恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

143 / 180
まだまだ長いです………。


百四十三話 四聖獣

 店から飛び出して実にユニークなアタックを奴さんにかけまくった朱雀院 焔を見ながら嘆息するオレ。おかしいねぇ……確か京都ってのは雅で温厚な人間が多いって話だが、オレの目の前には世界クラスに弾けてるお脳のイカれた変態共だ。オレの知り合いが全員そんな感じで類はなんちゃらなんだろうか? それとも世界は認識を間違えていて京都は変人変態の巣窟なのか?…………実に認めたくねぇが、きっと前者なんだろうさ。オレの知り合いにまともな奴がいねぇからなぁ。あぁ、たまにはそんな奴と知り合いてぇなぁ。まぁ、それはそれでつまらねぇと思うけどさ。

さて、そんなわけで現在顎の野郎を鼻息荒くしながら見つつもオレを実におっかない目で睨むっていう器用な真似をしてる姉ちゃんについて、その名を聞いて不思議そうに首を傾げるお嬢様に答えなきゃなぁ。

だがまぁ、ここにはもっと適任な奴が居るんだし、そいつに説明させた方が早い。

 

「おい、お前さん、お嬢様に説明してくれよ。こっちのことは余所者のオレよりそっちの方が知ってるだろ」

「貴様、顎様に何と無礼な口を!」

 

奴さんのそう言ったんだが、先に目の前の変態が反応してきやがった。まぁ、変態つっても軽い方だろうよ。オレの知る限り、機械にしか欲情しない人間失格な奴や、ネクロフィリア(屍体性愛)やカニバリスト(食人嗜好)に比べればまだいいだろ。それらに比べればペドフィリアやロリータコンプレックスなんてのは、まだマシだ。その点、この姉ちゃんはまだ年齢的に考えても普通だし、普通の変態で済む。

だから普通に話しかけることが出来るわけだが、だからってこうも目の仇にされてるのはどうにもねぇ。大方恋敵とでも思ってんだろうよ。それはこっちから御免被りたい。オレはノーマルなんでね。

そのまま睨み付けてきた姉ちゃんに対し、何かからかってやろうかと思ってたんだが、その前に奴さんは実に嬉しそうな笑みを浮かべて答えてきたよ。

 

「焔ちゃん、レオスさんと喧嘩しちゃメ、だよ」

「はうッ!? ふぁ~~~(可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い………)」

 

その一撃で姉ちゃんと墜とす奴さん。惚れた弱みの何とやらってやつだが、効果は覿面だねぇ。まさに一撃必殺ってか(笑)

そして奴さんはオレ等の前に来ると、お嬢様にわかりやすく説明を始めた。

 

「セシリアちゃん、この人は焔ちゃん。朱雀院 焔って言ってね、僕のお友達なんだ。歳は焔ちゃんの方が上だから、どっちかって言うと、お姉さんって感じでね、昔からずっと遊んで貰ってたの」

「幼馴染みですの?」

「うん、そんな感じ!」

 

それを聞いてどことなく親しそうな感じになる雰囲気が出るわけだが、オレが言いたいことはそう言うことじゃねぇ。

 

「それよりもお前さん達の公的な身分ってもんを話してくれよ。正直、お前さんとこの姉ちゃんがmake Loveしてようがナニしてようがかまわねぇが、それだと話が進まねぇ」

「な、ナニ!? うっ……………」

 

オレの言葉に反応する姉ちゃん。顔を真っ赤にしながら鼻を押さえるが、指の隙間から血が垂れる垂れる。ある意味お嬢様より弄り概はありそうだ。

それを聞いてお嬢様も顔を真っ赤にすると、オレに怒ってきた。

 

「れ、レオスさん、こんな所で何を仰ってますの!? そ、そういうプライベートなことは言わないのがマナーというものですわ!」

 

常識なのはわかってんだが、それを聞いて真っ赤な顔で二人をちらちらと見るお嬢様も案外興味心身だ。その言葉に奴さんは顔を赤らめつつ潤んだ瞳でオレ見つめてきた。

 

「僕はまだ処女ですよ。勿論それを捧げるのはレオスさんだけ」

「いいから早くしな。でないとこの後から一切お前さんを無視して話を進めてやる」

「むぅ~、レオスさんのイケズ」

 

むくれる奴さんだが無視だ。相手にするだけこういう奴はつけ上がる。

そして奴さんは仕方ないなぁって感じにお嬢様に話し始めた。

 

