恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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この作品が一番癖があって難しいと思う今日この頃です。


百二十九話 やっぱりオレは暇にはならないらしい。

アリーナに集められた専用機持ちは皆やる気に満ちた面構えをしてやがる。そんな様子を見て会長さんは余裕に満ちた笑みを浮かべながら開会式の宣言を行っていた。

んで、このお祭りに参加拒否を喰らったオレがどうしてるのかっていうと………。

 

「んっく……かぁ~、たまには真昼から飲むビールも悪くはねぇなぁ」

 

管制室で爺さんから貰ったウエストマール・トリプルを堪能してるところだ。

真っ昼間から飲むなって? そんなのは駄目人間じゃねぇかって?

おいおい、オレは元々駄目で碌でなしの人間だぜ。そんな禅問答を今更するのはもう過ぎてる人種だよ。釈迦に説法、馬の耳に念仏ってな。

それで近くにいるチフユとマヤが滅茶苦茶ジト目で睨んでくるが、それでも文句は言われねぇ。

それというのも、部屋で早速始めたオレをチフユが恐ぇ面しながら止めに掛かったのを、オレがこの結構良いビールを無料で飲めるってことで誘ってみたわけだ。それにすぐ釣られるチフユじゃねぇが、爺さん公認で誰も咎めねぇし、この管制室にはオレとチフユ、それとマヤの3人しかいねぇ。

 

『誰も告げ口しなきゃ、誰にも知られない』

 

その条件をちらつかせれば、元から酒好きらしいこの担任様はしぶしぶながら頷いた。いつも真面目な奴さんだが、誘惑に負けるところは案外人間染みてるねぇ。ブリュンヒルデなんて言われてても、可愛い所があるのはいいもんだ。これがクロードだったら笑顔で没収した挙げ句に勤務態度についてネチネチと説教垂れられ、会社員としての心構えを聞かされながら反省文でも書かされそうだ。それも勤務態度が悪いって理由で減俸つきでなぁ。

そんなわけで、お優しく人付き合いの良いチフユと一緒にマヤを羽交い締めにすると、瓶の口をマヤの口に突っ込んで無理に飲ませた。

いや、流石に一本丸々なんてさせねぇよ。これでも奴さん達だって仕事だからなぁ。コップ一杯分ってところさ。

ほろ酔い気分になったマヤとチフユを『共犯』に仕立てて、オレはこうして酒を楽しんでるって訳だ。

することがないんじゃ、こういうことしかねぇだろ。

そんなわけで、オレは酒を片手にお嬢様の奮闘を見に来たってわけさ。

お嬢様の頑張りを見るついでに、このトーナメントについてチフユからコメントをもらうとするかねぇ。

 

「んで、チフユはどう見るんだ、この大会?誰が勝つと思うよ」

 

オレの質問にチフユは少し頬を赤くしたまま答える。

 

「そうだな。全体的に見れば皆に等しく優勝の可能性はある。だが、強いて言えば更識姉はその中で群を抜いているだろう。何せ周りのヒヨコとは違い、アイツは正真正銘のプロだ。国家代表と代表候補生ではその立場も強さも違う。小娘達からしたら、国家代表は皆化け物揃いにしか見えないだろうさ。その点で言えば、まず更識姉と篠ノ之が有利で一番の優勝候補といったところだろうさ」

「おや、そこで愛しい弟が候補には当たらないのかい?」

「茶化すな。アイツは更識妹と組んでいるようだが、どのみちアイツでは更識妹の足を引っ張りかねない。実の弟だといってひいき目に見るようなことなどするか」

「そいつは結構で。ウチのお嬢様はどうだい?」

「オルコットか。確かにここの所の成長は著しい。昔と比べればその差は歴然だろう。個人戦ならば充分に優勝を狙えるかも知れないが、今回はあくまでもタッグ戦だ。鳳の奴とどれだけ連携が取れるかで変わるといった感じだろう」

「後でお嬢様にそう伝えとくよ。きっと感動しながら喜ぶはずだ」

 

何せこの学園の全生徒が憧れるお姉様からのお褒めのお言葉だ。奴さんを心酔してる奴が言われたら、きっと絶頂して失神すること受け合いだ。

 

「馬鹿を言うな。それにお前が褒めればそれ以上に喜ぶだろ、アイツは」

「それこそ言い過ぎだ。オレが言っても普通に喜ぶだけだろ、お嬢様は」

「これがあの愚弟なら素なのだろうが、お前の場合はただの悪ふざけだろ。あまり年頃の娘を弄ぶなよ、悪ガキ」

「オレもその年頃なんだけどねぇ」

「そう言うのなら飲酒は止めろ。喫煙もな」

 

