さて、んじゃお嬢様との楽しい楽しい食事を終えた後の事を語ろうか。
何、あの後は何かあったわけじゃねぇ。世界ってのは常に平和ってもんで、そいつを実感させられるような時間を過ごしたよ。
え? 世界的に見ればまだまだ紛争はあるんだから平和とは言いがたいって? あぁ、そういうことか。そいつについて言わねぇとなぁ。ここで言った世界ってのは、『そいつの主観』ってことだよ。物理的な意味合いでなく、精神的な意味合いでの世界ってのは、そいつの見ているもんが全てだ。その点で言えば、世界は人の数だけあると言っても良い。偶々不運に見舞われた奴は平和じゃねぇが、オレの方ではゴタゴタが片付けば後は平和ってことなのさ。確かにあの後も顎の野郎と焔の姐さんとお嬢様の三人と共に観光の続きへとしゃれ込んだが、特に問題らしい問題は無かったよ。強いて言うんだったら、顎の野郎が怖気だつくらいの色目をオレに向けてくるのが鬱陶しい事と、お嬢様がいつも以上に献身的だった事かね。
オレとしてはテメェの自業自得なんで気にして無かったんだが、お嬢様は凄く気にしてるようで、常にオレの右側でオレの腕に負担を掛けないようにしながら腕を組んで来た。
お嬢様ほどの美人にこうされるのは光栄だが、些か気を回しすぎじゃねぇかねぇ。
そう思いながらオレは軽くからかう様にお嬢様に聞いたんだよ。
「お嬢様自らこうしてくれるのは嬉しいが、そこまで密着されるとご自慢のバストが腕に当たっちまってるぜ。オレとしてはこの幸福を堪能したいところだが、お嬢様にゃぁ少しばかりきついんじゃないかい?」
そう聞いてみたら、お嬢様は真っ赤な顔で俯きつつも何処か誇らしげに答えてくれた。
「べ、別にきつくなんかありませんわ。レオスさんは先程まで本当に危険な目に遭っていたんですから、これぐらいは当然です。その右腕も私達を守るために壊してしまったようなもの、だから助けて貰った私はレオスさんをサポートするのは当たり前ですわ。そ、その……恥ずかしいですけど、こうしてレオスさんと腕を組めるのは嬉しいですし、先程のレオスさん、格好良かったですし………」
と、実に嬉しいことを言ってくれるわけさ。
いつも仕事の関係で怪我をすると碌な目に遭わねぇもんだったが、たまには悪くねぇかもなぁ。役得ってのはこういうもんを言うこった。
まぁ、それを見た顎の野郎が僕も僕もってはしゃいで組み付こうとするのは勘弁だったがね。お前さんの後ろで嫉妬に燃える朱雀院の当主様がおっかねぇんでなぁ。
そしてそんな濃い時間を過ごした後は旅館へとお帰りだ。
その際顎の野郎が騒がしかったがわけだよ。
「えぇ~、だったらウチの旅館に泊まれば良いじゃないですか~! 僕、若女将としてサービスしますよ。も、勿論レオスさんのは『夜のサービス』も……」
野郎に襲われて貞操を奪われる気はサラサラねぇ。そんな提案は真っ先に蹴っ飛ばして奴さんをもう一人の保護者になしつけた。
大好きな顎に無礼だって文句を言いつつも、だったらお前さんが泊まりに行けよと言ってやったらあの姐さんは満更じゃねぇって感じで聞き入れたよ。素直じゃないねぇ。
そんなわけでやっとクソ面倒な厄介者二人と別れたわけで、この後はお嬢様やイチカ達と一緒に旅館で旅行を楽しむ………なんて年相応な事をオレがするわけがなく、帰って早々オレとお嬢様はチフユから呼び出しを喰らったわけだ。
「帰って早々コレとは、流石に気が利かねぇんじゃねぇか、チフユ。労いの言葉とコーヒーの一杯でも出すのがマナーじゃねぇかな」
「ここは喫茶店ではないし、本来ならそのまま報告させるはずだったのを気を利かせてオルコットとのデートを続行させてやったのだからこれ以上の労いは必要あるまい」
呼び出された部屋に入るなり、いきなりこの会話だ。仮にもオレは今日の騒動解決の立役者なんだぜ。少しばかり労って貰ってもバチは当たらねぇと思うがね。