「えぇっとね、まずどこから話せばいいでしょう? そうだ、まずは成り立ちからですね。まず、僕の名字『青龍院』って名字だけど、コレに何か覚えはありますか?」

「いえ、すみません」

 

お嬢様はそう謝るが、仕方ないと思うがねぇ。外国の人間がそんな古いもん知ってるなんて早々ねぇだろ。

それが分かった上で奴さんは語る。

 

「僕の名字に入っている『青龍』、これは四聖獣を意味しています。四聖獣とは中国の神話、天の四方の方角を司る霊獣で日本も昔からそれに因んでるんです。東西南北を守護するものとして。そして当時の帝が自分の御所、そして都を守る為に作り出した直衛部隊、その名も『四刃』。その四つの刃に付けられた名が四聖獣の名です。だから僕はその部隊の一族の一つの出で、青龍の名を冠する家の者と言うことなんですよ」

 

それを聞いて少しは分かるがそれ以上は少しわからねぇと言った感じのお嬢様。

何で仕方なくオレから補足の入れてやることにするかねぇ。

 

「お嬢様、要は昔からこの国の王様んところで働いてる一族って奴だ。その部隊とやらは四つに別れてて、それらに四聖獣の名が付けられてる。青龍、白虎、朱雀、玄武ってなぁ。んで、そこの女装野郎はその青龍の一族の御当主様ってわけさ」

「そ、そんな凄い人でしたの!?」

「そんな偉くもないですよ。だって古いだけが取り柄だし」

 

お嬢様はそのことに驚くが、奴さんはまったく気にしてねぇ。実際にそう言われれば、精々凄く古いだけのお家だろうさ。

だが、それだけじゃないことをさっきまで鼻血を垂れて妄想に耽りまくってた奴が話し始めた。

 

「そして四刃は同時に日本を外敵から守る刃にもなりました。京の都が今現在も周りから浸食されることなく残っているのは、我等が守護しているからです。帝の命は『自分の代からこの先ずっと続くまで、帝の全てと都を守ること』、すなわち帝に仇なす存在は全て消す、そういう意味での古来から続く暗部なのです」

「だからレオスさんが言っていたんですのね」

 

やっとわかったようで納得がいった感じのお嬢様。

そんなお嬢様に姉ちゃんは改めて自己紹介を始めた。

 

「私の名は『朱雀院 焔』。顎様と同じ四刃の一族が一つ、『朱雀院』家の当主です。我等は歴史の影で常にこの国の帝と都を守り続けてきました。時には攻め入ってきた外国の者達を皆殺しにしても。そういった意味で暗部ですが、表向きは様々です。私は一族経営で呉服店を営んでますし、他の方々も同じようにしています」

「因みに僕の家は旅館ですよ。僕、若女将なんです」

 

ニコニコ笑いながらそう言う奴さんは無視だ。男が女将とか、もう色々とアレだろうさ。

それらの説明にお嬢様は感心した様子だが、オレは少し気になることがあって姉ちゃんに聞いてみることにした。

 

「なぁ、『白虎』と『玄武』はどうしてるんだ? このまま行ったら全員大集合ってことになって変人変態のパレードが始まっちまうか心配になってきた」

「ふん、またも失礼な口を。まあぁ良い。白虎院の方は現在運送業が大変らしい。玄武院のご老公は自宅でのんびりしているはずだ。街では出くわさない」

「そいつは結構だ」

 

それを聞いてやっと少し安心したよ。出来れば全員集合は避けてぇ。ありゃ一個師団じゃすまねぇくらい危険だからなぁ。

そう思ってると、いつの間にかお嬢様達が向こうに行ってた。

 

「セシリアさん、一緒に着物選びましょう! あ、焔ちゃんもこの後一緒に行こう!」

「は、はいですわ!」

「是非に! 何、仕事? そんなもの、顎様とのお出かけに比べればゴミ屑以下よ。帰ったら終わらせるわ!」

 

実に賑やかなようだ。

オレは一人になったところで電子タバコを軽く吸い、上気を吐き出した。

 

「ふぅ~………やっと静かになったねぇ。この先を思うと本当に疲れてしょうがねぇよ」

 

そう思ったら、何故か従業員から茶を貰った。

どうやら苦労してるのはオレだけじゃねぇとさ。変態変人に振り回されるのは本当に大変だ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。