もっともな事を言われちまったが、その通りだ。

でもやめられねぇんだよなぁ、コイツはさ。何せ人生の友であり、大人の社交場で一番決める奴だ。こいつ等が出来なきゃ御仕事はやってられねぇ。

やめたきゃ足を洗えって周りが言うが、だったらオレは辞める気はねぇなぁ。今の仕事は気に入ってるんでね。

そんな話をしてると、これまた少し酔ったマヤが上機嫌に話しかけて来た。

 

「でも、残念ですね~。ハーケンくんなら優勝だって狙えたかもしれませんのに」

「その文句は会長さんにでも言いな。何せ会長さん直々の出場禁止なんだからよ。まぁ、だからこそ、こうしてここで暢気に酒をヤれるもんなんだがね」

 

そう答えながら更にグラスに注いだそいつをぐいっと呷ると、本当にオレがガキなのか信じられねぇって目で二人が見て来やがった。

そういやこの二人の前で飲んだのは初めてだったか? いや、マヤの前では前にウィスキーを人だところを見せてるはずなんだがね。大方一人満喫旅行で覚えてねぇんだろうさ。そんなんだからモテねぇとは、口が裂けてもいえないがね。

さて、そんな暇つぶしもそこそこに、トーナメントの組み合わせが発表されたようだ。

何々……お嬢様の相手はデュノアと子ウサギか。初回から結構きついが、お嬢様なら大丈夫だろ。んで、我等がヒーローにして穴馬№1のイチカは誰とかねぇ……へぇ、いきなり姉妹で戦りあうのか。こいつは見物じゃねぇか。

そう思いながらニヤニヤしてると、もう毎度過ぎて呆れ返るしかねぇ物音が聞こえて来やがった。

アリーナのシールドを物の見事にぶち抜いた際に発生する衝撃と轟音。そして緊急事態の警報。

 

「な、何事ですか!?」

 

マヤの奴がそれまで緩んでた面を変えて慌て始め、チフユも顔に緊張が走ったのか真面目な面で周りの様子を見始める。

やれやれ、またかい? 今度はどんな馬鹿な客が来たのやら。もういい加減何度も経験すりゃぁ、驚くのも飽きてくるもんだ。これならまだホワイトハウスに済んでる御人がお茶目で一番押しちゃ駄目なボタンを押しちまったって冗談の方が驚くね。

そしてマヤがその原因を叫ぶと同時に、実に嫌なタイミングで携帯が鳴り始めやがった。

 

「なっ!? し、識別反応がない正体不明のISが5機、アリーナに侵入しました。機体の形状から以前学園に侵入してきた機体と同種……いえ、発展機だと思われます!」

「もしもし」

 

もうこのタイミングでなる電話の相手何ざぁ誰かなんて丸わかりだ。

オレは嫌々ながらに出れば、それこそ未来を予言を的中させるわけだ。

 

『急にすみませんね。いきなり来たものですから』

 

電話先はやはりというべきか、実に腹立たしくて酔いも冷めちまう。爺さんからだよ。

 

「どうせ初めからする気だったろ。御蔭でせっかく呑んでたのに気分が台無しだ」

『まぁそう言わずに。今管制室ですよね。なら現場の状況も分かるはずですが』

「まったく、オレはアンタに何も言ってねぇのになぁ。発信器でも仕込まれたか? そこまで好かれちまうと逆に退いちまうよ」

『私は別に何もしてませんよ。ただの感です、感』

 

実に疑わしい答えで結構だ。御蔭で完璧に酔いが冷めた。

 

「んで、用件は」

『はい。実はアリーナに侵入したのとは別に此方に向かってるISが5機。何故別に来たのかはわかりませんが、予想だとアリーナのは陽動でしょう。本命が此方だと見るのが妥当です。なので、早速依頼です。今からその5機を全部仕留めて下さい』

 

やっぱりねぇ……いや、本当に人使いが荒いそうで何よりだよ、くそったれ。

どうせやらねぇとはいえねぇだろうさ。

ったく、せっかく酒片手にのんびりと観戦しようと思ってたのによぉ。どうにも神様ってのはオレにお遊びをさせてくれねぇんだとさ。まったく、これでもアンタの所に人を送ってやってるって自覚はあんのによぉ。

嫌われてるのはしかたねぇが、せっかくほろ酔いだったのをぶち壊されたのはイマイチ我慢がならねぇ。

だから爺さんに返事を返してやるか。

 

「OK、わかった。ただし予め言っておくぜ。今は酔ってるのを邪魔されてオレの機嫌は少しばかり悪いんだ。機体の解析とかは無理だと言っていくよ。何せコアも残らずぶっ壊させてもらうからよぉ」

 

その返答を聞いたマヤはオレを見て顔を実に愉快な青色に変えてきた。チフユは何やら顔が引き攣ってるぜ。

んで爺さんはその返事にそれはもう満足げに返して来よ。

 

是非やって下さいってなぁ。

 

 なら、その意向にしたがって……久しぶりに思いっきりやらせて貰うとするぜ。『跡形もなく』ねぇ。

そう思いながらオレは愉快そうに笑い、管制室を出て行った。

 


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