恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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百三十九話 日本の古都は色々とあるってことだ。

 薄暗く静かで時間が止まったような空間、その中で敷き詰められたように設置してある機械の中、彼女は我を忘れるかのように憤っていた。

 

「もう~~~~~~、何なんだよ、あのゴミ虫!! 私の大切なクゥちゃんを傷付けて~~~~~~!!」

 

彼女の名前は篠ノ之 束。ISを生み出した稀代の大天災にして、先日レオスによって捕まったクロエ・クロニクルの母的存在。

そんな彼女は辺りにあった物を適当に掴んでは八つ当たり気味に彼方此方に投げつけて破壊する。そのせいなのか、この部屋の床は機械の残骸で溢れかえっていた。

彼女からして今回の件は許せたような物ではなかった。

クロエが失敗したのは仕方ない。千冬相手ならそういうこともあり得る。

だが、そうではない。彼女を捕まえる切っ掛けとなったのは寄りにも拠って以前自分を地面に縛り付けたいけ好かない傭兵風情。その上大事なクロエの両膝を撃ち抜くというあまりにも暴挙をしているのだ。

大切な存在を重要視する彼女にとってこの事実は到底許せたものではない。

 

「何なんだよ、あのゴミ虫はさ! ただのゴミの分際で、悉く私の邪魔ばかり! ちーちゃんでもいっくんでもほうきちゃんでもなく、何であのゴミ虫が~~~! しかも未だに何でISを使えるのか分からないし、度しがたいくらいむかつく~~~~~!」

 

世界も恐れ戦く篠ノ之 束。なれど、それでも彼女の力が及ばないところがある。

それがどうにも苛立ちに拍車をかける。自分こそ絶対であるとする彼女にはそれが許せないのだ。出来れば自分の手で八つ裂きにしてやりたい。

しかし………それを出来るというイメージが湧かないのだ。

あの時……臨海学校で初めて会ったとき、手を抜いていたとはいえ彼女はレオスに地面に縛り付けられた。細胞単位でオーバースペックである自分がだ。

そして彼女なりにレオスを調べれば、出て来るのは嘘か本当かわからないものばかり。

曰く、彼が所属しているPMCはそれこそ自分以上に世界に怖れられている。

曰く、彼等が戦闘を行った場所は何もかもが死に絶える。

曰く、その中でもトップの者達は皆人外だ。この世の森羅万象を全て見通す男、戦場に於いて拳一つで全てを殲滅する巨人、嵐の如き暴威を持ってしてその場を全て薙ぎ払う青年。それ以外にもこの組織は皆人ではないという噂。

そして……世の中は案外そんな者達で溢れている。

それは彼女にとって馬鹿らしくも、どうにも無視出来ないことであった。

たかがただの人間如きがと思うが、それでも戦場で撮られた映像記録を見ると彼女でも驚いてしまった。

まるで米国の映画のように素手で戦車を殴り飛ばす巨人がいて、その巨人は戦場を堂々と闊歩していく。飛んで来た砲弾でさえ掴み取って野球よろしくに戦車に向かって投げつけ、戦車が吹き飛んだ。戦闘ヘリが次々と墜とされていき、その先には一人の青年がスナイパーライフルを構えていた。対戦車ライフルでもなんでもない、普通の狙撃用ライフルをだ。それを用いて戦闘ヘリの火器を的確に撃ち抜き暴発させて撃ち落としていく様はまさに神業。

それを事務作業のように熟していくのは寒気すら見ていて起こさせた。

 

「………何コレ?」

 

それが束の感想。

どう見たって作り物染みた映像。しかし、合成などの跡は一切無い。

つまり現実。それはあまりにも馬鹿げていた。

信じられない。でも、もし本当ならそれはもう人ではないとさえ思う。そんな者達に件の男もいるというのだから、これ程ではないにしても何かしらやるかも知れない。

だからこそ、許せない。自分こそ最高であるはずなのに、そうではないのかもしれないということが。

だからこそ、業を煮やすが、手をあぐねいていた。まずはレオスを『処理』し、今度は映像の男達をと思う。

そんなわけだが、まずは詳細な情報が必要だ。負けるとは思えないが、無人機では勝てそうな気がしない。ISは人が乗り込んだ方が強いのだから。

そこでどうするか考えていた所、彼女宛にメールが届いた。

 

「あれ、私のセキュリティーを突破してメールを送ってくるなんて……結構やるじゃん。ダミーのだけどね」

 

そう言いつつ中のメールを確認する。

そして彼女はニヤリと笑った。それは今の彼女にとって『丁度良い』から。

 

「本当ならやる気なんてサラサラないけど、丁度良いしまぁいいか……亡国機業、スコールとやらのIS改修!」

 

彼女の思惑と彼の組織の思惑は一致したようだ。

 

 

 

