恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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まだセシリアとは合流しません。


百三十五話 そもそも教師がちゃんとしないからこういうことになる

 改めて思うが、やっぱり祭りってのは盛り上がってるときが一番楽しいもんだ。

だからなのか、こうして『後片付け』をする頃には正直つまらねぇ。それも仕事の一つとは言え、あまりやる気にはならねぇなぁ。

 

「まったく、やれやれだ。一体どれくらい必要になるのかと思って多めに見積もったつもりだったんだが……『10個』くらいにしかならなかったなぁ」

 

どうにも原型が残ってるのが少なかったようで、詰めてみればこの量しか出来なかった。普通は一人につき一つなんだが、全員分揃えるのは面倒だし、何より送料が掛かっちまうからな、要は向こうさんに届けばいいんだから『どのような形』になっても問題はねぇだろ。

それに、それでも形が残ってるもんをかき集めてだ。流石にミンチになったり弾け飛んだりした肉片までは集めてねぇ。面倒だからなぁ。そこは爺さんが頼むであろう清掃業者のもんに任せるよ。

そう思いながらオレは爺さんに連絡を入れる。

 

「おい、爺さん。こっちは終わったよ」

『ご苦労様です。どうでしたか、久しぶりの御仕事は?』

 

いつもとかわらねぇ様子の爺さんの声にオレは少し呆れつつも返事を返す。

 

「まぁ、悪くはなかったよ。流石に戦場ほどスリリングじゃなかったがね」

『それは結構です。それで成果はどうですか?』

 

爺さんにそう聞かれ、軽く周りを見渡す。

彼方此方壊れまくった壁や床や天井。そして真っ赤に染まった通路に彼方此方に飛び散りまくった血肉や内臓、最後に今回の残ったまともな成果である死体袋が10袋。

 

「まぁ、向こうさんにはお歳暮が贈れる程度には残ってるよ。見た奴はきっと感激して叫ぶだろうさ、その代わり今後一切の肉類は食えなくなるかもなぁ」

『それは結構。送るのまでお願い出来ますか』

「まぁ、いくら爺さんでも独自ルートでそっち系はいねぇだろうさ。分かってるよ、こっちでやっておく。その代わりここいら一帯の掃除は頼んだぜ。流石にこれを掃除するのは面倒だからよぉ」

『えぇ、分かっています。それが終わったら今度は楯無君の所に向かって貰えませんか』

 

おいおい、何だって今度は会長さんの所にいかなきゃならねぇんだよ。

 

「爺さんがそう言うってことは、あのお嬢ちゃんはミスったのかい?」

『いえいえ、そう言うわけではありませんよ。彼女の方に来た部隊は確かに鎮圧したのですが、どうにも詰めが甘かったようで負傷してしまったようです。それで窮地になったところ、どういうわけか織斑君がISを装備した状態で突撃し彼女を救出。彼はそのまま彼女を保健室へと連れて行きました。多分この後は織斑先生と合流すると思いますよ』

 

どうにも面白そうに語る爺さん。まぁ、確かにそいつは愉快な話だ。

まったく、いったいどこぞのヒーローだよってなぁ。我等が色男はお姫様の窮地をどうやって知ったのかはわからねぇが察知し、白馬(笑)に乗って颯爽と助けに来たんだと。そいつは確かに面白い話だ。正直腹を抱えるくらいになぁ。

 

「それでオレはお姫様不在のところで何をしろと?」

『彼女が捕縛した人達を取りあえず此方に連れて来て下さい。宛にはしてませんが、情報源には変わりませんから』

「つまりは会長さんの尻ぬぐいかよ」

『そればかりは申し訳無く思ってますよ。仕方ないので報酬に多少の色は付けておきます』

「そいつは結構だ。んじゃ、あのお歳暮を贈るために外の扉を開けてくれ。どうせこの後来る馬鹿共は流石にいねぇだろ」

『はい、わかりました。よろしくお願いします』

 

さて、爺さんから新たな頼まれ事をされて面倒だが、まずは先に目の前に転がってるお歳暮を贈らねぇとなぁ。

 

「あぁ、面倒だねぇ。でも、これも御仕事って奴だ。仕方ねぇって言葉に尽きるよ、本当」

 

そう愚痴りながらオレは日本にいる知り合いの『業者』に連絡を入れることにした。

 

 

 

 

 さて、取りあえず頼まれたことを一通り終えて、オレはお嬢様がいるであろう特別区画へと歩き出す。

会長の方の後始末に行ったわけだが、はっきり言って呆れちまうね。

何せ会長の所に転がってたのは、約6人しかいねぇんだからよ。そいつ等を纏めて簀巻きにすると、後は爺さんが言っていた通りに持っていったよ。

それにしたって少なすぎだろ。どうも周りの状態から会長さんがやりあったのは分かるが、それでもこんな程度でやられるってのはなぁ。やっぱり処女にゃぁ荷が重かったのかねぇ。

そう思いながら歩いて行くと、途中でチフユに会った。

 

「よぉ、チフユ、随分とオシャレじゃねぇか。あまりに似合い過ぎて胸がときめいちまいそうだ」

 

チフユの姿は身体のラインがかなり出てるセクシーな特殊スーツだ。多分ISスーツを改良したもんなんだろうよ。そいつに各種何かしらを持って行けるようなアタッチメントが腰に着いてる。見た感じ刃物っぽいなぁ。

