恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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最近夏なのに風邪をひいてしんどいですね。


百十七話 イメージするのはまず似たようなものが重要だ

 お嬢様から受けたお悩み相談。

まさかそいつが曲芸だとは思わなかったぜ。しかし、話を聞いてみりゃぁ何とも面倒なもんじゃねぇか。御国も一々細かいこって。

お嬢様の代表候補生として能力は学園に入ってから一段と上がったんだから文句を言わなくてもいいのによぉ。

一応言っとくが、一学年専用機持ちの強さのランキングで言えばお嬢様は1位か2位って所だ。元々のBT兵器の運用はその手品こそ出来ちゃいねぇが、それ以外に問題になってた操作中の行動制限が無くなってティアーズと同時に動ける様になったし、狙撃はあの化け物紳士にしっかりと仕込まれてる。今じゃIS無しでも700メートル先のコインだってぶち抜けるだろうさ。

その上ティアーズも昔みたいに乱射するだけじゃなく、陽動や待ち伏せ、トラップやらと実に『かしこい』使い方を覚えた。これも聞いたらあの夏休みの御蔭らしい。すっかりお嬢様もクロードの野郎に考え方が染まったもんだよ。

ちなみにその首位はドイツの子ウサギと競い合っているって所だがね。最近じゃすっかり垢抜けてきちゃいるが、あれでも一応は軍人だからなぁ。

それで3位がデュノア。奴さんはその器用さで距離を選ばずに戦えるから常に変わらない能力を見せつけるんだが、その持ち前の器用さのせいか決め手に欠ける。盾殺しは唯一の決め手だが、超近距離まで近づかねぇと使えねぇから狙いが絞れちまう。

4位はファンだ。奴さんのISはその運用思想もあって常に燃費が効率的なんでそれなりに使える。それに圧力砲は見えねぇこともあって厄介な上に、何処にでも撃てるって強みがある。ファン自身の接近戦の強みもあって、その強さは中々なもんだ。だが、奴さんの性格が単純なこともあって、駆け引きに弱ぇところが目立ってる。

5位は今の所イチカの野郎とホウキで同率ってところだ。

ISの能力は高いんだが、奴さん達は圧倒的に経験不足が目立つ。イチカは会長さんに鍛えられたんで多少はマシになってるが、それでも全体的に甘過ぎだ。無駄が多くて考えが足りねぇ。ホウキは考えが硬すぎて絡め手に弱ぇし、少しでも焦ると手元を狂わせる節がある。

どっちも他の奴等と比べれば意外性はあるが、それ以外は恐くもねぇ。

と、これが簡単な順位だ。ある意味で言えば、一学年最強に近いんだから、そんな手品が出来ねぇことくらいで一々目くじら立てなくても良いと思うんだがねぇ。

え、オレが入ってないって? そいつは当たり前だろ。一々自分の事を言う奴がいるかい? オレはそんな自慢が大好きなナルシストじゃないんでね。

だがまぁ、お嬢様が困ってるのも事実だ。請け負ったからにはどうにかしなきゃなぁ。

そう思いながらその日の夜、オレはお嬢様が寝始めるのを待つ。

そして寝てることを確認してから一人で静かに明日の手品の種を仕掛けていく。

別に見せても問題はねぇんだが、せっかくの手品だ。種明かしは終わった後にしねぇとなぁ。

 

 

 

 翌日の放課後。

オレはお嬢様を連れてアリーナに来た。。

勿論、お嬢様のお悩みを解決するために参考を見せるためだ。

 

「それではレオスさん、お願いしますわ」

 

お嬢様はオレに笑顔で笑いかける。そう期待されると嬉しくもなるが恥ずかしいねぇ。今から見せるくだらねぇ手品がお嬢様のお気に召すのかどうか。

オレはそう思いながら早速お嬢様に指示を出すことにする。

 

