恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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まだ戦わない。
でも、次回は思いっきり戦いたいですね。


百五十六話 お嬢様にはつきたくない嘘だってある

 放課後になってお嬢様の訓練に付き合う予定だったんだが、そこに思わぬ……いや、予想していたよりも遅い来客が来やがった。

突然アリーナのシールドがぶっ壊されると共に上から飛び降りて来る人影が二つ。

そしてそいつ等は爆炎を払うと共に、ドヤ顔を嚙まして宣言してきた。

 

「たのも~~~~~~~~!! くぅちゃんを取り戻しに、&何処ぞのお化けを退治に束さんがやってきたよ~!」

「こんどこそ、織斑 一夏を殺し姉さんを超える」

 

急な事態に騒々しくなる周り。緊急避難警報を発令したり何なりと、教員連中は大変だ。

そんな中、何事かと集まるのは当然専用機持ちなわけで、あっという間にイチカ達が集まってきた。その速度と来たら、まさに一瞬ってやつで、まるでコミックの一コマで済ませられたような感じだ。時間が掛からないってのは良いことだなぁ。

そして集まれば、知り合いであるイチカが代表してタバネに話しかけるわけさ。

 

「束さん、どうしてこんなことを!」

 

実に主人公らしい言い方にタバネは楽しそうに笑う。

 

「やぁやぁいっくん、おっひさ~。何でも何も、そのままさ。くぅちゃんのお迎えと……そこにいるお化けの退治かな」

 

奴さんはそう言いながらオレの方を睨んできた。ありゃ相当に溜まってるらしい。

そして一緒に来た奴はISを展開しながらイチカに叫ぶ。

 

「此方が要があるのは織斑 一夏、まず貴様だ。貴様を倒し、私は姉さんを超えて『本物』になってやる」

「千冬ねえを超える? 一体何を言って……なッ!? 何で……その姿は一体……」

 

イチカの野郎はもう片方のちっこい客を見て驚いてるようだ。釣られて他の奴等も驚いてるが、今更なような気もする。

そしてこの中できっと一番お怒りであろう我等が担任様がかっ飛んで来た。

 

「束、お前どういうつもりだ! 事と次第によっては!」

「やぁ、ちぃちゃんもおっひさ~! そう怒らないでよ~、私はたださ~、くぅちゃんを迎えに来たのと……そこにいる人じゃないお化けを退治しに来たんだよ」

 

さっきと同じ説明をする奴さんは、それこそオレをマジで殺す目で見つめてきた。ありゃ本気って奴だ。

それを聞いて引き下がる訳にいかねぇってチフユががなり立てるわけだが、聞く気がねぇのかへらへらと笑って躱すタバネ。そんな奴さんと違い、もう一人……まぁ、既に分かりきっているだろうがこの間お嬢様にド突き回されたお嬢ちゃんだ。そいつがISを展開して今にも殺り合いたそうな面をしてきた。見た限り、展開したオモチャも以前の物と違って真新しい所を見るに、どうやらタバネからオモチャを改造してもらってはしゃいでるらしい。そこだけ見れば、京都で仕掛けてきたあの姉ちゃんと大差がないねぇ。

そう思ってるとお嬢様がオレの袖を軽く引っ張って来た。

 

「レオスさん、アレは……」

「あぁ、お嬢様が考えてる通りだろうさ。あのお嬢ちゃん、どうやらタバネにオモチャを新しくして貰って自慢したいらしい」

 

そう聞くとお嬢様はさっきまで不安そうにしていたのが嘘だったかのように顔を引き締める。まるで仕事に集中してるときのクロードを彷彿とさせるそれは、正直見ていて苦笑しちまうよ。

さて、そうこうしてる間に向こうはどんどんヒートアップ。怒りまくりのチフユとのらりくらりと躱すタバネ。専用機持ちの殆どはお嬢ちゃんと戦う気が満点だ。

さて、そんな状況なわけだが、このままはい殺し合いましょうってわけには行かないんだよなぁ、これが。

そのことを面倒と思いつつもオレは携帯をかけ始めた。

 

「もしもし、爺さん」

『はい、どうかしましたか?』

 

この学園で一番偉いであろう爺さんに電話。このジジイ、この状況なのにいつもとかわらねぇ声で答えてきた辺り、もう全部分かってるだろ。

 

「もう分かってるだろうけど念のタメだ。この間保護した子ウサギがいただろ。その子ウサギの親ウサギが引き取りに来たってよ。それだけなら渡してはい、終わりなんだが、どうにも奴さんは自慢の子供を矢鴨みてぇにしたオレを許せネェらしい。おっかないことにぶっ殺しに来たと言って来やがった」

『そうですか、それは恐いですね』

 

まったく怖がっていないそれに、オレは苦笑しながら返す。

 

「あぁ、そうさ。御蔭でオレはブルッちまってる。それだけなら良いんだが、この親ウサギは面倒な事に更におっかない裏の稼業の人まで引っ張って来たのさ。元から結構いびられていただけに萎縮していただろうが、それでもご自慢のオモチャをひっさげて遊びに来たよ。そいつはオモチャを自慢したいらしくて、今すぐにでもイチカ達と遊びたそうだ」

『大体わかりました。それで、私はどうすればよいでしょうか?』

 

既に分かりきっているのに敢えて聞くってのは嫌な大人だねぇ、本当。

オレはお嬢様に見られないようにニヤリと笑いながら言う。

 

