向こうがどんな手品を見せてくれるのか楽しみなんだよなぁ。あぁ、勿論そいつがイケねぇことだってことは分かってる。本来の殺し合いにおいて、向こうの手札をわざわざ出させようとするバカはいねぇ。出されればこっちが死ぬかもしれねぇんだから、常識を考えればその前に殺すのが当たり前。それをわざわざ待ってるってんだからオレも随分とバカだとは思うよ。だがまぁ……そういうのも悪くはネェだろ。かの偉大な天災とやらがこのダンスステージでどんな踊りを見せてくれるのか? そいつは誰だって興味くらい湧くだろ。それにだ……。

 

こっちは今回真面目に御仕事だ。

 

そう、仕事なんだよ。仕事である以上、巫山戯てはいてもやることはやる。相手を殺すのは勿論のこと、手前の所の看板を掲げてるんだ。そいつに泥を塗るような真似は絶対にしねぇ。『巨人の大剣』の名の通り、あのクソオヤジが毎回慣れねぇ畏まった演説を嚙ますように、振り上げられた大剣はその先にある全ての障害を真正面から叩き潰す。

つまりそういうことだ。奴さんの手品をみたいってバカなことを考えつつも、その上でやるべきことはちゃんと殺る。

だから………タバネにはもっとワクワクさせてもらわねぇとなぁ。

 

「おいおい、お祝いの花火は結構だがまだ始まったばかりだぜ。もっと他にないのかい? 祝いのケーキとかよぉ」

「五月蠅いよ、化け物! ミサイルが発射される前に撃ち抜くとかナニ考えてるのかな? IS無しでやるとかありえないし」

 

先程タバネが出したミサイルがこっちに向かって飛んでくる前に全部丁寧に撃ち抜いてやったら、奴さんは爆炎の中から煤けた恰好で飛び出して来たよ。流石にミサイルなんてもんは危ねぇからなぁ。こっちに飛んでくる前に無力化させてもらったわけさ。生身にミサイルとか、過剰も良い所だろ。因みに経験上、戦闘機に乗ってケツからミサイルに追い立てられている時ほど心臓に悪いモンはそうはねぇってことを教えとくぜ。ありゃ危うく自分の後ろの貞操と命を同時に奪われそうな気になるからよ。当たればどっちもおじゃんなわけだがね。

そんなわけでミサイルなんて物騒なモンは潰すに限る。

タバネはミサイルを潰されたことに怒りつつ、ご自慢のステッキをオレに向かって振りかぶってきた。その速さは確かに速ねぇ。伊達にチフユとタメを張ってはいねぇ。

だが生憎、オレはそいつを片手のオルトロスの銃剣で受け止めた。

確かに重さはあるんだが、その程度だ。

 

「へぇ~、流石は天災ってところか? 悪く無い重さだよ。イチカの野郎だったら間違いなくドタマをかち割られてる」

「んぅ~~~~~! そりゃいっくんには悪いけどち~ちゃんほどじゃないからね。でも、それをこうして易々と受け止められるとやっぱりむかつく! 大人しく死ねばいいのに」

「まだ始まったばかりでそれじゃつまらねぇだろ。もっと本気って奴を見せて見ろよ、お嬢ちゃん。この程度だと欠伸が出て来て眠くなっちまう。お前さんの力ってのはコーヒー以下かい?」

「きぃ~~~~~~、言わせておけば!」

 

奴さんを軽く煽ると、それはそれは悔しそうな反応が返ってくる。

確かに女だてらにゃぁ怪力だっていって良いんだが、如何せん『それ以上』を知ってる身としては甘過ぎて寧ろ軽いくらいだ。

 

「お前さん、とある神父を知ってるかい? あまり知り合いと認めたくはないんだが、あの裏のド腐れ神父の攻撃ならオレだって無事じゃすまねぇよ。世のために信仰を広めようっていう真っ当な考えのくせに、そのくせ伝わらない奴相手にはご自慢の馬鹿でかい十字架で真っ二つにたたき割ろうとする頭のイカれた野郎さ。あの野郎の攻撃は両手で思いっきり力込めねぇと防げたもんじゃねぇんだなぁ。それに比べればお前さんのそれはただの子供のお遊びだよ」

「細胞単位でオーバースペックな私をバカにするなんて良い度胸だよ。でもね……私は人間なんだよ。お前の知ってる化け物連中と比べられるのは癪に障る。人間は人間の世界に、化け物は化け物らしく裏にでも引っ込んでよ」

 

