恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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やっと動いて貰えましたよ、亡国さん。


百四十四話 やっと連中は動いたようで安心だ。それまでの流れはオレらしくねぇんでなぁ

 店で姦しく騒がしいのを待つこと約10分。お嬢様達が戻って来た。

 

「どうですか、レオスさん!」

 

頬を赤らめ軽くしなを作って艶やかな雰囲気を纏わせる大和撫子。それはぱっと見なら皆が興奮する美人ってやつだろうさ。だが、オレはそれをジト目で睨みながらこう言ってやる。

 

「どうもくそもねぇだろ、女装野郎。正直見てて怖気が立っちまうよ」

「むぅ~、ひっど~い! あ、でも、怖気立つくらい綺麗ってことですよね」

 

なんとまぁポジティブな精神だことで。そんなことは一言も言ってねぇのにこの対応。奴さんには何を言ってもきっとお花畑にしかならねぇんだろうさ。その幸せなお脳には感心させられるよ。

その後も何か言ってる奴さんの言葉を聞き流していると、今度は聞き覚えのある声がかけられた。

 

「お待たせしました、レオスさん。その………どうでしょうか……」

 

それは良く知ってる声だ。

だから普通に振り返ってその姿を褒めてやろうと思ったんだがねぇ………。

まさかオレがこんな感情を抱くなんて思わなかったよ。

 

「っ…………」

 

お嬢様を見てオレは言葉が出なかったのさ。

何せそこに居たのは、いつものお嬢様とは違っていたから。

綺麗な金髪を結い上げ、いつもは見えねぇうなじが艶気を放つ。着ているのは藍色に椿姫の意匠が拵えてある着物だ。そしてお嬢様も着物に合わせて薄化粧してるんだが、それがいつも以上に『綺麗』だと感じさせた。

いつものお嬢様が綺麗じゃねぇとは言わねぇが、今回のそれはまったく違う。まるで美術品のような品のある美しさって奴を実感したね。

 

「レオスさん……?」

 

おっといけねぇ。あまりに綺麗すぎたもんだから見入っちまった。

お嬢様は返事が返ってこなかったってんで少し泣きそうな感じで不安そうだ。そんなお嬢様にオレは少し焦りつつ、思った事を伝える。

 

「あぁ、すまねぇ。お嬢様があまりにも綺麗だったから驚いちまった」

「そ、それって……」

 

お嬢様がオレの反応に顔を赤くしていく。

そんなお嬢様を見ていたいと思っちまったよ。

 

「凄く似合ってるぜ、お嬢様。ミロのヴィーナスなんぞよりもオレには女神に映ったよ」

「っ!? そ、そうですの! それはその………嬉しいですわぁ……(レオスさんったら、言い過ぎですわ! でも、そこまで褒めて貰えるなんて………キャ~~~~~~~~~~~!!)」

 

お嬢様はやっと聞けた感想に満足なようだ。顔を真っ赤にしながら瞳を潤ませて見つめる姿はかなりクルもんがある。

お嬢様は実に嬉しそうにオレの側に寄ってきた。

それを見て不満そうに頬を膨らませる奴が一名。

 

「むぅ~、何でセシリアちゃんの時はそんなに褒めて僕の時はこんな扱いなんですか! 確かに僕もセシリアちゃんが凄く似合ってることには驚きましたけど~」

 

顎の野郎は不満だって感じにプリプリと怒ってきたが、そいつに対してオレはジト目で返してやる。

 

「そりゃ当たり前だろ、誰だって本物と偽物を見比べればそうなるもんさ。幾ら偽物が本物に近かろうとなぁ。それにお前さんのは正直見飽きてるんだ、お嬢様は滅多に見ることが出来ねぇんだからそうなるのは当たり前だよ」

「むぅ~、レオスさんのためにお化粧し直したのに~」

 

むくれる奴さんを尻目にしてると、それに怒る奴も居るわけだ。

 

「貴様、顎様に何とご無礼なことを! この艶姿を前に美しさを感じないとは……それでも人間か!」

 

焔の姉ちゃんが激怒の表情で詰め寄ってきた。このショタコンはどうにも奴さんのことになると見境ってもんがねぇんで困りもんだ。もう少し大人としての思慮ってもんを持って欲しい。

これでただ返してもキレるだけだろうさ。そいつじゃ面白くねぇ。

だから少しアドバイスをしてやるとするか。

オレは奴さんとお嬢様に聞こえない様に姉ちゃんに囁く。

 

「お前さん、よ~く考えてみな。いつも和服ばかりの奴さんじゃぁ新鮮味にかけるだろ。そうだな……たまには洋服でも着せてみたらどうだ。白いブラウスに青のチェック柄のプリーツスカートに黒のニーソックスとかなぁ。まさにアイドルみてぇだろ?」

 

それを聞けば、このお脳が万年春爛漫の姉ちゃんは絶対にそれを思い浮かべる。因みにこの言った服装ってのは、日本でよくアイドルなんかがしてる恰好だ。待ってる間に店に張られてるポスターが目に入ったものでね。