「いつもと一緒でいいだろ。強いて挙げるなら、オレの方に向かってくる親ウサギを相手するのに邪魔がはいらねぇようにすることだけさ」

『確かにそうですね。では、別のアリーナにでも誘導しましょうか。(遊ぶ)玩具は持ってきているんですか?』

「まぁね。ここ最近少し緩みすぎだったんで、ちゃんと準備はしてあるよ。何なら今すぐイスラムにでも飛ばしてもいい。直ぐに全滅させて生き残るくらい余裕だよ」

『それは結構です。では、その通りに』

 

これで準備は終わり。後はオレの方に来た客の相手をするだけだ。

だからこそ、オレはお嬢様に笑いかける。

 

「お嬢様はイチカ達を助けてやってくれ。あのお嬢ちゃん、絶対にお嬢様にも向かってくるだろうからなぁ」

「でも、それではレオスさんが……」

 

オレが危ないって心配してくれるお嬢様。恋人に心配して貰えるってのは嬉しいもんだねぇ。前も思ったが、成る程。これが恋人が出来て自慢しまくる奴の心境って奴か。少しばかり理解したよ。

だからこそ、オレはお嬢様に不敵に笑う。

 

「愛しいお嬢様が心底心配してくれるのは嬉しいが、申し訳無いのかお生憎なのか、オレがあの程度の甘甘な砂糖漬けにシロップを掛けまくったような所に居た奴に負けるわけねぇだろ。だからそこまで心配するなよ。帰ったら一緒に夕飯でワインでも飲もう。勿論、爺さんの所からくすねた上物をよ」

 

自信満々にそう言うと、お嬢様は少し不安そうにしていたが、呆れたのかふふふって笑い返して来た。

 

「もう、レオスさんは人に心配させてくれませんのね。もう少し恋人として心配したいのに、そんな風に凜々しく格好良く返されたら心配なんて出来ませんもの。だから……早く終わらせて帰ってきて下さい。私、お酒は苦手ですけど、それでもお付き合いしますから」

「あいよ、お嬢様」

 

お嬢様にそう言ってオレはタバネの所へと歩いて行く。

なぁに、お嬢様なら絶対に大丈夫だ。何せあの鬼畜上司の直の教え子で、何度も鉄火場を経験し、何よりもオレの恋人だ。安心して任せられるよ。今じゃオレの背中を任せても良いくらいになぁ。

だから平気だ。あっちはお嬢様に任せられる。

なら、残りはこっちだ。

オレはそのまま未だに平行線を辿ってるチフユとタバネに割り込んだ。

 

「よぉ、タバネ。久々だなぁ」

「む、気安く話しかけられる覚えはないんだけど、化け物」

 

実に気むずかしい性格ってやつだ。そのことにやれやれだと思ってると、チフユが当然怒鳴り込んできた。

 

「ハーケン、いきなりどういうつもりだ!」

「どうもこうもそのまんまだよ。爺さんに話は付けてきた。タバネの相手をしろってさ」

 

そう言うと実に腹苛しい面をするチフユ。大方のけものにされたのが気に喰わないんだろうが、頭に血が昇って周りが見えてネェからだろ。そんな怒らないでくれよ。正直タバネよりもこえぇ。

さて、チフユを黙らせたんで後は親ウサギを別の飼育ケースへと連れていかねぇとなぁ。

 

「お前さんの娘なら今も学園の休養施設にいるよ。今頃ならおやつのキャンディでもなめてる頃だろうさ。そいつを引き渡すのは別にいい。だけど、それだけじゃお前さんの腹の虫はおさまらねぇ。そうだろ?」

「あたりまえじゃん。お前みたいな化け物をのさばらせておくわけにはいかないもん。何よりもくぅちゃんの綺麗な足に穴開けたのを許せる程タバネさんは心広くないよ」

 

やっこさんはむふんって感じに胸を張る。でかい胸が揺れるんだが、どうにも色気は感じられねぇ。まぁ、これからしようってことに色気なんざぁ関係無いがね。

 

「そいつは結構。オレとしても死ぬ気は毛頭無い。やっとこれからの人生それなりにバラ色になりそうなんでね。そいつを味わう前に死ぬって選択肢はねぇのさ。だからこそ、ここで提案だ。爺さんが特別にリングを用意してくれるってさ。そこでやろう(殺し合おう)か」

 

その提案を受けて、タバネはニヤリと口元をつり上げる。向こうもOKらしい。

そしてそのリングへと案内するわけだが、その間に軽く少しだけ忠告しておく。

 

「タバネ、これだけは言っておくけどよ………あまり遊びすぎるなよ。こっちは今、丁度『本気の仕事モード』だ。手加減はしねぇし油断も容赦もしねぇ。残虐だ外道だ鬼畜だって言われることも平気でするし、命乞いする野郎の額をぶち抜いて脳漿をぶちまけるのも笑いながらやってのける。一つだけ嘘を言うんだったら、それはお嬢様に確かに任せたわけだが、それ以上にオレのこの状態を見られたくねぇんだよ。だからさ…………」

 

そこで一旦言葉を切ると、タバネですら頬を引き攣らせるくらい周りの空気が凍り付くほどの殺気を纏った笑みで言う。

 

「簡単に死んでくれるなよ。思いっきり『殺し合おう』」

 

 

 

 さぁ、これでお膳立ては充分だ。

後は思いっきり…………殺そうかねぇ。


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