奴さんはステッキで更に殴り付けながら襲ってくるが、それでもそこまで恐くはない。こっちはオルトロスで捌きつつ、奴さんを煽っていく。

え、何だってそんなに煽るのかだって? そりゃ勿論面白くするためじゃねぇか。

いや、別につまらなくはねぇんだよ。それなりの殺気はあるし、奴さんは実に本気ってこともわからなくはねぇ。んだが、改めてこうしてやり合ってみると分かるんだが、如何せん強く無い。パワーで言えばウチのクソオヤジやあのクソ神父のダニエルの方が格段上だし、速さで言えば顎の野郎の居合いに比べれば余裕で避けられるくらい遅い。

勿論、あんな化け物共と比べるのは可哀想だってことは分かってる。

奴さん曰く、細胞単位でオーバースペックな人間ってことだからなぁ。悪魔でも人間だ。それが人外と比べられるのは大概なんだとよ。

それってつまりオレも人外扱いってことか。そいつは心外ってもんだぜ。オレはあんな変態共と違って常識ある社会人だってのになぁ。

 

「そう言うなよ、人間代表。これでもオレだって人間なんだぜ。あまり化け物扱いされると傷付いちまいそうだ。それに本当の化け物にそいつは申し訳無いってもんだよ。オレが知ってる化け物は、相手がISだろうが一個師団だろうがミサイル群だろうが何だろうと容赦無くぶっ壊していくような連中だ。それに比べればオレはまだ優しい方なんだぜ」

 

そう答えると、ご自慢の重力を操ってステッキの威力を高めながら振り下ろしてきた。

 

「そんな化け物が闊歩してるのが私は許せないのさ! 世界は私とちーちゃん達さえいればいいんだから。それ以外はいらない! それを害そうとするような化け物は速く駆除しなくちゃ!」

 

避けると地面が見事に爆ぜる。なかなかの威力だが、あのクソオヤジの一撃なら当たった地面は砲撃の痕みたいになってるところだ。正直、躱しただけでもその衝撃波だけで身体がズタズタにされるんだから、溜まったモンじゃねぇよ。

だからこの程度は可愛げがあるもんさ。

そいつを躱しつつお礼代わりに反撃でオルトロスを三発ほどぶっ放すが、奴さんは何やらISのバリアみたいなもんに守られてるのか弾丸は見事に弾かれる。

 

「そいつもご自慢のオモチャかい? 大方ISのシールドとかだろ?」

「ご明察、これは束さんお手製のシールド発生装置さ。並のISなんかとは比べものにならない程のシールドが張れる優れものなんだよ。だっていうのに…………何、その銃。シールドが結構減ったんだけど」

 

忌々しいって面で睨み付けられたんだが、そう言われたって困るなぁ。

 

「何もクソもそのまんまだよ。お前さんと同じかそれ以上に頭のぶっ飛んだ変態が作ったイカれた拳銃さ。デザートイーグルをベースに威力と弾数を上げ、目標は全ての兵器の単身破壊を可能とするって馬鹿げた代物だよ。その所為で反動がでかすぎて使える奴なんざぁ殆どいないがね」

 

返答しつつも更に引き金を引くと、奴さんはそれをステッキで防ぎつつも後ろに飛び退き、ステッキの壊れ具合を見つつ睨んできた。

 

「私以外に随分な代物を作る人がいるんだね。少しだけ見てみたくなったかも」

「止めておけ止めておけ、見たら絶対に後悔しかしねぇから。お前さんは世間じゃあれ扱いだが、あの変態はそれ以上だ。野郎は自分が作った機械にしか欲情しねぇイカれた性欲の持ち主だよ。そんな野郎が作ったもんだ。使う側のことなんて一切考えてないキチガイ染みたオモチャしか出来上がらねぇよ。その点、まだ使う側の安全を考えてるお前さんは『普通』だよ」

 

その言葉に顔を歪める奴さん。どうやら普通って言葉が何かしら思うことがあったらしい。大方自分は神様だとでも思っている口だ。

 

「私は『普通』なんかじゃない! そんな凡愚共と一緒にするなぁ!」

 

タバネはそう叫ぶ。何だ何だ、何かあったのかぁ?

だからオレはもっと奴さんを煽ることにした。

血も流れねぇこの御仕事。せめて面白くしなきゃなぁ。

 

「あれ? もしかして普通扱いされるのが嫌なのか? だったら悪いなぁ……お前さん、『オレ等』からすれば真っ当に普通だよ。何処に出したって良いくらい『普通の人間だ』」

 

それを聞いてタバネの奴は……一瞬だけ泣きそうな面をした後、怒りで真っ赤にそまった顔で叫んだ。

 

「うるさぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

その叫びと友に奴さんの後ろが光ると、そこにはどこかで見たISが二機、佇んでいた。

 

「お前の下らない言葉なんてもう聞きたく無い。やっちゃえ、ジャバウォック! マッドハッター!」

 

どうやら今度は奴さんのご自慢の無人機らしい。

その二機は目を輝かせると共に、襲いかかって来た。

いいねぇ、やっと楽しくなってきた。

さぁ、第二ラウンドの始まりだ。


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