そんなやり取りを聞いたお嬢様はオレの隣で顔を真っ赤にしつつ俯いてた。小声でデート。デートと呟く辺り、中々に可愛いもんだがね。
室内自体は普通の客間だが、通信用のディスプレイと機材が設置されてて、チフユのマヤ、そして会長の三人のお出迎えだ。この役者が出てるあたり、用件も何ももう分かるモンさ。逆にわからねぇってのがいるんなら、そいつの頭の中は実に平和なお花畑が広がっているに違いねぇ。
オレはお嬢様にエスコートされるように近くにあった日本式のクッション……そうそう、座布団とやらにどっかりと座り胡座をかいた。お嬢様はそんなオレの隣に自分でも座布団を敷いて体育座りって奴をしてる。正座が苦手なんだとさ。
そんなわけで座ったオレ達を見たチフユは会長とマヤ、そしてモニター越しにいつも浮かべてる笑顔の爺さんに目を向けて軽く頷いた。
「では、今回の作戦における報告会議を始める」
チフユの言葉で始まったのは、本当の目的だった作戦のその後って奴だ。
オレの御蔭で此方の被害は零で済んだわけだが、潰した身としてはちゃんと報告しろって事らしい。
オレはチフユに睨まれつつ、爺さんに向かって今回の事を軽く報告する。
「何、そう難しい話でもねぇさ。そっちの狙い通りに奴さん達がハシャぎながら遊びに来て、おっかない連中におしおきされた。事はそういう話さ」
そう言うと爺さんはそうですかって軽く頷くが、納得いかねぇって感じでチフユから怒られちまった。
「ハーケン、ちゃんと報告は行え! それに轡木さんにちゃんと敬語を使え」
「そういうなよ、チフユ。もう爺さんとのやり取りは飽きるくらいしてるんだ。これで充分通じる。だろ、爺さん」
『えぇ、大体はわかりました。ご苦労様です』
爺さんの言葉で軽く静かになるチフユ。幾ら世界最強と名高いブリュンヒルデでも上には弱いらしい。オレも上司には頭が上がらねぇからわからなくもないがね。
そう思ってると会長が爺さんに改めて報告をした。
「轡木さん、改めて報告させてもらいます。今回の下見の任務の際、亡国機業側から此方に襲撃を仕掛けてきました。その際に此方の裏切り者も発覚し、亡国機業側へと。亡国機業側のコードネーム、スコール・ミューゼル、そしてこちら側のダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアが裏切り彼女の元に着きました。そして三人はこちらを襲撃し、こちら側は現地協力者とその……協力してもらって無事、三人を捕らえることに成功しました」
最初はそれなりだったが、流石に後半は歯切れが悪いようだねぇ。流石に自分達が何もしてねぇってのが会長には座りが悪いようだ。
それはチフユ達も同じらしい。そんな周りに対し、オレは爺さんに補足を入れる。
「爺さん、要は前に説明した通りだよ。日本でも有数のおっかない連中の逆鱗に触れたお馬鹿三人の内の二人はそいつ等にお仕置きされて、んであの金髪の姉ちゃんはオレが相手することになった。向こうのサボりにこっちまで付き合わされて良い迷惑だったよ。先輩方はご自慢のISをぶっ壊されて、んであの姉ちゃんはオレが潰した。もうそっちには着いてるだろ」
『えぇ、三人は此方に届いてます。この後聞かなければならないことが多いですから』
一々堅苦しく言う必要はねぇ。要はちゃんと現状を把握してるかどうかってことが重要なんだからよぉ。
『しかし、流石は噂に名高い京都四刃ですね。まさかIS相手に生身で圧倒してしまうのですから』
「だからおっかねぇんだよ、連中は。その気になれば星条旗の連中だって壊滅させられるんじゃねぇのかってくらいヤバイんだからよ。だから言っただろ……今回こっちから出張る必要なんてねぇってさ」