さぁ、その成果は…………

 

「顎様の洋服姿………短いスカートから伸びる御御足にニーソックス……髪はそのままでも良いし、ポニーテールやサイドテールなんかも……そんな押し倒したい姿をされたら。その短いスカートの先にあるものを想像したら………あぁん!」

 

あぁ、いけねぇなぁ。どうやら姉ちゃん、妄想が酷すぎてイっちまったらしい。

その場でしゃがみ込んじまった。しかも顔は赤いし目は潤んでるし、息が荒い。それで奴さんを食い入るかのように見て鼻血出し始めてるよ。

しかも良く娼館とかで香ってくるような匂いがしてくいるあたり、こりゃガチだな。

 

「あぁ、どうしよう。お腹がキュンキュンとしてしまう……お客様がいるのに、顎様がいるのに、イジりたい……下着から溢れて止まらない………」

 

無視しよう、無視。オレは別に悪くねぇだろ、勝手に発情した姉ちゃんが悪い。

そんな変態は放置して、オレはお嬢様に手を差し出す。

 

「んじゃお色直しも充分な事だし観光の続きといこうか、お嬢様。エスコートするぜ」

 

その差し出された手にお嬢様はそっと手を乗せ、潤んだ瞳で微笑んだ。

 

「はい、よろしくお願いしますわ」

 

んじゃ、いつもとは違った魅力に溢れたお姫様の旅のお供をしようかねぇ。

 

「あ、セシリアちゃんずるいです! レオスさん、僕もお願いします!」

 

あぁ、『王子様』も一緒だけどなぁ。

 

 

 

 それからは奴さんの案内の元、色々と神社仏閣を回ったよ。

お嬢様はそれらを見ては目を輝かせていた。曰く、

 

『文化を感じますわぁ~』

 

だとさ。

オレからしたら古くさいだけの建物も、お嬢様にはワクワクするテーマパークに早変わりだ。

お嬢様はきらびやかな着物を着て転ばないように歩きつつそうハシャぐ。

その様子は子供らしいんだが、見た目がかなり綺麗なもんだからそのギャップがオレの目を離させない。この下見には正直うんざりだったんだが、こんなもんが見られるんなら悪くはねぇなぁ。

まぁ、オレにしがみついてくる女装野郎と変態がお供じゃなかったんなら更に文句はないがね。

そして小休止がてらに奴さんお勧めの甘味処とやらに向かうことになった。

奴さんに引っ張られながら歩くこと数分、木造の如何にもな店についたよ。

その店の扉を潜るなり、奴さんは元気よく店の人間に声をかけた。

 

「おじさ~ん、来たよ~!」

 

そこから聞こえたのは妙に畏まった感じの返事だ。どうやら古い付き合いの店らしい。所謂御用達って奴だな。んでもって畏まってるあたり、つまり奴さんの身分を知ってる人間の店ってことが窺える。

それで少し待ってから店内にご案内、それで奴さんお勧めの甘味とかいうクソオヤジが実に好みそうなもんが目の前に出てきた。

 

「これがこのお店で一番美味しいあんみつですよ! レオスさん、食べさせてね」

「冗談抜かすな、このカマ野郎。口を開けたらそこに黒光りするぶっといもんをぶち込んでやる」

「いやん、レオスさんたらエッチ! でも、それはそれで良いかもしれませんね。出来ればそのまま喉の奥まで……」

 

夢の国に旅立ってる奴さんを無視してオレは姉ちゃんに話を振る。

 

「奴さんが旅行中だから付き合ってやれよ。オレは付き合いきれねぇ」

 

姉ちゃんにそう言って押しつけると、オレは店を出ようとする。

何でかって? 生憎オレはそこまで甘いもんが好きじゃねぇんだよ。ここのもん喰うくらいなら奈良の鹿でも狩った方がマシだ。美味いんだぜ、鹿はよ。

そう思ってたら今度はお嬢様がおねだりしたそうな面であんみつをオレに差しだしてきやがった。

 

「あ、あの……私も、その……食べさせてくださいまし………」

 

顔を真っ赤にしてそう言うお嬢様。恥ずかしいらしいが、だったらするなって突っ込みは野暮だろうさ。

それにお嬢様のお願いを聞かないってのは男として駄目だからな。イイ女の願いに応えるのも男の勤めってなぁ。

オレはそのままあんみつとやらの入ってるスプーンをとって軽く掬うと、お嬢様に差しだした。

 

「ほれ、お嬢様。少し艶っぽく喰ってくれるとお兄さんは嬉しいぜ」

 

そう言われお嬢様は顔を一気に真っ赤にした。

そして何か言いつつも、『まるで何かを咥えるような感じ』で口を躊躇いがちに開け、スプーンの先を頬ばった。

その様子は男なら悶絶もんだろうなぁ、見ててクルもんがあったよ。眼福だねぇ。

 

「お、美味しいです……………」

 

そのまま小鳥みてぇに強請ってくるお嬢様に餌を与えるようにあんみつを食わせて店を出た。

それから少し歩くと、見覚えのある連中とはちあった。

 

