恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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この作品が一番難しいと思う今日この頃です。


百二十四話 相手の土俵に合わせる必要はない。

 奴さんをより歓迎すべく、お嬢様に相手を頼んでオレは住宅街へと入っていく。

その前にイチカ達に伝えておいた御蔭もあって、辺りは人一人いねぇよ。

そこで辺りを注意しつつ広いところに出ると、そこでオレはスカイウォーカーに指示を出した。

 

「ウラノス・ドレス強制排除、及び全火器類の封印解除」

 

その指示と共に身体に装着されていたウラノス・ドレスが軽く弾け、一気に全てのスラスターなどが地面に落下する。

そして残ったのは、いつもとかわらねぇスカイウォーカーの姿だ。

確かにあの高速機動は結構なもんだが、それは今はいらねぇ。何より、アレを付けてたままじゃぁこっちの道具が使えねぇんでな。ウェイブの野郎にゃぁ悪いが、今回コイツの出番はもうねぇよ。

さてと、一応懐のモンが全部使えるか確認して、早速オレは近くにある家の電柱辺りにそいつを仕掛け始めた。

そいつはそれ自体は何でもねぇ代物だ。単体でもそれなりに使えるもんだが、その真価は組み合わせることで発揮される。

それ以外に様々な玩具を住宅街中に仕掛けていく。

それに約10分くらいかねぇ、掛かったのは。

歓迎の準備を終えたオレはお嬢様に通信を入れる。

 

「お嬢様、こっちの会場は準備出来たぜ。そっちはどうだい?」

 

すると返ってきたのは少し焦った感じの声だった。

 

「はぁ、はぁ、………正直押されていますわ。戦闘その物はそこまで不利ではないのですが、流石に向こうの偏向射撃に手こずらされておりますの」

 

奴さんのトリッキーな手品に翻弄されてるってところか。

まぁ、確かにやられると避けづらいのはわからなくもねぇがねぇ。

そんなお嬢様には少しばかり、問題の答え方ってもんを教えてやるとしますかねぇ。

何がだって? いいかい、世の中の問題ってもんの答えってのはテストと違って一つじゃねぇんだよ。やり方次第でいくらでも答えが増えるのが世の中ってもんさ。つまりこれからお嬢様に教えるのは、そんな答え方の一つだよ。

 

「お嬢様、こっちにお客さんを連れて来てくれ。そこからはオレが相手をする」

「いえ、私がします! このままおめおめとは引き下がれませんわ!」

 

お嬢様は躍起になってるらしい。まぁ、相手に嘗められたままってのはいけねぇからなぁ。

 

「分かってるって。何もお嬢様に引き下がれつってんじゃねぇんだからよ」

「それはどういうことですの?」

 

戦ってるってのに軽く戸惑いを感じさせる声を出すお嬢様。なんだ、まだ余裕はありそうじゃねぇか。

そんなお嬢様にオレは笑いながら答える。

 

「オレは奴さんをもてなすだけだよ。最後のプレゼントを渡すのはお嬢様の仕事さ。期待してるぜ、お嬢様」

「は、はい!」

 

なんとまぁ嬉しそうなお声だことで。

あくまでもオレは奴さんと遊んでやるだけだ。因縁の決着って奴を付けるのはお嬢様でなくちゃなぁ。今回の舞台の主演はお嬢様なんだからよ。

そして少しして、お嬢様はこっちに向かって飛んで来た。勿論牽制射撃をしつつわざと後退して奴さんを引き連れてだ。

 

「レオスさん、後をお願いしますわ!」

「あぁ、任された」

 

オレの返事を受けてお嬢様は奴さんから急激離脱。

その変わりに今度はオレが奴さんの前に飛び出した。

 

「よぉ、お嬢様とのダンスはどうだった? 実に高貴でオシャレだったろ。ってことで今度はオレがお相手するよ。オレはダンスがへたくそなんでね、別のお遊びとしゃれ込もうか」

 

奴さんの前で堂々と立ちながらそう言うと、奴さんは口元をニヤリと笑いながら答えた。

 

「あの程度の相手など恐るるに足り得ない。貴様とてそれは同じだ」

「そりゃ結構なことで。だったら、オレについて来れるかな?」

「抜かせ!」

 

奴さんはオレの誘いに乗って早速撃って来やがった。

そいつを躱しながらオレは早速奴さんに背を向けた。

 

