もう、凄いですよね……。驚き過ぎて何も言えませんよ。
さて、お嬢様も連れてダンスパーティーへとしゃれ込むことにするかねぇ。
会場は今いる場所から下へ向かっていく通路全部。来た客の数はざっと30人くらいだとよ。今更30人程度って思うかもしれねぇが、こっちはハンデ付きな上に屋内戦となると、長引きそうになるもんだ。
野外と違って屋内だと動き回れるスペースはねぇが、その分弾避けんのには色々と使えるモンが多いからよぉ。
まぁ、それを踏まえた上で楽しむのが大人ってもんだろ。
そんなわけで若頭をとオレが前で対応、お嬢様はオレの後でお留守番って感じだ。楊には後の方を警戒して貰うようになってる。
そこで歩いている最中、お嬢様がオレに話しかけてきた。
「あ、あの! わ、わたくしも手伝いますわ。これでも一応は代表候補生なのですから、軍の訓練だって受けておりますし」
お嬢様はオレのスーツの裾を少し摘まみながら気丈にそう言ってきた。
なんとまぁお優しいことか。確かに手伝って貰えるんだったらそれに越したことはねぇってのが普通なんだろうよ。それにお嬢様に渡してあるのは非殺傷性のゴム弾入りの玩具。どんなにぶっ放そうと、そうそう殺しは出来ねぇ代物だ。流石に当たり所が悪けりゃ死ぬ、喉とか男の大切な部分とかなぁ。そこを狙えるほどお嬢様は御下劣じゃねぇけどよ。
だが、その有り難い申し出の答えは………。
「いいや、お嬢様。別に手伝わなくても大丈夫だ」
NOだ。
何でかって?
そりゃぁ勿論、お嬢様にはさせたくねぇからだよ。別にお嬢様が邪魔になるとかそんなわけじゃねぇ。お嬢様の射撃の腕前が凄ぇことはオレが一番よく知ってる。
だけどなぁ……それはあくまでも『的当て』が上手いってだけだ。本物の人間相手にぶっ放すのと早く動き廻るIS相手にぶっ放すのとじゃぁ、その動作も意味合いもまったく変わってくる。
そいつは知らねぇほうがお嬢様の身のためだ。知ればもう、戻ることは出来なくなっちまう。真っ白い紙に真っ黒なインクをぶちまければ、どうやったって元の真っ白な紙には戻れねぇ。
お嬢様は気に入ってるが、そんなことは知って欲しくはねぇ。
『そういうところ』が気に入ってるんだからよ、オレは。
そういう意味も込めての理だったんだが、お嬢様はお気に召さなかったらしい。
オレを真剣な目で見てきた。
「それは……わたくしが人を撃ったことがないからですか?」
その真面目な顔もまたお美しいことで、見てて惚れ惚れしそうだ。
そのまま茶化そうと思ったが、その前に先んじて潰された。
「確かに、わたくしは人を撃ったことはありませんわ。でも、これでもその覚悟くらいはしているつもりですわ。でなければ、レオスさんと一緒にはいられませんもの! 侮らないで下さいなッ!」
真剣に怒るお嬢様。
別に侮ってるわけじゃねぇんだけどなぁ。
その覚悟と気持ちはご立派なもんで、そう言ってもらえるのは嬉しいもんだが、こっちの本意ってもんは伝わらねぇなぁ。中々に難しいもんだよ。
だからこそ、オレはお嬢様に笑いかけながら答えてやる。
「別に侮ってなんかねぇよ。寧ろそんなお嬢様の覚悟が聞けて驚いたもんだよ。まさかここまで決め込んでるとは思わなかった」
「でしたらっ」
「それでも、だよ。お嬢様は『そっち』にいてくれ。一回でも殺っちまったら、もうお嬢様は平穏に戻れなくなる。それはオレが嫌なんだよ。お嬢様にゃぁ日向で微笑んでるくらいが丁度良い。そういうのが一番似合ってるんだからよ。オレはそういうお嬢様が一番好きなんだぜ」
手前で言っておきながら随分と臭いもんだ。正直、お嬢様相手じゃなきゃその場で身悶えしながら色々なもん吐き出してたよ。