「お嬢様、さっそくで悪いがISを起動させてくれないか。特にハイパーセンサーは常に注意してくれよ」

「わかりましたわ」

 

お嬢様は直ぐにISと展開する。相変わらずの騎士みてぇな堂々とした姿は見ていて格好いいもんだ。

展開し終えたお嬢様がこっちに顔を向けると、オレは懐から早速手品の道具を取り出す。昨日頑張って仕込んだんだ。勿体ぶってださねぇとなぁ。

 

「これがオレがお嬢様の悩みへの答えって奴だ」

「拳銃……ですの?」

 

そう、これが今回の手品の品だ。

オレはそのまま拳銃をくるくると回して弄び、そのまま軽く構える。

それと共に少し前の空間にターゲットが現れた。

 

「よく見とけよ、お嬢様。こいつがオレなりの答えだよ」

 

そう言いながら引き金を引くと、展開されたターゲットにそのまま弾が発射される。

だが、そいつはそのままターゲットに当たることはねぇ。

 

「え、なんで………」

 

その事実にお嬢様から驚きの声が上がる。

そう、その驚きを待ってたんだよ。観客の驚く顔が一番だってなぁ

何で驚いたのか? そいつは当たり前だろ。何せ………

 

弾が曲がったんだから。

 

そう、弾丸がターゲットに当たらなかったのは弾が逸れたからじゃねぇ。

文字通り、弾が曲がったから当たらなかったんだよ。

普通はまず見えねぇモンだが、そこはISのハイパーセンサーが在れば見えるもんだ。高々ハンドガンの弾如き、ISなら余裕で捕らえる。

お嬢様の目にはISを通して確かに見えたはずだぜ、曲がっていく弾道がよ。

 

「レオスさん、一体どうやってこんなことを!?」

 

お嬢様は驚きのあまりに食い付く。

そいつは結構だが、流石にISで迫られるのは恐いモンがあるなぁ。

オレは驚くお嬢様に笑いながら話しかける。

更にお嬢様には見てもらわねぇとなぁ。

 

「更に体験だ。お嬢様、腕の部分だけ展開を解いてこいつを撃ってみな。勿論、センサーは切るなよ」

「は、はいですわ!」

 

少し緊張した面でお嬢様はオレが渡した拳銃を受け取り、言われた通りにしてターゲットに向かって構える。

そして引き金を引くと、発射された弾はターゲットに向かって進み、そして途中から弾道が曲がってあらぬ方向に飛んでいく。

それを見たお嬢様は途端に顔を興奮で真っ赤にしながらオレの方を向いてきた。

 

「何で、何でですの! レオスさん、何で!」

 

まるで初めて手品を見たお子様が興奮してはしゃいでるみてぇだ。

その無邪気な顔がまた魅力的だねぇ。

さて、これでお嬢様に普通ではありえねぇ曲芸を披露したわけだ。そのネタ晴らしをすることにしますか。

だが、ただ種を明かすだけじゃつまらねぇ。ここはその過程もしらねぇとなぁ。

オレははしゃぐお嬢様の口元にそっと指を添えつつ落ち着かせる。

 

「お嬢様、種明かしを始めるから落ち着きな。そうはしゃいで興奮してると重要なモンを見逃しちまうからなぁ」

「ッ!? す、すみません!」

 

お嬢様はその途端に顔を真っ赤にして謝ってきた。

別にこれが種明かしじゃねぇんなら、寧ろ興奮にしたままで良いんだが今はそうじゃねぇんでなぁ。少しばかり落ち着いてもらわねぇといけねぇ。

恥ずかしさで真っ赤になってるお嬢様が落ち着くのを見計らって話しかけることにする。

 

「お嬢様、ハイパーセンサーで周囲の環境も含めて発射した弾をよく見てみな。それで種が明かされるよ」

「は、はい」

 