「まずは鬼ごっこだ。捕まえられたらキャンディをやるよ、お嬢ちゃん」

「その巫山戯た口を二度と叩けないようにしてやる!」

 

住宅街に向かって走って行くオレに向かって奴さんは物の見事に追いかけてきた。

まさかここまで上手く引っかかるとはねぇ。

奴さん、それなりに臭うから何度も殺しはしてるんだろうが……如何せん、経験ってもんがまるで足りてねぇらしい。

だから駄目なんだよ。そんな大層な玩具を持っていてもなぁ。

さっそく始まったオレと奴さんとの鬼ごっこ。

捕まればオレはあっという間に蜂の巣で、ゲームの勝利条件はこっちは何もない。だが、奴さんの条件は単純だ。どっちが不利なのかなんてのは見え透いてるだろ。

だがなぁ………そんな単純な鬼ごっこじゃぁねぇんだよなぁ。

オレは建物の入り組んでる所を狙って走り、曲がる度に奴さんに向かって展開してるデルフィングのサブマシンガンをぶっ放す。

勿論それで倒せるだなんて思ってねぇ。それどころか当てようとも思っちゃいねぇんだ。

だが、それでいい。そうすりゃぁ………。

 

「クソッ! ちょこまかと逃げ周ってばかりで!」

 

奴さんは苛立ちを顕わにしながらオレにご自慢のレーザーライフルをぶっ放すが、そいつをオレは建物を楯にしながら避けてはからかうように銃弾のシャワーを浴びさせる。要は相手を煽れりゃいいんだ。

それだけで奴さんは苛立つし、焦り始める。ISは空を飛ぶのが前提の代物だ。こんな入り組んだ住宅街を動き廻るようには作られてねぇんだよ。ただでさえでかい背中のスラスターが動くのを邪魔するんだ。奴さんは思う通りには動けねぇってわけだよ。

それならこっちも同じだって?

だが残念なことにそうじゃねぇ。オレのISはスラスターの類いは一切ねぇし、元かそこまで大きくねぇから住宅街の中でも問題無く動き回れる。

向こうはスラスターで飛び廻ってる御蔭で速くはあるが、それでもこんな狭い入り組んだ所じゃ速度は出せない。下手に出そう物ならあっという間に住宅に突っ込んでゲーム終了だ

ISは無事でも隙丸出しになるんだからよぉ。

こっちは対して普段と変わらなく動ける。

これがお嬢様に出す答えの一つだ。何も同じ土俵でやり合う必要はねぇ。やり合う場所なんてもんは、手前の得意な環境に持ってった奴の勝ちだ。

勿論、奴さんだって上空に逃げようとはするさ。

だが、そいつをさせないためのデルフィングなんだよ。牽制射撃を度々撃たれて上への逃げ道を潰されりゃぁ、必然的に奴さんはこっちが指定したコースを行くしかねぇってわけだ。

それ等が更に奴さんを苛立たせる。苛立つのは結構だが、それで頭に血が昇った奴はもう駄目だ。そういう奴は周りに目が行かなくなるからなぁ。

 

「逃げるな、とっとと死ね!」

 

奴さんは狙い通り、オレに夢中になって健気に一生懸命殺気立って付いて来てくれる。そう、オレから目が離せなくなってなぁ。

いやぁ、女性から熱烈に追いかけ回されるってのは、中々悪くねぇもんだなぁ。これで相手が物騒なもんを持ってねぇんだったら尚更な。

少しばかりイチカの野郎の気持ちが分かったが、アイツはその有り難みってもんが理解出来てねぇからなぁ。まったく、鈍いのも考えようだぜ。

おっと、こんなことを感慨に耽ってるとお嬢様に怒られちまうな。

さてと……奴さんも良い感じになってきたし、そろそろオレが歓迎のために仕掛けたくす玉があるところだ。まさに仕掛け時ってなぁ。

オレはそのまま次の角を牽制射撃しつつ飛び越し気味に曲がると、奴さんがおっかねぇ形相を浮かべながら追いかけてくる。

だが、それがいけねぇ。

奴さんはそのままPICで浮遊したままオレを追いかけるわけだが、曲がった瞬間に何かが引っかかった。

それはそのまま少しだけ張り詰めると、途端に切れるかのようにすっぽ抜けるそいつは超極細のワイヤーだ。

その途端、奴さんの近くにあった電柱や壁が爆発する。

 

「っ!?」

 

いきなりのことに驚いた奴さんは慌てて離脱しようとするが、それまで溜まりまくってた苛立ちのせいで判断が鈍っちまって反応が遅ぇ。

結果、見事に爆発に巻き込まれたってわけだ。

 