いやはや、どうも学生生活が染みこんでいるようで。
お嬢様はと言えば、さっきの顔から一転して、真っ赤な顔で何やら戸惑ってるようだ。
「そ、そんな……(そんなにレオスさんに想っていただけていただなんて……)」
どうやらもうオレを手伝うと言う気は無くなったらしい。
ご立派な覚悟も些細な事で揺らぐんだったらその程度ってもんだ。まぁ、この場合は寧ろ直ぐに揺らいでくれて助かったけどよ。
説得に骨が折れるのは勘弁だ。
そんな事を思っていると、隣を歩いてる若頭から声がかけられる。
勿論、人をからかう気満々の声がな。
「もう青春は終わりか? 出来ればもう少し見ていたかったのだがな。まるで青春物の映画のワンシーンのように、実に臭くて笑い物だったぞ。貴様がそれを演じているというのだから尚更にな」
「楽しんでいただけたようでなによりだ。勝手に見て堪能した分、何か請求しねぇと気がすみそうにねぇ」
ジト目で若頭を睨むと、若頭は仕方ねぇって面を浮かべて懐から小箱を取り出した。
「だったらこいつで我慢しろ」
差し出された小箱から飛び出た一本の白い奴を引き抜き、オレはそいつを見ながら若頭に言う。
「お嬢様との貴重なワンシーンをたった一本のタバコで手打ちに済まそうなんてのは、随分と安く見られたもんだ。まぁ、吸えるんだったら文句は言わねぇがね」
そして口に咥えたところで面倒な事を思い出した。
物があってもアレがなきゃ吸えねぇ。
そして若頭にそいつを聞こうとする前に、後からオレの顔面に向かってナニカが飛んで来た。そいつをキャッチすれば、握った形で何なのか分かる。
「ありがとよ、楊」
「ふん、貴様如きに大哥のお手を煩わせるまでも無い。不本意極まりないが、これでも使っていろ」
楊に渡されたライターを使って咥えたタバコに火を付ける。
そこから上がる紫煙と独特の風味を味わいながら一息吐いた。
「あぁ~、やっぱり本物の方が断然美味ぇ。電子タバコだとどうにも収まりが悪くていけねぇよ」
「普通の子供はタバコなど吸わんのだから、そう言うな」
若頭の突っ込みを聞きつつも更にもう一吸い。
お嬢様はジト目でオレを睨んできたが、勘弁してくれよ。こういう時はスッキリとリフレッシュしたいもんなんだからよぉ。
そんな心温まるやり取りをしながら歩いていると、廊下の先から早速お出ましのようだ。
5人くらいがハンドガン片手に奇声を上げながらぶっ放してきた。
「そら、お客さんだ。若頭、ちゃんと働けよ」
「それは此方の台詞だ。小遣いも渡す以上、ちゃんと働いて貰わなくては。まぁ、あの娘がいる以上働かざる得ないわけだが」
「抜かせよ。そこまで言うなら張り合おうじゃねぇか。どっちが多く殺れるか勝負だ」
「いいだろう、乗った」
そのやり取りと共にオレと若頭は同時に得物を出して殺り合い始める。
オルトロスを2丁とも引き抜くと、オレは早速一人に向かって引き金を引いた。
若頭が両腕の袖を客に向かって振るうと、一瞬にして一人の客の顎が吹っ飛んで上と下に別れる。その光景に周りの奴等が実に愉快な悲鳴を上げたよ。
「相変わらずえぐいねぇ、それ」
正体を知ってる側からすりゃぁ本来の用途からかけ離れてるってのに、何とまぁおっかなく使うもんだ。
それを誇らしげにしてるのか、若頭は愉快そうに笑う。
「そうか? 私からすればかなり便利なんだがなッ!」
そして言い終えると共に再び腕を振るう。
するとその先に居る客の目が弾け飛んで、地面をのたうち廻り始めた。
ありゃあまだ息はあるが、死ぬのも時間の問題だろ。
