恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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百五十三話 もう一回行ってこいってのは御免だね。

 彼女、篠ノ之 束は今回の亡国機業の襲撃の件に関しそこまで乗り気とは言えなかった。元より他者などどうでも良いと思っている人間だ。目的が一致したからこそ、彼女はスコールに協力した。

スコールはレオス打倒に、彼女はスコールを使っての情報収集に。

スコールの結果がどうであれ、彼女の目的は果たされる。その情報を見て、彼女は心底驚くと共にニヤリと笑った。

ISの絶対防御を素手で貫き操縦者を操縦不能にしたのは流石の彼女でも開いた口が塞がらなくなってしまっていた。本来は宇宙空間における障害物から身を守るための物であり、その強度はそう簡単には破れない。それをあろう事か貫いてきたのだ。絶対防御と言う名にふさわしき盾を貫き、その持ち手の骨を粉砕した。いくら機体が大丈夫でも、それに生身がついて行かない程の衝撃。それを生身の人間が出せるなどと誰が思おうか? 

レオスの情報に素手での格闘術の情報は無かったので問題視などしていなかったが、実はそうではなかったことに彼女は更に戦かされる。

あの憎たらしい傭兵風情はそれこそ、本当に化け物なのだと。彼女のようにISを理解してその場で分解する訳ではない。力任せに強引に、『相手を殺す』ことに特化しているその能力。それは細胞レベルでオーバースペックな彼女でさえ真似出来ないことだから。

それと共に得られた情報は実に有益であった。

あの化け物でも傷付くということ。絶対防御を貫いた結果、彼の右腕は見事に使い物にならなくなった。化け物でも負傷するという事実は彼女にとってとても重要だ。

つまり殺せない訳ではないということ。

だからこそ、彼女は笑う。

 

「これでやっとあのゴミ虫を駆除できるよ~」

 

そう楽しそうに言いながら笑っていると、そんな彼女に背後から声をかけてくる者がいた。

 

「まだ私のISは出来ないのか?」

 

それは真っ黒い髪をした少女。鋭い眼光は見る者全てに恐怖を抱かせる。

刃物のような殺気を纏うその少女は彼女の友人に凄く似ていた。まるでその友人の幼かった頃の姿と瓜二つと言えるほどに。

彼女の名はM(エム)、亡国機業の人間であり、束がスコールとの話で手に入れた『お気に入り』の一つだ。そしてもう一つの名もある。

束は現れたMに親しみを込めた笑みを浮かべながら答えた。

 

「あぁ、まどっち! うっふっふ~、勿論もう出来てるよ。まどっちが来るのを待っていたんだよ~。さぁさぁ、早く調整しようか!」

「分かったが五月蠅い。もう少し静かに出来ないのか、お前は」

 

テンションが高い束に呆れつつもMは返す。

彼女のもう一つの名は、織斑 マドカという。その名と友人の幼き時の姿とそっくりと言えば、何かしら関係性があるのは分かることだろう。

その正体はクローン。それも世界最強と謳われる織斑 千冬のクローンだ。

彼女は違法な研究により生まれた存在であり、織斑 千冬を超えることだけが彼女の存在意義である。その身は亡国機業によって生かされており、彼女は目標を超えることに妄執的な復讐心のようなものを抱いている。

それがけが彼女の原動力となり、その思いだけで彼女は突き進む。

そんな彼女のISを束が改造していたというわけだ。

束からの報告を受け、Mはやっとかと軽く笑った。

彼女が待っていた改造された新たなるIS、それを使い彼女はあることを行おうとしていた。

それは勿論、彼女の『本物』である織斑 千冬を殺し超えること。

そしてもう一つ、これはここ最近に出来上がった屈辱である。学園に襲撃をかけた際、格下だと見下していた相手に彼女は負けかけたのだ。千冬以外は皆雑魚だと認識していたのに、その格下に負けかけた。それも自分が使っているISの兄弟機であり彼方の方が劣っている試作機如きにだ。

それが彼女には許せないのである。織斑 千冬の前に、『あの女』と『あの男』、そして織斑 一夏の三人は絶対に倒さなければならない。

『あの男』に怒りを滾らせている束に改造を頼んでいる以上、『あの男』の相手は束に譲り、それ以外の二人を殺す。そしてその屈辱を払拭し終え、改めて千冬へと挑むつもりだ。

だからこそ、二人は狂気染みた笑みを浮かべ共に笑う。

 

「さぁ、行こうか、あのゴミ虫を駆除しに。私自らが叩き潰しに行ってあげるよ」

「あぁ、いくぞ。姉さんを超えるために、まずはあの出来損ないとあの女を血祭りに上げてやる」

 