「よぉ、イチカ。そっちは楽しんでるかい?」

「あぁ、レオス、やっぱり観光はいいもんだな」

 

イチカとそのハーレム共と合流したようだ。それからイチカは実にガキらしくハシャいでそれまで回ってきた所について話し始めた。そのせいで奴さんの周りの連中からの視線が痛いもんだよ。

一頻り話して少しは満足したらしく落ち着き始めたイチカはやっとオレとお嬢様以外の奴等に気付いた。

 

「あれ、そう言えばこの人達は?」

 

それに対し焔の姉ちゃんはイチカをギロっと睨み付け、顎はニコニコと笑う。

その視線に何か感じたのか身体を震わせたイチカだが、顎の笑みを見て少し見惚れたのか顔を赤くしてた。おいおい、嫌だぜ、身近にその気がある奴がいるってのは。

だからお嬢様がそんな二人の代わりに紹介した。

 

「この綺麗な大和撫子は青龍院 顎さん、其方の格好いい女性が朱雀院 焔さんですわ。二人ともレオスさんのお友達です」

 

その紹介を受けて否定しようと思ったが、先に奴さんが前に出た。嫌な予感しかしねぇのはもう当たり前にわかるよなぁ。

 

「はい、僕が青龍院 顎です。みんな『アーちゃん』って呼んでるから、そう呼んでくれると嬉しいです。それと、レオスさんとはお友達じゃなくて、その……大好きな人です……」

 

恋する乙女の面でそう言いやがった。

御蔭でイチカの周りの奴等は騒ぐわ、会長からニヤニヤ笑われるわ、焔の姉ちゃんには睨まれるわ、お嬢様がぐぬぬ~って感じな面でオレの腕にしがみついてくるわ。

これにはイチカの野郎も驚いたらしいが、それでも否定させてもらうぜ。

 

「生憎野郎の穴を掘る気は毛頭ねぇよ。言っておくが、コイツはちゃんとブツを下げてる男だ」

「そんな、ブツだなんて……でも、レオスさんのだったら喜んで捧げますよ。処…」

 

無視無視。此処に来て随分とスルースキルが磨かれたもんだ。

そう言うと、それまで聞いていた奴等は信じられねぇって面をしたが、お嬢様が胸を触った件を皆に言うとマジかよって驚きまくってた。

此処に来てからそんな事が無かったから、皆のその面は実に痛快だった。どれくらい痛快かって言えば、漏れそうな奴が必死に堪えつつトイレに駆け込んだ後に出すもんだしてホッとした所で紙がねぇことに気づいた絶望並みに愉快だよ。

それで一頻り楽しんだ後、何故かイチカと会長の二人と一緒に回ることになった。

他の奴等は不服そうだったが、何でもそれまで二人一組でイチカの野郎と何度か楽しんでたんだとさ。

それで今度は会長のらしい。

さて、それで歩きながらたわいない世間話ってもんに華を咲かせるわけだ。会長の面は暗部である奴さん達の話を少しでも効きたいらしい。

そんな風に話してたら、いつの間にか人気が少ねぇところに来た。

あぁ、やっとか。随分と遅かったことにそう思う。どうやら『連中』も観光を楽しんでたらしい。

そう思いながら、オレは顎に声をかける。

 

「御仕事だぜ、四刃」

「そうみたいですね。せっかくレオスさんともっとイチャつきたかったのに」

 

その冗談をスルーして行くように言うと、顎の野郎はイチカに微笑んだ。

 

「織斑くん、そこで少し止まって♪」

「え?」

 

顎の笑みに顔を赤らめるイチカは疑問を感じながら歩みを止めた。

そしてイチカの目の前で………。

 

金属が砕け散る音と共に火花が散った。

 

「なっ!?」

 

その事実に驚くイチカと会長、それにお嬢様。

何せいきなり火花が散れば誰だって驚くらしいからなぁ。

それも一回じゃねぇ。イチカの心臓、脳天、といった部位を狙って何度かナニカが飛んで来た。

だが、そいつは全てイチカの前で弾け砕ける。

何せ…………。

 

「もう~、せっかくレオスさんとのデートを邪魔して~。誰ですか、こんな無粋な真似をする人は~」

 

青龍院 顎が着物に隠し持っていた『刀』で全て斬り払ったのだから。

抜刀速度は速すぎてオレでも辛うじて見えるくらいだ。きっとイチカ達には何をしてるのかわからねぇだろうよ。

そして動きが止まってやっと理解する。全ての狙撃を目の前の大和撫子(笑)が斬り捨てたってことに。

その驚愕の事実とやらに言葉を失うイチカと会長。

そんな中、顎は口元をつり上げ、ニヤリと暗い笑みを浮かべた。

 

「あぁ、無粋者、み~つけた」

 

きっとこの先にいるであろう奴は恐すぎてちびったんじゃねのかねぇ。そう思うとオレはそいつが可哀想でしかたねぇよ。

何せ…………。

 

『刀』一本で軍隊相手に鏖殺する狂龍に目を付けられたんだからなぁ。


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