そんな客なんて気にせずに若頭はくいっと腕を戻す。するとその先には真っ赤に染まった小石くらいの三角錐の物がワイヤーに吊されてあった。
そう、これこそが若頭が使ってる得物。
『流星錘』
中国の暗器の一種だ。
本来は暗殺なんかに用いるんだが、このアホは寧ろ全面に出して使ってくるっていう変人だよ。
今のご時世にそいつはどうなんだって思うところだが、若頭曰く、
「隠し所が多く、それでいて銃と違って弾切れが無い分便利なのだ。何より、銃ばかりと言うには無粋だろう。華僑足る者、この程度出来なくてはな」
だとよ。
どうにも難しいねぇ、その粋な心意気って奴を理解すんのは。
オレには分からないよ。
まぁ、それでもだ。そいつはわからねぇが、若頭がそいつを使うとどうなるかってのは、良く分かってる。
その証拠が首無しになったりした奴等だよ。
まったく隠す気のねぇ死体をみればわかるもんだろ。
その御蔭もあって、暴れてる客はさっそくびびってるよ。
「どうした? もう私は2で貴様はまだ1だぞ」
「まだ始まったばかりだろ。慌てなさんなよ」
そのまま更に引き金を引いて更に一人の眉間をぶち抜いた。
「これで同じスコアだ」
「ふん、抜かせ」
互いに笑い合ってると、連中は更に10人くらい集まってきたよ。
そしてそこから発射される雨のような弾丸。
流石にこいつは斬り払うのが面倒になりそうだ。
だからこそ、オレは若頭へと投げる。
「んじゃ、よろしく」
「致し方ないか。まったく……」
そのまま楊が物陰でお嬢様を守っている所に一緒に入る。
そのまま行けば若頭は蜂の巣に早変わりになるわけだが……それで簡単に済むんだったら李家の若頭は務まらねぇよ。
若頭は両手に持った流星錘をある程度の長さで垂らすと、高速で回し始めた。
そのワイヤーに弾雨が当たるわけだが、それらは一切漏れること無く弾丸を弾き飛ばしていく。
その光景にお嬢様は勿論、お客さんも開いた口が閉じなくなってやがった。
中々に傑作な面だよ。
そう、これが若頭の頭がイカレてるもう一つの理由。
暗器が暗器として使われねぇ上に、明らかに可笑しなことを平然とやってのける。
これには誰だって驚くだろうよ。まさに傘みてぇに一切の弾を通さねぇ鉄壁がそんなもんから作り出されるんだからよ。
そして弾雨が止むと共に、再び振るわれた両腕で客二人の頭が弾ける。
「いくぞ」
「あぁ、わかってるっての」
それと共に再びオレはオルトロスをぶっ放しては何もしゃべれねぇ肉の塊を作っていくわけだ。
だが、連中も馬鹿じゃないらしい。
半分くらい減ったら慌てて物陰に隠れると共にオレ等にプレゼントを寄越してきやがった。
3回くらいバウンドしてこっちに来たもんを見て、お嬢様が顔を真っ青に染め上げて叫ぶ。
それがなんの叫びなのかは聞き取れねぇが、見りゃ何を言ってるかは分かるもんだ。
プレゼントの正体……そいつは手榴弾だよ。
まったく、こんな平和ボケした国にそんなもんを持ち込むなっての。
そう思いながら若頭と面を合わせると、同時に動く。
転がってきた手榴弾を足で引っかけると、同時に優しく蹴り飛ばす。
そのまま飛んで行った手榴弾はプレゼントした奴等の所に戻って行くわけだ。送り返させてもらったよ。
結果、時間が来と同時に爆発。向こうに居た奴等は物の見事にグリルチキンに早変わりしたって訳だ。
その爆発を見て驚くお嬢様にオレ達は同時に口を開いた。
「これならフットボール部でもやって行けそうだなぁ、お嬢様」
「学生時代はそれなりに好きだったのでね、蹴球」
それを聞いたお嬢様は言葉を失ってたが、その呆け顔も中々にキュートだと思うぜ、オレはね。