前回に捕まえたあのお嬢ちゃん。そうそう、確か『クロエ・クロニクル』だったか? まぁ、お嬢ちゃんで充分だろ、実際ガキだしなぁ。
奴さんの身柄は今どうしてるかって言われれば、只今学園で絶賛バカンス中だ。
それというのも、今まで捕まえてきた間抜けと違いあのお嬢ちゃんは一応タバネの直々の知り合いだ。後から聞いたが、どうも奴さんのことをタバネは『娘』として扱ってるらしい。まだ男も知らねぇ奴に娘とはねぇ……何とまぁ馬鹿らしいもんさ。せめて一度くらいはちゃんとしてからそういう言葉は口にした方が良い。未婚ですらない未貫通なんだからなぁ。
え、何でそんなこと知ってるのかって? おいおい、これでも職業柄『そういった』店の連中を顔合わせる時だってあるのさ。良く言い寄られてもいたしなぁ。
そんなもんだから、そいつが『どうなのか』ってのは見て何となく分かる。その感から言えば、驚く事にこのクラスの奴等は全員『まだ』だ。
これも偏にISが招いた女尊男卑の影響かねぇ。いやはや。少子化問題が謳われてる昨今としては、嘆かわしい限りってか? え、オレだって『まだ』の癖に言うなって? そいつは悪かったなぁ。お生憎様、もう『予約』はしてるつもりなんでね。今更焦る気なんてねぇのさ。
おっといけねぇ。少しばかり脱線しちまったな。要は『男女間の愛もしらねぇ奴が親ってのは笑わせる』ってことだ。正論を言うつもりはさらさらねぇが、如何せん、性質の悪いジョークにしか聞こえねぇだろ。
で、何でそんなタバネ曰く娘のお嬢ちゃんがIS学園にいるのかって言えば、その出自とかも原因だ。
タバネと繋がりがもっとも近く、今までに無いコンセプトのISを装着ししてる。
それだけで世間様からは喉から手が出る程に欲しがられる。用途なんてそれこそ何だってありだ。生で良し、煮ても焼いてもオールオッケーってなぁ。
そんな奴を外に引き渡すのは危ねぇってんでなぁ。チフユを筆頭に学園で確保しようってことになったんだと。それに今頃タバネがテールライトみてぇにカンカンに真っ赤になってるだろうから、少しでも刺激を少なくしたいんだと。まったく、あまり怖がりすぎだろ。正直オレはあの女よりもウチの鬼畜上司やクソ上司の方が余程おっかねぇよ。あぁ、それ以外にもおっかない奴なんてのはごまんといる。世間じゃ知られることはあまりねぇが、世の中ってのはそれこそびっくり箱みてぇに何が出て来るのかわからねぇ。正直オレなんてまだまだ連中からすれば『ひよこ』じゃねぇのかねぇ。それぐらい『ヤバイ』奴ってのは多い。
タバネはそれに比べれば『可愛い』もんだよ。寧ろ兎の着ぐるみ着せてお嬢様にプレゼントしても良いぐらいになぁ。
まぁ、取りあえずだ。これでお嬢ちゃんは現在、学園の治療室で生活してる。主にチフユが世話を焼いてるみてぇだが、専用機持ちも何かしらしてるみてぇだ。
皆今回の犯人ではなく、タバネの知り合いってことで教えられてるんだと。
まぁ、その際にホウキの顔の驚きッぷりと来たら、久々に笑わせて貰えたもんさ。
いつの間に姉に娘が出来たんだってなぁ。
そんな訳でお嬢ちゃんは現在、IS学園の治療室で皆から温かく迎え入れられている。それに戸惑いを見せてるらしいが、本人も満更じゃねえと。
そんなお嬢ちゃんにチフユは色々と聞いたらしいが、オレには教えてくれねぇんだよ。軽く聞いてみたら実に悲しい答えが返ってきた。
『今回の件といい前の件といい、お前と轡木さんはあまりにも信用出来ない。私に何も話さずに勝手に行動に移すのだからな。だからお前や轡木さんには教えない』
だとさ。
悲しいねぇ、オレはただ依頼された通りに働いているだけだってのに。
それに爺さんだっってちゃんとチフユのことを考えてるんだぜ。
『お優しい』チフユじゃ裏の黒々しいもんを見たら精神的にイッまうかもしれねぇからなぁ。
世界最強の女、ブリュンヒルデなんて言われちゃいるが、それはISがあってこそだからよ。『裏』の血と臓物の匂いが一切しないチフユにゃぁ悪いが荷が重すぎる。
だから今回の件はチフユで管理するってさ。
爺さんにいいのか聞いたが、特に問題ねぇってさ。そう言うんだったらオレは何も言わねぇ。
それにお嬢ちゃんに今後近づく事もねぇだろうしさ。
え、何でだって? あぁ、実はなぁ……一回だけ様子を見に言ったことがあるんだよ。その時に軽く挨拶したんだが、オレの声を聞いた途端に顔を真っ青にして思いっきり震えやがったんだ。挙げ句は後一歩の所で失禁しかねぇってところになったらしく、それ以来オレはお嬢ちゃんとの面会禁止だ。
お嬢様もその際に一緒にいたから、それもあって『鬼畜』呼ばわりってわけだ。
そんなこともあったが、学園ってのはまだまだ行事が詰まってる。
お次は体育祭があったわけだが、そいつは割愛しておくぜ。