 現在、オレは酷い頭痛を堪えながら珍しく真面目に説得を行っていた。

いいか、オレが『真面目』にだ。その様子にお嬢様も珍しく興味深そうな目を向けるくらいに、真面目にだ。

事の発端から話させてもらおうか。事はこの学園で行う行事の一つである修学旅行が原因だ。何でも、日本の学校ってのは三年の内に必ずそういう行事があるんだそうだ。普通は二年生の時らしいんだが、この学園では一年なんだとさ。二年に上がるとより授業が難しくなっていくから、遊んでいられる一年の内に、ってことらしい。別にそいつは良い。オレだって旅行ってのはあまりしたことがないから面白そうだと思う。仕事じゃないってのがミソだな。

だがだ……その行き先を聞けばそんな暢気なことは言ってられない。

 

「きょ、京都だって!?」

 

そう、日本の古都『京都』だっていうんだからなぁ。

観光地として有名なのは知ってるよ。大概の海外の旅行者がまず行ってみたい場所だってこともなぁ。

 

だがなぁ………あそこはそれだけじゃないんだよ。

 

それを知っているからこそ、オレは顔を顰めているわけだ。

あそこには『知り合い』がいるんだが、出来れば会いたくねぇ。

でもまぁ、遊びに行くだけならここまで頭を痛めねぇよ。それがだ、寄りにも拠ってこの目の前にいる無知な生徒会長と無知な担任様は一番やっちゃ不味いことを言い出しやがったさ。

 

「今回、専用機持ちには安全確保のために修学旅行先である京都の下見をしてもらおうとおもうけど、それはあくまでも仮の任務。本当の目的は『亡国機業の掃討作戦』よ」

 

その言葉はオレにとってあまりにも馬鹿らしい言葉だった。

何でも、京都に潜入するらしい亡国機業の実働部隊トップを捕まえるんだと。それは確かに重要なのは分かるが、それでも『あの場所』ってのは問題だ。

仮にも暗部なんだから、会長が知ってないわけないと思うんだがねぇ……この様子じゃまったく知らねぇようだ。先代楯無とやらは仕事しなさすぎだろ。

 

この日本に於いて『一番安全な町』で暴れることがどういうことなのかってことをよぉ。

 

しかもチフユも気にしてねぇらしい。こっちは知らなくて当たり前な気もするからいいが、それでも少しは知って貰いたいもんだ。

当然そんなことを言い出した会長にオレは即座に異議申し立てをした。

 

「悪いが会長、そいつは無しだ」

 

その言葉にノリ気だった会長が少し気に喰わねぇって面で睨んできた。その上チフユもオレをジト目で睨んで来やがった。信用できねぇって感じだが、それでもこれは『絶対に』言わなきゃならねぇ。そう、それこそオレと周りの皆が『安全』でいるためにはだ。

 

「どういうことよ?」

「どうもこうもそのまんまだ。いいか、会長さん……『あの街に害をなす』真似は絶対に止めろ。間違えてもISを振り回すなんてもってのほかだ」

 

オレの言葉に当然会長は喰って掛かったよ。

絶好の機会に何でするな、なんて言われるんだと。それに対し、オレは会長を試すようにとあるワードを言ってみる。少しでもコレに気付けば理由は分かるもんなんだがね………。

 

「京都、四聖獣、4振りの刃」

「何それ?」

 

駄目だ、やっぱり分かってねぇ。本当に暗部なのか疑いたくなってきたぜ。

それでもチフユは気になったらしい。流石は担任、生徒の言葉に耳を貸してくれるらしい。

 

「何だ、その言葉は?」

「チフユは知らなくて当然だがね、あの街にも暗部がいんだよ。それこそ、会長の家よりももっと古い奴がなぁ」

「何、そんな家があるなんて、私聞いてないんだけど!? 日本政府からはそんな話……」

 

それを聞いて会長は知らないと驚いてるようだが、だから何なんだと言った感じでもある。ISを用いたテロ組織の相手は同じISを持っている者が行うのが当たり前って感じだ。

別に間違えちゃいねぇんだがねぇ……あの場所だけはマジで勘弁なんだよ。

つっても、これを口で説明するのは難しい。それこそ、見たら今まで信じてきたものが全部吹っ飛ぶくらいに信じられねぇだろうからなぁ。

そんなわけで冷や汗を掻いているオレにお嬢様はどうしたのかと心配してくれた。

 

「大丈夫ですの、レオスさん?」

「あぁ、お嬢様、ありがとよ。取りあえずこの分からず屋を何とか説得しねぇと。『楽しい下見旅行』が『悲惨な斬殺事件』に早変わりしちまうからよ」

 

その言葉の意味までは分からないまでも、そこから漂う特有の気配を感じ取ってお嬢様は真剣な顔で会長に向き合った。

 

「楯無さん、レオスさんの話をちゃんと聞くべきですわ。この話、下手をすれば皆死ぬ可能性もありそうです」

 

それを聞いて怪訝そうな顔をするチフユと会長。

そんな二人にオレは教えてやったのさ。

 

世界でも有数の手を出したらヤバイ奴等のことをさ。

 

結果、掃討作戦は保留となり、取りあえず下見ってことになった。

その時のことにオレはこの学園に来て初めて安堵の溜息を吐いたよ。


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