そして二人は動き出す。

片方は目障りな存在を消す為に、もう片方は超えるべきものを超えるために。

 

 

 

 やっと京都から帰って来れたんで、オレとしては人心地ついたもんさ。あの頭の可笑しい化け物共の縄張りに居るってのは精神的にきついもんがあるからよ。

さて、これでやっと安心出来るかと思えば実はそうじゃねぇ。

よ~く思い出してくれねぇか? オレ達が一体何をしていたのかを。

そう、オレ達がしたのは『修学旅行の下見』だ。下見ってことは、当然その後本番があるわけさ。つまりそいつに参加するってことは、またあの頭のイカレた女装野郎のお相手をしなきゃならねぇことになる。いくら精神が鋼で出来上がっていたってなぁ、手前の貞操を危険に晒す馬鹿はいねぇだろうさ。

そんなわけでオレは右腕を理由にサボタージュだ。まぁ、怪我人なのは事実何でね。無理に連れて行こうとは出来ねぇんでなぁ。それにお嬢様もオレと一緒に学園に残るって言い出したンだが、そいつは少しばかり駄目だ。

そう言うと途端にお嬢様は泣きそうな目でオレを睨んで、

 

「一緒にいたいのに駄目なんですの?」

 

と実に心揺さぶられるお言葉を言われちまったよ。そりゃ自分の女と一緒に居たくない野郎なんていねぇだろうさ。

だがねぇ、お嬢様にゃぁ他にも色々と学んで貰いたいもんもあるのさ。特に交友関係ってのは大切なもんってのが世間一般だからよ。ハイスクールの貴重な思い出はちゃんと楽しまねぇとなぁ。

要は『クラスの奴等と旅行を楽しんでこい』ってことだ。

オレは御免だが、お嬢様なら大丈夫だろ。嫌われ者のオレと違ってお嬢様は皆から好かれているんだからよ。

そんなわけでお嬢様を見送った後のオレと言えば、毎日爺さんの所で酒盛り………だったら良かったんだが、そう言うわけにはいかねぇのが世の中ってもんだ。

オレの右腕の為体が早くも上司二人にバレちまった。

その所為でお小言を言われまくり、あのクソオヤジには心底頭にくるくらい馬鹿にされ、腑抜けているんじゃネェかって言われて宿題を渡されちまった。

そいつは所謂訓練プログラムってやつで、その内容はあの鬼畜上司が考えたランボーだって裸足で逃げ出すくらいヤバい代物だ。

そいつを熟さねぇとオレの給料は雀の涙よりも酷い事にするってよ。まぁ、そいつは業腹に不服だが、その言い分は分からなくもねぇ。この仕事に役立たねぇ野郎はいらねぇからなぁ。

そんなわけで、オレは手前の給料という名の人質を前に膝を屈して地獄の訓練をやることに。国際法で脅迫には屈しないってのがセオリーなんだが、そいつで無一文になっちまったら元も子もねぇ。人間、金は重要なのさ。

御蔭でと言うべきか………………。

 

あぁ、懐かしい気分にさせられたよ。

 

いや、コイツは懐かしいっていうよりも、元に戻ってるって方が正しいのかもしれねぇなぁ。別に学生生活が悪いって訳じゃネェよ。だがまぁ、確かにオレは何処かぬるま湯に浸かってたってのが思い知らされたよ。

オレは元々こういう感じだった。そう、しばらくこの平和ボケした国に居たから鈍ってたらしい。

別にそれが嫌いなわけじゃねぇ。平和を楽しめる心ってのは人として大切だ。

だが………オレはそれでも、やっぱり『あっち』の方が性に合ってる。

きっと今のオレの状態をあの二人は察してたんだろうさ。むかつくが、流石は兄貴分と皆のオヤジだ。

錆落としにゃぁ、まさに丁度良かったよ。御蔭で学園の施設はおシャカになりかけ、オレのお遊戯を見た奴等は全員顔を真っ青にした。その件に関しての追求は特になかったってのが有り難い。何せちゃんと仕様に則って使ったからなぁ。

まぁ、八機のリヴァイブの十字砲火を生身で避けつつ反撃してりゃぁ少しは驚くか。

そんなわけで、オレはお嬢様が旅行を愉しんでいる間、こっちもこっちで青春にしては物騒な火薬の匂いに包まれた青春を過ごしていたわけだ。

そして本日、オレが部屋で一服吹かしてると、扉が勢いよく開かれた。

 

「レオスさん、ただいまですわ!」

「あぁ、お帰り、お嬢様。愉しめたかい?」

「はい、とっても」

 

満面の笑みを浮かべるお嬢様に、オレも少しばかり嬉しくなったよ。

 


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