何せオレとイチカはやることがねぇ。女子の中で男子が混じるのは不公平だってんでイチカは審判、オレは爺さんのところで堂々サボりってわけだ。
勿論イチカから手伝えって愚痴られたが、そいつはお断りだ。
そんなもんを手伝うくらいなら理事長室にある酒をかっ喰らいながらサボった方が健全的だ。誰が喜んでそんな真似をすると思う。
お嬢様にも当然文句は言われたが、その理由を言えばお嬢様も納得してくれたよ。
「た、確かにあの隊長さんと喧嘩なさっても平気なくらいですし……そう思うと不公平どころかチートにしかなりませんわね……」
そう、仮にもあのクソオヤジとヤりあってる身だ。
オレが出ればそれこそチートだしなぁ。だからってイチカを手伝う必要もねぇ。何せ一人で事足りるんだからよ。
何より……そんなことをしてると『あの上司共』に笑われそうだからだだよ。年相応の事をしてるってなぁ。そいつはどうにも気にくわねぇのさ。
だからこそ、大いにサボる。文句は言わせても従う気は微塵もねぇよ。
でもまぁ、お嬢様を応援するくらいはするよ。それぐらいはしたっていいだろ。
それでお昼には珍しくお嬢様が作った昼飯を食うことになった。
「少しは上達したのかい?」
「私、あれからもずっと努力は怠っておりませんわ。そこまで疑うのなら、食べて見せて証明してみせましょうか」
軽くからかったら、ちょっと怒った感じでそう言われたよ。
そこまで自信があるってんなら、見てやろうってのが人情だろ。
だからオレは出されたどんぶりを開けたわけだが、中から出てきたのは真っ赤に染まったスープとかなり多い具材。ロブスターじゃねぇでかいエビが印象的な料理がそこにあった。
そいつの正体を聞けば、『トムヤンクン』らしい。
仕事柄、タイなんかの方面にも行くから喰ったことはあるが、こうも真っ赤なもんだったかと聞かれると謎だ。目に染みる感じはタイ料理って感じよりも中華の四川に近い。
そんな特製トムヤンクンを自慢気に語るお嬢様。曰く、濃縮したブート・ジョロギアを使ってるんだと。
せっかく作ってもらったんだし、喰わねぇとなぁ。まぁ、死にはしねぇだろ。
それで一口啜れば、口の中でC4が爆発したって気分になった。悪くはねぇし、寧ろ美味いほうだろうさ。だが、それ以上に辛い。
だからこそ、オレは満面の笑顔で一口掬ってお嬢様に差しだしたのさ。
「お嬢様、上達したじゃねぇか。正直驚いたよ。だからこそ、今度はオレがしねぇとなぁ。ほら、はい、あーん」
「え、いいんですの!」
顔を赤らめるお嬢様に笑顔で頷き、オレはその魅惑的な唇にそいつを持って行った。
そして幸せそうなお嬢様は口にそいつが入った途端、別の意味で顔を真っ赤にしたよ。涙目が嗜虐心を誘うねぇ。
そんなお嬢様にオレは優しい声で話しかける。
「確かに上達したよ、お嬢様は。普通にコイツは美味い。だがなぁ……もうちょっと唐辛子の量は考えねぇとなぁ。それを身を持って知っただろ?」
そう言うと、お嬢様は涙目のままこくんと頷いた。
「よい、良い子だ。こいつは仕方ねぇからオレと二人で食べきろうぜ。作った責任と作って貰った感謝を無駄には出来ねぇからなぁ。あぁ、でも……」
そこで一旦言葉を切ると、オレはお嬢様に少しばかり悪い笑みを向ける。
「今日は部屋で『お仕置き』だ。ちゃんと反省して受けろよ」
それを聞いてお嬢様の顔は赤くなったが、それはいつものもんだろ。
最近お嬢様が色気付いてきてるもんだからなぁ。何をしてやろうかねぇ。あぁ、勿論『本番』は無しだよ。まだ『学生』だからなぁ……。え、何か変なことでも言ったかい?
さて、それでその後も体育祭は進んでいく。
お嬢様は頑張ってたよ。珍しく巫女さんだっけ? そいつの衣装を着たお嬢様を見れたのはさ。
まぁ、そんな感じで体育祭も無事終わったわけだ。オレはずっと酒飲みながらサボってたけどなぁ。
今回唯一珍しかったのは、『何も起こらなかった』ってことだ。
正確に言えば学園にちょっかいを駈けてくるアホが居なかった。
別にいいんじゃねぇか、こういうのも。平和を楽しむのもいいもんさ。まぁ、会長さんはイチカとデートにしゃれ込んで何かしてたようだがね。
あぁ、そうそう。その後の話を少しだけしようか。
部屋に戻ってお嬢様にお仕置きをしたんだよ。
具体的に言うとアレだがね。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……レオスさん……切ないですわ……あまり虐めないで下さいまし………うぅん、あッ、アン………」
「お嬢様、コイツはお仕置きだ。自分でするのも無しだぜ」
「そ、そんなぁ……こんなに身体が苦しくて悶えそうなのに、そんな……レオスさんの鬼畜………」
別の意味でも鬼畜呼ばわりされちまった。