『そうですか。でも、そう言う貴方も大概ですけどね。その右腕、聞きましたよ。素手で相手の操縦者をIS越しに行動不能にしたらしいですね。流石は最強の傭兵ですか』
「ケッ、褒められても嬉しくねぇよ。そう言うんだったら報酬に色付けるか酒の一杯でも奢って貰いたいもんだ」
もっとも、爺さんは初めから知っていただろうに、随分と面倒な真似をしてくれるよ。
それでチフユ達はその後のお話やらをするわけだが、そこで少しアドバイスをしておかねぇとなぁ。
「あぁ、そうそう。あの姉ちゃんが言っていたんだが、どうやら奴さんはオレに熱烈なアタックを掛けるために頑張ってラブレターを書いてきたらしいんだよ。そのラブレターを書くに当たって手伝ったのがタバネだとさ。どうやらオレはあのアリスのお怒りを買ったらしいぜ。大方可愛い可愛いフロイラインの両膝に風穴開けたのが気に喰わないってオチだろうさ」
「束の奴がか…………」
「まさか博士が亡国機業に協力するなんて」
それを聞いてチフユとマヤは複雑そうな顔をし、会長も何か考えることがあるらしい。そんな難しいことでもねぇんだがねぇ。
そう思っていると、爺さんがオレに話を振ってきた。
『では、君はこの後どうなると思いますか?』
この後ってのは今後の展開ってことだろ。オレの予想ねぇ~……ハートフルかつ大胆なラブストーリーっていうんだったら笑えるが、そんな甘いもんには絶対にならねぇだろうさ。
「奴さんの言い分だと、奴の所のチキータはこの間の一悶着でおねんねらしい。だから考えられるとすれば、タバネはあのチキータが起き次第こっちに乗り込んでくるんじゃねぇか?『娘の敵~』とか言いそうだしなぁ」
それを聞いて想像したらしく、チフユは実に頭が痛そうな面をした。あの兎ならやりかねねぇってなぁ。
そこからは今後の話としてそれを踏まえての話し合いだ。正直暇で仕方なかったがね。
そして話し合いも終わり、各自別れる。
チフユはマヤと一緒に飲むらしく、夜の京都の町へと繰り出していく。大人の特権だとさ。オレも行きたい所だが、未成年禁止ってこの御国ではそうも行かないってのが歯がゆいねぇ。
会長はイチカにアタックかけにいくんだと。そのことをお嬢様から突っ込まれた会長は顔を真っ赤にして凄い勢いで否定するが、動揺しすぎて丸わかりだ。お嬢様と一緒に微笑ましいもんを見たって笑ってると、そりゃもう真っ赤になって小さくなる辺り、まだまだ会長も弄くり概があって可愛いもんだねぇ。
んで、オレなんだが…………お嬢様と別れて風呂に入ることにした。
せっかくの温泉があるんだ。周りに気を付けなきゃならねぇが、それさえすれば入ったっていいだろ。
そう思いながら風呂に入る準備をして行き露天風呂に。湯加減は少し温いが悪くはねぇよ。風情を楽しむのもたまにはいいだろうさ。ここに酒があるんなら尚良しだが、無い物ねだりはしても仕方ねぇ。
それにせっかくの風呂だが、右腕は袋を被せて濡れないようにしてるせいで不便なんだよなぁ。現に漬かれてないしよぉ。自業自得とはいえ面倒なことだ。
そう思ってると後ろから扉が開く音がした。気配はしてたから多分、他の客だろうさ。
その客は此方に向かって真っ直ぐ向かってくるが、流石にそいつはなぁ。
「おいおい、まずは風呂に入る前に身体を洗うのが日本のマナーってやつだぜ。お宅、もしかして海外からの口かい?」
同じ外国のもんとしてはそういうことを教えてやるもの大切だ。マナーってのは皆が不快にならないようにあるもんだからなぁ。ルールとは少し違うのさ。
そう言いながら振り向いたんだが、そこから先の言葉は出なくなっちまった。何せ………。
「そ、その…………お背中を流しに…………」
身体にタオルを巻いただけの、実に扇情的な姿をしたお嬢様が真っ赤な顔で立ってたんだからよ。