「どうだい、オレからの歓迎のくす玉は? 紙吹雪の代わりに鉄片だけどよぉ」

 

オレは爆炎が立ち上がるそこに向かって笑いながら声をかけた。

これで終わるわけがねぇのは分かるわけだからなぁ。

 

「がぁあぁあぁあぁぁっぁあぁあっぁあぁああぁあああぁあああ!!」

 

爆炎をかき消すようにスラスターを噴かせながら奴さんは体勢を立て直すと、明らかにぶち切れてますって感じに叫び声を上げた。

勿論、オレからおちょくられてるってことを分かったからこそなんだろうよ。ますますもって良い感じだ。正直、可愛く見えてきちまうよ。

オレは笑いながら更に奴さんを挑発しては逃げまくる。跳んで駈けて潜ってと彼方此方に入り組んだ住宅街を跳ね回りながら牽制にぶっ放す。

そしてもうオレにメロメロで夢中になった奴さんはそりゃぁもう熱烈に追いかけてくる。

殺気ビンビンで嬉しい限りだ。

普通の鬼ごっこと違い、こいつは鬼からの妨害ありなんでなぁ。思いっきりやらせて貰うぜぇ。

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」

「おいおい、出来もしねぇことを口にするなよ。可愛すぎてキスしたくなっちまうだろ」

「五月蠅い、死ね!」

 

それから始まったのは、面白いくらい歓迎を受ける奴さんの追いかけっこだ。

人様の家の敷地に入ってはワイヤーでトラップを仕掛け、そいつに警戒したところでデルフィングを変形させてショットガンで吹っ飛ばし、その先で体勢を整えようと人様の家の庭で踏鞴を踏んだ奴さんは見事に地雷を踏んで大爆発。

御蔭でご自慢のISは真っ黒く煤焦げ、シールドはあまり減らなくても見た目が真っ黒なチキンに早変わりだ。

それが更に奴さんを怒らせ、判断力を低下させていくってわけだ。

様々なトラップに掛かっては怒る奴さんは中々に見物だぜ。テレビ局でコメディーに出演させてもいいくらいになぁ

トラップの御蔭で住宅街はまぁ、彼方此方吹っ飛んだわけだが、それは爺さまなら何とかしてくれるだろうさ。

そして奴さんに角に追い詰められるオレ。行き止まりなだけに絶対絶命。

奴さんはその前の曲がり角をゆっくりと曲がってきた。

 

「いい加減死ね。貴様を殺さないとこの怒りは収まりそうにない」

「おいおい、せっかく歓迎してやったのにそこまで怒るなよ。嬉しかったろ、くす玉」

「抜かせ!」

 

奴さんはそのままライフルに装着されている銃剣を展開して突っ込んで来た。

オレを直に刺さないと気が済まないらしい。

その様子にオレは実に面白そうに笑いながらお嬢様に通信を入れた。

 

「お嬢様、出番だぜ。シチュエーションは万全だ。後はお嬢様がここで一番でかいのを決めれば観客は大歓喜だぜ」

「えぇ、わかってますの! レオスさんが作ってくれたこのチャンス、無駄にしませんわ!」

 

それと共にお嬢様がライフルを撃った。

そんぼレーザーは真っ直ぐ進み、このまま行けば曲がったオレ等を素通りする。

だが、お嬢様は通信越しに見せた満足そうな笑みが答えを見せた。

 

「曲がりなさい!」

 

曲がり角に迫ると、そのレーザーは軌道を変えて物の見事に曲がり奴さんの背中に命中した。

それと共に破壊されるスラスター。奴さんは飛行能力を失い、アスファルトに叩き着けられた。

 

「なっ!? ぐぁあぁあぁあぁっぁあぁあぁああぁあああ!!」

 

驚愕に顔を染めながらアスファルトを削りながら吹っ飛ぶ奴さん。

そんな奴さんを見ていると、お嬢様が隣に降りてきた。

 

「どうですの、レオスさん?」

 

実に嬉しそうなお嬢様にオレは笑いながらさっきの手品の得点を答える。

 

「あぁ、勿論……満点だよ、お嬢様。よくやったな」

「そうですの! よかったですわ。うふふふふ」

 

 さぁ、お嬢様の意趣返しもさっそく決まったわけだし、そろそろ終いにしようかねぇ、この鬼ごっこをよぉ。

 


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