お嬢様は恥ずかしさを紛らわせるかのように少し慌てた様子でもう一回銃を構え、良く目を見開きながら引き金を引いた。

そして吐き出された銃弾は例の如く変な方向へと曲がっていく。

だが、お嬢様はさっきまでと違い、ちゃんと良く見ていたから気付いたみたいだぜぇ。

 

「弾の空気抵抗が歪んでる……これって一体……」

「そう、それがこの手品の種だぜ、お嬢様」

 

オレはそう明かすとともに、お嬢様から拳銃を返して貰う。

そして種である弾丸を取り出した。

 

「まったく、こんな面倒なことしなきゃならねぇ上に上手くコントロールするのがむずいんだから実際役に立たねぇことこの上ねぇよ、こいつはよ」

「弾丸? あ、少し形状が!」

 

お嬢様の弾を見ておかしいことに気付いたようだ。

そう、この弾はオレが昨夜の内に少しばかり細工をしたもんだ。

細工自体は単純でね、弾の一部を削ったり傷付けとくだけだ。

だが、それだけで変わるモンなんだよ……弾道ってもんはな。

お嬢様も気付きつつあることを改めて発表する。

 

「そう、こいつは弾の一部を削ったもんだ。現代における銃の弾ってのは基本椎の実の形をしてる。こいつの御蔭で過去の球状の弾よりも貫通性、正確性、射程距離が向上したわけだ。だが、その形が少しでも変化するだけで途端にそいつは崩れちまう。弾の形状が少し変わるだけで受ける空気抵抗がまるっきり変わっちまうからだ。結果そして、受ける抵抗は変化したため弾は真っ直ぐ飛ばずに曲がるってわけさ」

 

そう、少しでも何かがずれれば途端に機能しなくなる。

それが現代兵器の潔癖とも言える癖だ。几帳面なのは結構だが、もう少し柔軟性が欲しいもんだなぁ。

まぁ、野球のカーブやフォークといった変化球と理論は変わらねぇよ。回転と空気抵抗、それによる弾道の変化。

それが今回の手品の種、曲がる弾丸の正体ってもんだよ。

オレはそのままお嬢様に弾丸を入れ直した銃を渡す。

 

「お嬢様のBT兵器がどんな風に進んでるのかはわからねぇ。だが、こうやって弾道が曲がる光景は出来ねぇわけじゃねぇんだ。イメージするのにも何かヒントが必要だってんなら、こういうのも重要だろ。ヒントは重要だぜ」

「あ、ありがとうございますわ、レオスさん! 凄く助かります!」

 

お嬢様は大層お喜びのようだ。

オレの手を持ってはしゃぎまくってる。そんなに喜んで貰えるなら苦手な手品を披露した甲斐もあるってもんだ。

 

「全部撃ってカラにしていいから、取りあえずお嬢様は撃った弾が曲がる理由をよく学んでみな。何で曲がるのかが分かれば、曲げやすくもなるだろうさ」

「ありがとうございます、レオスさん! 御蔭で何か掴めそうですわ」

「そいつは結構だ。手品を見せた甲斐があるってもんだよ」

 

これで少しでもお嬢様の悩みに報いれればよかったもんだ。

この後、銃の弾が尽きるまでお嬢様の練習に付き合った。お嬢様は終始、真剣に撃った弾の弾道を見ては考え込んでいたよ。

 それが終わった後、改めてお嬢様にお礼を言われたよ。

 

「レオスさんの御蔭でとっても助かりましたわ。ですので、今度はわたくしに出来る事があったら何でも仰って下さい。あ、そう言えばそろそろキャノンボールファストですわね。よろしければ色々と相談に乗りますわ。そ、それ以外にも、その、色々なこととか、少しエッチなことも………」

 

だとさ。

後半は顔をポストみてぇに真っ赤にして何か言ってたが聞こえなかった。

まぁ、オレも初めての行事なんで、経験者に教わることにしますかねぇ。

お嬢様の申し出を快く受け入れつつ、オレ達は寮へと戻っていった。

 


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