チフユはオレを見た途端、目を見開いて驚いてたよ。

 

「なっ!? ハーケン、貴様いったい何を………」

「ハーケン君!? どうしたんですか、その血!?」

 

おや、どうやらマヤも一緒だったようでオレを驚いた目で見つめてきた。

こっちは普通にISスーツだ。相も変わらずアンバランスなもんを持ってることで。

どうも二人が驚いてるのは、オレの身体を見たかららしい。

何も可笑しなモンなんてないと思うんだけどねぇ。

 

「血? あぁ、コイツのことか」

 

言われるまで意識してなかったから忘れてたが、今のオレは全身血まみれだったんだっけなぁ。どうもそいつに驚いているらしい。

 

「おいおい、別に驚くようなもんじゃねぇだろ。因みにコイツは返り血だから、怪我はしてねぇよ、マヤ」

 

からかうように笑ってそう言うが、どうにもこの雰囲気は和まないようで、お兄さんは悲しくなっちまうよ(笑)

からかって見たら、チフユからおっかねぇ目で睨まれた。思わず逃げ出したくなっちまったよ。

 

「そういうことではない。何故、そんなに返り血まみれなのかと聞いている。殺したのか?」

 

チフユのおっかねぇ面と共にマヤから怯えたような視線が突き刺さってきた。

だからって何だって話しだけどな。

 

「おいおい、この仕事でアンタは何をしてたんだ? 侵入者の排除、違うかい?」

 

当たり前のことをチフユに問いかけると、チフユは更にオレを睨み付けてきた。止めて欲しいねぇ。正直恐くてちびりそうだ。

 

「此方に来たのは、ISが一機だ。それを私と真耶で取り押さえた」

 

だそうだ、随分としけてるねぇ。

これらの話を聞くに、一番本命はやっぱりチフユ達の所で、オレん所に来たのは派手な囮ってところか。ISは兵士が何人掛かろうと敵わないって考えを持った奴が指揮を執ってるのが丸見えだ。

それと同時に、オレがいるってことを見越しての部隊。連中はオレが居るって事は聞いてたが戦うとは考えてはいなかったってことを考えると、つまりは貧乏くじを引かされたってわけだ。

成る程ねぇ。つまり今回の乱痴気騒ぎを起こしたのは、女尊男卑推奨派の人間ってこった。じゃなきゃもっとスマートな作戦を考える。

あまり合理性を感じさせないのは、プライドが高く、軍事に詳しくない人間が考えそうなことだ。

大体正体が掴めてきたねぇ。なら、爺さんに教えておこうか。まぁ、あの腹黒ならとっくに気付いてるだろうけどよ。

ろ、その前にチフユだな。あまり考えてると本当に斬られそうで恐いからなぁ。

 

「こっちは特殊歩兵部隊が約60人だったよ」

「なっ!? 60人だと!」

「そんな大人数で襲撃をかけてきたってことですか!?」

 

オレから人数を聞いて驚くチフユとマヤ。別に、60人なら『少ない』ほうだろうにねぇ。あまり多人数相手にしたことがねぇんだろうさ。

 

「それで全員殺って皆ウィンナーに早変わりだ。出来た本数は10本で、そいつをお歳暮に向こうさんに贈っといた。きっと届いたのを見たら、そいつはあまりの感激に絶叫するだろうよ」

 

それを聞いた途端顔を真っ青にする二人。

まぁ、最初から分かってたが、チフユもマヤも『処女』だからなぁ。まぁ、勿論本当の意味ではどうだかはしらんがね。

60人を殺した程度でそんなショックを受けなくてもいいのによぉ。正直傷付いちまいそうだ。

チフユはそんなオレを怒りの籠もった目で睨みつつ、静かに問いかけてきた。

 

「それは……あの人からの指示か」

「あぁ、勿論。爺さんからのお達しだよ。ここ最近どうにも学園が嘗められるようなことばかりされるもんだから、爺さんは少しばかり意地をみせろってさ。それで今回来た奴等にはちょっかいをかけてきた罰もあって全員『見せしめ』にしろって言われたんだよ。だからそんなおっかない目で睨まないでくれよ。これも御仕事なんだからよ」

 

そう答えるも、納得がいかねぇって感じで睨むチフユ。

マヤは顔を真っ青にしたまま怯えてる。

そして少しして、マヤから先に頭を下げてきた。

 

「す、すみません……生徒にそんなことをさせてしまうなんて……私は教師としても、一人の大人としても失格です……」

 

どうもオレに殺らせたことに罪悪感があるらしい。

いや、謝らないでくれよ。寧ろ申し訳無くなっちまうだろ。

 

「そんなこと言うなよ、マヤ。オレはこの仕事、好きでやってるんだぜ。一々お前さんが気負う理由がねぇんだからよ。あぁ、でも……」

 

そこで一端言葉を切ると、実に『オレらしい』笑みを浮かべて二人に言った。

 

「お前さん達はもう少し『しっかり』した方がいいんじゃねぇのかい。特に、『殺る覚悟』もねぇと戦場じゃ危ないぜ。そういう奴はすぐに殺られるからなぁ」

 

 それだけ告げると、オレは二人から離れていきお嬢様がいる特別区画へと向かった。

 

 

 


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